緋色の魔法遣い

Naoyuki Okada

文字の大きさ
30 / 48
第五章 牙を剥く世界

第三十話 緑の汚染

しおりを挟む
 五体の【武装型】が、じりじりと距離を詰めてくる。それぞれの手には鋭い突起が伸びており、人間の使う武器を模倣していた。
「武器まで作ってる……」
 ユスティナが息を呑む。
「魔法遣い同士ならともかく、武装した人間との戦いなんて想定外だ。そんな知識……読んだことがない」
 レティシアが杖を握り直す。その時、〈ステラソナ〉から悲鳴が聞こえた。

『やめて! ルシア、私よ、シルビアよ!』  
『うあああ! 来るな来るな!』  
『助けて、誰か……』

『今度はなんなのよう……』
 エリスが震え声で端末を握る。
 状況を考える暇を与えず、【武装型】が一斉に攻撃を仕掛けてきた。連携が完璧だ。前衛が陽動し、側面から挟み撃ち、後衛が遠距離攻撃。

運命流うんめいりゅう〉起動。前衛二体をレティシアが〈足を絡め取る魔法〉で転倒させる――この手も使用できなくなった。  
 アルヴィナが転倒した二体をすかさず火球で焼く。
 二人が前衛に釘付けになっている隙に、後衛達が投擲武器のように体の一部を飛ばしてくる。  
 ユスティナが〈折りたたみ結界幕〉を展開。突起状になった緑の粘液を結界が防ぐ。だが、いくつかはアルヴィナの方にも向けられていた。
「アル!危ない!」
 再び〈運命流うんめいりゅう〉起動、アルヴィナが炎で間一髪迎撃するが、飛び散った粘液がアルヴィナの頬を掠める。
「きゃあ!」  
「アル?」
 レティシアが心配そうに見る。
「大丈夫……ちょっとピリピリするだけ」
 しかし、その瞬間だった。掠った部分の皮膚が、うっすらと緑がかってきた。
「え……?」
 アルヴィナが自分の頬に触れる。その部分が異様に熱い。
「もしかして……その粘液、感染力があるのかもしれない」  
「感染?」
 ユスティナが青ざめる。エリスが端末を見る。
『さっきの通信でシルビアが言ってたのって……まさか』
〈ステラソナ〉から、今度ははっきりと聞こえてきた。

『ルシア! どうしちゃったの!? 痛い!』  
『グルルルル……』  
『友達でしょ?思い出して!』

 獣のような唸り声と、泣き叫ぶ少女の声。状況が理解できた瞬間、四人の血の気が引く。アルヴィナも頬の染みが徐々に濃くなり、瞳の焦点が一瞬おぼろげになる。
「アル…?」
 レティシアが不安そうに呼びかける。アルヴィナが、ハッと振り返る。その瞳にはまだ理性があった。
「大丈夫……まだ大丈夫だよ。でも、なんだか……頭の中に雑音が」
『やばい、アルがおかしくなったら、このパーティ全滅じゃん』  
 エリスが泣きそうになる。
〈ステラソナ〉からさらに悲痛な叫びが響いた。
『ルシア……ごめんね。ごめんね』
 その言葉の直後に、魔法が発動する音。そして、静寂。

『シルビア、シルビア応答して』  
『……友達を……友達を撃っちゃった』

 四人は言葉を失った。友が友を排除しなければならない状況。それがここで起きている現実だった。
「こんなの……同士討ちさせるなんて、あんまりだわ!」
 レティシアが拳を握りしめる。アルヴィナの頬の緑色がさらに広がっている。彼女の呼吸も荒くなってきた。
「みんな……離れて。私も、ルシアみたいになっちゃうかも」  
『そんなこと言わないでよう』
 エリスが涙を流す。
「絶対に解決方法があるはずだ」
 ユスティナが必死に思考を巡らせる。その間も【武装型】たちは容赦なく攻撃を続けてくる。結界膜を多重に展開させるが、長くは保ちそうにない。

 アルヴィナの意識が朦朧としてきた。緑の汚染が首筋にまで広がっている。
〉、〈〉、〈〉、ユスティナが様々な魔法を試すが、緑色は薄くなるものの完全には消えない。
「くそ……どれも決め手にならない」
 その時、アルヴィナの瞳が一瞬、緑色に光った。
「ぁ…ぉらぁゴン……」  
「アル?」
 レティシアが恐る恐る呼びかける。アルヴィナがゆっくりと振り返る。  
 その瞳に、一瞬だけ獣のような光が宿る。しかし、次の瞬間には元の理性的な瞳に戻った。
「わたし、今、意識が飛んでた?」
 必死に自分を保とうとするアルヴィナ。しかし、その限界が近づいているのは明らかだった。

〈ステラソナ〉から新たな絶望的な声が聞こえてくる。

『オリオン2、生存者二名……第三区間に行った連中が《凶狼サベージ・ルーパス》のように凶暴化、襲撃を受けている。シルビアは……隠れている。俺も、意識が……』
『オリオン3……分断されて生存者の数不明……ごめんなさい、何もできなかった……』
 アルヴィナの緑色汚染は止まらない。そして【武装型】たちは、まるで時間稼ぎをしているかのように、じっと観察している。
「こいつら……私たちが勝手に弱るのを待ってる」
 レティシアが歯ぎしりする。アルヴィナが膝をつく。
「みんな……逃げて」
 三人が彼女を支える。しかし、地下迷宮の奥から新たな地響きが聞こえてきた。もっと大きな何かが近づいてくる。
 汚染は止まらない。
 仲間は凶暴化する。
 学園からの助けは来ない。
 絶望的な状況の中で、四人の友情だけが最後の希望だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...