廻って異世界

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地上での生活

第81話 電車の値段からの……

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「大人1人片道3,500円?
 殆ど、新幹線ね?」
「そうね……。
 大災害前は、新幹線片道3,400円くらいだったから大正解ね。
 在来線だと、1,300円くらいかしら?」

 在来線の1角を占拠。
 ボックス席にして、荷物と男女3人で乗り込んだ俺達。
 3人を代表して切符を購入した夕蔓さんが、眉を潜めていたので、気になったらしい浜名さんが、訪ねた結果だ。

「……やっぱり、大災害の影響かな?
 まさか、こんなに物価が上がっているなんて……」

 雛菊が、俺にお使いを頼んだのは、こういうことを体験させたかった?
 ……あり得るかもしれない。

「物価とは違うと思うわよ?
 この雑誌、500円で買えたわ。
 昔と変わらない値段だと思わない?」

 俺の呟きに答えた夕蔓さんが、差し出してきたのは、コンビニでよく見掛けた週刊誌の類い。
 特別、ページ数が少ない印象はない。

「これが、特別号とかそういう可能性はない?」
「……ないわね。
 多分だけど、乗客が少ないのが原因じゃないかしら?」

 夕蔓さんの言葉に、周りを見回してみたが、確かに俺達以外の乗客はいない。

「……。
 電車の運行数もかなり絞っているみたいね?」

 浜名さんのスマホ越しに、今乗っている在来線の時刻表を見る。
 朝7時~9時、夕方15時~20時は、時間4便が運行している。
 対して、それ以外の時間は2時間に1本程度の便数。
 うちの地元のバスかよ。

「……2時間1本で、この乗客数?
 相当、乗客数が少ないみたいね?」
「だから、これくらいの運賃じゃないと対応できないのか……」

 ……人の移動が少なすぎる。
 本当に公共交通機関が麻痺する寸前みたい。

「……早めに免許取りましょう。
 それか、運転手を雇う必要があると、雛菊さんへ進言するべきかしら?」
「私も免許が欲しいわ。
 早めに取らないと、身動き出来ないことになるわね……」

 浜名さん、夕蔓さんが決意する。
 ……そうだよな。

「俺も免許を……」
「必要ないわね」
「そうよ。
 1人で移動なんて、金輪際ないわ。
 よって、免許は不要よ」

 取ろうと言い掛けたら、ガンガンに圧を掛けられて止められた。
 ……まあ、雛菊とかが心配するかもしれないしな。

「はい……」

 美女2人に詰められたけど、眼力が強くて全然嬉しくない。
 ……うん。
 この雑誌に逃げよう。
 手元にあった雑誌を開きつつ、

「これ読んでも良いかな?
 少し気になるページがあるんだよ……」

 等と言って、話を逸らす。

「道中の暇潰しだから、問題ないわよ?
 適当に数冊買ったやつだもの」
「昔ならスマホのゲームや動画配信でも、観てれば時間潰せたんだけどね?」

 夕蔓さんの許可を貰って、読もうかとしたら、浜名さんが要らんことを言う。
 このパターンは、

「優歌!
 私達は、護衛だって自覚が足りないわよ!」

 案の定、カミナリ案件になる。

「ごめんなさい」

 まあ、ガラガラの公共交通機関ってことは、かなり安全が確保されているようなものだからな。
 浜名さんが気を抜くのもしょうがない。

「本当に、自覚が足りないのだから……」
「まあまあ、そう怒らないで、夕蔓さんも少し気を抜こう?
 今から、それじゃあ疲れてしまうよ?」

 かなり怒り心頭モードの夕蔓さんを宥める。
 目的地まではさほど遠くないけど、それから半月は、この3人で行動なのだから、少し気を抜くくらいで良いと思う。

「……そうね」
「だろう?
 ……?」

 ……訳が分からないよ。
 雑誌の表紙を確認する。
 うん、昔からある週刊誌だ。
 やや女性向けではあるけど、社会ニュースとかも普通に載ってるタイプの……。

「男性に受ける秘訣?
 異性の目を引くファッション?
 ……ファッション誌みたいなラインナップだな。
 占いとかは昔からあったけど……」
「……まあ、今の女性の関心ってそこが一番大きいから」

 目次を見て首を傾げる俺に、苦笑する浜名さん。
 正直、

「それにしても、ファッション誌とかで載せる内容だと思うけど?」

 と呟いたら、

「ファッション誌ね?
 そういうのは、結構廃刊してるわよ?」
「男性の数が少ないから、ファッションにお金を掛ける人も減ってるのよね?
 だから、普通の週刊誌が、ファッション誌の真似事をしてるのよ……」

 暗く笑う2人。
 やっぱり、男性不足の影響は深刻そうだ。
 男性向け雑誌だけじゃなくて、ファッション誌も煽り食らってるらしい。
 そこに進出してくる一般週刊誌、……違うか。
 ファッション誌がないから、代わりに流行を生み出そうと必死な気がする。
 そういえば、明治時代とかに発売されてたこの手の雑誌は、ファッションについても描かてれたんだっけ?

