季節番外編置き場

ユーリ

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節分 (アルノルド視点)

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「何だこれは?」

「豆だが?」

「それは見たらわかる。私は、何でこれがここにあるのかと聞いている」

「先日、屋敷で行った節分の残りだ」

「節分?」

聞きなれない単語に、レクスは疑問の声を上げながら首を傾げる。

「屋敷に出入りしている行商人から聞いた催しだ。何でも異国では、鬼に扮した者に豆を投げつけて、その年の邪気を払うんだそうだ」

「異国では、そんな催しがあるのか?」

「大方、余った豆の処分に困った行商人達が考えた催物だろう」

「ああ、今年は豊作だったからな」

私の言葉に、レクスが何処か納得したような面持ちでうなずく。今年は気候に恵まれたせいか、どの国でも豊作だったため、先日もどう対応すべきかとレクスを含めた皆で検討していた所だった。

豊作とは言えば聞こえは良いが、あまり豊作では値崩れを起こして価値が下がってしまう。市場に出回っても品が余り、買い手もいなければ農民が干上がってしまうため、国で備蓄用に買い上げるかと言う話も持ち上がったが、財源などを何処から持ってくるかが問題になっていた。

今年度分の予算の割り当ても終わっており、備蓄用の倉庫も既に貯えが終わっている。そのため、倉庫の確保から始めなければならないが、何処も既に物で埋まっているため、今から借り上げるとなると通常よりも割高の料金を払って開けて貰うしかない。しかし、その財源確保のために増税したのでは本末転倒なため、未だに方針が決まっていなかった。

「しかし、君がそんな催しに興味を引かれるとは思わなかったな」

「私ではなく、リュカがやりたいと言ったのだ。だから、情報量も込みで、その商人から言い値で全ての豆を買い取って使用人達も含めて節分を行ったのだが、その後の豆の処分に困ってな。使用人やその家族にも既に多少は配ったりしたのだが、それでも豆が余ってしまってな…。リュカの手前、ただ捨てるわけにもいかず、こうしてお前の所へ持って来たんだ。それと、屋敷にまだ残っている分も、城で消費して貰えると助かるのだが?」

「ああ、そういう事なら納得だ。それと、豆の件に関しても、私の方としては一向に構わない。城の食費が浮けば、その分を他に予算を回す事が出来るからな」

「ならば屋敷に残っている物も、まとめてこの厨房宛に送っておく」

レクスの承認も無事に得たため、反故にされる前に、屋敷に戻ったら早々に手配しよう。

「それで?鬼役は誰がやったんだ?君の執事あたりか?」

何の含みもなく発せられた言葉に、おそらく私は、これ以上ないほどの苦い表情を浮かべていた事だろう。

「……私だ」

「えっ?」

「だから…私だ…」

「本当に…君がやったのか…?」

「先程から、そう言っている…」

「使用人達と一緒に…やったのだろう…?」

「……そうだ」

答えたくもない質問を幾度もしてくるレクスのせいで、不愉快な事を思い出した。

「アルノルド様に豆を投げるのは、さすがにちょっと…」

「そうだよな…。さすがに…出来ないよな…」

私が鬼役に決まった途端、使用人達は皆一様に躊躇いを見せた。私とて、リュカからの提案でもなければ、こんな役など引き受けたりなどしない。

最初はドミニクがやる事になっていたはずだったのだが、リュカが老体には安心して投げ付けられないと言い、メイド相手も嫌だ言う。ならば、男の使用人共にさせようと思ったが、それでも怪我させそうで不安だと言った。

ならば、この催しは此処で中止かとも思ったが、リュカが私に視線を止めると、そこで鶴の一声を言った。

「そうだ!父様は昔、鬼って呼ばれてたんだよね!?それに父様なら、豆を投げても怪我もせずに平気だから、安心だよね!?」

その一言で、私が鬼役になったのだが、その話はいったい誰から聞いたんだ?それに、私なら豆を投げても安心とはどういう事なのか、リュカに1度聞いてみたい所ではある。

「ど、どうする…?」

未だ使用人達が私に豆を投げるか議論している横で、エレナ達と一緒に座っているリュカが退屈そうにそれを待っている。もはや形だけの参加で良いからさっさと始めろと思っていると、1人の使用人が何かに気付いたように言った。

「待て!良く考えたら、これは日頃の鬱憤を晴らすチャンスだぞ!」

鬱憤だと?そんなもの、感じさせるような事をした覚えなど私には到底ない。

「鬱憤なんかあるか?」

「そうだよな。給料や待遇も良いし、別に不満なんかもないよな?」

他の使用人達も私と同様の意見らしく、口々に鬱憤などないと口にする。

「良く考えろ!顔も良ければ、地位や権力もあって、そのうえ妻子持ちなのに、未だ令嬢達の人気も衰える事がない!俺達のようなモテない男達にとって、敵のような存在なんだぞ!」

「言われてみれば…そう…だな…」

「この前も、令嬢から届いた恋文を読まずに捨てたらしいし…」

いや、少し待て。先程から私を敵認定しようとしているが、妻子を持つ人間に恋文など送る方が先に非難されるべきではないか?

