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星祭りと思い出

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 入学して2カ月程経ち、6月も終わろうとする頃にもなると魔法学院での生活にも慣れ友達も増えてきた。最近はテオと一緒にパーティーを組んだマルスとルキアの2人と東の大国・星河帝国からの留学生凛風リンファと私、ヘレナ、ニゲル、テオの7人でよく一緒に行動している。
 そして気温も高くなってくるこの時期は星祭りといって、神が初代勇者・アナスタシウスに力を与え、勇者が魔王を倒した事を祝い神に感謝する期間がある。神殿では儀式があったり私達もみんなで神に祈りを捧げたり、国の至る所でお祭りが開催されたりする。神への感謝の気持ちを示すため街中にベルフラワーが飾られ、神殿関係者の若い女性達も街でベルフラワーを配って歩く。特に王都では1週間にわたってお祭りが開催され、観光客がとても増える時期だ。

「わぁ、王都の星祭りはすごいね~!」

ヘレナは王都の星祭りは初めてのようで、キラキラと目を輝かせていた。ラクテウス王国で重要な2つの祭日、星祭りと建国祭の時期は学校や一部の仕事は休みとなり、私達ノウムアルゴーの4人もお祭りに繰り出していた。

「みんなにも会えるかな?」
「どうかな、制服ならまだしも私服だしこれだけ人いるから…。」
「確かに。…あ、あれ見て!美味しそう!」
「ほんとだ、行くぞヘレナ!」

アレクとヘレナは意気揚々と駆け出した。2人ともそういうところはそっくりだ。

「行こう、マリウス。」
「あぁ。」


 それから暫く4人でお祭りを楽しんでいると何というか案の定というか、アレクとヘレナとはぐれた。まぁ2人も小さい子ではないし、この辺りは元々貴族がお忍びで来るような場所でしかも今日は星祭りなので堂々と貴族達も歩いているため、警備もしっかりしているから大丈夫だろう。

「はぁ、まぁ予想はしてたけどな。…エミリア、お前ははぐれるなよ。」
「大丈夫だよ、子どもじゃあるまいし。」
「はっ、いつかの祭りで迷子になってびーびー泣いてたくせに。」

マリウスは鼻で笑った。失礼ね、いつの話してるのよ!

「それ初等学校の低学年の時の話でしょ⁉︎一緒にしないで!!」
「はいはい、そうかよ。良いから行くぞ。」

マリウスはそう言って手を出した。流石にこの年で手を繋ぐのは少し気恥ずかしいが、素直にその手を握った。マリウスの中ではまだまだ私達は子供なのだろうか。悔しい。


「お花はもらったかしら?まだのようね、どうぞ!神のご加護がありますように!」

2人でふらふらと屋台を回っていると、優しそうなお姉さんがベルフラワーを1つずつ私達にくれ、マリウスはシャツの胸ポケットにお花を突っ込んだ。私はもらったお花をじっと見つめる。

「…そんな見つめてどうした?」
「…ううん、なんでも。ただちょっと懐かしいなって思って。」


 ──あれは確か、私が初等学校の3年生でマリウスが5年の時の星祭り。私は家族とオルドー家とのみんなでお祭りに行った。椅子とテーブルが置いてある休憩スペースで休んでいた時に近くの屋台で売っていたおやつかなにかを買いに私とマリウスの2人で行くと、あの時もこうしてお姉さんからベルフラワーをもらった。ただその時は偶然お姉さんの手持ちのお花が一本しかなく、お姉さんに謝られながらも私は荷物で両手が塞がっていたのでマリウスがベルフラワーを受け取った。

「…リア。」
「ん?」

マリウスは私の髪にベルフラワーをそっと挿した。私は驚いてただマリウスを見つめていた。

「似合うじゃん。」

マリウスそう、ふと優しく微笑んだ。


 ──その時、私の曖昧だった淡い恋心は確かなものへと変わった。あれ以来“前”も含めて2人だけで星祭りに行ったことはなかったからか、そんな事を今ふと思い出した。…きっとマリウスはそんな昔の事なんてもう覚えてないだろうけど。私にとってはいつまでも大切な思い出だ。

「…。」
「あ、あれテオの家のパン屋さんじゃん。行こう、あそこのカレーパン超美味しいよね!」
「あそこのパンは何でも美味いだろ。…その前に、」

マリウスは私の手からベルフラワーを取ると髪に挿し、ふっと笑った。───あの時と同じように。

「…!」
「…やっぱ似合うな。…じゃ、テオのとこ行くか。」
「…、うん!」


 あの時のベルフラワーは押し花にして取ってあるが、家に帰ったらこれも押し花にしておこう。

 やっぱり私は、マリウスが大好きだ。
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