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第五章 牙を剥く世界
第三十四話 孤独の緋色
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地下水道の惨劇から翌日、犠牲者たちの追悼が行われた。
あまりの犠牲の大きさに、他の学年の生徒らも動揺が広がっていた。彼らにしたって、過去に同じ試練を与えられているのにも関わらずだ。それだけ今年は異常であったということだろう。
遺体すら帰ってこなかったことに、遺族と学園はかなり揉めたらしい。学園は最後まで核心は伏せた。あくまで想定外の事故であり責任は学園にあり、全てを背負わせてしまった少女の事は隠した。
それでも人の口に戸は立てられない。アルヴィナの噂は少しずつ広まっていた。
学園の廊下を歩くアルヴィナは、自分の足音がやけに響いて聞こえた。赤く染まった毛先を隠すようにフードを被っているが、もう意味がない。みんな知っている。地下で何が起きたかを。そして、彼女が何をしたかを。
すれ違う生徒たちが、一瞬立ち止まってから急いで去っていく。故郷の村と同じ反応が、再び学園の中ででも繰り返されていた。
追悼式の後、一人でいるアルヴィナのところにシルビアが駆け寄った。泣き腫らした瞳で、アルヴィナを睨みつけている。
「みんな、あなたを英雄だって言う。でも、私にとってあなたは人殺しよ」
「ひと…ごろし……」
「ルシアを返して」
シルビアが拳を握りしめる。彼女の目から一粒の涙が落ちた。
「友達を返してよ」
アルヴィナは再び言葉に詰まる。彼女ができたのは、繰り返される静かな慟哭をただただ黙って受け止めるだけだった。
夕方、中庭にひとりでいたアルヴィナのところに、レティシアたち三人がやってきた。
「アル、一緒に帰ろ」
レティシアがそう言いつつも、いつものように手を取って引っ張っていく気楽さはなかった。ユスティナも珍しく無口だ。理屈っぽい励ましでは、今は意味をなさない気がする。
四人の関係が変わってしまった。
「みんな、無理しなくていいんだよ」
紅い毛先の髪を弄りながら、アルヴィナが静かに言う。
「私が変わっちゃったから」
「そんなことない、あたしたちは親友よ! あんな事件ていどで変わるもんですか!」
レティシアがアルヴィナの手を握り、慌てて否定する。
「でも、これからも一緒にいたら、みんなまで変な目で見られちゃう」
アルヴィナはその手をゆっくりとほどき、諦めたように言った。
「しばらく、距離を置こう? わたしのことなら大丈夫」
その夜、アルヴィナの部屋にパトロナがやってきた。手には蝋印の押された書類を持っている。
「アルヴィナ」
パトロナは懸命に平静を装い、固い表情で愛する生徒の名を呼んだ。
「君はこの名前を既に知っていたな……《オルド・アルカヌム》から正式な通達が来ました」
書類を広げる。そこには、見慣れない用語が並んでいた。
RSS No.9「緋色の魔女」暫定認定
脅威レベル: ※保留。特別監視対象指定、研究・観察対象
「これは……?」
「あなたは、もう普通の学生としては扱われません」
震える声のパトロナは、一度深呼吸をしてさらに続けた。
「本日これをもって、あなたは超越種として管理されることになります。全ての行動に監視が付き、もし危険な兆候が確認された場合には、すみやかに《OAG》によって処分が下されます。十分に注意してください」
アルヴィナは書類を見つめる。
RSS。レス・シングラリッシマエ。超越的存在。
自分が、そんな分類に入れられる日が来るなんて。
その夜、アルヴィナは屋上に出た。星空を見上げながら、これまでの日々を思い返した。
楽しかった学園生活。 友達との他愛ない会話。一緒に冒険し、笑いあった日々。すべてが、もう戻らない過去になってしまった。
「これからは、一人なのね」
呟いた声が、夜風に流されていく。
〈ステラソナ〉が震え、何度も繰り返し呼びかけてきたであろう友人たちの着信を告げた。アルヴィナはそれに答えることができない。変化してしまったものが元には戻らないことを、彼女はよく知っている。
〝またあしたはなそうね〟
エリスからのメッセージが届くが、これ以上〈ステラソナ〉を見る元気がアルヴィナには無かった。
翌朝、アルヴィナが教室に入ると、いつもの席に見慣れない男が座っていた。黒いスーツに身を包み、無表情でアルヴィナを見つめてくる。
「おはよう、《少女A》」
いや、一度だけ出会っていた。その時は〝巡視官・セルゲイル〟と名乗っていた筈だ。故郷の村から、学園への道案内をした男。そんな頃から《OAG》はマークしていたというのか。
「こうして顔を合わせるのは久々だな。私は君が入学してから今日まで監視をしてきた。だが、もはや姿を隠す必要がないのでこうして出てきたのだ。今の名前は『カイル』だ。よろしく」
教室内がざわめく。ついに、《OA》の公然とした監視が始まったのだ。
「大講堂の爆破、レティシア嬢との試合、《千脚の穿者》、《不屈の暴虐者》、《蠢くもの》との戦闘。異端研究者カシウスとの密談ももちろん把握している。会話内容は聞くことができなかったが、彼と接触したということは、知識を得ているのだろう?」
カイルは淡々と説明を続けた。
「君は人類にとって脅威だ。その力が暴走しないよう、管理、隔離する必要がある」
レティシア、ユスティナ、エリスが心配そうに見つめる視線をアルヴィナは感じた。しかし、もう彼女たちが手を出せる段階は過ぎている。
これからは一人で、新しい現実と向き合わなければならない。
こうして楽しかった学園生活は、完全に終わりを告げる。少女に《緋色の魔女》としての新しい人生が始まろうとしていた。
