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最終章 緋色の魔法遣い
第四十四話 緋翼連理
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「「「ᚴᛚᛁᛒ ᛅᛚᛚᛏᚴ!!」」」(すべてを喰らい尽くせ)
邪悪な祝詞はいまも続いている。
一人残ったレティシアは、真紅のローブ――アンティクア家の礼装に手を通した。〈飛行器〉の操縦席に忍ばせておいたのだ。
ユスティナが着陸の混乱に乗じ、アルヴィナを人垣の向こうへ連れて行ってから間もなくした頃。《OAG》の飛行船が《身喰らう蛇》の前線に到着した。
次々と降下してくる守護者達。アルヴィナの方を意識しているのか、レティシアには目もくれず人垣へと進み始めた。それぞれの手には武器を所持している。盾にされた学園の生徒が行く手を阻もうものなら、すぐにでも凶刃がふるわれることは明白だった。
レティシアは声を張り上げた。
「蛇のことはアルに任せて、あんた達はすっこんでなさい!」
だが、彼らは止まらない。まるでひとつの意思のように乱れぬ歩調で。
最後尾にいた、リーダーらしき男だけがレティシアに答えた。
「〈少女A〉の友人、君の置かれている状況には同情する。しかし我々も背負ってきたものがある」
「あたしだってレポートを読んだわ! 過去の魔法遣い達の無念も。でも、《OA》は間に合わなかったの。それを認めなさい!」
男は少しの間黙った。そして、感情を読み取れない、暗い目を向けてきっぱりと告げた。
「何が正しいか――それは後の世が決める。我々を突き動かすのは任務のみ」
そう宣言すると、他の守護者と同じく、もう二度と用はないというように視線を切った。
レティシアは深く深呼吸をする。レティシアの身体がぼうっと赤い炎に包まれた。
「ああそう。じゃあ、あたしを見過ごすわけにいかなくなれば、話が違うのよね?」
彼女の心に溜めてきた、怒りや悔しさ。偉そうに振る舞いながらここぞという大事な場面を、全部アルヴィナに背負わせてきてしまった不甲斐なさ。
そんな自分がどんなことになってでも、親友を守りたい――。純粋な少女の想いを一気に解き放つ。
《OAG》はついにレティシアに反応した。我が敵を得たとばかりに、レティシアに目標を変える。
炎導布でも吸収しきれない熱が、ローブの端をちりちりと赤く焦がした。
レティシアが愛用の短杖を守護者達に向かって振った。杖先から伸びた炎を鞭が彼らの周りを走り抜け、取り囲むように円を描いていく。輪の反対が繋がった瞬間に
ゴオオォオ!
紅蓮の炎の壁が天高く伸びる。レティシア自身も巻き込んで。
対《狂い火》耐火装備で、炎を突破しようと試みた《OAG》の斥候が、一瞬で装具を燃やされて後退する。炎を飛び越えようと、一人が踏み台になるべく腰を落として構えた瞬間――炎の先端が内側に向かって曲がり、返しが作られる。
守護者達にはじめて動揺が見られた。炎の壁はそのまま広がりもせず、狭まりもしない。ただ彼らを足止めするためだけに燃え続けた。
レティシアに焼き殺す意思はない。そうしてしまうと二度とアルヴィナに顔向けができない。
「ここからは誰一人として通しません」
炎は彼女の身体を焼き、美しかった黄金の髪を燃やしていく。激痛が走っている筈だが、少女は家に伝わる演舞――星綾祭で披露した舞を踊る。貴族の矜持。
(最初にアルと会った時も、こんな風に格好つけてたっけなあ……)
くるくると回る舞によって伸びた炎が、まるで片翼の羽が生えたようにレティシアの背中から広がる。《OAG》を睨みつけるレティシアの両目は、紅く塗りつぶされ既にもう無い。二つの眼窩から禍々しい紅蓮が吹き出した。
「我が名はレティシア・アンティクア。もう一人の《緋色の魔女》だ!」
「レッチ!」
背後から激しい熱の奔流が伝わり、アルヴィナはおもわず振り返る。
