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六章
壊れる前に
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宝物庫で例の物を見つけた後、僕達は場所を移動することになった。その際、僕達をどうするのかという話になったけれど、二人だけをよく知りもしない城に残すのは躊躇われたようで、結局、僕達も父様達と同行することになった。
キールの転移で、王女が指定した場所へと飛ぶけれど、初めて体験したルークスの面々は、驚きと感動が入り混じった表情を浮かべていた。空間が歪み、視界が一瞬で切り替わる。その光景や体験に、誰もが言葉を失っていた。けれど王女は、すぐにその感情に蓋をし、為政者としての顔を取り戻すと、周囲を見渡しながら、静かに振り返る。
「……ここでは、どうでしょうか?」
王女の声で、エリオット達も自分の役目を思い出したように表情を引き締める。そして、父様達も周囲を警戒するように、視線を巡らせた。確かに、見渡す限り何もなく、多少暴れたとしても、誰かに迷惑を掛けるような場所ではない。
「そうだな」
父様も問題はなかったようで、短く答えて頷いた。その瞬間、ふと疑問の声が上がる。
「それにしても、なぜワシが持っておるのじゃ?」
「自分で封印した物なら、自分で持て」
精霊王の言葉を、父様は容赦なく切り捨てた。あまりにも当然のような言い方だったが、誰もそれに反論しない。
最初は宝物庫の品ということで、王女に視線が集まった。けれど、兄様並みに表情を強張らせているのを見て、皆が自然と目を逸らす。でも、中には大量の虫が詰まっていて、しかも、いつそれが溢れ出るかも分からない。想像しただけで背筋が寒くなるような代物を、王女に持たせるわけにはいかない。そう判断したのだろう、護衛であるエリオットとダリウスが、どちらが持つかを目線だけでやり取りを始めた。
だが、自ら進んで持ちたいと思える者など、いるはずがない。嫌悪感を滲ませた視線が行き交うばかりで、いつまで経っても決まらない。そんな様子を見かねて、父様が口を開いた。
「……そんな物、本人に持たせるのが一番だろう」
王女達も躊躇いはあるようだったが、自分が持つとは言えず、結局それに対して特に反対意見は出なかった。その結果、虫に対して特別な嫌悪感を持っていない精霊王が、半ば押し付けられる形で持つことになった。
「しかし、そんなに離れて行かんでもよいのではないかのう……?」
宝物庫からそうだったけど、着いたそばからも。皆が距離を取るものだから、精霊王はどこか寂しげな声を上げた。
けれど、誰一人として近付こうとしない。持っている物が物だけに、精霊王とお近づきになりたいと思っているルークスの面々も足を止めたままだ。
「そんなに嫌わんでも良いと思うんじゃがのう」
そこまで嫌悪感を示すものかと、精霊王は不満げに呟く。けれど、数が数だけに、虫好きのバルドでさえ、ほんの少しだけ後ずさりしていた。その横で、グレイはどこか面白がるように様子を眺め、キールは露骨に荷物持ちを避けるように立っている。そんな二人に、僕は気になったことを聞いた。
「ねぇ? 精霊は、みんな虫が好きだったりするの?」
「好きなわけではない。ただ、森に暮らしていれば、そこら中で目にするからな」
「えぇ。ですから、いちいち気にしていられません」
「……よく生活できるな」
兄様の本音が思わず漏れ、二人を信じられないものを見る目で見ていた。けれど、彼らにとっては、そこまで虫を気にする僕達の方が不思議な存在らしかった。
同じ場所にいても、認識や感情だけが噛み合っていない。そんな僕達の空気を切るように、父様が本題に入った。
「それで、その封印は簡単に解けるのか?」
「もう解けかけておるからのう。強い衝撃を与えれば、この辺り一帯を埋め尽くすほど出てくるじゃろうのう」
軽い口調だったけれど、その言葉に僕は思わず身震いした。あの広い宝物庫から溢れると聞いてはいたが、荒野を埋め尽くすほどの数だとは想像していなかった。それは皆も同じなようで、その光景を思い浮かべたように表情が歪む。兄様は顔色を悪くし、さらに一歩、距離を取った。その時、ダリウスが口を開いた。
「……我が国の事情で、お前達に頼るのは心苦しいが、封印ごとお前達の魔法で倒すことはできないのか?」
