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転校生登場編
オタクに美少女は不釣り合い?
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「あー…つまんね。」
あと何度、俺はこの台詞を呟くだろうか。惰性であった学校から帰り、いつもの至福に浸ろう。部屋へ入ればそこは…
オタクの聖域、自室。推しのグッズ、ポスター、写真集、ペンライト。全てを網羅した俺の部屋。まさに聖域である。その聖域にて俺はいつも通りネットの波へサーフしに行く。
「今日は更新なしかよ…」
まずは好きなアイドルのブログの更新チェック、だが今日は無更新だ。仕方ない、次だ。YouTube(人はこれをようつべという)を開き、公式が提供したライブ映像を流す。そしてコール。ライブで聞こえるそれに劣らない熱々のコールをする。ストレス発散、会場との一体感。ああ、素晴らしい!コメ欄の荒れが玉にキズだが…お前ら、仲良くしようぜ…
ひとしきり叫んだ後は、ネットテレビでそのアイドルのバラエティーを見る。
「今日もまいまい可愛いなぁ…」
先ほど聞いていた曲でセンターを務める俺の推し、まいまいこと黒瀬麻衣。絶対的エースとして君臨する彼女だが、バラエティーのノリも良く、面白い。こんなにできた美人、俺はみたことがない。ああ…会いてえ…完全に思考がオタ化していると
「兄ちゃん!飯作ってー!」
まだオタク文化を知らない弟と妹が飯の催促に来た。少しタイミングが悪いがまあいい。両親の帰宅が遅い家庭の長男として面倒は見ないとな。
「おう。ちょっと待っとけよ。」
部屋を出る。また後でな!まいまい!明日の少しの別れを惜しみながら、俺は弟と妹の待つリビングへと向かった。
今日も学校だ。リトルコミュ障の俺はあまり目立たないがむしろその方が楽だ。基本そういうことで疲れたりはしないが…
「よぉ!蒼馬、元気か!」
出た。
「さっきまでは。」いかん、本音が出た…
「おまっ、辛辣な…俺の登場で萎えたか?」
「察せ。」
「ありゃゃ…笑笑」
こいつは遠田シンジ。俺と同じ明石高校2年A組だ。こんな些細な会話が続くのもこいつと、くらいである。まあ、それはこいつも同じオタクであるからだということに起因するのだろうが。しかしこいつはオタクの絶対的イメージである陰キャというイメージをぶち壊すほど明るい性格でクラスでもそれなりに人気である。お調子者だが何だかんだ楽しいやつだ。俺もそれなりに信頼している。
それから俺たちは昨日の歌番組に出ていた推したちについてああだこうだと語り合い、教室に入った。まあ、悪くない時間だった。
二学期の始め、残夏の新緑の香りの残る日の朝のことだった。
HRが始まり、席に着く。窓際の俺の席、その隣は空いている。つまり俺は結構ポツンと1人でいるというわけだ。話しかけられることがなくなるからむしろ歓迎なのだが。HR自体もあまりぱっとしないため
俺は窓から外を見ていた。新緑が眩しく、何となく清々しい。すると、担任からこの時期らしい報告がされた。
「今日は転校生を紹介します!」
クラスが湧いた。男子は女子を、女子は男子を期待して目を輝かせた。(ただし美男美女に限る、これ絶対、という勝手なハードルを加えて)まあ、誰がくるんだろうか。俺自身は半分どうでもよく思っている。どうせ話さないかもしれないしな。
「入ってきてください!」
少し元気の良い指示。そして入ってきたのは…
「藤村飛鳥です。よろしくお願いします。」
残夏の新緑など霞むような、華の美少女出会った。彗星の如く、いや、もはや彗星が落ちてきたかのような衝撃だ。か…可愛い!まいまいと同等くらいじゃねえか!(見た目では)俺の理性が、多分学校の中で始めて揺れている。エモいってこのことを言うのか。なるほど、エモい!教室中も、特に男子が湧いている。これはおそらく、戦争だ。
そんな妄想をしていると、担任が言った。
「藤村さん、席は衛藤君の隣です。あの一番後ろの窓際の彼の隣ですよ。」
は?あいつなんて言った?オレノトナリ?
