緋色の魔法遣い

Naoyuki Okada

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第五章 牙を剥く世界

第二十九話 集合知性体

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 巨大な《うごめくもの》から分離した、人型のシルエットがゆらりと立ち上がった。身長は大人ほど。しかし顔はのっぺりして目鼻口が無く、緑の粘液が滴っている。
「もしかしてあれ、《うごめくもの》に掴まった犠牲者!? だったら助けなきゃ」  
「違う、どろどろからあの姿に変形した。魔物だ」
 ユスティナが杖を構える。
『でも、なぜ人の形を……うちらを真似している?』
 その疑問に答えるように、〝人型〟達が動いた。まるで人間のような歩き方で、こちらに向かってくる。
「考えるのは後! イニシアチブ取られるとやられるよ!」
 レティシアが〈弧炎こえん〉を、人型の《うごめくもの》へ放つ。拘束して焼こうと、絡め取るように炎の鞭を振るう。しかし人型は、機敏に上体部分を反らせて回避した。
「避けた!?」
 レティシアが驚く。今までの《うごめくもの》は、ただ真っ直ぐ向かってくるだけだった。  
 「ここまでの我々の攻撃パターンを見て、学習をしたとでもいうのか?」
 その時、巨大な《うごめくもの》から二体目、三体目の人型が分離した。しかも、  それぞれ微妙に形が違う。
 最初に出てきた個体は、中肉中背の男性に近い【中型】。
 もう一体は【細身】で、見るからに素早そう。
 最後の一体は【大柄】で鈍重そうだが、明らかに力が強いのが見てとれる。
『役割分担までしている……』
 エリスが青ざめる。人型たちが一斉に動き出した。

【細身】が高速で迂回し、四人の側面を突く。  
【大柄】は正面から突進してくる。  
【中型】は後方で待機し、観察している。

「あいつら連携してる! やばい囲まれる!」
 レティシアが慌てる。アルヴィナは〈運命流うんめいりゅう〉を起動、【細身】が走ってくるルートに炎の壁を作る。しかし【細身】は跳躍し、壁を飛び越えてきた。
『ぎゃー!』
 狙われたエリスが、恐怖で倒れそうになる。レティシアが咄嗟に〈弧炎こえん〉を飛ばし迎撃する。だが【細身】は空中で人間ではありえない姿勢に変形し、直撃を回避する。炎が体を掠め粘液を抉っていくが、完全には倒せない。  
 奇襲に失敗したと判断したのか【大型】が一旦下がっていく。
「明らかに知性がある動きだ。対応されている」
 仕切り直しの体制になったタイミングで、エリスの持つ〈ステラソナ〉に通信が入る。

『オリオン2。人型の魔物と交戦…ザザザ……多数に阻まれて…ザザ』

〈ステラソナ〉から途切れがちな声が聞こえる。

『オリオン3も同様。第三区画に人型の魔物があふれ…ザザザ』  
『くそっ分断された! なんとか抜け…ザザザ…るから脱出してくれ!』

 エリスが端末を操作するが、通信が不安定だ。

『ノイズがひどい……どうして、さっきまでちゃんと会話できていたのに!』  
「他の班も同じような状況みたいね」

 レティシアが歯を食いしばる。
 人型の攻撃が再開される。今度はいきなり接近して攻撃を仕掛けようとせず、じりじりと距離を詰める作戦にしたらしい。
「学習速度が異常だ。このままでは……」
 ユスティナが汗を拭う。四人は背中合わせになって防御体勢を取った。人型が三体、周囲を取り囲んでいる。
「みんな、覚えてる?昨日の約束」  
「もちろん」
 レティシアの言葉にアルヴィナが頷く。
「みんなで帰るって」  
『エリちゃん諦めないよ』
 ユスティナが冷静に状況を分析する。
「奴らは学習する。同じ攻撃は通用しない」  
「なら、速攻で決めるしかないね」
 レティシアが頷く。
「動ける【細身】と【中型】を先に仕留め、残る【大柄】を二人で同時に攻撃するんだ」
 ユスティナがすぐに作戦を立案する。
「わかった!」「りょ!」
 アルヴィナとレティシアは〈運命流うんめいりゅう〉を起動。二体がこれからとる未来の攻撃ルートを予測する。  
 確かに連携は脅威だが、落ち着いて読むと一体一体の動きは複雑ではないようだ。
「弾では変形で回避される。面で攻撃よ!」
 レティシアが【中型】に向けて、〈弧炎こえん〉を網のように展開させる。変形で回避しようとするが、炎の網に絡め取られて蒸発していく。
 アルヴィナは【細身】へ火球を飛ばす。先ほどと同じように変形で回避しようとするが、火球と【細身】が交差するタイミングでアルヴィナはぎゅっと拳を握る。火球がボン!と爆発し、【細身】を巻き込んで焼く。
 【大柄】が捨て身で突進を仕掛けてくるが、〈弧炎こえん〉の網と火球の波状攻撃を畳み掛ける。
 ズドォォォォン
 三体とも炎に包まれ、徐々に小さくなっていった。
「やった!」
 四人が抱き合う。
 しかし、その安堵も束の間だった。巨大な《うごめくもの》から、新たな人型が分離し始める。
 今度は五体。しかも、今のやり取りを見ていたのか、用心深く警戒している。
「また学習した……」
 ユスティナが呻く。  
〈ステラソナ〉から絶望的な声が聞こえてくる。

『オリオン2、生存者三名……他は……』
『ルシア! ルシア! 返事して!』  
『教官は? 教官はどこに?』  

 エリスの顔が青ざめる。
『死人が出てる……こんなの訓練なんかじゃないじゃん!』
 アルヴィナは新たに現れた五体の人型シルエットを観察した。今度は、それぞれが武器のような突起を腕から生やしていた。無機質だがその明確な殺意に、四人とも心臓を掴まれたような気がした。
「これ、ガチでまずいかも……」
 レティシアの声に、初めて余裕のない色が浮かんだ。



◆備考
うごめくもの》
ある種の粘菌が魔物に変異したもの。じめじめとした暗所に生息し、ある程度の集団を形成すると知性がある振る舞いをするようになる。都市の下水道に発生したケースにおいて人の姿に似たコロニーの目撃が報告されている。
狂狼サベージ・ルーパス》から分泌する緑の粘液とは本件である。
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