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五章
それは当然に
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たまには兄様と一緒に過ごそうと思って、兄様の仕事時間の合間にある休憩時間を一緒に過ごしていると、執務室の扉をノックの音が響き、まだ城にいるはずの父様が部屋へと入って来た。
「メイドの報告通り、まだ一緒にいてくれて良かった」
「父様?もしかして、今日も途中で抜けて来たの?」
「……」
安堵の表情を浮かべる父様に、僕がのんびりとした様子で問い掛けると、僕の横で兄様は、悪い見本でも見るような責める視線を父様へと向けていた。父様が日中に帰って来るのが珍しくないだけに、そこは不思議ではないけれど、今日は何処か違ったように見える。
「いや、今回は少し違ってね。大事な話があったから戻って来たんだ。今、エレナも呼びに行って貰っているから、もうすぐ此処に来ると思うよ」
父様がそう言い終えると、呼ばれていた母様もちょうどやって来たのか、ノックする音が部屋に響いた。
「アル。大事な話しがあるって聞いたけれど、何かあったの?」
「少し長くなりそうだから、その話しは座りながらしようか」
父様は執務室に置いてあるソファーを母様へと進めながら、自身も空いている椅子へと座ると、何時もより真面目そうな様子で、冗談めいた事を提案して来た。
「皆には急ですまないが、明日から暫く、王都から離れた場所に、旅行に行って来て貰えないかな?」
「えっ?でも、明日は学院は休みじゃないよ?それに、父様達だって仕事があるでしょう?」
旅行に行くのは楽しそうだけれど、あまりに急な話しなうえ、夏休みまで少し速い。それに、遠出の旅行をする前は、何時も大量の仕事を終わらせようと、兄様達も忙しそうにしているはずなのに、そんな素振りは全くなかった。
父様の予想だにしない提案に、母様も困惑を隠せないようだった。そんな僕達の様子に、父様の方も少し困ったような様子を見せながら、サラリと耳を疑うような事を言った。
「実は、とある事件の容疑者として、もうすぐ捕まりそうでね。それで、屋敷内とかも調べられるかもしれないんだ。だから、その調査が落ち着くまで、みんなは王都から離れた方が良いかと思ってね」
「父上。随分と大きな失態を演じられたのですね」
驚き過ぎて声を失っている僕の横で、父様からの不穏な発言を聞いても、動じた様子や驚いた様子もなく、さも当然のような顔をして言う兄様に僕は驚きの視線を向ける。だけど、父様の方も、まるで天気の話しでもしているように返していた。
「相手方の動きを少し読み違えてしまってな。私も、まさか今頃になって噛み付いてくるとは思ってなくてね」
「多方面から恨みを買った結果です」
「私としては、十分に保証もしているから、何も悪い事などしてないつもりなのだけどね?」
「本当に…何もしてないのね…?」
普段と変わらない様子で会話する父様達の話しに、母様は何処か疑うような様子で問い掛ける。どうやら、父様の何もしていないと言う発言を、母様は信じられないようだった。
父様は嘘は付かないと僕は思っていたから、兄様と会話している調子のまま答えるかと思えば、父様はそこで顔を少し崩して気まず気に視線を反らした。
「何も……しているかな…?」
「……アル?」
前に嘘を付かないと約束しているからか、母様の問い掛けに正直に答えた父様だったけど、母様に地を這うような声で呼ばれると、途端に慌てた様子で言い訳地味た言葉を口にする。
「いや!今回私が疑われている事は、本当に事実無根で私には全く関係がないんだ!」
「じゃあ、何で疑われているの?」
父様からの説明を聞いても、母様の声は冷たい声のままで、怒っている時の母様が、やっぱり一番怖い。その証拠に、さっきまで父様と話していた兄様さえも、巻き添えを恐れて口を噤んでいる。
「最近になって、街で召喚獣が失踪している事件が起きているんだが、その容疑が私に向けれられてしまっていてね…」
「それで?どうしてアルが疑われるの?」
「森の主を無断で王都まで連れて来たのが、どうやら周囲に知られてしまったようなんだが、その過程で色々と書類偽装とかしてるたのも知られてしまってね。それもあって、私が容疑者として疑われているようなんだよ」