彗星はどうやらオレの頭に直撃したらしい。なぜなら。そのくらいの衝撃が今、オレを襲っているのだから。
二学期も早一週間が経った。俺は相変わらずの調子で、学園生活を送り帰ってオタクライフを楽しむ、しがない生活を送っている。ただ…1つだけ大きな変化が訪れた。
そう。俺の隣の空席には今、彗星の如く転校してきた超絶美少女が座っているのだ!今まで不動の空席であったそこに、である。俺からすればマジでありえない事態であり、同時にめちゃくちゃ緊張もしている。少し声をかけてくることもあったがその度に驚いてしまう。俺がもし、王道ラノベの主人公であれば華麗に切り返し、今から少しは仲を縮めているのだろうが…何度も言うが、俺はオタクなのだ。オ・タ・ク!全く何を話せばいいのか、検討もつかない。俺のコミュ障の原因の一端でもあるが、オタクという生き物は毎度異性との交流に弱いのだ。話題の共通性もなく、こちらの話題を押し付けるなど言語道断。お陰で俺と彼女の距離は全く縮まらないのだ。
今日もいつも通り登校し、席に着く。当然のようにーいや当然なのだがー彼女はそこに座っている。当然挨拶はできずじまい。こんなぎこちない日常に俺は悩まされるばかりだ。
「転校生、チョー可愛いよな!あの子実はアイドルかなんかだったりして!お前もう声かけた?」
昼休憩、俺は親友のシンジと校舎の屋上で飯を食っている。こいつは呑気に俺の悩みの種である転校生の話題を持ちかけてきた。
「お前な、いきなりあんな子と隣になった俺のみにもなれよ…コミュ障なの知ってるだろ。」
「お前!そこは頑張って話しかけてみろよ!滅多にない大チャンスだぜ!あんな可愛いこと仲良くなってみろ!夢みてえじゃん!」
「それができたら俺にももう少し人脈があっただろうな。」
全く…こっちの心労も御構い無しにこいつは…転校生が現れて一週間。絶対的な存在感と意外な社交力の高さで、彼女はすぐにクラスのマドンナとなった。休み時間ごとに彼女の周りには多くの人が集まってくる。主に女子だ。それもまた俺を、大袈裟ではあるが間接的に苦しめていた。これもオタクの性というもので、異性が周りに集まっているというのは本当にそれだけで心労となる。最近では休み時間は全て睡眠につぎ込む始末。俺のコミュ障も酷くなるなど弊害もすごい。ただこうでもしないとマジでやっていけない…
「しかしよ…隣に人ができたんだぞ?挨拶くらいは…人としてしようとは思わねえか?」
保護者のように、もはや少し心配してシンジが聞いてくる。挨拶すら恐れ多いんだよ。
「それだけでも反吐がでる。怖すぎてな。」
超絶美少女の飛鳥ならば当然だが、うちのクラスの男連中は大概が彼女に好感を寄せている。寄せない方がもはやおかしいかもしれない。それは目の前にいるシンジとて例外ではない。しかしながら美人の覇気からか、或いは互いを牽制しあっているのか、あまり男連中は声をかけることができていないのだ。その中で俺のようなオタク系陰キャが出しゃばって声をかけようものなら、一気にクラスの中で俺をボコる包囲網が出来上がる。擁護するのはせいぜいシンジくらいだろうか。あの超絶美少女に俺が話しかけ、まして釣り合うなど自然の摂理が許さぬ禁忌なのだ。
「オタクに美女は似合わねえ。」
俺は呟いた。
「あら?本当にそうなのかな?」
「そうそう。不釣り合いだよ、な?…っておい、シンジ。」
「あ?どした?俺なんか言ったか?」
あれ?誰の声だろうか。一瞬シンジをみたがこいつは空を見てボケーっとしていた。それによく考えろ。声がまず綺麗すぎる。こんな奴に出せるわけがない、っといけない本音が出ているぞ。いやそんな場合では…まさか…
「衛藤君、別に悪くないと思うけどな~?」
なんと、声の主は、あの超絶美少女、藤村飛鳥であった!俺たちの後ろにいた!