「そうだろ!今こそモテない男達の怨みを晴らすチャンスだぞ!」

「そうだな!モテない男達の代表として、此処で俺達が引くわけにはいかない!」

何時からお前らは、モテない男共の代表になったのだ?

「アルノルド様!お覚悟を!!」

豆を片手に私に迫り来る使用人達の横で、やっと始まるとばかりに楽しげに駆けて来て豆を構えるリュカ。こうなってしまっては仕方がないと、私も腹を括る事にしたが、お前達、後で覚えておけ…。

「それで?君は大人しく豆を投げ付けられてやったのか?」

「そんなわけがないだろう」

私の話を聞きながら、楽しげな表情を見せるレクスには殺意を覚えるが、今はまだその時ではない。

「リュカ達からの豆以外は全て避けたのだが、悪質にもリュカ達に隠れて投げてくる者がいたのでな。その者達には、私も影に隠れて全力で豆を投げ返しておいた」

「君の全力は死人が出るだろう!!」

私の言葉に大袈裟過ぎる事を言うレクスには、呆れを通り越して哀れみさえ感じる。

「お前は豆くらいで、いったい何を言っているんだ?せいぜい骨にヒビが入るか、折れるかするだけだ」

「それで十分だろ!」

多少魔力は込めてはいたが、たかが豆が当たったくらいで怪我をするなど、何とも情けない連中だ。

「その程度の怪我なら、教会に行けばすぐに治る。まあ、足を狙って投げたから、一人では満足に歩く事も出来ないだろうがな」

「そっちの方が悪質で確信犯だろうが!!はぁ…君達みたいに、鬼が似合う人間は、昔も今もそういないだろうね…」

「……レクス。先ほど渡した豆を、こちらに投げ返してくれないか?」

「別にいいが?」

疑問符を浮かべながらも、レクスは私の言う通りに、豆を軽く私の方へと投げ返して来た。

「投げたな…」

レクスが放り投げた豆を受け取りながら、私は1人ほくそ笑む。

「どうかしたか?」

不思議そうな顔を浮かべるレクスとは違って、今の私は良い笑みを浮かべているはずだ。

「豆を投げられてしまったならば、鬼である私は、大人しくこの城から退散するとしよう」

「ちょっと待て!これも予想通りの確信犯だろう!!?」

いきなり声を荒げるレクスに、私は極めて冷静に映るように対応する。

「そんなわけがないだろう。ここまで予想通りに行くとは予想していなかった」

「それを確信犯だと言うのだ!!」

こちらは予想していないと言っているというのに、レクスが何を言っているのか理解できないな。

「部下には、お前から追い払われたと言っておく。それと、明日から仕事は屋敷で行うから、しばらくの間は登城しない」

「おい!そんな大事な事も勝手に決めるな!!」

レクスの声になど耳を貸さず私は部屋を後にすると、面倒事に巻き込まれる前に一通りの支持を部下に下し、必要な書類だけを持って城を後にした。

「何だこれは……」

「豆サラダに、豆スープ、豆の煮物に…」

「そういう事を聞いているんじゃない!1週間も豆料理が続いているのは、どういう事だ!?」

「それが…レグリウス公から頂いた豆が、まだ大量に届いておりまして…。使用人共ともに食べているのですが、一向になくなる気配がなく…それに、置き場にも困ってしまっていて…」

「アイツはどれだけ買ったんだ!?」

城には登城せず、屋敷で仕事をしている私には、そんな城の状況など分かるはずもなく、家族との食事をのんびりと楽しんでいた。

「そういえば、あの豆どうしたの?」

リュカから不意に豆の件を聞かれ、私は笑顔で答えた。

「全て快く引き取ってくれた者がいたのでな、その者に全て譲った。まさか、屋敷の皆で食べても一年は掛かりそうな量が届くとは思ってなかったから、私も最初はどうしようかと思ったよ。やはり、良く確認せずに買うのは駄目だな」

「そんなに買ってたの!?駄目だよ父様。買う時はちゃんと確認しないと!」

「そうだな。今度からは、気を付けるとしよう。そうでなければ、今頃、豆料理のフルコースを食べ続ける事になっていたからな」

「それは飽きそうだね!」

「そうだな」

和やかに談笑する合間に、普通の人間なら聞こえないような、そんな小さな呟きを、私の耳は正確に拾った。

「だからアイツ…しばらく前に視察に出掛けると言っていたのか…。自分から言い出すなんて珍しいと思ったが…相変わらず感だけはいいな…」

本当に、息子の方がアレよりも感がいい。レクスもそろそろ騒ぎ出しそうな頃合いだろうから、しばらくはドミニクには適当にあしらって貰うよう頼んでおかなければならないな。まあ、城には大食いの兵共もいる。頑張れば直ぐに食べ切れるだろう。
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