被害を最小限に抑えたいという、そんな思いが滲む提案だったが、精霊王は迷いなく首を振った。
「無理じゃな。封印は解けるかもしれんが、同時に出てくる子供らが邪魔で、大元までは届かんじゃろう。それに、殻も無駄に硬くてのう。あれを破るなら、至近距離で叩くしかないじゃろう」
その言葉で、”面倒だから封印した”という意味が、ようやく腑に落ちた。そして、それを聞いた父様は小さく顔を歪め、静かに言葉を落とす。
「……ならば、中心部へ切り込む者が必要か」
危険を伴う役目なため、務まる者は限られている。
「では、我らが行こう」
先ほどは父様達に頼るようなことを言っていたが、自分達の国は自分達で守ると言わんばかりに、エリオットと共に一歩踏み出す。だが、その声は即座に切り捨てられた。
「魔法もろくに使えぬ者が行って、本当に辿り着けると思うのか?」
その問いかけは、まるで無数に襲いかかる相手に、剣一本で立ち向かえるほどの腕があるのかと、突き付けるようだった。
「そんなことができる者を、私は一人しか知らん」
視線を横にいるベルンハルト様へと向けながら、父様は淡々と言い切る。その声には、一切の情けがなかった。
「ぐっ……!」
人が相手なら、戦略で力の差を埋めることもできただろうけど、今回の相手は無数に押し寄せる虫だ。多勢に無勢であり、力量が足りていない現実を誰よりも本人が理解しているのか、相手は悔しげに言葉を詰まらせる。
「……我らが行くしかないな」
自分達しか適任者がいないと言わんばかりに、嫌々ながら父様が呟くと、その言葉に、今度は向こうからすぐさま反論が飛んだ。
「しかし、それでは……!」
「責任感があるのは結構だが、無駄に命を捨てるな」
「全くだ。子供の前でそんな自己犠牲を見せられても迷惑だ」
言い募ろうとする言葉を、またもや父様達は容赦なく切り捨てる。でも、僕としても、目の前で誰かが死ぬのを見るのは嫌だった。
向こうもその心情が理解できるため、僕達の方へと軽く視線を向け、唇を噛む。どうやら、納得できる部分があるせいで、かえって言葉に詰まっているようだった。それでも完全には割り切れず、反論できる言葉を探していた。けれど、それよりも先に、父様が口を開いた。
「それに、貴様ら二人よりも、私の方が強い」
傲慢にも聞こえる言葉なのに、その力強い声には、不思議と安心感があった。向こうは少し呆気に取られていたが、その背中に、兄様が静かに声を掛ける。
「父上。後ろはお任せください」
静かに告げた兄様の声は、まるで死地へ向かう人を見送るようだった。普段なら付いて行くと言いそうな兄様だが、今回は後方支援に徹するつもりらしい。でも、兄様の事情を知っている父様は、何も言わず、ただ静かに頷いた。その時、張り詰めた空気を壊すように、呑気な声が上がる。
「話がまとまったのなら、もう壊していいかのう?」
「待て」
準備が終わっていない段階で壊そうとしたため、父様が制止の言葉を掛ければ、精霊王はまるでわがままな子供を見るような視線を向け、ぼやいた。
「速くと言ったり、待てと言ったり……」
「黙れ」
父様から短く遮られれば、精霊王は少し拗ねたような顔をするけれど、相手にする暇もないとばかりに話を進める。
「それで、どれくらいが適任だと思う?」
「そうだな。一度に溢れ出る量が定かではないが、内包量を考えれば、距離が近過ぎると視界が遮られる可能性がある」
「多少面倒だが、やはり、ある程度の距離を空けた方が無難か」
「あぁ。服の中にでも入られては面倒だからな」
「……嫌な想像をさせるな」
ベルンハルト様は懸念事項の一つとして挙げただけだったのだろうが、溢れ出たムカデが身体を這い回る光景を想像してしまったのか、父様は心底嫌そうな顔で睨んでいた。そして、そのような事態を避けるためか、父様は静かに提案を口にする。
「ある程度、離れた場所までカルロに運ばせてから、封印を破壊した方が良さそうだな」
父様がそう口にすると、それに同意するように、ベルンハルト様も静かに頷いた。父様達の方針が決まると、残った者達の役割分担も自然と定まっていく。
元凶を退治しに行く父様達と、そこから溢れ出るムカデの子供らを、周囲に影響が出ないよう逃さずに殲滅する兄様やエリオット達。そう分かれたが、バルドは守られるだけの立場が不満らしく、自分も何かしらで参加したいと名乗り出た。しかし、その場でベルンハルト様に窘められていた。
「お前らは、もう向こうに行かなくて良いのか?」