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▶︎次章「第六章 消えた焔と黙示の頁」につづく
あまりの犠牲の大きさに、他の学年の生徒らも動揺が広がっていた。彼らにしたって、過去に同じ試練を与えられているのにも関わらずだ。それだけ今年は異常であったということだろう。
遺体すら帰ってこなかったことに、遺族と学園はかなり揉めたらしい。学園は最後まで核心は伏せた。あくまで想定外の事故であり責任は学園にあり、全てを背負わせてしまった少女の事は隠した。
それでも人の口に戸は立てられない。アルヴィナの噂は少しずつ広まっていた。
学園の廊下を歩くアルヴィナは、自分の足音がやけに響いて聞こえた。赤く染まった毛先を隠すようにフードを被っているが、もう意味がない。みんな知っている。地下で何が起きたかを。そして、彼女が何をしたかを。
すれ違う生徒たちが、一瞬立ち止まってから急いで去っていく。故郷の村と同じ反応が、再び学園の中ででも繰り返されていた。
追悼式の後、一人でいるアルヴィナのところにシルビアが駆け寄った。泣き腫らした瞳で、アルヴィナを睨みつけている。
「みんな、あなたを英雄だって言う。でも、私にとってあなたは人殺しよ」
「ひと…ごろし……」
「ルシアを返して」
シルビアが拳を握りしめる。彼女の目から一粒の涙が落ちた。
「友達を返してよ」
アルヴィナは再び言葉に詰まる。彼女ができたのは、繰り返される静かな慟哭をただただ黙って受け止めるだけだった。
夕方、中庭にひとりでいたアルヴィナのところに、レティシアたち三人がやってきた。
「アル、一緒に帰ろ」
レティシアがそう言いつつも、いつものように手を取って引っ張っていく気楽さはなかった。ユスティナも珍しく無口だ。理屈っぽい励ましでは、今は意味をなさない気がする。
四人の関係が変わってしまった。
「みんな、無理しなくていいんだよ」
紅い毛先の髪を弄りながら、アルヴィナが静かに言う。
「私が変わっちゃったから」
「そんなことない、あたしたちは親友よ! あんな事件ていどで変わるもんですか!」
レティシアがアルヴィナの手を握り、慌てて否定する。
「でも、これからも一緒にいたら、みんなまで変な目で見られちゃう」
アルヴィナはその手をゆっくりとほどき、諦めたように言った。
「しばらく、距離を置こう? わたしのことなら大丈夫」
その夜、アルヴィナの部屋にパトロナがやってきた。手には蝋印の押された書類を持っている。
「アルヴィナ」
パトロナは懸命に平静を装い、固い表情で愛する生徒の名を呼んだ。
「君はこの名前を既に知っていたな……《オルド・アルカヌム》から正式な通達が来ました」
書類を広げる。そこには、見慣れない用語が並んでいた。
RSS No.9「緋色の魔女」暫定認定
脅威レベル: ※保留。特別監視対象指定、研究・観察対象
「これは……?」
「あなたは、もう普通の学生としては扱われません」
震える声のパトロナは、一度深呼吸をしてさらに続けた。
「本日これをもって、あなたは超越種として管理されることになります。全ての行動に監視が付き、もし危険な兆候が確認された場合には、すみやかに《OAG》によって処分が下されます。十分に注意してください」
アルヴィナは書類を見つめる。
RSS。レス・シングラリッシマエ。超越的存在。
自分が、そんな分類に入れられる日が来るなんて。
その夜、アルヴィナは屋上に出た。星空を見上げながら、これまでの日々を思い返した。
楽しかった学園生活。 友達との他愛ない会話。一緒に冒険し、笑いあった日々。すべてが、もう戻らない過去になってしまった。
「これからは、一人なのね」
呟いた声が、夜風に流されていく。
〈ステラソナ〉が震え、何度も繰り返し呼びかけてきたであろう友人たちの着信を告げた。アルヴィナはそれに答えることができない。変化してしまったものが元には戻らないことを、彼女はよく知っている。
〝またあしたはなそうね〟
エリスからのメッセージが届くが、これ以上〈ステラソナ〉を見る元気がアルヴィナには無かった。
翌朝、アルヴィナが教室に入ると、いつもの席に見慣れない男が座っていた。黒いスーツに身を包み、無表情でアルヴィナを見つめてくる。
「おはよう、《少女A》」
いや、一度だけ出会っていた。その時は〝巡視官・セルゲイル〟と名乗っていた筈だ。故郷の村から、学園への道案内をした男。そんな頃から《OAG》はマークしていたというのか。
「こうして顔を合わせるのは久々だな。私は君が入学してから今日まで監視をしてきた。だが、もはや姿を隠す必要がないのでこうして出てきたのだ。今の名前は『カイル』だ。よろしく」
教室内がざわめく。ついに、《OA》の公然とした監視が始まったのだ。
「大講堂の爆破、レティシア嬢との試合、《千脚の穿者》、《不屈の暴虐者》、《蠢くもの》との戦闘。異端研究者カシウスとの密談ももちろん把握している。会話内容は聞くことができなかったが、彼と接触したということは、知識を得ているのだろう?」
カイルは淡々と説明を続けた。
「君は人類にとって脅威だ。その力が暴走しないよう、管理、隔離する必要がある」
レティシア、ユスティナ、エリスが心配そうに見つめる視線をアルヴィナは感じた。しかし、もう彼女たちが手を出せる段階は過ぎている。
これからは一人で、新しい現実と向き合わなければならない。
こうして楽しかった学園生活は、完全に終わりを告げる。少女に《緋色の魔女》としての新しい人生が始まろうとしていた。
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▶︎次章「第六章 消えた焔と黙示の頁」につづく
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