オタクの俺が彗星の如く現れた美少女に以下略

Asuka

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転校生登場編

オタクも意外とハイスペック

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俺を取り巻く日常が、彗星の如く現れた美少女、藤村飛鳥によって少しずつ変わりつつある。俺もどこか明るくなったとシンジに言われている。
そんなある日のこと、今日は球技大会の日である。高校生にもなって球技大会といささか子供っぽいと俺は思ってしまうが、周りはそれなりにこの日を楽しみにしていたようで、朝から少し興奮している。
「今年はソフトボールだってよ!楽しみだなぁ!」
着替えていると、隣でシンジが言った。こいつはそれなりに運動もできるため、今日が楽しみで仕方ないらしい。俺も決して運動音痴というわけではないが、やはりこの行事は子供っぽいと、どこか敬遠していた。
そこへ、ある生徒が俺たちのところに来た。
「よう。衛藤と遠田、だな。今年から球技大会がソフトボールになったんで、俺としてはちと本気で挑みたいんだ。お前らも全力で頼むぜ。」
彼は中田悠介。明石高校ソフトボール部で、3年生の引退からは、部長を務めている。なるほど、球技大会とて妥協もなしというわけか。他クラスにもソフトボール部がいるためそいつらと競うつもりなんだろう。
「あったりまえよ!お互い頑張ろうぜ!」
「頼もしいな。」
シンジと中田が互いの健闘を祈りあう。俺も心の中で彼らの健闘を祈った。

外はまだ残暑が残り、曇っていることも相まってどことなく蒸し暑く、球技大会には気が進みにくかった。雨が降っていないだけマシだが。
既に全組が揃い、各クラスで2つのチームに分かれている。3クラスあるため6チームのトーナメント形式でくじの結果C組の生徒はシード権を得た。俺たちA組は最大で3回試合をするようだ。
俺とシンジは別のチームになった。まあ、あいつならそれなりに活躍するだろう。一方中田とは同じチームであった。ここで、彼が集合をかける。そしてチームで円陣を組む。
「お前ら!今日は絶対勝つぞ!」
「おう!」
彼は普段からクラスの中心メンバーのリーダーなので、こういう円陣のノリもすぐに作り出せる。主将も任されているが、彼は適任と言えるだろう。
試合前、藤村が俺に声をかけてきた。
「今日は頑張ってね!応援してるよ!」
女子は応援で、どうやらチアもするらしい。彼女もチアの格好をしている。可愛い…って本音がまた出ているぞ、俺。そんな藤村の存在から、俺たちはかなり盛り上がっている。
「藤村さんが応援してるぞ!お前ら!マジで勝ちに行くぜー!」
「俺らには藤村さん率いる女子たちがいるからな!負けられねえぞ!」
すげえやる気…てか半分以上藤村の効果じゃねえか…
こうして、球技大会が幕を開けた。

初戦はB組2チーム。主将、中田のホームランもあって、圧勝であった。俺も二安打と、健闘したようだ。
二回戦はシードのC組1チーム。両ピッチャーがなかなか譲らぬ激闘だった。しかし、俺が安打で出塁すると、中田がまたしてもホームランを打ちサヨナラで勝った。こいつ、今日の猛打賞だな。主将として大活躍する中田に、チームも応えていった。
そして迎えた、決勝戦。相手はC組2チームで、シンジたちA組2チームが負けた相手である。相手のピッチャーはソフトボール部で、4番キャッチャーの中田と、バッテリーを組むエースの斎藤拓也だという。
「斎藤か…燃えるな!」
中田はかつてないほどの闘志を見せていた。
初回は斎藤のピッチングに、ほぼ全員が圧倒された。まず球が比較にならないくらい速く変化球も鋭い。それらを緩急つけて投げてくる彼に、あっという間に三者凡退を喫した。
「お前ら、まだ大丈夫だ!ここを守り切ろうぜ。次の俺の打席で、変えてやる!」
中田がチームを鼓舞する。打順の変更により3番だった中田が今回は4番である。本来のポジションで相手をするつもりだ。その次に俺の打席である。
斎藤はバッティングも強く、3番として打席に立ち、いきなりタイムリーを放った。一点で済んだもののこの失点は大きい。続く打者をどうにかアウトにし、二回に入った。
ここで、うちのクラスの女子たちが応援をしてくれる。藤村もいた。
「みんな頑張って!まだここからだよ!」
次は中田から、こいつなら何か変えてくれるだろう。
「かかって来いや!拓也!」
「行くぜ。悠介。」
1球目はストレート、中田が反応するもファールだ。ただ、1球目から合わせてくるため、希望が見えてきた。
続く2球目。カーブ。
「これだ…!」
中田はフルスイングした。打球はセンターの頭上を越える、ツーベースヒットだ。得点圏にようやくランナーが立つ。
「よっしゃー!」
彼も嬉しそうだ。斎藤もしてやられたりといった表情をしている。同時に、全力で俺を抑える気だ。このタイミングで打席が来るとは…目立ってしまうなぁ…

