廻って異世界

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村造りシミュレーション

第72話 地上に出るまでがダンジョン攻略

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 ダンジョン脱出作戦は驚くほど順調だった。
 雛菊達が言うように、ダンジョンが低稼働状態と言うことなのだろう。
 大した数の小鬼はおらず、たまに見掛けても居眠りをしている。
 杉本さん達が、

「こんな状況は初めてです」

 と言うからには、雛菊の拠点バージョンアップは効果的だったんだろう。
 ただし、眠りこけている小鬼も、近くを通ると目を覚ますらしく、他の人間が警戒している中で、近付いた雛菊が驚かされると言う事件はあった。
 ただし、足を挫いたからと俺に抱っこをせがんだ点から、わざとだと思っている。

 行程としては、上の層の中継基地へ行く。
 中継基地から、その上の層へ帰還行動中であると連絡を入れてもらう。
 次の層へ向かう。
 と言うルーチンの繰り返し。

 そんな帰還作戦中だったのだが、ダンジョン第1層。
 出口間際で、問題が発生した。
 油断大敵と言うことだろうか。

「……ダンジョンを出る前に良いかしら?
 どうにも気になっていることがあるの!」

 声を上げたのはジュエルズアンバー。
 つまり、従姉の琥珀さんである。

「正直、違和感はあった。
 ハルくんが、私を琥珀さんって呼んでいる。
 見た目は……、そのままだと思うけど……。
 極めつけは、今日の行動よ!
 5層からここまで、ずっと雛菊を抱っこしていて、息切れもしていない!」

 色々とおかしい。
 見た目こそ、一番違うと思っている。
 運動もしていなかったから、ぽっちゃり体型だったし、日焼けするほど外で遊んだ経験もないから色白だった。
 大体、おでぶのハルくんとバカにしていたのは、琥珀さんだ。
 どうしたものかと、菅沼さんへ視線を向ける。

「ごめんなさいね?
 私達は、正直昔の晴彦君について、詳しくないの。
 出来れば、どういう風に違うのか教えてくれるかしら?」

 ありがたい。
 こっちの意図を汲んで、琥珀さんの違和感を確認してくれた。

「……ええ良いわ。
 まず、ハルくんは私を琥珀さんなんて呼ばないの!
 琥珀お姉ちゃんと呼んでいたわ!」

 琥珀さんの主張に全員がこっちへ視線を向けてくる。

「小さい頃は、琥珀お姉ちゃんと呼んでいたけど、中学入るくらいの時期から、そう呼ぶなと言われました。
 お前みたいなデブの身内扱いは迷惑だって……」
「……まあ、あり得るのかな?」
「……ええ。
 晴彦さんの言い分が正しそうな気がします」

 菅沼さんも杉本さんも俺の言い分を信じてくれたらしい。
 多分、地上で俺の写真かなにかを確認しているんじゃないかな?

「……嘘よ!
 私を琥珀お姉ちゃんと呼んでいたわ!」

 何故、そんな嘘を付くんだ?
 攻略部隊の仲間の前で、俺を小馬鹿にしていた事実を知られたくない?
 それにしては、このタイミングで?
 黙っていれば、特に問題になることもなく、解散できただろうに?

「そもそも、今の俺と見た目が同じってことはないよ。
 俺自身、ここで生活するようになって、一気に痩せたって、自覚があるのに……」
「そうね……。
 私達もそれについては違和感を感じる。
 湖で初めてあった時に、アンバーは彼が晴彦さんだと気付かなかった。
 記憶を混濁させているような印象ね」

 クォーツさんが指摘する。
 記憶の混濁か……。
 確かにそんな印象だけど、記憶の混濁って何の前触れもなく起こるものかな?
 しかも、短期間に?

「……記憶の混濁」
「例えば、頭を強く打ったりして、一部の記憶がなくなると前後の記憶から整合性を取ろうとすることがあるわ。
 あるいは非科学的だけど、強力な刷り込みがされたら、それに合わせて自身に都合の良い記憶を造り出すことも……」

 そう言えば、拠点に案内した時に、琥珀さん倒れたな?
 その時に頭を打ったのか?

「ちょっと待って!
 何故、私がおかしいみたいな話になっているの!
 そこの男が、本当にハルくんか怪しいって言ってるのに!」
「……」
「……」

 琥珀さんの文句に、お互いに相手をするように目配らせが飛び交う攻略部隊の面々。
 俺は全力で知らん顔を決め込む。
 仮に俺自身に身の潔白を証明しろって言われても困る。
 何せ最近まで自分を転生者と思い込んでいたくらいだ。
 証明出来るとしたら、雛菊くらいで……。
 そう言えば、雛菊が異常に静かだな。
 腕の中の雛菊を見ると、寝息をたてて……。
 うん?
 微妙に、怪しいような……。

「本当に寝ているのか?
 これ?」

 唇の端が微妙に動いているし、目尻も怪しいような?
 ……よし。

「雛菊。
 愛しているよ……」

 彼女の狐耳を甘噛みしながら呟くと、ヒャャャ! と声を上げて耳を押さえる。
 ……起きてたな。
 狸寝入りだったな。
 つまり、都合が悪いことがあるんだな。

「……ふう。
 雛菊、何やったの?」
「……何のことかしら?
 私、今の今まで寝てたから、いまいち状況が……」
「実は起きていただろ?
 しかも、何かやらかしたとみた」

