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一章
番外編 無茶な要求(レクス視点)
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「国王陛下お願いしたい事があります」
「却下」
目の前の男が口を開く前に、即座に却下した。何を言いに来たのかなど、聞かずとも分かる。どうせ、休暇の要求だ。念のため「どれくらい欲しい」と聞けば、案の定、ふざけたように二週間などと言い出した。
「さっさと仕事をしろ!」
「常に四、五人分の仕事を回され、それを毎日こなしているが?」
「うっ……」
その一点を突かれると弱い。
アルノルドに過剰な負担を掛けている自覚は私にもある。だが、だからこそ、そんな優秀な奴に長期間休まれてもらっては困る。だが、普段からの労いを兼ねて、休みを与えたいとも思ってしまう。
(しかし、二週間は長すぎる…)
「もう少し短くならないか?年明けくらいになれば、二、三日ほどなら何とかなるかもしれん……」
新年祭を目前に控えたこの時期は、食材の確保から警備の配置、各貴族への根回しまで、山のような仕事がある。しかし、その新年祭さえ終われば、山場は超えるため、私と部下達だけでも、どうにかなるだろう。そう思い提案したのだが、それをあっさり却下された。
「無理だな。この付近は、あまり雪が降らない」
「……そんなもの邪魔なだけだろう」
「リュカが遊びたいと言ったのだ。ならば、叶えてやりたい」
(……この男は、どうしてこうなのか)
仕事では右に出る者などいないほどの切れ者で、冷静沈着。どれほどの難題でも最短で解決に導くくせに、家族の話となった途端に、その思考がどこかへ吹き飛ぶ。“家族第一”と言えば聞こえは良いが、こうも露骨に優先順位をひっくり返されると、こちらとしては頭を抱えたくなる。
学院時代は、こんなではなかった。私は、アルノルドと初めて出会った日のことを、ふと思い返していた。
私は第1王位継承者で生まれたが、母親の爵位は高くなく、アルノルドの父、あの男からは散々嫌味を言われていた。ゆえに、その息子にも期待はしていなかった。
遠目で見た無表情、他者を寄せ付けない雰囲気。「間違いなく父親と同類だ」と、ずっと思っていた。だからこそ、能力があったとしても、あまり関わりを持つつもりはなかった。だが、アルノルド本人が“側近役を希望している”と聞かされ、強制的に顔合わせの場が設けられた。
あの男、父上から散々嫌味を言われつつ部屋へ向かうと、既にアルノルドは席に着いて待っていた。しかし、腕を組み、私が入っても目を閉じたまま、こちらを見ようともしない。
(……失礼にも程がある)
その頃は、学院に入る前ということもあり、お互いまだ幼さの残る年頃だったが、目の前に座る少年は、隣に立つ父親よりもよほど落ち着いた雰囲気を漂わせていた。だが、それでも胸の奥に苛立ちがゆっくりと積もっていく。
その時、アルノルドがゆっくりと立ち上がり、横にいる男へと声を掛けた。
「父上は、ご遠慮願えますか。この者とは、二人で話がしたいので」
まるで私の存在など取るに足らないと言わんばかりに、私を無視して淡々と告げる。父親の方も、息子を信頼しているのか、それとも私を軽んじているのか、あっさりと部屋を後にした。
「座れ」
扉が閉まるなり、アルノルドがこちらに向けて言い放つ。仮にも王族である私に、よくも命令口調で言えたものだと怒気が込み上げるが、それでも私は椅子へと腰を下ろした。
「君が、私の側近を希望するとはねぇ?私はたしかに継承権は高いけど、血筋はあんまり褒められたものじゃないよ?そんな私の側近なんて、やめといた方が賢いと思うんだけどなぁ~?」
