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最終章 緋色の魔法遣い
第四十三話 最後の再会
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アルヴィナが通った跡には希望の光が灯されていった一方で、エリスが操る一団が通った跡には絶望が広がっていった。
アストラフォラから休むことなく、《身喰らう蛇》へと歩き続ける大行軍。右手を蛇の方にかかげ、聞いたこともない言葉を唱え続けるその姿に、人々は恐怖した。混乱の際に怪我を負ったまま行軍に加わった者は、いずれ力尽き途中で倒れる。
放置されたその亡骸はさらに恐怖を呼んでいった。
『レッチ! 常に〈運命流〉を起動してて』
『そうすれば〈ソナピ〉を通してウチらも未来線を把握できる』
『しんどいと思うけどおねがい!』
「りょーかい……っ」
レティシアは必死で〈飛行器〉の安定を維持すべく、手元の突起――ハンドルにしがみついていた。
眼下では馬車と比べ物にならない速さで景色が流れていく。確かにこの速さならば《OAG》より先回りしてアルヴィナの元にたどり着くかもしれない。
その代わりこの鳥はとんでもない暴れ馬で、ひっきりなしに〈運命流〉が墜落の未来を知らせる。レティシアは力ずくで機体をたわませながら、必至で立て直し続けた。
間もなく、進路上に黒い飛行船が飛んでいるのが見える。蛇に突き刺した剣のエンブレム。学園に現れた《OAG》の船だ。
(アル…!)
体中を擦り付けて痣を作り、痛みに耐えながらも飛行船の横を猛スピードで追い抜いていく。
レティシアの瞳の奥の炎は徐々に大きくなっていった。
アルヴィナは進み続ける。
途中にあった小さな村では、自暴自棄になった者たちによる略奪が始まっていた。奪われる食料や高価なもの。暗い欲望の限りを尽くそうと、乱暴をはたらくもの。目を覆いたくなる地獄がそこにあった。
アルヴィナは紅い髪を燃え上がらせ、炎を纏う。
暴漢達の眼前や、殴りかかろうとしている者との間に無理矢理割って入るよう、炎の壁を燃え上がらせる。
「ひどいことしないで。全部、わたしがなんとかするから」
また別の村では、悲観し自害しようとする家族のもとにアルヴィナは現れた。
アルヴィナはその場に駆け込んで、すぐに首を吊るロープを燃やし、悲痛な声で泣き叫ぶ若い夫婦を抱きとめる。
「大丈夫、任せて」
気持ちが落ち着いたり、アルヴィナに救われた者たちは後に、口々に彼女をこう呼んだ。
〝緋色の魔法遣い〟と。
* * *
〝貪り食う蛇 腐敗した世界に巻き付く神
人間の偽りの法を打ち砕く すべての王座を灰燼に帰す
偽りの希望に唾を吐く 人間が築いた檻を壊す
すべての肉なるものが飲み込まれますように
あなたの聖なる口に飲み込まれますように
終わりのない破滅の渦の中で 法など無意味な場所 生命など無意味な場所
あなたの牙だけが真実である
私を完全に飲み込みなさい すべてのものに終わりが来ますように〟
ᚴᛚᛁᛒᛅᚾᛏᛁ ᚢᚱᛘᚱ ᚴᚢᚦ ᚠᛅᚠᛁᚾ ᚢᛘ ᚠᚢᚱᛅᚾ ᚼᛁᛘ
ᛒᚱᛁᚢᛏᚢ ᚠᚢᛚᛋᚴ ᛚᚢᚴ ᛘᛅᚾᛅ ᚴᛁᚱ ᛅᛚᛏ ᚼᛅᛋᛅᛏᛁ ᛅᛏ ᚢᛋᚴᚢ
ᛁᚴ ᛋᛒᛁᛏ ᛅ ᚠᛅᛚᛋᚴᛅ ᚠᚢᚾ ᛒᚱᛁᚢᛏᚢ ᛒᚢᚱᛁᚾ ᛋᛘᛁᛏᚢᛏ ᛅᚠ ᛘᚢᚾᚢᛘ