バルドから聞いて知っていたけれど、その話しが出てくるとは思わなかった。それに、母様への恐怖である意味落ち着いて来た所だったけれど、僕の中に動揺が走る。そんな僕の不安を察してか、兄様が僕の変わりに今の状況に付いて問い掛けた。
「ですが、屋敷内の調査などは、十分な証拠がない限りあまり行われないはずでは?」
「本来はそうなんだが、今日になって騎士団宛に匿名の告発文書が届いてね。それには、私が非合法に珍しい生き物を集めていると書いてあったそうだ」
「父様はそんな事してないよ!?」
出鱈目としか言えない内容に、僕が抗議の声を上げれば、父様は落ち着きないと言いながら宥めるような仕草をすると、静かに話の続きを話し始めた。
「当然、私はそのような事はしてはいないが、以前、あの馬鹿が城で騒ぎを起こした際に、私と揉めている姿を見ていた者が城の内部に多数いる。それもあり、その手紙を信じる者が僅かだがいてな」
「どうにか誤魔化せないのですか?」
「他の2体は何とかなるが、あの母狐を今から隠すのは、流石に時間が足らな過ぎるな」
「でも、ベルンハルト様は事情を知っているでしょう?」
あの時その場にいて、実際に僕とヒナノとの経緯を見ているだけに、僕達の味方になってくれるんじゃないかと思って言えば、父様からはあり得ないとばかりの反応が帰って来た。
「こちらの事情を知ってはいても、それで公私混同する奴でもない。それに、こちらの事情を城にいる者達に説明して回るわけにもいかないうえ、何もしないという事は立場上出来ないだろう。だから、そこは期待するだけ無駄だろうね。むしろ、私が相手だからこそ、これ幸いとばかりに厳しい対応をしてきそうだよ」
まるで他人事のように冗談を混ぜながら言う父様だったけど、父様に掛けられた容疑の原因の発端が僕にあるだけに、責任を感じてしまう。
「……僕のせい?」
僕が小さく問い掛ければ、父様は断固とした態度でそれを否定した。
「それは違うよ。話しの説明の仕方が悪かったから勘違いさせてしまったが、これは、私が多方面に恨みを買ってしまっていた事が主な原因なんだよ」
「そうよ。アルの日頃の行いが悪いだけで、リュカは悪くないわ」
「そうだ。本人も認めている以上、悪いのは全て父上だ」
「いや…その通りではあるんだが…私の味方は誰もいないのか…?」
「普段からそういった振る舞いをしているからですよ」
誰も味方がいない状況に、父様が酷くショックを受けたような顔をして落ち込むけれど、それに追い討ちを掛けるように離れて立っていたドミニクがポツリと呟けば、父様は少しムッとしたような顔で厳しい目を向けていた。だけど、その視線を向けられた方は、何も言っていないようなしれっとした顔していた。普段から見慣れた様子なだけに、その事で部屋の空気が少しだけ緩んだような気がした。
「ですが、父上が遅れを取るとは珍しいですね?」
「私としても、どの程度で納めるべきかと落とし所を探していたのだが、思いの外あちらの動きが速くてな」
「それでは、今直ぐにでも動かなければ、さらに遅れを取るのでは?」
「わざわざ文書を送って来たくらいだ。森の主を此処まで運んだ際の目撃者くらいは、既に準備しているだろう。だから、今からやれる事など、あまりないな」
「じゃあ、これからどうなるの!?」
「うーん?騎士団が此処に来るのは時間の問題と言った所かな?まぁ、学院には此処に戻る前に休学届けは出しておいたから、明日からでも…」
父様の言葉を遮るように部屋をノックする音が聞こえたため、みんなの視線が扉の方へと視線を向けられる。すると、緊急の知らせでも知らせに来たのか、メイドの1人が扉の影から顔を覗かせた。だけど、自分へと視線が集まっている事に気付き、萎縮したような様子を見せると、扉の横に待機していたドミニクが側へと近寄る。
緊張でも解すかのように、ドミニクが2、3何か話すと、メイドはドミニクから促されるように、何かしらの伝言を耳打ちしていた。すると、それを聞いたドミニクの眉が険しくなり、チラリと父様の方へと視線を向ける。
「お話中すみません。どうやら、騎士団長であるグラディウス様がお越しのようです」
「あぁ、遅かったか…」
退出するメイドには目もくれず言ったドミニクの言葉に、父様は参ったなとでも言うように顔を僅かにしかめる。そんな父様を前に、あくまで事務的な態度を貫きながらも、何処か覚悟でも決めたかのように問い掛ける。
「如何致しますか?」
「此処で拒否した所で騒ぎを大きくするだけだ。会おう」
「かしこまりました」
父様がそう声を掛けると、ドミニクは部屋の扉を静かに開けた。すると、部屋の外には、数名の部下を連れたベルンハルト様がもう立っていた。
