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第四幕
【番外編⑤】青鬼のお使い。
しおりを挟む――――――なるほど……ひとでありながら、ひとではないものに成り果てたのか。
ほの暗い闇に浮かぶ、鬼火の揺らめきが照らすのは、美しくも冷たい金色の瞳。
「名は何と言う」
「……り……鱗」
忘れ果てていたはずの名が、その鬼の問いにより口を滑るように落ちてくる。
「……そうか、それは奇遇だ。鱗と言う字には、鬼火が宿る」
「……」
「鬼火を持つなら、そなたも鬼だ。私が拾ってやろう」
そして、私は鬼の証である青き角を得た。
――――――それが……最初の記憶。
※※※
「……と……とれーしんぐ、なんとやら」
半鬼神ではなく、半紙みたいなものだと仰っていた。
難題だ。まだフウビキさまもまだ隔り世の店に卸していないと言う。ならフウビキさまが仕入れると仰ってはいたものの……しかしこのお使いは、最早私の楽しみでもあるのだ。
始めてしゃーぺんなどと言うものを買って帰った時、芯を忘れたがためにヤヤさまを落胆させてしまった。
次はもうなりふり構わないと芯を全種類買って帰っていれば、シスコンシロハンキさまに見つかりお尻をペンペンされてしまった……。
シロハンキさまは……恐ろしい。王の影として仕える我々にも一切手を抜かず、尻を剥き、ペチンッペチンッして来られる。
うぐぅ……。
だからこそ……今日こそはしっかりと買って帰らねば……!ヤヤさまのために。そして我が主のために……!
「……お兄さん、何か探してんの?」
「……っ」
人間……!?レジ店員以外の人間に話し掛けられたぁっ!?
「……っ」
どうしよう。何か変なことを口走って、隔り世のものだとバレたら、いやいや相手はただびと……。ん……?
何故だ……この男……どうしてか……。
霊力を……持つ!?まさか……私の正体がバレる……っ!?
「探してるものがあるなら、手伝おうか?」
「……」
しかし……その。
「あの……と……」
「え?」
「とれーしんぐ、なんとやらを……」
「あー、トレーシングペーパーかな。ほら、これ」
「……これでヤヤさまも喜んでくださるっ!……はっ」
ついついヤヤさまの名前を出してしまったぁ――――――――っ!!!
「喜んでくれるといいね」
「う……うむ……かたじけない……その……何か礼を……!」
「いいよ。別に」
「ならせめて、その、私は鱗と言う」
何故かその名を教えねばと思った。ここで隔名を名乗るわけにもいくまいが……。しかし伝えねばと。
「……有だよ。……じゃぁまたどこかで会えたらいいね……」
「う……うむ」
有、か……どうしてかその名前が頭から離れない。
しかし親切な人間……だったな……。あのように霊力も強いのに。私のことを鬼だとは気が付いていなかったのだろうか。無論角は隠しているが……。
どうしてか……あのものに懐かしい匂いを感じるのは……気のせいであろうか。
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