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第六章 消えた焔と黙示の頁
第三十八話 蛇の呼び声
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エリスの身に起きた異変と同時に、アストラフォラ中の〈ステラソナ〉が異常な光を発し始めた。
何事かと端末を手にした人々が、次々と頭をおさえて、その場に蹲る。動けなくなる程の頭痛に襲われているようだった。
「うっ……頭が……」
「なんか、変な声が聞こえる」
『我を眠りから覚ませ』
「なにこれ……蛇?」
『我を眠りから覚ませ』
蛇の囁きが、アストラネットを震わせた。
陽が地平線の向こうに沈み、空が不吉な紫色に染まる。
アストラフォラ魔法学園の敷地内は、大混乱が始まっていた。〈ステラソナ〉を持っていた生徒たちが突然苦しみだしたかと思うと、ぼんやりとした表情で立ち上がり同じ方向に歩き出したのだ。
全ての市民、生徒に〈ステラソナ〉が行き届いてはいないため、精神攻撃を受けていない者も少なからず残っている。
「おい、平気か?」
友人の異変を心配したらしい、正気を保っていた生徒が友の肩を揺する。すると――
ドンッ!!
生徒は尋常ではない力で突き飛ばされ、壁に叩きつけられた。突き飛ばした生徒の方は、腕がありえない方向に折れ曲がっている。しかし、その痛みも意に介さぬように、再びよろよろと歩きはじめる。
同じような光景が、いたるところで起きていた。
「正気な者だけ集まって固まるんだ!!」
《蠢くもの》の惨劇を生き延びた生徒が声を張り上げる。だが彼らには、不気味な行軍をただ見守っていることしかできない。
《禁書庫》から脱出したレティシアとユスティナは、不気味な光景に息を飲んだ。
百人以上の生徒が、皆一様に黙り、学園の外へ向かって歩いていく。中には痛ましく手足がねじ曲がっている者もいた。そして、その行軍の先頭にはエリスの姿があった。
「エリス!」
ユスティナが駆け寄り腕を掴もうとするが、彼女の表情を見てすぐに体を引いた。
「お前、エリスじゃないな」
「え?」
追いついたレティシアが訝しむ。
エリスは他の生徒とは異なり、意思のある視線を二人に向けた。しかしそれはエリス本人のものではないと、親友の二人にはすぐに気がつく。
「我を眠りから覚ませ」
エリスの声で発せられた言葉。同時に彼女を中心に突風が起こり、ユスティナへ向かって圧縮された空気が弾ける。
「ジャスあぶない!」
〈運命流〉で察知し、ユスティナを受け止めるレティシア。
エリスを中心に渦を巻く砂埃の向こうに、二つの目が再び緑色に光る。すると後方の生徒たちが、一斉に聞いたこともない言葉を唱えだした。
「「「ᚴᛚᛁᛒ ᛅᛚᛚᛏᚴ!!」」」
共通語ではない音。意味を理解できなくとも、それが邪なる意志を孕んでいることを、二人は本能的に感じ取った。そして学園の外からも同じ声が響き渡る。アストラフォラの至るところで同じことが起きているようだった。
エリスを中心に、再び緑の魔法陣が浮かび上がる。古代の、もしかしたら他の星、他の世界の言語かもしれない。《身喰らう蛇》を崇拝する邪悪な意思が造った、この世界のものとは異なる魔法――。
その時、大地が微かに震えた。足の裏に感じる、かすかな揺れ。
「地震?」
レティシアが呟く。震えは次第に大きくなっていく。木々がざわめき、鳥たちが一斉に飛び立った。
「違う、もっと大きな何かが起きている」
震えは間隔を置いて繰り返される。まるで巨大な何かが、ゆっくりと鼓動しているかのような規則性。レティシアが遠くの方を指差した。
「あの山……動いてない?」
地平線の彼方に連なる山脈。高台にある学園からいつも眺めている馴染み深い風景が、確かに動いていた。上下に、ゆっくりと波打つように。
地面の震えはさらに強くなるにつれて、山の動きも激しくなる。そして、ついに決定的な瞬間が訪れた。
山脈の一部が、大きく持ち上がった。その下から現れたのは巨大な、三角形の頭部。地平線の彼方まで続くそのすべてが一匹の蛇の身体だった。星そのものを巻き付けるほどの大きさの。
「――《身喰らう蛇》」
プラエトリス・レポートに記されたもう一つの脅威。終焉の蛇。この星を穿つもの。
それが、今まさに覚醒しようとしている。
◆用語説明
《蛇紋の魔女(ウロボロス)》
仮にもし、この世界が未来にも存続したなら、エリスはこう呼ばれるでしょう。
《身喰らう蛇》によって精神を破壊されたエリス、およびアストラネットを通じて当該《RSS》に支配された集団を指す。
《身喰らう蛇》を崇める異星、異世界の邪教の秘術を用いて、数千年先の予定であった世界終焉シナリオを強制的に早めた。
何事かと端末を手にした人々が、次々と頭をおさえて、その場に蹲る。動けなくなる程の頭痛に襲われているようだった。
「うっ……頭が……」
「なんか、変な声が聞こえる」
『我を眠りから覚ませ』
「なにこれ……蛇?」
『我を眠りから覚ませ』
蛇の囁きが、アストラネットを震わせた。
陽が地平線の向こうに沈み、空が不吉な紫色に染まる。
アストラフォラ魔法学園の敷地内は、大混乱が始まっていた。〈ステラソナ〉を持っていた生徒たちが突然苦しみだしたかと思うと、ぼんやりとした表情で立ち上がり同じ方向に歩き出したのだ。
全ての市民、生徒に〈ステラソナ〉が行き届いてはいないため、精神攻撃を受けていない者も少なからず残っている。
「おい、平気か?」
友人の異変を心配したらしい、正気を保っていた生徒が友の肩を揺する。すると――
ドンッ!!