ᛚᛅᛏ ᛅᛚᛏ ᚼᚢᛚᛏ ᚴᛚᛁᛒᛅᛋᛏ
ᚴᛚᛁᛒᛁᛋᛏ ᛁ ᚼᛁᛚᚴᛅᚾ ᛘᚢᚾᛁ ᚦᛁᚾᚢᛘ
ᛁ ᛁᚾᛏᛅᛚᛅᚢᛋᚢᛘ ᚼᚱᛁᚾᚴ ᚴᛚᚢᛏᚢᚾᛅᚱ ᚦᛅᚱ ᛋᛁᛘ ᛚᚢᚴ ᛁᚱᚢ ᛁᚴᛁᚱᛏ ᚦᛅᚱ ᛋᛁᛘ ᛚᛁᚠ ᛁᚱ ᛁᚴᛁᚱᛏ
ᛅᚦᛁᚾᛋ ᛏᛁᚾᚢᚱ ᚦᛁᚾᛅᚱ ᛁᚱᚢ ᛋᛅᚾᛚᛁᚴᚢᚱ
ᚴᛚᛁᛒ ᛘᛁᚴ ᛅᛚᚴᛁᚱᛚᛁᚴᛅ ᛚᛅᛏ ᛅᛚᛏ ᚾᛅ ᛋᛁᚾᚢᛘ ᛁᚾᛏᛅ
聞くものを魂から震え上がらせる祝詞が響き渡る。
元々はその山岳への登頂ルートへの入口だった――今は《身喰らう蛇》の体の一部――の近くに死の行軍は接近した。
その先頭に立ち続けていたエリスは、再び魔法陣を足元に展開すると、ふわりと浮き上がった。そのままゆっくりと、《身喰らう蛇》の頭の方へと登っていく。
「エリス!」
同じくたどり着いたアルヴィナが、エリスに向かって叫ぶ。
エリスは眼下にいる友人の方を向くと、両目を緑に光らせた。
「この世界は、終わる、終わる、終わる」
エリスがアストラネット経由の精神攻撃を飛ばすが、アルヴィナの〈ステラソナ〉は通さない。
さらにエリスの目が強く輝くと、操られている学生、市民達が、今度はアルヴィナの方に向かって歩き始めた。
意思のない目で、妨害者を《身喰らう蛇》から遠ざけようと、人垣で壁を作っていく。
「く…っ。エリス! 目を覚まして! みんなを開放して!」
人間を燃やすわけにはいかないアルヴィナは、エリスに向かって叫んだ。エリスは用は済んだとばかりに、さらに空へと登っていった。
彼らは操られているだけで、悪意はない。アルヴィナの良心がどうしても攻撃を躊躇させている間に、学園の生徒たちを前に並ばせて、まるで盾のように立ち塞がらせる。
(完全にわたしへの対策だ)
エリスの記憶を使った指示なのだろう。アルヴィナはいよいよ打つ手に困った。
その時―― 遠くの空から低い振動音が響く。
かろうじて人間らしさが残っていたらしい、操られた者たちの何人かが音の方を見上げる。アルヴィナもそちらに目を向けると、鳥のようなシルエットの何かがこちらに向かって猛スピードで飛んでくるのが見えた。
みるみると近づいたかと思うと、アルヴィナと人垣の間を割って入るように滑り込む。土を捲き上げて地面を抉りながら着地した衝撃に、そう指示されていないため身を守ろうともしない人々が、土や泥をまともに浴びて倒れた。
「アル!」
〈運命流〉を起動し、着陸前に安全なタイミングで離脱していたレティシアがアルヴィナに向かって駆け寄る。
「一人で全部背負い込むなんて馬鹿よ!」
アルヴィナを抱きしめ、涙をぽろぽろ流す。
〈飛行器〉の上で縛られていたユスティナも、なんとか自分でベルトを外し、遅れて到着する。
「アル、長く説明をする時間はない。世界を救うたった一つの手段がある」
『ドラゴンしょーかん』
『アルの内なる力、願望を顕現化させる』
『ここまでのお膳立てには、論理を超えた必然性がある。《黒猫》は納得する』
エリスの声で一気に捲し立てられて困惑するものの、もとよりそのつもりのアルヴィナは頷いた。上空を指さし、最も心配していたことを聞く。
「あのエリスはどうなるの?」
「残念だが……」
静かに首を振るユスティナを見て、アルヴィナは瞳を滲ませる。