「要件は分かっているな」
部屋に入って来たベルンハルト様が開口一番にそう告げるけれど、父様は平然としたままの態度を崩さない。
「お前が直々に迎えに来るとは、何ともご苦労な事だな」
「私でなければ、お前の逃亡を阻止出来ないからな」
「何だ?私が逃げるとでも思ったのか?」
「いや。そもそも、お前が逃亡しようとしようとすれば、私とてそれを防ぐのはまず無理だろう」
「分かっているではないか」
軽口を交わすようでありながら、部屋の中は何時も以上に殺伐とした空気が流れていた。兄様や、ベルンハルト様と一緒に来た騎士達は平気そうでも、僕や母様には少し辛い。だけど、此処で声を出す勇気もない僕は、それに黙って堪えていると、誰かの手が僕の肩に触れた。
「態勢がない者もいるので、揉めるのであれば、此処ではない場所でお願いします」
「すまない!」
「配慮に欠けていた」
兄様が声を発するとピリ付いていた部屋の気配が霧散し、父様は慌てた様子で謝ってくれたうえ、ベルンハルト様も僕達に頭を下げてくれたけど、お互いに思う所があるのか、2人は目線を合わせようとはしない。
「はぁ...お前がいるとまた屋敷の空気が悪くなりそうだ。用があるのが私なら、さっさと行くぞ」
父様は不機嫌そうな様子でゆっくりと立ち上がると、ベルンハルト様の事を引き連れるように扉を向かって行く。その様子は、まるで立場が逆転したかのようだった。だけど、その徐々に遠ざかって行く父様の背を不安気な様子で見ていれば、兄様も同様に席を立ち上がり、1歩前へと踏み出した。
「父上」
兄様が声を掛ければ、父様は何故呼び止められたのかと、不思議そうな顔でこちらを振り返った。
「どうした?」
「今回の首謀者には、私も少し腹が立ちました。なので、こちらの方で犯人を早急に見つけ出します」
「なら、僕も!僕も兄様に協力する!」
兄様が言った言葉に続くようにして叫べば、父様は僕達の言葉にちょっとびっくりしたような顔をした後、嬉しげな笑みを浮かべた。
「それなら、今回の件は2人に任せて、私は何もせずに大人しくしていようかな?」
厳格な騎士に囲まれながらも楽しげに笑う様子は、何とも場違いとしか言い様がなかったけれど、普段と変わらないようなその余裕そうな態度に、何処か安心感にも似たものを感じた。
その後も、何の抵抗もする素振りもなく、まるで散歩でも行くかの気軽さで、城の騎士達に連れられながら父様は僕達の前から去って行った。
「メイドの報告通り、まだ一緒にいてくれて良かった」
「父様?もしかして、今日も途中で抜けて来たの?」
「……」
安堵の表情を浮かべる父様に、僕がのんびりとした様子で問い掛けると、僕の横で兄様は、悪い見本でも見るような責める視線を父様へと向けていた。父様が日中に帰って来るのが珍しくないだけに、そこは不思議ではないけれど、今日は何処か違ったように見える。
「いや、今回は少し違ってね。大事な話があったから戻って来たんだ。今、エレナも呼びに行って貰っているから、もうすぐ此処に来ると思うよ」
父様がそう言い終えると、呼ばれていた母様もちょうどやって来たのか、ノックする音が部屋に響いた。
「アル。大事な話しがあるって聞いたけれど、何かあったの?」
「少し長くなりそうだから、その話しは座りながらしようか」
父様は執務室に置いてあるソファーを母様へと進めながら、自身も空いている椅子へと座ると、何時もより真面目そうな様子で、冗談めいた事を提案して来た。
「皆には急ですまないが、明日から暫く、王都から離れた場所に、旅行に行って来て貰えないかな?」
「えっ?でも、明日は学院は休みじゃないよ?それに、父様達だって仕事があるでしょう?」
旅行に行くのは楽しそうだけれど、あまりに急な話しなうえ、夏休みまで少し速い。それに、遠出の旅行をする前は、何時も大量の仕事を終わらせようと、兄様達も忙しそうにしているはずなのに、そんな素振りは全くなかった。
父様の予想だにしない提案に、母様も困惑を隠せないようだった。そんな僕達の様子に、父様の方も少し困ったような様子を見せながら、サラリと耳を疑うような事を言った。
「実は、とある事件の容疑者として、もうすぐ捕まりそうでね。それで、屋敷内とかも調べられるかもしれないんだ。だから、その調査が落ち着くまで、みんなは王都から離れた方が良いかと思ってね」
「父上。随分と大きな失態を演じられたのですね」