「!!!!!!!ふっ!ふふふふふっ!藤村さん!!!!!!!一体、いいいいっいつからここに!!」
動揺のあまりいつもは出ない大声が出る。多分ここ最近で一番デカイ。
「お前…そこまで驚く?まるでホラー映画みてえじゃねえか、貞○だよ貞○。目の前にいるのは藤村さんな。よう!学校はどうよ?もう慣れた?」
いきなり現れた超絶美少女にここまで自然に会話を持ってくる(よく聞けゃタメ口じゃねえか)お前のその肝っ玉とハイコミュ力の方が最早異常だろ…
「おかげさまで少しは慣れたかな。みんな優しいしすぐに仲良くなれそう!」
「そりゃ良かった。みんないい奴だからな!俺もこいつも!」
そりゃあな…あんた程の美人に優しくしない方が罪だぜ。恐らく、人類史上の中でも割と上位の天罰くだるよ。下手こいたら。
「それよりさ、衛藤君動揺しすぎじゃない?ww私はちょっと外に出てきただけだよ?たまたまそこに2人がいただけで。」
どうやら話の全てを聞いたわけではないらしい。俺が超絶美少女とか言ったのはバレてないようだが、最後の呟きくらいは聞かれただろうか。モジモジし始めた俺に彼女が言った。
「釣り合いとか関係ないよ、ね?みんなで仲良くしようよ?少しずつでいいからさ。」
「そうだぜ、蒼馬。人生万事、縁が大切だっていうだろ?仲良くしよーや!」
「遠田くんいいこと言うじゃん!」
「俺のじーちゃんのモットーでな、俺もこのスタンスで17年間やってきてんだ!ははは!」
屈託無く笑うシンジと微笑む藤村。シンジのやつはどことなく調子に乗ってるように見えるが、それより藤村。意外とクラスに馴染もうとしてるんだな。意外かも。その後も少し話をした。主にはシンジと藤村だが。
青空の下、藤村の人間性に少しだけ迫れた気がする。心地よい風が俺たちをくすぐった。
「さーてと、今日もオタ活しますか。」
弟と妹の飯を作ってみんなで食べ、家事を済ませて風呂に入った後、俺の至福の時間が到来した。今日は推しのまいまいが、ソロでバラエティに特集されるのだ。最近はソロ曲を出すなど1人での活動も精力的だ。一ファンとしてその動向は見逃せない。もうすでにテレビの前でスタンバイしている。そこへ一通のLINEが来る。シンジからだ。
『今日は藤村と話せて良かったな。ただお前…教室でも少しは1人で話しかけてみればいいじゃねえかww俺は保護者でもないからな?頑張れよw』
あいつ…わざわざ今日の祝いにLINEか。まあ悪くはなかったけどな…
『これから善処する。ありがとな』
短文ではあるがきちんと感謝は伝える。まあ、少し距離が縮まったのは事実だ。
そうこうしていると、番組が始まった。キターまいまい!今日も超絶イケてるぞ!早速俺の思考はオタに切り替わる。この姿…誰にも見せるわけにはいかない!(シンジ?知ったことか!)