『うちらは大丈夫。やっちゃって』
『エリちゃん達はいつでもみんなのそばにいるよ』
『それ死亡フラグっぽい……ってもう死んでるんだったわ』
「アル」
レティシアが顔を離して、力強く告げた。
「人間達のことはあたしに任せて。三人は《身喰らう蛇》を――エリスを助けてあげて」
「任せろ」
『りょー』
「うん、わかった」
三人と、おそらく隣にいるであろうもう一人は、久々に円陣を組む。仲良し四人組の心は、再び一つになったのだった。
アストラフォラから休むことなく、《身喰らう蛇》へと歩き続ける大行軍。右手を蛇の方にかかげ、聞いたこともない言葉を唱え続けるその姿に、人々は恐怖した。混乱の際に怪我を負ったまま行軍に加わった者は、いずれ力尽き途中で倒れる。
放置されたその亡骸はさらに恐怖を呼んでいった。
『レッチ! 常に〈運命流〉を起動してて』
『そうすれば〈ソナピ〉を通してウチらも未来線を把握できる』
『しんどいと思うけどおねがい!』
「りょーかい……っ」
レティシアは必死で〈飛行器〉の安定を維持すべく、手元の突起――ハンドルにしがみついていた。
眼下では馬車と比べ物にならない速さで景色が流れていく。確かにこの速さならば《OAG》より先回りしてアルヴィナの元にたどり着くかもしれない。
その代わりこの鳥はとんでもない暴れ馬で、ひっきりなしに〈運命流〉が墜落の未来を知らせる。レティシアは力ずくで機体をたわませながら、必至で立て直し続けた。
間もなく、進路上に黒い飛行船が飛んでいるのが見える。蛇に突き刺した剣のエンブレム。学園に現れた《OAG》の船だ。
(アル…!)
体中を擦り付けて痣を作り、痛みに耐えながらも飛行船の横を猛スピードで追い抜いていく。
レティシアの瞳の奥の炎は徐々に大きくなっていった。
アルヴィナは進み続ける。
途中にあった小さな村では、自暴自棄になった者たちによる略奪が始まっていた。奪われる食料や高価なもの。暗い欲望の限りを尽くそうと、乱暴をはたらくもの。目を覆いたくなる地獄がそこにあった。
アルヴィナは紅い髪を燃え上がらせ、炎を纏う。
暴漢達の眼前や、殴りかかろうとしている者との間に無理矢理割って入るよう、炎の壁を燃え上がらせる。
「ひどいことしないで。全部、わたしがなんとかするから」
また別の村では、悲観し自害しようとする家族のもとにアルヴィナは現れた。
アルヴィナはその場に駆け込んで、すぐに首を吊るロープを燃やし、悲痛な声で泣き叫ぶ若い夫婦を抱きとめる。
「大丈夫、任せて」
気持ちが落ち着いたり、アルヴィナに救われた者たちは後に、口々に彼女をこう呼んだ。
〝緋色の魔法遣い〟と。
* * *
〝貪り食う蛇 腐敗した世界に巻き付く神
人間の偽りの法を打ち砕く すべての王座を灰燼に帰す
偽りの希望に唾を吐く 人間が築いた檻を壊す
すべての肉なるものが飲み込まれますように
あなたの聖なる口に飲み込まれますように
終わりのない破滅の渦の中で 法など無意味な場所 生命など無意味な場所
あなたの牙だけが真実である
私を完全に飲み込みなさい すべてのものに終わりが来ますように〟
ᚴᛚᛁᛒᛅᚾᛏᛁ ᚢᚱᛘᚱ ᚴᚢᚦ ᚠᛅᚠᛁᚾ ᚢᛘ ᚠᚢᚱᛅᚾ ᚼᛁᛘ