わざとらしく肩をすくめながら笑って見せる。もちろん、本気で言っているわけではなく、軽く揺さぶってやろうとしただけだ。だがアルノルドは、微動だにせずに言い放った。
「血筋が良くとも、あの男のような無能の下に付くのは願い下げだ。だが、お前は王族の中では比較的有能そうだったのでな。側近を希望することにした」
淡々と動機を語りながら、あの男への容赦のない物言いを放つ奴に、私は思わず心の中で吹き出しそうになった。
(自分の息子にまで“無能”と思われているなんて……滑稽だねぇ…)
少し愉快な気分になった私は、ほんの僅かだけ素を滲ませながら問いかけた。
「理由は分かったけど、君を採用して、私に何か得があるのかな?」
「私はアレとは違って優秀だ。そんな私がお前のために働くなら、それだけで十分な利益だろう。だから、私もお前の持つ王族の権威を利用させてもらう。これは、お互いの損もなく、利害が一致する契約だ」
謙遜という概念が存在しないかのような堂々たる言いぶり。私はとうとう堪えきれず、声に出さずに笑ってしまった。
ここ数か月だけでも、“父親とは違い優秀だ”という噂は耳にしていたが、まさかここまで面白い奴だとは思わなかった。
(契約を正面切って宣言してくるとはね……)
普通は互いに腹を探りながら、慎重に妥協点を探るものだ。だがアルノルドには、断られる可能性など微塵も考えていないような、絶対的強者の余裕があった。そして、そのまっすぐな物言いが、影の思惑ばかり見せる大人たちに辟易していた私には、妙に心地よかった。
「いいだろう。私にも損はないようだしね」
「契約成立だ」
静かに、アルノルドが言い放つ。
そうして交わした契約ではあったが、あの頃は、まさか今のような “家族バカ” になるとは夢にも思っていなかった。けれど、あの頃の無機質さよりも、今のように家族を想って暴走ぎみになるくらいのアルの方が、たとえ多少苦労を掛けられようとも、ずっと良いと、私は思ってしまうのだ。
「とにかく、2週間は無理だ。休暇が欲しいなら仕事を終わらせろ」
「ちっ……」
部屋を後にする際、アルノルドはあからさまに舌打ちして出て行きやがった。
(……おい、その態度で、私から休暇が貰えると思うなよ)
「陛下、結局どうなさるおつもりですか?」
隣で補佐をしていた秘書が、控えめに問いかけてくる。
「アルには長期休暇をやりたいが……今の時期はさすがにな。もう少し後になれば落ち着くんだがな……」
新年祭が終わっても、学院の入学・卒業に合わせて王都に残る家族達が、毎年のように余計な問題を引き起こす。その後処理のせいで、通常業務を圧迫して手が足りなくなるのだ。
(まぁ子供は外を知らないのは仕方ない。それに、気持ちは分からなくはないが、あれはもう親の問題だ。甘やかすなと言いたい)
自領で通用していた常識が王都でも通じるわけがない。そんな単純なことすら分からないのかと、胸の内で毒づきながらも、どうにかアルに休みを取らせられないかと、やはり考えてしまう。
「一応、アルが休んでも問題なさそうな日程がないか、お前の方でも確認してくれ」
「……あるでしょうか?」
「アルなら、休暇欲しさに今の倍の速度で仕事をするだろう。それに、私達も気合いを入れて働けば、何とかなる」
昔のことを思い出しながらも、アルが休暇を取れるよう、我々が休憩を削って働いてやっていた時だった。
「レクス、少し聞きたいことが…」
「なぜここにいる!!!」
仕事をしていると思っていた相手が、まさか堂々と出歩いているとは思わず、思わず声を荒げてしまった。
その後、こちらが情報提供と、アルが休んでいる間の仕事を肩代わりすることを条件に、「私が抱えている今の仕事を手伝え」と言ったのだが、アルノルドが持っていった書類は、机に積んでいた量の 四分の一 だけだった。
(出歩く余裕があるなら、せめて半分は持って行け!!!)