「アル、今は振り返るな」
ユスティナの目からは涙が溢れていた。
『蛇の巫女が《身喰らう蛇》と接触し、贄になると、もう止められない』
『へびが星を砕く』
アルヴィナが泣き腫らす。これすらもお膳立てだというのか。
《黒猫》がどこからともなく姿を現わした。この場に似つかわしくない、可愛らしい声で「にゃあ」と一声鳴く。
さあ魅せてよ。最高の物語を。
《黒猫》の金色の瞳が爛々と輝いている。
「あなたの思い通りなんかならない! もう誰も失わない!」
アルヴィナはドラゴンの存在を強く強く願う。いや願いではだめ、確信しなければ。
イメージしろ。
赤褐色の溶鉄のごとき鱗。百年と生きてきた巨木のような逞しい四本脚。神々しさすら感じる、王冠のような角の生えた頭部。そして美しく、どこか命に対し慈愛の籠もった金色の眼。
「刮目しろ! これが、わたしの、〝ドラゴン〟だ!」
《身喰らう蛇》の巨体によって陽が届かない大地。それを覆う蛇の身体に、影が一瞬通り過ぎていった。
続いて暴風が、地上の人々を襲う。《OAG》も操られた者たちもまとめて。
空には暗雲が立ち込め、急激な気圧変化によって発生した静電気が雷となって降り注ぐ。
スペクトルにノイズが起こり、彼らの持つ〈ステラソナ〉のネコノメ通信が断続的になった。一部の市民たちの支配の力が弱まり、意識を取り戻した。
彼らは、まず間近に迫った《身喰らう蛇》の姿に慄きながらも、もう一つ空に浮かぶ炎を指差した。
「なんだあれは!?」
「炎の……鳥?」
空の支配者にして炎の主。〝ドラゴン〟は静かにアルヴィナを見下ろしていた。
「やっと、逢えた」
アルヴィナが答えると、ドラゴンは微笑んだように見えた。
邪悪な祝詞はいまも続いている。
一人残ったレティシアは、真紅のローブ――アンティクア家の礼装に手を通した。〈飛行器〉の操縦席に忍ばせておいたのだ。
ユスティナが着陸の混乱に乗じ、アルヴィナを人垣の向こうへ連れて行ってから間もなくした頃。《OAG》の飛行船が《身喰らう蛇》の前線に到着した。
次々と降下してくる守護者達。アルヴィナの方を意識しているのか、レティシアには目もくれず人垣へと進み始めた。それぞれの手には武器を所持している。盾にされた学園の生徒が行く手を阻もうものなら、すぐにでも凶刃がふるわれることは明白だった。
レティシアは声を張り上げた。
「蛇のことはアルに任せて、あんた達はすっこんでなさい!」
だが、彼らは止まらない。まるでひとつの意思のように乱れぬ歩調で。
最後尾にいた、リーダーらしき男だけがレティシアに答えた。
「〈少女A〉の友人、君の置かれている状況には同情する。しかし我々も背負ってきたものがある」
「あたしだってレポートを読んだわ! 過去の魔法遣い達の無念も。でも、《OA》は間に合わなかったの。それを認めなさい!」
男は少しの間黙った。そして、感情を読み取れない、暗い目を向けてきっぱりと告げた。
「何が正しいか――それは後の世が決める。我々を突き動かすのは任務のみ」
そう宣言すると、他の守護者と同じく、もう二度と用はないというように視線を切った。
レティシアは深く深呼吸をする。レティシアの身体がぼうっと赤い炎に包まれた。
「ああそう。じゃあ、あたしを見過ごすわけにいかなくなれば、話が違うのよね?」
彼女の心に溜めてきた、怒りや悔しさ。偉そうに振る舞いながらここぞという大事な場面を、全部アルヴィナに背負わせてきてしまった不甲斐なさ。
そんな自分がどんなことになってでも、親友を守りたい――。純粋な少女の想いを一気に解き放つ。
《OAG》はついにレティシアに反応した。我が敵を得たとばかりに、レティシアに目標を変える。
炎導布でも吸収しきれない熱が、ローブの端をちりちりと赤く焦がした。
レティシアが愛用の短杖を守護者達に向かって振った。杖先から伸びた炎を鞭が彼らの周りを走り抜け、取り囲むように円を描いていく。輪の反対が繋がった瞬間に
ゴオオォオ!