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聞くものを魂から震え上がらせる祝詞が響き渡る。
元々はその山岳への登頂ルートへの入口だった――今は《身喰らう蛇》の体の一部――の近くに死の行軍は接近した。
その先頭に立ち続けていたエリスは、再び魔法陣を足元に展開すると、ふわりと浮き上がった。そのままゆっくりと、《身喰らう蛇》の頭の方へと登っていく。
「エリス!」
同じくたどり着いたアルヴィナが、エリスに向かって叫ぶ。
エリスは眼下にいる友人の方を向くと、両目を緑に光らせた。
「この世界は、終わる、終わる、終わる」
エリスがアストラネット経由の精神攻撃を飛ばすが、アルヴィナの〈ステラソナ〉は通さない。
さらにエリスの目が強く輝くと、操られている学生、市民達が、今度はアルヴィナの方に向かって歩き始めた。
意思のない目で、妨害者を《身喰らう蛇》から遠ざけようと、人垣で壁を作っていく。
「く…っ。エリス! 目を覚まして! みんなを開放して!」
人間を燃やすわけにはいかないアルヴィナは、エリスに向かって叫んだ。エリスは用は済んだとばかりに、さらに空へと登っていった。
彼らは操られているだけで、悪意はない。アルヴィナの良心がどうしても攻撃を躊躇させている間に、学園の生徒たちを前に並ばせて、まるで盾のように立ち塞がらせる。
(完全にわたしへの対策だ)
エリスの記憶を使った指示なのだろう。アルヴィナはいよいよ打つ手に困った。
その時―― 遠くの空から低い振動音が響く。
かろうじて人間らしさが残っていたらしい、操られた者たちの何人かが音の方を見上げる。アルヴィナもそちらに目を向けると、鳥のようなシルエットの何かがこちらに向かって猛スピードで飛んでくるのが見えた。
みるみると近づいたかと思うと、アルヴィナと人垣の間を割って入るように滑り込む。土を捲き上げて地面を抉りながら着地した衝撃に、そう指示されていないため身を守ろうともしない人々が、土や泥をまともに浴びて倒れた。
「アル!」
〈運命流〉を起動し、着陸前に安全なタイミングで離脱していたレティシアがアルヴィナに向かって駆け寄る。
「一人で全部背負い込むなんて馬鹿よ!」
アルヴィナを抱きしめ、涙をぽろぽろ流す。
〈飛行器〉の上で縛られていたユスティナも、なんとか自分でベルトを外し、遅れて到着する。
「アル、長く説明をする時間はない。世界を救うたった一つの手段がある」
『ドラゴンしょーかん』
『アルの内なる力、願望を顕現化させる』
『ここまでのお膳立てには、論理を超えた必然性がある。《黒猫》は納得する』
エリスの声で一気に捲し立てられて困惑するものの、もとよりそのつもりのアルヴィナは頷いた。上空を指さし、最も心配していたことを聞く。
「あのエリスはどうなるの?」
「残念だが……」
静かに首を振るユスティナを見て、アルヴィナは瞳を滲ませる。
『うちらは大丈夫。やっちゃって』
『エリちゃん達はいつでもみんなのそばにいるよ』
『それ死亡フラグっぽい……ってもう死んでるんだったわ』
「アル」
レティシアが顔を離して、力強く告げた。
「人間達のことはあたしに任せて。三人は《身喰らう蛇》を――エリスを助けてあげて」
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