驚き過ぎて声を失っている僕の横で、父様からの不穏な発言を聞いても、動じた様子や驚いた様子もなく、さも当然のような顔をして言う兄様に僕は驚きの視線を向ける。だけど、父様の方も、まるで天気の話しでもしているように返していた。
「相手方の動きを少し読み違えてしまってな。私も、まさか今頃になって噛み付いてくるとは思ってなくてね」
「多方面から恨みを買った結果です」
「私としては、十分に保証もしているから、何も悪い事などしてないつもりなのだけどね?」
「本当に…何もしてないのね…?」
普段と変わらない様子で会話する父様達の話しに、母様は何処か疑うような様子で問い掛ける。どうやら、父様の何もしていないと言う発言を、母様は信じられないようだった。
父様は嘘は付かないと僕は思っていたから、兄様と会話している調子のまま答えるかと思えば、父様はそこで顔を少し崩して気まず気に視線を反らした。
「何も……しているかな…?」
「……アル?」
前に嘘を付かないと約束しているからか、母様の問い掛けに正直に答えた父様だったけど、母様に地を這うような声で呼ばれると、途端に慌てた様子で言い訳地味た言葉を口にする。
「いや!今回私が疑われている事は、本当に事実無根で私には全く関係がないんだ!」
「じゃあ、何で疑われているの?」
父様からの説明を聞いても、母様の声は冷たい声のままで、怒っている時の母様が、やっぱり一番怖い。その証拠に、さっきまで父様と話していた兄様さえも、巻き添えを恐れて口を噤んでいる。
「最近になって、街で召喚獣が失踪している事件が起きているんだが、その容疑が私に向けれられてしまっていてね…」
「それで?どうしてアルが疑われるの?」
「森の主を無断で王都まで連れて来たのが、どうやら周囲に知られてしまったようなんだが、その過程で色々と書類偽装とかしてるたのも知られてしまってね。それもあって、私が容疑者として疑われているようなんだよ」
バルドから聞いて知っていたけれど、その話しが出てくるとは思わなかった。それに、母様への恐怖である意味落ち着いて来た所だったけれど、僕の中に動揺が走る。そんな僕の不安を察してか、兄様が僕の変わりに今の状況に付いて問い掛けた。
「ですが、屋敷内の調査などは、十分な証拠がない限りあまり行われないはずでは?」
「本来はそうなんだが、今日になって騎士団宛に匿名の告発文書が届いてね。それには、私が非合法に珍しい生き物を集めていると書いてあったそうだ」
「父様はそんな事してないよ!?」
出鱈目としか言えない内容に、僕が抗議の声を上げれば、父様は落ち着きないと言いながら宥めるような仕草をすると、静かに話の続きを話し始めた。
「当然、私はそのような事はしてはいないが、以前、あの馬鹿が城で騒ぎを起こした際に、私と揉めている姿を見ていた者が城の内部に多数いる。それもあり、その手紙を信じる者が僅かだがいてな」
「どうにか誤魔化せないのですか?」
「他の2体は何とかなるが、あの母狐を今から隠すのは、流石に時間が足らな過ぎるな」
「でも、ベルンハルト様は事情を知っているでしょう?」
あの時その場にいて、実際に僕とヒナノとの経緯を見ているだけに、僕達の味方になってくれるんじゃないかと思って言えば、父様からはあり得ないとばかりの反応が帰って来た。
「こちらの事情を知ってはいても、それで公私混同する奴でもない。それに、こちらの事情を城にいる者達に説明して回るわけにもいかないうえ、何もしないという事は立場上出来ないだろう。だから、そこは期待するだけ無駄だろうね。むしろ、私が相手だからこそ、これ幸いとばかりに厳しい対応をしてきそうだよ」
まるで他人事のように冗談を混ぜながら言う父様だったけど、父様に掛けられた容疑の原因の発端が僕にあるだけに、責任を感じてしまう。
「……僕のせい?」
僕が小さく問い掛ければ、父様は断固とした態度でそれを否定した。
「それは違うよ。話しの説明の仕方が悪かったから勘違いさせてしまったが、これは、私が多方面に恨みを買ってしまっていた事が主な原因なんだよ」
「そうよ。アルの日頃の行いが悪いだけで、リュカは悪くないわ」
「そうだ。本人も認めている以上、悪いのは全て父上だ」
「いや…その通りではあるんだが…私の味方は誰もいないのか…?」
「普段からそういった振る舞いをしているからですよ」
誰も味方がいない状況に、父様が酷くショックを受けたような顔をして落ち込むけれど、それに追い討ちを掛けるように離れて立っていたドミニクがポツリと呟けば、父様は少しムッとしたような顔で厳しい目を向けていた。だけど、その視線を向けられた方は、何も言っていないようなしれっとした顔していた。普段から見慣れた様子なだけに、その事で部屋の空気が少しだけ緩んだような気がした。
