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第五章 牙を剥く世界
第三十二話 ドラゴンブレス
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アルヴィナの全身を炎が包む。髪は完全に真紅に変わり、瞳は炎そのもののように輝いている。
「アル!」
レティシアが震え声で呼びかける。しかし、アルヴィナにはもはや彼女たちの声が聞こえていないようだった。
その瞳には、幼い頃に見たドラゴンの記憶だけが映っている。圧倒的な炎で、すべてを救ってくれたあの存在。今度は自分が、その炎になる番だ。
「覚えてる……」
アルヴィナが呟く。その声は炎の音に混じって聞こえる。
「あの時のドラゴンの炎……すべてを包み込んで、わたしを救ってくれた」
瞳が燃え上がる。アルヴィナの心に流れ込んできていた悪感情も、炎が焼き払っていく。アルヴィナに群がっていた【人型】たちが、粘液が彼女の身体に触れる前にすべて蒸発してしまう。
「すごい……」
「だがこの魔法は異常だ。どのような論理で炎を制御しているのか……私が再現できるイメージが全くわかない」
「まさかあれが」
〝ドラゴン〟。唯一心当たりある、あの言葉が三人の頭に浮かんだ。
アルヴィナが両手を大きく広げる。その瞬間、地下迷宮全体に炎の竜巻が巻き起こった。
『我は炎なり』
アルヴィナの声と混じって、低い何者かの声が響く。
『我は救済なり』
炎が螺旋を描いて天井に向かって立ち上る。
《蠢くもの》から次々と伸ばされる触手も炎に触れた瞬間に灰燼と化す。
『すべてを包み、すべてを浄化せん』
アルヴィナの最後の言葉とともに、迷宮中に炎が拡散した。
地下迷宮のすべてが炎に包まれる。しかし、それは破壊の炎ではない。
《蠢くもの》が悲鳴のような音を立てて燃え上がる。その一方で、レティシア、ユスティナ、エリスの三人は炎に包まれているのにも関わらず、まったく熱くない。むしろ温かく、安心感すら覚える。
「アルヴィナが私たちを守ってくれているんだ」
炎は容赦なく広がっていく。通路の向こうで、変異した生徒たちの姿も炎に包まれる。
『あ……あの人たち』
エリスが気づく。
変異した生徒たちが、炎に包まれて灰になっていく。その最後の瞬間に、一瞬だけ人間らしい光が戻る。まるで「ありがとう」と言っているかのように。
怨嗟の地獄から解放される安堵の表情。そして、跡形もなく炎の向こうに消えていった。
「アル……」
レティシアの目から涙が流れた。アルヴィナは友を救うために、同時に友を灰にしなければならない。その残酷な選択に耐えながら、優しい友人は炎を操り続けているのだ。
ついに超巨大《蠢くもの》の中心部にも炎が到達した。最後の力を振り絞って触手を伸ばすが、そのどれもアルヴィナに届く前に炎に阻まれる。
炎の主の背後に、巨大なドラゴンの影が現れた。いや、アルヴィナ自身がドラゴンになっているのかもしれない。
ガァァァァオオオオオ
ドラゴンの咆哮が地下迷宮に響く。それは救済の声であり、同時に審判の声でもあった。
地下迷宮のすべての《蠢くもの》が浄化された。すべての汚染も取り除かれた。そして、すべての変異した生徒たちも、安らかな眠りについた。
炎が収まると、地下迷宮には静寂だけが残った。アルヴィナがゆっくりと膝をつく。髪は真紅から白へと変化し、瞳の光も薄れていく。
「終わった……みんな救えたのかな」
彼女の声は枯れ果てている。レティシア、ユスティナ、エリスが駆け寄る。
「アル!大丈夫?」
アルヴィナの表情は複雑だった。救えた安堵と、失った者への悲しみが入り混じっている。
「わたし……人を燃やしちゃった」
三人は何も言えなかった。彼女の選択は正しかった。他に方法はなかった。
でも、それでも。
地上への脱出路を探していると、階段の途中で他の生存者たちと出会った。幸い巨大《蠢くもの》との遭遇を免れたグループ、戦わず隠れていた者。アルヴィナ達四人を入れても、全体で十数名。元々の三分の一程度の人数だ。
生存者たちはアルヴィナを見ると、一様に同じ表情を浮かべる。感謝と、畏怖と、そして微かな恐怖。
ある生徒が震え声で言う。
「ありがとう……アルのおかげで助かった」
「でも……あの炎は、人間が使える魔法じゃない」
アルヴィナは俯いている。自分でも分かっている。彼女は人間の枠組みから外れてしまった。
地上に出たとき、朝日が差し込んできた。長い地下の悪夢が終わったことを告げるように。だが、本当の試練はこれから始まるのかもしれない。
救われた生徒たちの視線が、アルヴィナには重すぎた。
◆用語説明
ドラゴンブレス
アルヴィナ専用の神話級パワー。意志に従って敵味方を判別する神聖な炎。
対象とされたクリーチャーは自分のラウンド終了時に炎の範囲内に立っていた場合、敏捷力セーヴ(目標値28)をする。失敗なら12d10の炎&光輝ダメージを受ける。成功なら半減ダメージを受ける。