紅蓮の炎の壁が天高く伸びる。レティシア自身も巻き込んで。
対《狂い火》耐火装備で、炎を突破しようと試みた《OAG》の斥候が、一瞬で装具を燃やされて後退する。炎を飛び越えようと、一人が踏み台になるべく腰を落として構えた瞬間――炎の先端が内側に向かって曲がり、返しが作られる。
守護者達にはじめて動揺が見られた。炎の壁はそのまま広がりもせず、狭まりもしない。ただ彼らを足止めするためだけに燃え続けた。
レティシアに焼き殺す意思はない。そうしてしまうと二度とアルヴィナに顔向けができない。
「ここからは誰一人として通しません」
炎は彼女の身体を焼き、美しかった黄金の髪を燃やしていく。激痛が走っている筈だが、少女は家に伝わる演舞――星綾祭で披露した舞を踊る。貴族の矜持。
(最初にアルと会った時も、こんな風に格好つけてたっけなあ……)
くるくると回る舞によって伸びた炎が、まるで片翼の羽が生えたようにレティシアの背中から広がる。《OAG》を睨みつけるレティシアの両目は、紅く塗りつぶされ既にもう無い。二つの眼窩から禍々しい紅蓮が吹き出した。
「我が名はレティシア・アンティクア。もう一人の《緋色の魔女》だ!」
「レッチ!」
背後から激しい熱の奔流が伝わり、アルヴィナはおもわず振り返る。
「アル、今は振り返るな」
ユスティナの目からは涙が溢れていた。
『蛇の巫女が《身喰らう蛇》と接触し、贄になると、もう止められない』
『へびが星を砕く』
アルヴィナが泣き腫らす。これすらもお膳立てだというのか。
《黒猫》がどこからともなく姿を現わした。この場に似つかわしくない、可愛らしい声で「にゃあ」と一声鳴く。
さあ魅せてよ。最高の物語を。
《黒猫》の金色の瞳が爛々と輝いている。
「あなたの思い通りなんかならない! もう誰も失わない!」
アルヴィナはドラゴンの存在を強く強く願う。いや願いではだめ、確信しなければ。
イメージしろ。
赤褐色の溶鉄のごとき鱗。百年と生きてきた巨木のような逞しい四本脚。神々しさすら感じる、王冠のような角の生えた頭部。そして美しく、どこか命に対し慈愛の籠もった金色の眼。
「刮目しろ! これが、わたしの、〝ドラゴン〟だ!」
《身喰らう蛇》の巨体によって陽が届かない大地。それを覆う蛇の身体に、影が一瞬通り過ぎていった。
続いて暴風が、地上の人々を襲う。《OAG》も操られた者たちもまとめて。
空には暗雲が立ち込め、急激な気圧変化によって発生した静電気が雷となって降り注ぐ。
スペクトルにノイズが起こり、彼らの持つ〈ステラソナ〉のネコノメ通信が断続的になった。一部の市民たちの支配の力が弱まり、意識を取り戻した。
彼らは、まず間近に迫った《身喰らう蛇》の姿に慄きながらも、もう一つ空に浮かぶ炎を指差した。
「なんだあれは!?」
「炎の……鳥?」
空の支配者にして炎の主。〝ドラゴン〟は静かにアルヴィナを見下ろしていた。
「やっと、逢えた」
アルヴィナが答えると、ドラゴンは微笑んだように見えた。
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