もちろん、彼自身も複数の難解な案件を抱えているのは知っている。それでも、片手で軽く抱えただけ量しか持たない余裕そうな背中を見ると、つい心の中で毒づかずにはいられなかった。
「却下」
目の前の男が口を開く前に、即座に却下した。何を言いに来たのかなど、聞かずとも分かる。どうせ、休暇の要求だ。念のため「どれくらい欲しい」と聞けば、案の定、ふざけたように二週間などと言い出した。
「さっさと仕事をしろ!」
「常に四、五人分の仕事を回され、それを毎日こなしているが?」
「うっ……」
その一点を突かれると弱い。
アルノルドに過剰な負担を掛けている自覚は私にもある。だが、だからこそ、そんな優秀な奴に長期間休まれてもらっては困る。だが、普段からの労いを兼ねて、休みを与えたいとも思ってしまう。
(しかし、二週間は長すぎる…)
「もう少し短くならないか?年明けくらいになれば、二、三日ほどなら何とかなるかもしれん……」
新年祭を目前に控えたこの時期は、食材の確保から警備の配置、各貴族への根回しまで、山のような仕事がある。しかし、その新年祭さえ終われば、山場は超えるため、私と部下達だけでも、どうにかなるだろう。そう思い提案したのだが、それをあっさり却下された。
「無理だな。この付近は、あまり雪が降らない」
「……そんなもの邪魔なだけだろう」
「リュカが遊びたいと言ったのだ。ならば、叶えてやりたい」
(……この男は、どうしてこうなのか)
仕事では右に出る者などいないほどの切れ者で、冷静沈着。どれほどの難題でも最短で解決に導くくせに、家族の話となった途端に、その思考がどこかへ吹き飛ぶ。“家族第一”と言えば聞こえは良いが、こうも露骨に優先順位をひっくり返されると、こちらとしては頭を抱えたくなる。
学院時代は、こんなではなかった。私は、アルノルドと初めて出会った日のことを、ふと思い返していた。
私は第1王位継承者で生まれたが、母親の爵位は高くなく、アルノルドの父、あの男からは散々嫌味を言われていた。ゆえに、その息子にも期待はしていなかった。
遠目で見た無表情、他者を寄せ付けない雰囲気。「間違いなく父親と同類だ」と、ずっと思っていた。だからこそ、能力があったとしても、あまり関わりを持つつもりはなかった。だが、アルノルド本人が“側近役を希望している”と聞かされ、強制的に顔合わせの場が設けられた。
あの男、父上から散々嫌味を言われつつ部屋へ向かうと、既にアルノルドは席に着いて待っていた。しかし、腕を組み、私が入っても目を閉じたまま、こちらを見ようともしない。
(……失礼にも程がある)
その頃は、学院に入る前ということもあり、お互いまだ幼さの残る年頃だったが、目の前に座る少年は、隣に立つ父親よりもよほど落ち着いた雰囲気を漂わせていた。だが、それでも胸の奥に苛立ちがゆっくりと積もっていく。
その時、アルノルドがゆっくりと立ち上がり、横にいる男へと声を掛けた。
「父上は、ご遠慮願えますか。この者とは、二人で話がしたいので」
まるで私の存在など取るに足らないと言わんばかりに、私を無視して淡々と告げる。父親の方も、息子を信頼しているのか、それとも私を軽んじているのか、あっさりと部屋を後にした。
「座れ」
扉が閉まるなり、アルノルドがこちらに向けて言い放つ。仮にも王族である私に、よくも命令口調で言えたものだと怒気が込み上げるが、それでも私は椅子へと腰を下ろした。
「君が、私の側近を希望するとはねぇ?私はたしかに継承権は高いけど、血筋はあんまり褒められたものじゃないよ?そんな私の側近なんて、やめといた方が賢いと思うんだけどなぁ~?」
わざとらしく肩をすくめながら笑って見せる。もちろん、本気で言っているわけではなく、軽く揺さぶってやろうとしただけだ。だがアルノルドは、微動だにせずに言い放った。