まいまいのソロ曲!この瞬間を待っていた!彼女の美しい歌声に俺は惹きつけられる。これをリアルのライブで聴きたいぜ…そう思いながら俺はしばしの間彼女に目を奪われていた。ただ、
「少し藤村に似てる気もするかな…」
少しだけ、藤村のことを重ねながら。
今日も学校へ行く。いつもと変わらぬ日常の始まり。ただ今日はすぐにあいつが来る。
「よぉ!昨日のまいまい見たか!?蒼馬!」
「阿保、俺が見逃すわけないだろ。」
いつも通りのシンジの登場。そろそろ飽きてくるぞwwなーんて、今日はこいつを少し歓迎している。昨日のまいまいを語るにはこいつはうってつけだ。
「あのソロ今日は痺れたよ。」
「だよな!まいまい歌もうまいよな!」
「個人的にインタビューとか過去のエピソードも心に残ってる。あの過去があったからこそあの歌もあるのかもな。努力家で一途なまいまいだからこそあれが歌えるって言うかさ。」
「さっすが!やっぱ目の付け所が違うな!ただ以外にバラエティ脳なんだよなぁ、面白いし。」
こんな風にこいつと語らうのも楽しいのものだ。しばらく語り合いながら登校していると…
「おっはよー!衛藤君、遠田君!」
この声は…
「よぉ!藤む…「!!!!!ふっふふっ!藤村ーーーーーーー!!」
お決まりの俺の動揺タイム。その相手はやはり藤村飛鳥。なぜ俺たち(まあ半ばシンジは違うが)陰キャのもとにやってくるんだ!君はもっと陽の光のあるもののところへ行くべきだろうに!
「お前…クラスメイトだそ?相手は貞○じゃねえぞ?」
「うん…ww私もただあいさつしただけなんだけどなぁ…w」
苦笑する藤村。とりあえず空気が変だな。察した俺は
「お…おはよ。」
ぎこちなく挨拶をした。
「あーっ衛藤君が挨拶してくれた!初めてだよ!成長!ていうか私のことさっき呼び捨てしたし!なんか縮まったね!」
「おっ…お前がとうとう人に挨拶を!兄貴嬉しいぞ!」
嬉しそうにする藤村とまるで初めて子供が喋ったのを見た親バカオヤジのようなシンジ。俺とて本気になればこれくらいはするぞ…『本気』出せばな…
「なんか、しばらくいいこと起きそう♪」
「いや、藤村…むしろ何かやばい予感がするぞ…これからマジですごい大災害が起こるかも…」
「シンジ、いい加減殴るぜ?」
「悪りぃ悪りぃww冗談だwただお前が他人にここまでやるとは思わなくてよ。嬉しさの裏返しってやつだよ。」
「なんか2人、兄弟みたいだね。楽しそう!」
「こんなバカ兄貴もちたかねえよ…」
「おいおい…そりゃ手厳しくねえか…」
こんな他愛のない会話をしながら俺たちは教室に入った。あれっ?地味に藤村と初めて一緒に登校したな。
「なんか、俺、変わってきてるかな?不釣り合いだけど…まだマシか?」
なんて、自分のささやかな変化に気付き始める。少しそれはくすぐったい。だけど、悪くない。
ふと外を見ると初秋の綺麗な晴れ空。なんだかいつもより青が綺麗に見えた。
あと何度、俺はこの台詞を呟くだろうか。惰性であった学校から帰り、いつもの至福に浸ろう。部屋へ入ればそこは…
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「今日は更新なしかよ…」
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「今日もまいまい可愛いなぁ…」
先ほど聞いていた曲でセンターを務める俺の推し、まいまいこと黒瀬麻衣。絶対的エースとして君臨する彼女だが、バラエティーのノリも良く、面白い。こんなにできた美人、俺はみたことがない。ああ…会いてえ…完全に思考がオタ化していると
「兄ちゃん!飯作ってー!」
まだオタク文化を知らない弟と妹が飯の催促に来た。少しタイミングが悪いがまあいい。両親の帰宅が遅い家庭の長男として面倒は見ないとな。
「おう。ちょっと待っとけよ。」
部屋を出る。また後でな!まいまい!明日の少しの別れを惜しみながら、俺は弟と妹の待つリビングへと向かった。
今日も学校だ。リトルコミュ障の俺はあまり目立たないがむしろその方が楽だ。基本そういうことで疲れたりはしないが…
「よぉ!蒼馬、元気か!」
出た。
「さっきまでは。」いかん、本音が出た…