「アル!」
レティシアが震え声で呼びかける。しかし、アルヴィナにはもはや彼女たちの声が聞こえていないようだった。
その瞳には、幼い頃に見たドラゴンの記憶だけが映っている。圧倒的な炎で、すべてを救ってくれたあの存在。今度は自分が、その炎になる番だ。
「覚えてる……」
アルヴィナが呟く。その声は炎の音に混じって聞こえる。
「あの時のドラゴンの炎……すべてを包み込んで、わたしを救ってくれた」
瞳が燃え上がる。アルヴィナの心に流れ込んできていた悪感情も、炎が焼き払っていく。アルヴィナに群がっていた【人型】たちが、粘液が彼女の身体に触れる前にすべて蒸発してしまう。
「すごい……」
「だがこの魔法は異常だ。どのような論理で炎を制御しているのか……私が再現できるイメージが全くわかない」
「まさかあれが」
〝ドラゴン〟。唯一心当たりある、あの言葉が三人の頭に浮かんだ。
アルヴィナが両手を大きく広げる。その瞬間、地下迷宮全体に炎の竜巻が巻き起こった。
『我は炎なり』
アルヴィナの声と混じって、低い何者かの声が響く。
『我は救済なり』
炎が螺旋を描いて天井に向かって立ち上る。
《蠢くもの》から次々と伸ばされる触手も炎に触れた瞬間に灰燼と化す。
『すべてを包み、すべてを浄化せん』
アルヴィナの最後の言葉とともに、迷宮中に炎が拡散した。
地下迷宮のすべてが炎に包まれる。しかし、それは破壊の炎ではない。
《蠢くもの》が悲鳴のような音を立てて燃え上がる。その一方で、レティシア、ユスティナ、エリスの三人は炎に包まれているのにも関わらず、まったく熱くない。むしろ温かく、安心感すら覚える。
「アルヴィナが私たちを守ってくれているんだ」
炎は容赦なく広がっていく。通路の向こうで、変異した生徒たちの姿も炎に包まれる。
『あ……あの人たち』
エリスが気づく。
変異した生徒たちが、炎に包まれて灰になっていく。その最後の瞬間に、一瞬だけ人間らしい光が戻る。まるで「ありがとう」と言っているかのように。
怨嗟の地獄から解放される安堵の表情。そして、跡形もなく炎の向こうに消えていった。
「アル……」
レティシアの目から涙が流れた。アルヴィナは友を救うために、同時に友を灰にしなければならない。その残酷な選択に耐えながら、優しい友人は炎を操り続けているのだ。
ついに超巨大《蠢くもの》の中心部にも炎が到達した。最後の力を振り絞って触手を伸ばすが、そのどれもアルヴィナに届く前に炎に阻まれる。
炎の主の背後に、巨大なドラゴンの影が現れた。いや、アルヴィナ自身がドラゴンになっているのかもしれない。
ガァァァァオオオオオ
ドラゴンの咆哮が地下迷宮に響く。それは救済の声であり、同時に審判の声でもあった。
地下迷宮のすべての《蠢くもの》が浄化された。すべての汚染も取り除かれた。そして、すべての変異した生徒たちも、安らかな眠りについた。
炎が収まると、地下迷宮には静寂だけが残った。アルヴィナがゆっくりと膝をつく。髪は真紅から白へと変化し、瞳の光も薄れていく。
「終わった……みんな救えたのかな」
彼女の声は枯れ果てている。レティシア、ユスティナ、エリスが駆け寄る。
「アル!大丈夫?」
アルヴィナの表情は複雑だった。救えた安堵と、失った者への悲しみが入り混じっている。
「わたし……人を燃やしちゃった」
三人は何も言えなかった。彼女の選択は正しかった。他に方法はなかった。
でも、それでも。
地上への脱出路を探していると、階段の途中で他の生存者たちと出会った。幸い巨大《蠢くもの》との遭遇を免れたグループ、戦わず隠れていた者。アルヴィナ達四人を入れても、全体で十数名。元々の三分の一程度の人数だ。
生存者たちはアルヴィナを見ると、一様に同じ表情を浮かべる。感謝と、畏怖と、そして微かな恐怖。
ある生徒が震え声で言う。
「ありがとう……アルのおかげで助かった」
「でも……あの炎は、人間が使える魔法じゃない」
アルヴィナは俯いている。自分でも分かっている。彼女は人間の枠組みから外れてしまった。
地上に出たとき、朝日が差し込んできた。長い地下の悪夢が終わったことを告げるように。だが、本当の試練はこれから始まるのかもしれない。
救われた生徒たちの視線が、アルヴィナには重すぎた。
◆用語説明
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アルヴィナ専用の神話級パワー。意志に従って敵味方を判別する神聖な炎。
対象とされたクリーチャーは自分のラウンド終了時に炎の範囲内に立っていた場合、敏捷力セーヴ(目標値28)をする。失敗なら12d10の炎&光輝ダメージを受ける。成功なら半減ダメージを受ける。
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