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伯父上の無茶振り
しおりを挟む「頼む!この通り、妃になってくれ!!」
「いぃや、断るっ!」
俺は即決した。
何故こんなことになっているかというと。
ここ、人族の国セシリア王国の王は16歳で王位につき、そして18歳の時に獣人族の国との友好を深めるためにフレイア王国の姫を娶った。だがしかし、その姫は産まれつき病弱で王子を一人産んで間もなく他界した。そのことにフレイア王国は怒ってはいない。
身体が弱くも国と国の友好のために嫁いだ姫を、国王はたいそう大切にしたそうだ。そして孫の顔まで見せてくれた。だから最期に娘を幸せにしてくれてありがとうと言われ、むしろ深く感謝され、フレイア王国の王から信頼を勝ち取ったのだ。
だが、話はここで終わらない。問題は、ひとり残された王子であった。現在王に妃がいないことで、王妃の仕事をするものがいないことと、ひとり残された王子が獣人族だったことから、セシリア王国国内では新たな王妃を娶るよう国王に打診がいったそうなのだ。
恐らく本音を言えば、人族の王子に王位を継がせたいのだろうが、もし本当にこの後人族の王子が産まれれば、確実にひとり残された王子の立場はなくなってしまう。
それどころか待遇や周囲の目によってひとり残された王子が心に受ける傷の方が重いに違いない。そしてそれが原因でフレイア王国の王で王子の祖父から怒りを買えば、せっかくの友好条約も破綻してしまう。
だからこそ、新たな王妃選びは慎重に進められていたのだ。
そして、王子のために妃は取らないと言っていた王だったが。フレイア王国の王から幼い王子には母親が必要だろうし、ウチに申し訳ないとか思わなくていいよ。その代わり孫が心から慕える妃を迎えて欲しいと言われてしまったため、王はひとりだけ王妃を選ぶと宣言した。
それによって未婚、婚約者がいない令嬢や女性たちがこぞって新たな王妃に手を挙げたらしい。
「それで何で俺なんですか、伯父上」
そして俺はこのセシリア王国の宰相であり、クオウ公爵であるゼノ伯父上に不満げに悪態をついたのだ。
「この国のためなんだよ、タシャ」
“タシャ”と言うのは俺の名前だ。ゼノ伯父上の異母弟であった俺の父さんは庶子だった。しかし先代公爵は父さんを公爵家に迎え入れることはなく、単なる跡継ぎの予備として見るだけだった。
しかし陰ながら支援してくれたゼノ伯父上のおかげで何とか俺の父さんは食っていくことができ、16歳になって成人したら冒険者となり、そこで母さんと出会って結婚して俺と弟のチェレンが産まれたのだ。
今は父さんも母さんもお空の星になってしまったが、その後も公爵位を先代からもぎ取って追放したゼノ伯父上が支援してくれて、俺と弟も生活を維持することができた。
俺は普段は冒険者稼業で稼いでおり、今年19歳になった。因みに王さまは今年24歳だそうだ。年齢的には無理はない。だが、何故俺。
ついでにこの国でもフレイア王国でも同性同士の結婚は可能で、神殿で祈りを捧げて祝福を受ければ子をもうけることも可能だ。そして俺も弟と同い年の王子殿下のために子を望むかと言われれば、王子殿下を悲しませるような選択は絶対にできない。そう、伯父上も分かっていて打診しているのだろう。
「―――だからって、何で国王の妃なんですか!てか、弟のチェレンはまだ4歳ですよ!?チェレンをひとりにしろってことですか!?さすがにそれはゼノ伯父上の頼みでもっ」
「待て待て、話を最後まで聞かないか。タシャ」
「は、はぁ」
「陛下としては、子連れでも構わないそうだ。要は王子の母親代わりになり、王妃の仕事をしてくれればいいのだそうで」
「いや、子連れじゃなくって弟連れね?あと、王妃の仕事って言ったって、俺冒険者だぞ?」
「大丈夫、大丈夫!こちらで手配した必要教育にしれっと王妃教育混ぜといたもん!」
「はああぁぁぁっっ!?」
必要教育とは、ゼノ伯父上曰く、これがあればどんな所でもやっていけるから、ついでに習っときな!と押し付けてきた教材や家庭教師に習った内容である。
アレに王妃教育が混ざっていただと!?
「何で混ぜたの!?」
「いや、王妃教育も混ぜとけば、王妃としてもやっていけるかなって」
「何で王妃になる可能性を考えたの?え?普通無理でしょ、俺平民!」
「大丈夫!タシャくんもチェレンくんも、私の養子にして公爵家の跡取りってことにするから!それにね、タシャくんって、弟にそっくりなんだよ」
「はぁ、俺は確かに父さんに似たけれど」
「弟に似て、めちゃくちゃかわいいんだもんっ!!王妃になれちゃう可能性だってあるでしょう!?」
因みに、ゼノ伯父上は大のブラコンだ。ブラコンだからこそ支援を惜しまず先代を自分が16歳になって成人してそうそうに追い出して自分が公爵の地位に就き、更には宰相にまで登りつめたのだ。
「そして遂にその時は、来た!」
「いやいやいや、来ない!来ないから!」
「でもこのままじゃ、国が沈むかもしれない」
「何で!?」
「今まで王や私の面接を受けに来た女性たちは、―――王子殿下に根こそぎ脅えられて、時にはカッと怒鳴ってきて王子殿下が泣かされるという事案が頻発している」
「んなっ、何それ。何で!?」
王子殿下って確か、ウチのチェレンと同い年なはずだぞ?何で怒鳴るんだ。小さな子に。
「それだけ王妃の座が欲しくて必死なんだろうね。最近じゃぁ、王子殿下が脅えて陛下の寝室から出ようとしない」
まさかのパパの寝室に引き籠り。
「それで陛下の機嫌がすこぶる悪くてね。執務はしてくださるんだけど、城のみんな揃って脅えちゃって」
「それはその、災難だったね」
「私も辛いんだ!辛いんだよタシャくんっ!!」
「は、はぁ」
「助けて、くれないか。もしも城に弟にそっくりなタシャくんがいたら、私癒される!弟の息子たちが私の息子たちにもなったとしたら、まるで弟と私が夫夫みたいじゃないか!」
―――伯父上は、独身である。その理由はひとえに、俺の父さんのことが好きすぎたからである。母さんは笑っていたが、ブラコンが過ぎるのだこのひとは。
「このままじゃ、仕事が手につかない!私が仕事をしなければ全てが陛下に行く!陛下が王子殿下に構う時間が取れなければ王子殿下が泣く!そしてフレイア王国のじーじ大激怒!!」
いや、国王をじーじとか言うなよ、全く。
「まぁ、その。会うだけならいいよ?こちらだって、チェレンが嫌がったら断るから。それでいい?」
「いいから。それでもいいから一度だけ会ってくれない?あ、引き受けるに関わらず、養子縁組はもう済んでるから心配しないでっ!」
いや、いつの間に養子縁組結んだんだよ、俺に許可取れよ~~~っ!全くこのブラコンめ。
―――かくして俺は弟連れで国王陛下と王子殿下に謁見することになったのだった。
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