「おまっ、辛辣な…俺の登場で萎えたか?」
「察せ。」
「ありゃゃ…笑笑」
こいつは遠田シンジ。俺と同じ明石高校2年A組だ。こんな些細な会話が続くのもこいつと、くらいである。まあ、それはこいつも同じオタクであるからだということに起因するのだろうが。しかしこいつはオタクの絶対的イメージである陰キャというイメージをぶち壊すほど明るい性格でクラスでもそれなりに人気である。お調子者だが何だかんだ楽しいやつだ。俺もそれなりに信頼している。
それから俺たちは昨日の歌番組に出ていた推したちについてああだこうだと語り合い、教室に入った。まあ、悪くない時間だった。
二学期の始め、残夏の新緑の香りの残る日の朝のことだった。
HRが始まり、席に着く。窓際の俺の席、その隣は空いている。つまり俺は結構ポツンと1人でいるというわけだ。話しかけられることがなくなるからむしろ歓迎なのだが。HR自体もあまりぱっとしないため
俺は窓から外を見ていた。新緑が眩しく、何となく清々しい。すると、担任からこの時期らしい報告がされた。
「今日は転校生を紹介します!」
クラスが湧いた。男子は女子を、女子は男子を期待して目を輝かせた。(ただし美男美女に限る、これ絶対、という勝手なハードルを加えて)まあ、誰がくるんだろうか。俺自身は半分どうでもよく思っている。どうせ話さないかもしれないしな。
「入ってきてください!」
少し元気の良い指示。そして入ってきたのは…
「藤村飛鳥です。よろしくお願いします。」
残夏の新緑など霞むような、華の美少女出会った。彗星の如く、いや、もはや彗星が落ちてきたかのような衝撃だ。か…可愛い!まいまいと同等くらいじゃねえか!(見た目では)俺の理性が、多分学校の中で始めて揺れている。エモいってこのことを言うのか。なるほど、エモい!教室中も、特に男子が湧いている。これはおそらく、戦争だ。
そんな妄想をしていると、担任が言った。
「藤村さん、席は衛藤君の隣です。あの一番後ろの窓際の彼の隣ですよ。」
は?あいつなんて言った?オレノトナリ?
彗星はどうやらオレの頭に直撃したらしい。なぜなら。そのくらいの衝撃が今、オレを襲っているのだから。
二学期も早一週間が経った。俺は相変わらずの調子で、学園生活を送り帰ってオタクライフを楽しむ、しがない生活を送っている。ただ…1つだけ大きな変化が訪れた。
そう。俺の隣の空席には今、彗星の如く転校してきた超絶美少女が座っているのだ!今まで不動の空席であったそこに、である。俺からすればマジでありえない事態であり、同時にめちゃくちゃ緊張もしている。少し声をかけてくることもあったがその度に驚いてしまう。俺がもし、王道ラノベの主人公であれば華麗に切り返し、今から少しは仲を縮めているのだろうが…何度も言うが、俺はオタクなのだ。オ・タ・ク!全く何を話せばいいのか、検討もつかない。俺のコミュ障の原因の一端でもあるが、オタクという生き物は毎度異性との交流に弱いのだ。話題の共通性もなく、こちらの話題を押し付けるなど言語道断。お陰で俺と彼女の距離は全く縮まらないのだ。
今日もいつも通り登校し、席に着く。当然のようにーいや当然なのだがー彼女はそこに座っている。当然挨拶はできずじまい。こんなぎこちない日常に俺は悩まされるばかりだ。
「転校生、チョー可愛いよな!あの子実はアイドルかなんかだったりして!お前もう声かけた?」
昼休憩、俺は親友のシンジと校舎の屋上で飯を食っている。こいつは呑気に俺の悩みの種である転校生の話題を持ちかけてきた。
「お前な、いきなりあんな子と隣になった俺のみにもなれよ…コミュ障なの知ってるだろ。」
「お前!そこは頑張って話しかけてみろよ!滅多にない大チャンスだぜ!あんな可愛いこと仲良くなってみろ!夢みてえじゃん!」
「それができたら俺にももう少し人脈があっただろうな。」
全く…こっちの心労も御構い無しにこいつは…転校生が現れて一週間。絶対的な存在感と意外な社交力の高さで、彼女はすぐにクラスのマドンナとなった。休み時間ごとに彼女の周りには多くの人が集まってくる。主に女子だ。それもまた俺を、大袈裟ではあるが間接的に苦しめていた。これもオタクの性というもので、異性が周りに集まっているというのは本当にそれだけで心労となる。最近では休み時間は全て睡眠につぎ込む始末。俺のコミュ障も酷くなるなど弊害もすごい。ただこうでもしないとマジでやっていけない…