「血筋が良くとも、あの男のような無能の下に付くのは願い下げだ。だが、お前は王族の中では比較的有能そうだったのでな。側近を希望することにした」
淡々と動機を語りながら、あの男への容赦のない物言いを放つ奴に、私は思わず心の中で吹き出しそうになった。
(自分の息子にまで“無能”と思われているなんて……滑稽だねぇ…)
少し愉快な気分になった私は、ほんの僅かだけ素を滲ませながら問いかけた。
「理由は分かったけど、君を採用して、私に何か得があるのかな?」
「私はアレとは違って優秀だ。そんな私がお前のために働くなら、それだけで十分な利益だろう。だから、私もお前の持つ王族の権威を利用させてもらう。これは、お互いの損もなく、利害が一致する契約だ」
謙遜という概念が存在しないかのような堂々たる言いぶり。私はとうとう堪えきれず、声に出さずに笑ってしまった。
ここ数か月だけでも、“父親とは違い優秀だ”という噂は耳にしていたが、まさかここまで面白い奴だとは思わなかった。
(契約を正面切って宣言してくるとはね……)
普通は互いに腹を探りながら、慎重に妥協点を探るものだ。だがアルノルドには、断られる可能性など微塵も考えていないような、絶対的強者の余裕があった。そして、そのまっすぐな物言いが、影の思惑ばかり見せる大人たちに辟易していた私には、妙に心地よかった。
「いいだろう。私にも損はないようだしね」
「契約成立だ」
静かに、アルノルドが言い放つ。
そうして交わした契約ではあったが、あの頃は、まさか今のような “家族バカ” になるとは夢にも思っていなかった。けれど、あの頃の無機質さよりも、今のように家族を想って暴走ぎみになるくらいのアルの方が、たとえ多少苦労を掛けられようとも、ずっと良いと、私は思ってしまうのだ。
「とにかく、2週間は無理だ。休暇が欲しいなら仕事を終わらせろ」
「ちっ……」
部屋を後にする際、アルノルドはあからさまに舌打ちして出て行きやがった。
(……おい、その態度で、私から休暇が貰えると思うなよ)
「陛下、結局どうなさるおつもりですか?」
隣で補佐をしていた秘書が、控えめに問いかけてくる。
「アルには長期休暇をやりたいが……今の時期はさすがにな。もう少し後になれば落ち着くんだがな……」
新年祭が終わっても、学院の入学・卒業に合わせて王都に残る家族達が、毎年のように余計な問題を引き起こす。その後処理のせいで、通常業務を圧迫して手が足りなくなるのだ。
(まぁ子供は外を知らないのは仕方ない。それに、気持ちは分からなくはないが、あれはもう親の問題だ。甘やかすなと言いたい)
自領で通用していた常識が王都でも通じるわけがない。そんな単純なことすら分からないのかと、胸の内で毒づきながらも、どうにかアルに休みを取らせられないかと、やはり考えてしまう。
「一応、アルが休んでも問題なさそうな日程がないか、お前の方でも確認してくれ」
「……あるでしょうか?」
「アルなら、休暇欲しさに今の倍の速度で仕事をするだろう。それに、私達も気合いを入れて働けば、何とかなる」
昔のことを思い出しながらも、アルが休暇を取れるよう、我々が休憩を削って働いてやっていた時だった。
「レクス、少し聞きたいことが…」
「なぜここにいる!!!」
仕事をしていると思っていた相手が、まさか堂々と出歩いているとは思わず、思わず声を荒げてしまった。
その後、こちらが情報提供と、アルが休んでいる間の仕事を肩代わりすることを条件に、「私が抱えている今の仕事を手伝え」と言ったのだが、アルノルドが持っていった書類は、机に積んでいた量の 四分の一 だけだった。
(出歩く余裕があるなら、せめて半分は持って行け!!!)
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