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第3話 ただの通行人Aのはずなのに···

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 弟であるノエルと別れたキエルは、玄関から渡り廊下を歩き教室へ向かう。擦れ違う生徒達は、チラチラとキエルに視線を向けていた。

(私、どこかおかしいかしら?だだ普通に歩いているだけだけれど···、もしかして、歩幅が広い?でも、そうしたら隣に歩いていたノエルから一言あるはずよね?)

 今朝方、転生トリッした事に対しての本当の自分の素が出てしまっているのではないかと不安に駆られるキエルだが、実はキエルと擦れ違う生徒達は彼女の容姿に見惚れているだけだった。

「また、···そうやって···!!私を皆さんの前で叱責して楽しいのですか!?わざとですか?性格悪すぎやしませんか!?」

 わけも分からず、小さくため息をつけば、女生徒の叫ぶ声。これはまた、朝から元気だと視線を向ければ、渡り廊から続く中央の薔薇が咲き誇る庭園で、2人の女生徒が何やら言い争いをしているようだった。

 周りの生徒達は「何だどうした」と野次馬を作り、ガヤガヤと騒ぎ始めた。

(うわぁー···、何かどっかで見た事のある光景ー···)

 キエルの中で、ゲームの内容が頭を過ぎった。

(あれは確か···)

 そうだ。
 物語開始直後のプロローグ。
 公爵令嬢エーデルワイス嬢と、ヒロインであるアユリー嬢が言い争い、そこに第一王位継承者のルシード殿下が現れて、「まだ、転校して来たばかりのアユリー嬢に何て厳しい言葉をかけるんだ」云々。

 と言う流れからゲームが始まって行く。それにしても、まだそんな序盤何だと思いつつ、自分には関係の無いキエルはそそくさとその場を後にしようとした。

 何があるのか分からないのが転生トリップであり、昼ドラ顔負けの泥沼には巻き込まれるなんて真っ平御免だと、踵を翻し教室へ向かおうとした矢先。

「ッ···!」

 どうやら、人にぶつかったようだった。2人の女生徒のせいで、朝から野次馬が集まってしまったのだろう。

「申し訳ありませ···!!こ、これは、大変失礼致しました!私の不注意のせいで殿下にぶつかってしまいました。大変申し訳ございません。如何なる罰もお受けする所存に御座います。何卒、ご命令下さいませ!!···ど、何処か、お怪我はされておりませんでしょうか?」

 謝罪をしようと顔を上げた途端に、キエルは「ヒュッ」と息を呑んだ。
 当たってしまったのが、第一王子皇太子殿下だったからだ。今のキエルを肖像画に例えるならば、ムンクの叫びが妥当だろう。

(てか何でここにいるのー!!!終わった···転生して数時間で私の運命終わったぁー!!)

 慌てて白い軍服状の制服のスカートを持ち、しかしゆっくりと丁寧にカーテシをし、頭を下げた。心臓はもうバクバクである。

 転生して数時間のうちに死亡フラグを立てるとは、中々キエルも強運の持ち主ではないだろうか。

(あぁ···、もう泣きたい···)
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