 ため息混じりの問い掛けに、狸寝入りがバレているのに、この言い分。
 状況が掴めていないと言うよりは、後ろめたいことを誤魔化そうとしているようにしか見えない。

「……雛菊は、琥珀に捏造した記憶を植え付けたですの」
「紅葉!」
「諦めるですの。
 さっさと吐いて楽になるですの」

 隣から答えを言う紅葉を鬼の形相で睨む雛菊。
 なるほど、何かをやらかしたのは確定だな。

「……そこの琥珀ってのはね、昔からハルをバカにしていたのよ。
 魔素濃度が薄い昔の地球じゃ、ハルの身体が弱いのは当然だし、直ぐに息切れするのも自然なの。
 それなのに!」
「……まあ簡単に言うと、雛菊が良くやる逆恨みですの」

 雛菊の恨み節を紅葉がばっさり。
 ……なんか、モンスターペアレントみたいになってる。

「それで、何をしたの?」
「……記憶の捏造」

 ……。
 雛菊の端的な一言に、攻略部隊メンバーを見る。
 ……首を振られた。
 紅葉達を見る。
 ……肩を竦めて見せる。
 すごい。
 たった一言で、困惑の渦で包み込んだよ……。

「さて、どんな記憶を捏造したんだい?」

 出来るだけ優しく話し掛けてみる。
 現状の雛菊は、想定外の事態に心折れ掛けてそうなので、お説教は全部終わってから。

「……能義家と大渕家で海水浴に行って、溺れた琥珀をハルが助けた記憶」
「何でそんな突飛な記憶を……」

 俺に至っては、海水浴なんて行ったこともないのに……。

「だからよ!
 そこのジュエルズクォーツも言ってるでしょ?
 記憶の修正能力って、結構強いのよ。
 数日もすれば、夢だったとでも思うでしょ?
 まあ、少しハルを意識するようにはなったでしょうけどね!」
「イタズラと言えなくもないのかな?」

 そんな簡単に記憶を弄るなとは言いたい。
 けど、年一回程度とはいえ、顔会わす度にこっちを蔑んだ目で視てきた琥珀さんなので、良い気味だと言う悪い感情が邪魔をして、雛菊を責めきれない。

「いやいや!
 対人関係に支障をきたしてるですの!」

 他の人から見たら、そうだよね。
 洗脳と言えるだろう。
 けれど、

「……そんなあからさまな捏造記憶で、俺への扱いが変わるってことはさ。
 それくらい俺に無関心だった証拠じゃない?」

 雛菊の行いは、言わばフェイクニュースを見せたようなもの。
 相手に対する尊重があれば、引っ掛かったりしないよな?
 仮にも従弟に対して、その程度の認識なんだよ。

「待つですの!
 雛菊は、琥珀の性欲が高まるように、魔素吸引能力を引き上げてますの!
 そのせいで……」
「……まあ、記憶は混濁するかな?
 雛菊、琥珀さんへ掛かっている術は解除できる?」

 紅葉に同意して、雛菊にお願いする。

「え、ええ……。
 それが魔素吸引能力は可能だけど、記憶の方は……」

 青い顔をしていた雛菊が、ビクビクしながら、魔素吸引能力の方しか出来ないと申告してくる。
 ……問題ないな。

「良いよ。
 生きていれば、フェイクニュースを見掛けることなんて、珍しくないだろ?
 だけど次からは、俺の許可なしではやらないでね?」
「……お兄?」

 依怙贔屓での雛菊に甘い裁決に、変なモノを見るような紅葉。
 狼を元にしている紅葉は、群れ意識が強いもんな。
 群れを守る上で、不公平な上位者は最悪だろう。

「これから関わることもない血縁関係があるだけの他人だよ?
 何でそんな人のために、雛菊を叱らないといけないんだ?」
「……」

 優先順位の問題だと告げ、琥珀は仲間ではないと口外に伝える。

「……今回はうちの雛菊がすみませんでした。
 今回の一件で、信用度が下がっただろうと思います。
 けど、俺達は外へ出たい。
 卑怯なお願いですけど、協力してくれませんか?」

 葛藤する紅葉は、後回しにさせてもらう。
 もう琥珀に構う気もない。
 だから杉本大尉へお願いをする。

「……少しだけ、第1層の拠点で待機していてくれるかな?
 上の許可を取る」
「杉本さん!」

 あれこれ考えただろう杉本大尉に、ハブられた形の琥珀が文句を言う。

「当然ですよね。
 ……ねえ雛菊。
 琥珀へやった記憶の捏造って、1度にどれくらいの人間に出来るの?
 届く距離は?」
「え、ええっと……。
 ……作った記憶を埋め込むわけだから、1度に1人が限界よ。
 届く距離は、相手を認識すれば大丈夫。
 地球の裏側にいても十分可能ね」

 こんな場面で訊く様子に、最初は戸惑っていたようだけど、直ぐに察したらしく答えてくれる。
 加えて、

「正直、思考誘導の方が楽ね。
 こっちは範囲指定で、範囲内の人間に影響を与えられるわ。
 範囲は、半径1キロくらいね。
 内裏で生活してみた時に影響を与えられたのは内裏プラス数百メートルくらいだから、確実に2キロはないわ」
「……内裏?
 まあ、良いや。
 と言うわけで、ある意味信用に繋がると思いません?
 これ……」

 九尾の狐と内裏と言う物騒すぎる組み合わせはスルーして、俺達と迷宮攻略部隊のどちらが優位かを突き付けることは出来た。
 そして、俺達は必要ならこれを使うことを躊躇わないと宣告する。
 地上を出るまではもうしばらく掛かりそうだ。
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