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痛いくらいの好き

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「それで、マリウスとはどうなんだよミリー。」

ソリトスから戻り新学期初日の昼休み、テオは突然そんな事を訊いてきた。凛風リンファやマルスもうんうん、と頷く。

「どうって…。別にどうもこうもないよ、残念ながら。」
「なんだ、少しは進展したかと思ったのに。」
「でもついこの前…、ソリトスで一度一緒に寝てたよね?」

ヘレナが言うとみんなは驚きの声を上げる。あぁ、あれね…。

「リアちゃん、ほんとに?珍しいね、2人が一緒に寝るなんて。」
「違うよ、あれはただ…。」

…そう、マリウスが“前”の事を思い出しただけ。最期の私、酷かっただろうなぁ。確かに最期のお別れは言いたかったけど、あの姿は見せたくなかったかなぁ、なんて思ったり。

「…マリウスが寝ぼけて私を抱き枕にしてただけ。私もまだ眠かったからそのまま二度寝しちゃったのよ。」
「あぁ、それで布団の上で寒そうにしてたのか。」

ヘレナは納得したように頷き、みんなはなんだ、と残念そうにしていた。

「だから言ったでしょ、何もないって。」
「うーん、やっぱりマリウス先輩の中ではまだ妹なのかなぁ。」
「あー、まぁ生まれた時から知ってるんだしなぁ。」
「あ、じゃあエミリアが変身魔法で数年後の姿になれば良いんじゃね?」

マルスの言葉に私達は目を丸くする。いやいや、仮に“前”の卒業式の時の姿になったとしても流石に14歳と18歳じゃそんな変わらないでしょ…。

「えー良いじゃんそれ、面白そう!」
「面白そうだな!とりあえずみんなごはん食べ終わったし、試しに向こうでやってみれば?」
「そうね、無理そうならやめれば良いだけだし。」

ヘレナにテオ、凛風はノリノリでさっさと食器をまとめて片付けてしまった。私はマルスに腕を引かれて食堂のテラス席から庭園の中央にある開けた場所へと向かう。ここは広くて視界も良好なので、生徒達が魔法の練習をしたり昼休みには時々ピクニックをしたりする場所だ。今日は始業式だけで授業もないので人はほとんどいない。

「変わんないと思うけどなぁ。」
「まぁまぁ、一回だけ!」
「…じゃあ、6年生をイメージしてやってみるね。」

私は仕方なくみんなに見守られる中かつての私を思い起こした。確か3年の時より身長は5センチくらい伸びたな。髪の色はほとんど変わらなかったけど髪型は最後はハーフアップにして、リウィアに選んでもらったお気に入りのバレッタをつけてたなぁ。それからマリウスにもらったローブのチェーンブローチ型の魔道具。そして……

「「「!」」」

頭の中で細かく自分の姿を思い描いて再現させるとみんなは息を呑んだ。…あれ、もしかして失敗した?

「…ミリー、お前…。」
「…リアちゃん、すっごい綺麗だよ。」
「えっ。」

ニゲルは心から感動したかのように言った。ヘレナ達も頷く。

「大人っぽくなって綺麗…!」
「うん、本当ね。」
「あれ、なんでだろう、なんか俺泣きそう…。」
「あはは、ニゲルってばお父さんの気持ちになっちゃった?」
「でもなんでその格好なの?それ、王立学院の制服よね?」
「あっ、それは…。」

なんて誤魔化そうかと考えていると突然ドサッと何かが地面に落ちる音がした。何事かと振り返ると、そこにはまさかのマリウスの姿があった。…嘘、なんでこんなタイミングで…!

「に、兄さん⁉︎」
「マリウス、なんでここに?」
「…リア。」

マリウスは私の腕を掴んだ。彼は俯いていてその表情は分からない。

「…マ、マリウス?…わっ、」

マリウスは落とした鞄も拾わずに私の腕を引いて庭園の端の方にあるガゼボまでやって来た。ここも校舎から割と離れているからか普段はほとんど人気がない。

「…リア、お前は何をやってるんだ?」
「あの、これは…、変身魔法の練習で…。」
「変身魔法…あぁ、3年の課題だったな…。」

マリウスは私の左腕を掴んだままそう呟いた。左腕を掴む手は存在を確かめるように私の手まで滑り、指を絡められる。…今の私の手に指輪はない。それは、それだけは再現しなかった。

「…リア、俺は…。」

マリウスは顔を上げて私を見た。いつもより近くで見えるその表情はあまりにも悲痛そうで、やっぱり思い出すのは私だけで良かったのに、と思う。

「…ごめん、マリウス。」

私はマリウスの手を握り返した。

「…3年後の自分にしたつもりだったんだけど、失敗しちゃった。なんで王立の制服なんだろうね、この前おばあちゃんが学生の時のアルバム見せてもらったからかな?私、本当におばあちゃんそっくりなんだね。」
「リア、」
「マリウス、顔色悪いよ?どこか具合が悪いの?それとも悪い夢でも見たのかしら。…夢は夢よ、嫌な夢なんてさっさと忘れた方が良いわ。」
「おい待て、リア!俺は…!」

私がマリウスを置いて戻ろうと踵を返すと、マリウスはギュッと私を後ろから抱きしめた。上を向くと、怒ったような何かを耐えるかのような表情のマリウスの目が私を射抜いた。───息が止まる。

「…忘れねぇよ。今度こそお前が幸せになるまでは。」
「…っ。」

私はなんだかマリウスの目を見ていられなくて、変身魔法を解いて顔を背けた。…やばい。顔が熱い。

「…言っただろ、同じ事は繰り返させねぇって。大丈夫だ。お前は…。」

マリウスはクルッと私の体を自分の方へ向けさせた。ポン、と頭に手を乗せられ私は顔を上げる。

「お前は好きな所へ行って好きなだけ冒険して暴れて、自由に生きろ。」

そう言うマリウスは柔らかな笑みを浮かべていた。…あぁ、もう。そんな事言われたら。

「…最初からそのつもりだわ、そのためにわざわざ勇者パーティーへの招請も無視したんだし。…もう、2度と殿下には会わないわ。」
「あぁ。」

そうだな、とマリウスは再び私の頭をポンポンと撫でた。
…どうしようもないくらい、マリウスが好き。


「…あっ、リアちゃん!」
「エミリア、大丈夫だった⁉︎」
「マリウスすごい顔だったけど…。」

みんなの所へ戻るとみんなはわっと心配そうに駆け寄って来た。ニゲルはマリウスが落として行った鞄を抱えていた。

「うん、大丈夫。ただちょっと…、…トドメを刺されただけ…。」
「いやそれ大丈夫じゃなくね⁉︎」
「どういう事なの!!??」
「いじめられたか⁉︎」
「いや、そうではないんだけど…」

私達はマリウスの忘れ物はニゲルの使い魔に任せ、騒ぎながら帰路につく。


 この気持ちは、どうしたらマリウスに伝わるだろうか?
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