「しかしよ…隣に人ができたんだぞ?挨拶くらいは…人としてしようとは思わねえか?」
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「それだけでも反吐がでる。怖すぎてな。」
超絶美少女の飛鳥ならば当然だが、うちのクラスの男連中は大概が彼女に好感を寄せている。寄せない方がもはやおかしいかもしれない。それは目の前にいるシンジとて例外ではない。しかしながら美人の覇気からか、或いは互いを牽制しあっているのか、あまり男連中は声をかけることができていないのだ。その中で俺のようなオタク系陰キャが出しゃばって声をかけようものなら、一気にクラスの中で俺をボコる包囲網が出来上がる。擁護するのはせいぜいシンジくらいだろうか。あの超絶美少女に俺が話しかけ、まして釣り合うなど自然の摂理が許さぬ禁忌なのだ。
「オタクに美女は似合わねえ。」
俺は呟いた。
「あら?本当にそうなのかな?」
「そうそう。不釣り合いだよ、な?…っておい、シンジ。」
「あ?どした?俺なんか言ったか?」
あれ?誰の声だろうか。一瞬シンジをみたがこいつは空を見てボケーっとしていた。それによく考えろ。声がまず綺麗すぎる。こんな奴に出せるわけがない、っといけない本音が出ているぞ。いやそんな場合では…まさか…
「衛藤君、別に悪くないと思うけどな~?」
なんと、声の主は、あの超絶美少女、藤村飛鳥であった!俺たちの後ろにいた!
「!!!!!!!ふっ!ふふふふふっ!藤村さん!!!!!!!一体、いいいいっいつからここに!!」
動揺のあまりいつもは出ない大声が出る。多分ここ最近で一番デカイ。
「お前…そこまで驚く?まるでホラー映画みてえじゃねえか、貞○だよ貞○。目の前にいるのは藤村さんな。よう!学校はどうよ?もう慣れた?」
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そりゃあな…あんた程の美人に優しくしない方が罪だぜ。恐らく、人類史上の中でも割と上位の天罰くだるよ。下手こいたら。
「それよりさ、衛藤君動揺しすぎじゃない?ww私はちょっと外に出てきただけだよ?たまたまそこに2人がいただけで。」
どうやら話の全てを聞いたわけではないらしい。俺が超絶美少女とか言ったのはバレてないようだが、最後の呟きくらいは聞かれただろうか。モジモジし始めた俺に彼女が言った。
「釣り合いとか関係ないよ、ね?みんなで仲良くしようよ?少しずつでいいからさ。」
「そうだぜ、蒼馬。人生万事、縁が大切だっていうだろ?仲良くしよーや!」
「遠田くんいいこと言うじゃん!」
「俺のじーちゃんのモットーでな、俺もこのスタンスで17年間やってきてんだ!ははは!」
屈託無く笑うシンジと微笑む藤村。シンジのやつはどことなく調子に乗ってるように見えるが、それより藤村。意外とクラスに馴染もうとしてるんだな。意外かも。その後も少し話をした。主にはシンジと藤村だが。
青空の下、藤村の人間性に少しだけ迫れた気がする。心地よい風が俺たちをくすぐった。
「さーてと、今日もオタ活しますか。」
弟と妹の飯を作ってみんなで食べ、家事を済ませて風呂に入った後、俺の至福の時間が到来した。今日は推しのまいまいが、ソロでバラエティに特集されるのだ。最近はソロ曲を出すなど1人での活動も精力的だ。一ファンとしてその動向は見逃せない。もうすでにテレビの前でスタンバイしている。そこへ一通のLINEが来る。シンジからだ。
『今日は藤村と話せて良かったな。ただお前…教室でも少しは1人で話しかけてみればいいじゃねえかww俺は保護者でもないからな?頑張れよw』
あいつ…わざわざ今日の祝いにLINEか。まあ悪くはなかったけどな…
『これから善処する。ありがとな』
短文ではあるがきちんと感謝は伝える。まあ、少し距離が縮まったのは事実だ。
そうこうしていると、番組が始まった。キターまいまい!今日も超絶イケてるぞ!早速俺の思考はオタに切り替わる。この姿…誰にも見せるわけにはいかない!(シンジ?知ったことか!)