俺の打席の初球もストレート。速い!中田こそ反応してのけたが、俺は目で追うのに手一杯だった。
「落ち着いて、自分のできる球だけに絞ってみな!」
中田がアドバイスをくれる。ベンチからも声援が届く。
2球目もストレート、今度はファールだ。しかし、タイミングは合ってきている。配球を察するに…次は…やべえ緊張する…
不安で押しつぶされそうになったその時、
「衛藤君!頑張って!」
藤村の声が聞こえた。彼女は俺に向かって、応援してくれたのだ。俺なんかのために…こりゃ、頑張るしかないじゃないの…勝ってやるよ…こいつに。
3球目、俺が予想した通りののスライダー。こりゃ打つしかない!思いっきりフルスイング。
打球は、レフト線を超えて校舎の端近くまで飛んだ、中田はガッツポーズで生還する。そして俺もスライディングで帰ってきた。ホームランだ。
「いいぞ!衛藤!」
ベンチのみんなも湧き上がる。逆転だ。俺も相当舞い上がっているが、まぐれのような気もした。しかし、確実なのは、藤村のおかげでもあるということだ。
俺たちはその点差を守りきり、優勝した。試合後、斎藤と中田が固い握手を交わした。大一番だっただけに、周りからも拍手が起きた。そして、この大会のMVPはもちろん中田…ではなく、なんと、俺だった…
おいおいどういうつもりだ…?
「今回のあの逆転ホームランに、俺は痺れたぜ!衛藤!お前のおかげで勝てたからな!ありがとよ!衛藤!」
中田が俺の肩を組んで、ひっきりなしに褒めてくる。
「いよっ!今日のヒーロー!すごかったぜ!あの逆転ホームラン!」
シンジも反対側から肩を組んでくる。重い…
「お前もそう思うか!?遠田!いや、シンジ!」
「もちろんだ!今日のヒーローはこいつだよ!悠介!」
こいつらはいつの間にか互いを下の名前で呼び合っている。どっからそんなコミュ力が生まれんだよ。羨ましい限りだ。
「すごかったよ!衛藤君!かっこよかった!あのホームラン!」
藤村が駆け寄ってきた。
「おおっ!お前藤村さんから褒められて!羨ましいなぁ~。」
中田が茶化してくる。お前も褒められて然るべきだろうが…事実、こいつはすぐに女子に取り囲まれていたしな。
ただ、満面の笑みを浮かべる彼女をみて、悪い気はしなかった。彼女がハイタッチをしようと手を出してくる。俺はそれに応えた。
今日の球技大会、悪くはなかった。何よりオタクも意外とハイスペックなもんだな。と我ながら思った。

球技大会から数日の間、俺はヒーローとしてクラスの人気者と化していた。元来、こういうことに慣れていない俺は、本当に苦労している。なんのスポーツもしていないことが逆にすごいと、余計に注目を浴びる始末。ただでさえ隣の藤村とようやく打ち解けてきて、それに慣れなくてはならないのに、迷惑な話だ。以前ほどのコミュ障は発動しなくなったが、まだ大勢と話すのには慣れなかった。
そして、人間関係も少し変化し、中田と距離が縮まった。シンジが仲良くなった影響が強いが、俺たちが中田も含めた3人で帰る日も多くなった。中田は意外と打ち解けやすく俺もまた1人友人ができたのが素直に嬉しかった。
しかし、変わっている日常になれるのはやはり心労が溜まるもので、今日はというと、1人で屋上に来ている。昼休みはシンジと食べるのだが、シンジが察してくれたのか、1人にしてくれた。あいつの気遣いに感謝しながら、屋上にて横になる。風が気持ちいい。俺はゆっくり気を休めた。
…どうやら少し寝ていたらしい。目を覚ますとさっきまでの青空…ではなく俺の顔を覗き込む藤村が眼前に迫っていた。
「っおい!藤村!」
「あっ、もうほとんど動揺してないね!おはよ!衛藤君!寝顔、可愛かったよ!ww」
「やっぱ見てたのかよ…」
「貴重なものを見せてもらったわ。」
そう言って微笑む彼女。こいつがいきなり現れてももう動揺することはなくなった。球技大会の日から、こいつとも少しずつ距離が縮まってきていて俺から話しかけられるようにもなっている。相変わらず少しは緊張するものだが。オタクの俺も、少しずつ外交的になっているな。
「最近、みんなといること増えたよね?やっぱりあのホームランで自信ついたの?」
「まあ、あれはまぐれだし…正直俺は今の感じはあまりよくはないかな…目立つし…」
「いいんじゃないの?少しは表に出てみても。」
「その、俺が表に出てきてもいいことないだろうし…相変わらずコミュ障も残ってるからな…気が進まなくて…」
「そんなことないよ!遠田君とは仲良くやってるし、最近は中田君とも仲良くしてるじゃん。変わってるよ、衛藤君は。」
「そんなこと…」
「ある!」
藤村が強く言った。いつになく真剣な眼差しだ。
「もっと自分に自信持ちなよ!衛藤君はモジモジしてるより、今の頑張ってる方がかっこいいよ!オタクでもコミュ障でもいいじゃん!私は別に嫌いじゃないよ!?衛藤君のこと!」
「藤村…」
彼女の珍しい激励に、俺も少し心を動かされた。藤村も、こんな風になるんだ…
「自分の努力は認めなよ?」
最後に彼女はそう言った… 。その時、静けさを砕くチャイムが鳴り響いた。
「そろそろ教室に戻らないとね。そうだ、一緒に行こ!」
「いいよ。」
俺と藤村は一緒に立ち上がる。
「あの、藤村。」
俺は彼女に声をかけた。
「何?」
「その、ありがとな。少し自分に自信ついたよ。」
「どういたしまして♪衛藤君は今の方が絶対かっこいいよ!」
そう言って笑顔で俺の前を歩く藤村。
その背中は少し大きく見えた。
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