不測の事態に備えて確認をしている面々に視線を向けながら、まだ納得しきれない様子のバルドが、側にいるキール達へ問いかける。返ってきたのは、淡々とした声だった。
「いざという時、お前らを転移で連れて帰るだけの仕事だからな」
キールやグレイは、面倒くさがって協力しないかもしれないと思っていた。けれど、自分達の主が起こした後始末である以上、仕方ないといった様子で、戦えない僕達や王女の護衛役を引き受けてくれるようだった。
「でも、父様達を置いて行くのは、やっぱり……」
僕達に、一度決まったことに口を挟む権利はない。けれど、物事を優先順位で割り切れる王女と違い、僕にはどうしても抵抗があった。すると、すでに役目を終えたかのように佇んでいた精霊王が、呑気に口を開く。
「こういうのは、何事も役割じゃて」
後はカルロが石を運ぶだけなこともあり、呑気な口調で言うけれど、そんなふうに言われると、素直に納得できなかった。でも、僕達が話しているうちに、向こうの話し合いが終わったのか、父様達が召喚陣を展開し始める。次々と召喚獣が姿を現すと、皆の視線が自然とそちらへ集まった。
「……凄い……」
最初に目を奪われるのは、兄様の二頭の龍。紅龍と青龍だった。鱗が光を反射して煌めき、王女が思わず息を呑むが、その間にも、ベルンハルト様の銀狼の優美な姿にも視線が移る。父様はその隙に、自身の召喚獣であるカルロへ静かに指示を出していた。
(父様が戦うところ……見たことないな)
その背中を見つめながら、ふと思う。強いと聞いて知ってはいるが、普段の穏やかな印象からは、戦う姿がどうしても想像できなかった。その時、兄様がこちらを向く。
「そちらまで敵を行かせるつもりはないが、リュカ達のことはしっかり守れ」
虫が苦手な兄様は、無理に前へ出なくて良いと思うが、弱さを見せたくないというように、毅然とした態度をとっていた。そんな兄様が、信用していないと言わんばかりに、キール達へ釘を刺せば、キールは鼻で笑った。
「コイツは、仮にもあの方の契約者だからな。守らない訳がないだろう」
「えっ……? それは、どういう……?」
キールの言葉に、王女が何か言いかけた。だが、その瞬間、何の前触れも合図もなく、父様が石を壊してしまった。
キールの転移で、王女が指定した場所へと飛ぶけれど、初めて体験したルークスの面々は、驚きと感動が入り混じった表情を浮かべていた。空間が歪み、視界が一瞬で切り替わる。その光景や体験に、誰もが言葉を失っていた。けれど王女は、すぐにその感情に蓋をし、為政者としての顔を取り戻すと、周囲を見渡しながら、静かに振り返る。
「……ここでは、どうでしょうか?」
王女の声で、エリオット達も自分の役目を思い出したように表情を引き締める。そして、父様達も周囲を警戒するように、視線を巡らせた。確かに、見渡す限り何もなく、多少暴れたとしても、誰かに迷惑を掛けるような場所ではない。
「そうだな」
父様も問題はなかったようで、短く答えて頷いた。その瞬間、ふと疑問の声が上がる。
「それにしても、なぜワシが持っておるのじゃ?」
「自分で封印した物なら、自分で持て」
精霊王の言葉を、父様は容赦なく切り捨てた。あまりにも当然のような言い方だったが、誰もそれに反論しない。
最初は宝物庫の品ということで、王女に視線が集まった。けれど、兄様並みに表情を強張らせているのを見て、皆が自然と目を逸らす。でも、中には大量の虫が詰まっていて、しかも、いつそれが溢れ出るかも分からない。想像しただけで背筋が寒くなるような代物を、王女に持たせるわけにはいかない。そう判断したのだろう、護衛であるエリオットとダリウスが、どちらが持つかを目線だけでやり取りを始めた。
だが、自ら進んで持ちたいと思える者など、いるはずがない。嫌悪感を滲ませた視線が行き交うばかりで、いつまで経っても決まらない。そんな様子を見かねて、父様が口を開いた。
「……そんな物、本人に持たせるのが一番だろう」
王女達も躊躇いはあるようだったが、自分が持つとは言えず、結局それに対して特に反対意見は出なかった。その結果、虫に対して特別な嫌悪感を持っていない精霊王が、半ば押し付けられる形で持つことになった。
「しかし、そんなに離れて行かんでもよいのではないかのう……?」
宝物庫からそうだったけど、着いたそばからも。皆が距離を取るものだから、精霊王はどこか寂しげな声を上げた。
