【完結】二人はさよならを知らない

シラハセ カヤ

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04.

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二階には、自分の部屋と彰の部屋しかない。

扉を閉めると、家の中が静まり返る。
下では、母と祖母が寝ているはずだ。

喉が渇いた気がして、ペットボトルの水を一口飲む。

───馬鹿みたい。

たかが頭を撫でられたくらいで、
こんな風になるなんて。

布団に潜り込んで、目を閉じる。

階下で微かに水の流れる音がした。

当たり前のことなのに、
無意識に意識してしまう自分がいる。

「……もう寝よう」

小さく呟き、沙耶子は目を閉じた。

けれど、なかなか眠れそうになかった。







浴室に湯気が立ち込める。

彰はシャワーを浴びながら、
ぼんやりと天井を見上げた。

長い一日だった。

父の葬式を終え、親族の相手をし、
姉や母のことも気にかけながら動き回った。
疲れていないはずがないのに、身体のどこかにまだ
緊張が残っている気がする。

───いや、違うな。

それが、ただの疲労じゃないことくらい、
自分でもわかっていた。

指先に微かな感触が蘇る。

沙耶子の髪。
炬燵で眠る彼女を撫でた瞬間の、あの柔らかさ。

───なんで、触れたんやろな。

ただ、気づいたら手が動いていた。

沙耶子は、昔からよく甘えてきた。
小さい頃は、彰の服の裾を掴んで離さなかったし、
大学に行くまでは、居間で
隣に座っては他愛もない話をしていた。

けれど、大人になってからは、
そういう距離感じゃなくなった。

彰のほうも、なるべく線を引くようにしていた。

なのに今さら、こんな風に意識している。

「……アホか」

自分に向けて呟き、髪をかき上げる。

歳の離れた姪に何を考えてる。

シャワーの温度を少し下げ、
火照った頭を冷やすように浴びる。

───沙耶子は、もう寝たやろか。

そんなことを思いながら、
彰は浴室の鏡に目をやった。

そこに映るのは、48歳の男。

けれど、沙耶子が見ていた自分は、
もっと若く見えていたかもしれない。

昔から、幾つになっても変わらないと言われてきた。

それがいいことなのか、悪いことなのかは、
わからないまま。

湯気に曇る鏡を、指でなぞる。

ぼやけた自分の輪郭を見つめながら、
静かに息を吐いた。






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