まいまいのソロ曲!この瞬間を待っていた!彼女の美しい歌声に俺は惹きつけられる。これをリアルのライブで聴きたいぜ…そう思いながら俺はしばしの間彼女に目を奪われていた。ただ、
「少し藤村に似てる気もするかな…」
少しだけ、藤村のことを重ねながら。
今日も学校へ行く。いつもと変わらぬ日常の始まり。ただ今日はすぐにあいつが来る。
「よぉ!昨日のまいまい見たか!?蒼馬!」
「阿保、俺が見逃すわけないだろ。」
いつも通りのシンジの登場。そろそろ飽きてくるぞwwなーんて、今日はこいつを少し歓迎している。昨日のまいまいを語るにはこいつはうってつけだ。
「あのソロ今日は痺れたよ。」
「だよな!まいまい歌もうまいよな!」
「個人的にインタビューとか過去のエピソードも心に残ってる。あの過去があったからこそあの歌もあるのかもな。努力家で一途なまいまいだからこそあれが歌えるって言うかさ。」
「さっすが!やっぱ目の付け所が違うな!ただ以外にバラエティ脳なんだよなぁ、面白いし。」
こんな風にこいつと語らうのも楽しいのものだ。しばらく語り合いながら登校していると…
「おっはよー!衛藤君、遠田君!」
この声は…
「よぉ!藤む…「!!!!!ふっふふっ!藤村ーーーーーーー!!」
お決まりの俺の動揺タイム。その相手はやはり藤村飛鳥。なぜ俺たち(まあ半ばシンジは違うが)陰キャのもとにやってくるんだ!君はもっと陽の光のあるもののところへ行くべきだろうに!
「お前…クラスメイトだそ?相手は貞○じゃねえぞ?」
「うん…ww私もただあいさつしただけなんだけどなぁ…w」
苦笑する藤村。とりあえず空気が変だな。察した俺は
「お…おはよ。」
ぎこちなく挨拶をした。
「あーっ衛藤君が挨拶してくれた!初めてだよ!成長!ていうか私のことさっき呼び捨てしたし!なんか縮まったね!」
「おっ…お前がとうとう人に挨拶を!兄貴嬉しいぞ!」
嬉しそうにする藤村とまるで初めて子供が喋ったのを見た親バカオヤジのようなシンジ。俺とて本気になればこれくらいはするぞ…『本気』出せばな…
「なんか、しばらくいいこと起きそう♪」
「いや、藤村…むしろ何かやばい予感がするぞ…これからマジですごい大災害が起こるかも…」
「シンジ、いい加減殴るぜ?」
「悪りぃ悪りぃww冗談だwただお前が他人にここまでやるとは思わなくてよ。嬉しさの裏返しってやつだよ。」
「なんか2人、兄弟みたいだね。楽しそう!」
「こんなバカ兄貴もちたかねえよ…」
「おいおい…そりゃ手厳しくねえか…」
こんな他愛のない会話をしながら俺たちは教室に入った。あれっ?地味に藤村と初めて一緒に登校したな。
「なんか、俺、変わってきてるかな?不釣り合いだけど…まだマシか?」
なんて、自分のささやかな変化に気付き始める。少しそれはくすぐったい。だけど、悪くない。
ふと外を見ると初秋の綺麗な晴れ空。なんだかいつもより青が綺麗に見えた。
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無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
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