けれど、誰一人として近付こうとしない。持っている物が物だけに、精霊王とお近づきになりたいと思っているルークスの面々も足を止めたままだ。
「そんなに嫌わんでも良いと思うんじゃがのう」
そこまで嫌悪感を示すものかと、精霊王は不満げに呟く。けれど、数が数だけに、虫好きのバルドでさえ、ほんの少しだけ後ずさりしていた。その横で、グレイはどこか面白がるように様子を眺め、キールは露骨に荷物持ちを避けるように立っている。そんな二人に、僕は気になったことを聞いた。
「ねぇ? 精霊は、みんな虫が好きだったりするの?」
「好きなわけではない。ただ、森に暮らしていれば、そこら中で目にするからな」
「えぇ。ですから、いちいち気にしていられません」
「……よく生活できるな」
兄様の本音が思わず漏れ、二人を信じられないものを見る目で見ていた。けれど、彼らにとっては、そこまで虫を気にする僕達の方が不思議な存在らしかった。
同じ場所にいても、認識や感情だけが噛み合っていない。そんな僕達の空気を切るように、父様が本題に入った。
「それで、その封印は簡単に解けるのか?」
「もう解けかけておるからのう。強い衝撃を与えれば、この辺り一帯を埋め尽くすほど出てくるじゃろうのう」
軽い口調だったけれど、その言葉に僕は思わず身震いした。あの広い宝物庫から溢れると聞いてはいたが、荒野を埋め尽くすほどの数だとは想像していなかった。それは皆も同じなようで、その光景を思い浮かべたように表情が歪む。兄様は顔色を悪くし、さらに一歩、距離を取った。その時、ダリウスが口を開いた。
「……我が国の事情で、お前達に頼るのは心苦しいが、封印ごとお前達の魔法で倒すことはできないのか?」
被害を最小限に抑えたいという、そんな思いが滲む提案だったが、精霊王は迷いなく首を振った。
「無理じゃな。封印は解けるかもしれんが、同時に出てくる子供らが邪魔で、大元までは届かんじゃろう。それに、殻も無駄に硬くてのう。あれを破るなら、至近距離で叩くしかないじゃろう」
その言葉で、”面倒だから封印した”という意味が、ようやく腑に落ちた。そして、それを聞いた父様は小さく顔を歪め、静かに言葉を落とす。
「……ならば、中心部へ切り込む者が必要か」
危険を伴う役目なため、務まる者は限られている。
「では、我らが行こう」
先ほどは父様達に頼るようなことを言っていたが、自分達の国は自分達で守ると言わんばかりに、エリオットと共に一歩踏み出す。だが、その声は即座に切り捨てられた。
「魔法もろくに使えぬ者が行って、本当に辿り着けると思うのか?」
その問いかけは、まるで無数に襲いかかる相手に、剣一本で立ち向かえるほどの腕があるのかと、突き付けるようだった。
「そんなことができる者を、私は一人しか知らん」
視線を横にいるベルンハルト様へと向けながら、父様は淡々と言い切る。その声には、一切の情けがなかった。
「ぐっ……!」
人が相手なら、戦略で力の差を埋めることもできただろうけど、今回の相手は無数に押し寄せる虫だ。多勢に無勢であり、力量が足りていない現実を誰よりも本人が理解しているのか、相手は悔しげに言葉を詰まらせる。
「……我らが行くしかないな」
自分達しか適任者がいないと言わんばかりに、嫌々ながら父様が呟くと、その言葉に、今度は向こうからすぐさま反論が飛んだ。
「しかし、それでは……!」
「責任感があるのは結構だが、無駄に命を捨てるな」
「全くだ。子供の前でそんな自己犠牲を見せられても迷惑だ」
言い募ろうとする言葉を、またもや父様達は容赦なく切り捨てる。でも、僕としても、目の前で誰かが死ぬのを見るのは嫌だった。
向こうもその心情が理解できるため、僕達の方へと軽く視線を向け、唇を噛む。どうやら、納得できる部分があるせいで、かえって言葉に詰まっているようだった。それでも完全には割り切れず、反論できる言葉を探していた。けれど、それよりも先に、父様が口を開いた。
「それに、貴様ら二人よりも、私の方が強い」
傲慢にも聞こえる言葉なのに、その力強い声には、不思議と安心感があった。向こうは少し呆気に取られていたが、その背中に、兄様が静かに声を掛ける。
「父上。後ろはお任せください」
静かに告げた兄様の声は、まるで死地へ向かう人を見送るようだった。普段なら付いて行くと言いそうな兄様だが、今回は後方支援に徹するつもりらしい。でも、兄様の事情を知っている父様は、何も言わず、ただ静かに頷いた。その時、張り詰めた空気を壊すように、呑気な声が上がる。