「ですが、父上が遅れを取るとは珍しいですね?」
「私としても、どの程度で納めるべきかと落とし所を探していたのだが、思いの外あちらの動きが速くてな」
「それでは、今直ぐにでも動かなければ、さらに遅れを取るのでは?」
「わざわざ文書を送って来たくらいだ。森の主を此処まで運んだ際の目撃者くらいは、既に準備しているだろう。だから、今からやれる事など、あまりないな」
「じゃあ、これからどうなるの!?」
「うーん?騎士団が此処に来るのは時間の問題と言った所かな?まぁ、学院には此処に戻る前に休学届けは出しておいたから、明日からでも…」
父様の言葉を遮るように部屋をノックする音が聞こえたため、みんなの視線が扉の方へと視線を向けられる。すると、緊急の知らせでも知らせに来たのか、メイドの1人が扉の影から顔を覗かせた。だけど、自分へと視線が集まっている事に気付き、萎縮したような様子を見せると、扉の横に待機していたドミニクが側へと近寄る。
緊張でも解すかのように、ドミニクが2、3何か話すと、メイドはドミニクから促されるように、何かしらの伝言を耳打ちしていた。すると、それを聞いたドミニクの眉が険しくなり、チラリと父様の方へと視線を向ける。
「お話中すみません。どうやら、騎士団長であるグラディウス様がお越しのようです」
「あぁ、遅かったか…」
退出するメイドには目もくれず言ったドミニクの言葉に、父様は参ったなとでも言うように顔を僅かにしかめる。そんな父様を前に、あくまで事務的な態度を貫きながらも、何処か覚悟でも決めたかのように問い掛ける。
「如何致しますか?」
「此処で拒否した所で騒ぎを大きくするだけだ。会おう」
「かしこまりました」
父様がそう声を掛けると、ドミニクは部屋の扉を静かに開けた。すると、部屋の外には、数名の部下を連れたベルンハルト様がもう立っていた。
「要件は分かっているな」
部屋に入って来たベルンハルト様が開口一番にそう告げるけれど、父様は平然としたままの態度を崩さない。
「お前が直々に迎えに来るとは、何ともご苦労な事だな」
「私でなければ、お前の逃亡を阻止出来ないからな」
「何だ?私が逃げるとでも思ったのか?」
「いや。そもそも、お前が逃亡しようとしようとすれば、私とてそれを防ぐのはまず無理だろう」
「分かっているではないか」
軽口を交わすようでありながら、部屋の中は何時も以上に殺伐とした空気が流れていた。兄様や、ベルンハルト様と一緒に来た騎士達は平気そうでも、僕や母様には少し辛い。だけど、此処で声を出す勇気もない僕は、それに黙って堪えていると、誰かの手が僕の肩に触れた。
「態勢がない者もいるので、揉めるのであれば、此処ではない場所でお願いします」
「すまない!」
「配慮に欠けていた」
兄様が声を発するとピリ付いていた部屋の気配が霧散し、父様は慌てた様子で謝ってくれたうえ、ベルンハルト様も僕達に頭を下げてくれたけど、お互いに思う所があるのか、2人は目線を合わせようとはしない。
「はぁ...お前がいるとまた屋敷の空気が悪くなりそうだ。用があるのが私なら、さっさと行くぞ」
父様は不機嫌そうな様子でゆっくりと立ち上がると、ベルンハルト様の事を引き連れるように扉を向かって行く。その様子は、まるで立場が逆転したかのようだった。だけど、その徐々に遠ざかって行く父様の背を不安気な様子で見ていれば、兄様も同様に席を立ち上がり、1歩前へと踏み出した。
「父上」
兄様が声を掛ければ、父様は何故呼び止められたのかと、不思議そうな顔でこちらを振り返った。
「どうした?」
「今回の首謀者には、私も少し腹が立ちました。なので、こちらの方で犯人を早急に見つけ出します」
「なら、僕も!僕も兄様に協力する!」
兄様が言った言葉に続くようにして叫べば、父様は僕達の言葉にちょっとびっくりしたような顔をした後、嬉しげな笑みを浮かべた。
「それなら、今回の件は2人に任せて、私は何もせずに大人しくしていようかな?」
厳格な騎士に囲まれながらも楽しげに笑う様子は、何とも場違いとしか言い様がなかったけれど、普段と変わらないようなその余裕そうな態度に、何処か安心感にも似たものを感じた。
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