「……ああ、迷宮探索者養成学校の記事がある。
 今年の春からか……」

 とにかく、これも女性陣へのダメージが入りそうなので、話を逸らそうとしてちょうど良い話題があった。

「来年から、此処に入って学生やり直しになる予定なんだよな……。
 3年在籍で高卒相当として扱われるらしい!
 これはありがたいな!」

 努めて、明るく話す。
 俺達にとってタイムリーな話題だったから。

「そうなんだ。
 順当に行けば、私達も美尾くんに同行して入学だから、卒業資格を得られるかしらね?」
「……そうね。
 そのためにも、しっかり媚びを売っとかないと」

 2人も冗談を返してくれる。
 良かった。
 話題変更成功だ。

「いっそのこと、私も美尾くんの愛人にでも、立候補しようかしら?」

 ……珍しいな。
 夕蔓さんが、こんな冗談を言うなんて、

「嬉しいけど、夕蔓さんなら俺なんかよりも良い人と縁が出来るって……」

 言ってから気付いた。
 これ、ダメなヤツだ。
 今のご時世、男との縁を得るのがどんだけ難しいか……。
 予想通り、夕蔓さんが再び暗い顔に。
 浜名さんも抗議の視線を向けてくる。

「ごめん、悪気はなくて……」
「大丈夫……。
 けど、美尾くんは私に良い結婚相手が出来ると言ったわよね?
 それを信じて、誰にも相手にされなかったら、どう責任を取ってくれるかしら?」

 不思議だ。
 夕蔓さんってこんな人だったっけ?
 妙に積極的と言うか……。
 やはり、夕蔓さんみたいな真面目なタイプでも、結婚とかに強く惹かれるほど男女比の差は、意識の変化に大きな影響をもたらした。
 ……一瞬、悲しそうな琥珀と紅葉の顔が脳裏に浮かぶ。

「俺じゃあ大して役に立てないけど、せめて生活が安定するように、護衛の雇用を無期限にするとか?」

 それくらいしか思い付かない。
 多分、漫画とかにあるように、女性の多くは人工授精で、子供を造る世界にシフトしていくんだろうから、ひとり親でも子供数人を育てられるように、雇用を安定させ……。

「……」
「……ないよ。
 晴彦くん、それはないよ?
 眞緒ちゃんなりに、頑張って誘惑してるよ?
 これ?
 なのに、生活を保障しますはないよ?」

 無言で沈黙した夕蔓さんに代わり、隣の浜名さんがクレームを入れる。
 だってな……。

「いやさ、男が少ない世界になったからって、俺なんかがモテるわけないだろ?
 多分、夕蔓さんは俺に触られるのだって、あまり嬉しくは……」

 ガバッと何かが口を塞いだ。
 目の前には、真剣な表情の夕蔓さんの瞳。

「……私は晴彦くんに触れるの嫌じゃないよ?
 だから、こういうことも出来る。
 大災害の前から、ずっと好きだったの。
 大柳さんが羨ましくて、仕方がなかった。
 雛菊さんがチャンスをくれて本当に嬉しかったんだ。
 ……晴彦くんは、私のことをどう思っている?」
「……」

 ……言葉が出なかった。
 俺なんかがモテるわけないと思っていたし、むしろ、クラスメイトとして認識していてくれたことが嬉しかったほどなんだぞ?

「……急にごめんなさい。
 晴彦くんは、私のことを意識したこともなかったよね?」
「……こっちこそ、ごめん。
 夕蔓さんが、俺なんかを好きになってくれたことに驚いて……」

 本当に驚いた。
 俺みたいなヤツを好きになってくれる人がいるなんて……。

「いやさぁ?
 晴彦くんは意外に人気あったよ?
 困ってる仕事やいやな仕事は、率先してやってくれてたよね?
 小太りとは言え、清潔感はあったし……。
 大柳さんが、結構ガチで牽制してたんだけど、気付かなかった?」
「いやな仕事って、俺でもクラスメイトの役に立ちたいからだし、清潔感は病弱だったから、少しでも病気を防ぐためだったんだけど……」

 浜名さんの意外な言葉に戸惑う。
 それと、

「大柳さんの牽制って?」

 と言うのが気になった。
 どちらかと言うと、大人しい感じだったけど……。

「眞緒ちゃんとか、同じ中学の子に訊いて回ってたのよ。
 能義晴彦くんの趣味趣向は? って。
 ハイライト消えた目でね……」

 眞緒ちゃんの横で観てたけど、あれは怖かったよ? 等と笑う浜名さん。
 ……意外だった。
 大柳さんはどちらかと言うと引っ込み思案な性格のように思っていたのだけど……。

 イタッ!

 急に首筋に痛みが、何が?
 って、なったよ。

「晴彦くん?
 今、大柳さんのこと考えるのは、ダメだよ?
 優歌と話すのは許してあげるけど?」

 口から血を流す夕蔓さん。
 どうやら、彼女が噛みついた痛みだったらしい。
 血が出るほどの噛み付きですか。

「雛菊さんと話していて思ったんだけど、晴彦くんって、少し矯正が必要だよね?
 ……大丈夫。
 私、中学までトレーナー志望だったんだ。
 そういうのは得意だから……」

 なんか、怖いこと言ってらっしゃるのですが?

「晴彦くん、いいえ晴彦。
 私、しばらく晴彦がダメなことしたらキスするから」

 はい?
 何がしたいの?
 ダメなことしたら、叱るものだろ?
 夕蔓さん家ではそういう教育方針ですか?

「多分、美尾くんの一番の欠点は、自己肯定感の低さだと、眞緒ちゃんなりに考えた結果な気がするよ……。
 うん……」

 浜名さんへ視線で助けを求めると、微妙な顔で、注釈が入る。

「そして、良いことが出来たら、ご褒美にキスしてあげる」
「あ、これ、眞緒ちゃんがキスしたいだけな気がする……」

 俺もそう思った。
 どうやら、夕蔓さんは本当に俺のことが好きだったらしい。
 ……力ずくで愛情表現されるのってこんな感じなのだろうか?
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