「話がまとまったのなら、もう壊していいかのう?」
「待て」
準備が終わっていない段階で壊そうとしたため、父様が制止の言葉を掛ければ、精霊王はまるでわがままな子供を見るような視線を向け、ぼやいた。
「速くと言ったり、待てと言ったり……」
「黙れ」
父様から短く遮られれば、精霊王は少し拗ねたような顔をするけれど、相手にする暇もないとばかりに話を進める。
「それで、どれくらいが適任だと思う?」
「そうだな。一度に溢れ出る量が定かではないが、内包量を考えれば、距離が近過ぎると視界が遮られる可能性がある」
「多少面倒だが、やはり、ある程度の距離を空けた方が無難か」
「あぁ。服の中にでも入られては面倒だからな」
「……嫌な想像をさせるな」
ベルンハルト様は懸念事項の一つとして挙げただけだったのだろうが、溢れ出たムカデが身体を這い回る光景を想像してしまったのか、父様は心底嫌そうな顔で睨んでいた。そして、そのような事態を避けるためか、父様は静かに提案を口にする。
「ある程度、離れた場所までカルロに運ばせてから、封印を破壊した方が良さそうだな」
父様がそう口にすると、それに同意するように、ベルンハルト様も静かに頷いた。父様達の方針が決まると、残った者達の役割分担も自然と定まっていく。
元凶を退治しに行く父様達と、そこから溢れ出るムカデの子供らを、周囲に影響が出ないよう逃さずに殲滅する兄様やエリオット達。そう分かれたが、バルドは守られるだけの立場が不満らしく、自分も何かしらで参加したいと名乗り出た。しかし、その場でベルンハルト様に窘められていた。
「お前らは、もう向こうに行かなくて良いのか?」
不測の事態に備えて確認をしている面々に視線を向けながら、まだ納得しきれない様子のバルドが、側にいるキール達へ問いかける。返ってきたのは、淡々とした声だった。
「いざという時、お前らを転移で連れて帰るだけの仕事だからな」
キールやグレイは、面倒くさがって協力しないかもしれないと思っていた。けれど、自分達の主が起こした後始末である以上、仕方ないといった様子で、戦えない僕達や王女の護衛役を引き受けてくれるようだった。
「でも、父様達を置いて行くのは、やっぱり……」
僕達に、一度決まったことに口を挟む権利はない。けれど、物事を優先順位で割り切れる王女と違い、僕にはどうしても抵抗があった。すると、すでに役目を終えたかのように佇んでいた精霊王が、呑気に口を開く。
「こういうのは、何事も役割じゃて」
後はカルロが石を運ぶだけなこともあり、呑気な口調で言うけれど、そんなふうに言われると、素直に納得できなかった。でも、僕達が話しているうちに、向こうの話し合いが終わったのか、父様達が召喚陣を展開し始める。次々と召喚獣が姿を現すと、皆の視線が自然とそちらへ集まった。
「……凄い……」
最初に目を奪われるのは、兄様の二頭の龍。紅龍と青龍だった。鱗が光を反射して煌めき、王女が思わず息を呑むが、その間にも、ベルンハルト様の銀狼の優美な姿にも視線が移る。父様はその隙に、自身の召喚獣であるカルロへ静かに指示を出していた。
(父様が戦うところ……見たことないな)
その背中を見つめながら、ふと思う。強いと聞いて知ってはいるが、普段の穏やかな印象からは、戦う姿がどうしても想像できなかった。その時、兄様がこちらを向く。
「そちらまで敵を行かせるつもりはないが、リュカ達のことはしっかり守れ」
虫が苦手な兄様は、無理に前へ出なくて良いと思うが、弱さを見せたくないというように、毅然とした態度をとっていた。そんな兄様が、信用していないと言わんばかりに、キール達へ釘を刺せば、キールは鼻で笑った。
「コイツは、仮にもあの方の契約者だからな。守らない訳がないだろう」
「えっ……? それは、どういう……?」
キールの言葉に、王女が何か言いかけた。だが、その瞬間、何の前触れも合図もなく、父様が石を壊してしまった。
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『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。
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