生徒は尋常ではない力で突き飛ばされ、壁に叩きつけられた。突き飛ばした生徒の方は、腕がありえない方向に折れ曲がっている。しかし、その痛みも意に介さぬように、再びよろよろと歩きはじめる。
同じような光景が、いたるところで起きていた。
「正気な者だけ集まって固まるんだ!!」
《蠢くもの》の惨劇を生き延びた生徒が声を張り上げる。だが彼らには、不気味な行軍をただ見守っていることしかできない。
《禁書庫》から脱出したレティシアとユスティナは、不気味な光景に息を飲んだ。
百人以上の生徒が、皆一様に黙り、学園の外へ向かって歩いていく。中には痛ましく手足がねじ曲がっている者もいた。そして、その行軍の先頭にはエリスの姿があった。
「エリス!」
ユスティナが駆け寄り腕を掴もうとするが、彼女の表情を見てすぐに体を引いた。
「お前、エリスじゃないな」
「え?」
追いついたレティシアが訝しむ。
エリスは他の生徒とは異なり、意思のある視線を二人に向けた。しかしそれはエリス本人のものではないと、親友の二人にはすぐに気がつく。
「我を眠りから覚ませ」
エリスの声で発せられた言葉。同時に彼女を中心に突風が起こり、ユスティナへ向かって圧縮された空気が弾ける。
「ジャスあぶない!」
〈運命流〉で察知し、ユスティナを受け止めるレティシア。
エリスを中心に渦を巻く砂埃の向こうに、二つの目が再び緑色に光る。すると後方の生徒たちが、一斉に聞いたこともない言葉を唱えだした。
「「「ᚴᛚᛁᛒ ᛅᛚᛚᛏᚴ!!」」」
共通語ではない音。意味を理解できなくとも、それが邪なる意志を孕んでいることを、二人は本能的に感じ取った。そして学園の外からも同じ声が響き渡る。アストラフォラの至るところで同じことが起きているようだった。
エリスを中心に、再び緑の魔法陣が浮かび上がる。古代の、もしかしたら他の星、他の世界の言語かもしれない。《身喰らう蛇》を崇拝する邪悪な意思が造った、この世界のものとは異なる魔法――。
その時、大地が微かに震えた。足の裏に感じる、かすかな揺れ。
「地震?」
レティシアが呟く。震えは次第に大きくなっていく。木々がざわめき、鳥たちが一斉に飛び立った。
「違う、もっと大きな何かが起きている」
震えは間隔を置いて繰り返される。まるで巨大な何かが、ゆっくりと鼓動しているかのような規則性。レティシアが遠くの方を指差した。
「あの山……動いてない?」
地平線の彼方に連なる山脈。高台にある学園からいつも眺めている馴染み深い風景が、確かに動いていた。上下に、ゆっくりと波打つように。
地面の震えはさらに強くなるにつれて、山の動きも激しくなる。そして、ついに決定的な瞬間が訪れた。
山脈の一部が、大きく持ち上がった。その下から現れたのは巨大な、三角形の頭部。地平線の彼方まで続くそのすべてが一匹の蛇の身体だった。星そのものを巻き付けるほどの大きさの。
「――《身喰らう蛇》」
プラエトリス・レポートに記されたもう一つの脅威。終焉の蛇。この星を穿つもの。
それが、今まさに覚醒しようとしている。
◆用語説明
《蛇紋の魔女(ウロボロス)》
仮にもし、この世界が未来にも存続したなら、エリスはこう呼ばれるでしょう。
《身喰らう蛇》によって精神を破壊されたエリス、およびアストラネットを通じて当該《RSS》に支配された集団を指す。
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∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
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