廻って異世界

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地上での生活

第84話 とある記者の受難

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 北野瑞穂《きたのみずほ》は、記者である。
 と言っても、フリーライター。
 取材して作った記事を週刊誌の編集などに買い取ってもらう仕事をしている。
 大きな声では言えないが、大災害ので、政治的な記事や国防関連記事を買い取って貰えやすくなった記者であった。
 そんな彼女の元に、馴染みの自衛隊広報官が、記事を作ってほしいと依頼をしてきたのが先日。
 そして今日、彼女は巨大な狐の前に、正座していた。

「それで九尾の狐様が、私のような木っ端記者にどのようなご用件でございましょうか?」

 冷や汗を、だらだらと流しながら訪ねる。
 名古屋の高級ホテルのスイートルーム。
 自分じゃ、まず宿泊費が払えないような部屋のベッドの上で、寛ぐ巨狐へ必死に遜る。
 前足が自分の上半身くらいありそうな狐だ。
 機嫌を損ねれば、即肉塊だけに慎重そのものである。
 ペンは剣よりも強しとかは、時と場合によると理解せざるを得なかった。

「……自分で記者と名乗ったじゃない?
 なら、私の用件は?」

 見た目の威圧感に対して、思ったよりも柔らかい声が返ってきた。

「……記事を書くことですか?」
「もちろん」

 間抜けな返答にも関わらず、機嫌の良いままの九尾の狐。
 その様子に、話の分かる相手だと安堵する北野。
 強面の不良が仔犬を助けるような感覚を覚えた。
 助けられた仔犬が自分だから、なおのこと、目の前の九尾への警戒が下がってしまう……。

「さて、記事にしてほしいのは彼女達についてよ?」

 奥のテーブルから3枚の写真がふわふわと飛んでくる。
 九尾の狐も魔法が使えるのかと、変な感心をする北野。
 2枚の写真には、それぞれ少女が写っていた。

「黒髪の方は大渕琥珀。
 ジュエルズアンバーね?
 赤い髪の方は見て貰った通り人じゃない。
 狼の魔物が人化したもので、名は紅葉。
 3枚目を見てごらんなさい?」
「な!」

 3枚目には、身体を密着して口付けを交わす琥珀と紅葉が写っていた。

「2人は恋人同士なのよ。
 種族、敵味方を越えたカップル」
「…………」

 想像もしていなかった顔。
 まあ、現在の地上勢は魔物をゲームの敵くらいの感覚でしょうし、愛を育むことが出来る。
 つまり、交渉可能な相手だと言う情報は、驚きだろう?

「そんな2人を応援してあげたくならない?
 全てを懸けて互いを想い合う2人を……」
「……しかし、こんな情報が出回れば、襲撃してきた魔物相手の対応が鈍るのでは?」

 良い着眼点である。
 今までは新しい害獣退治と言う感覚だった対魔物戦が、利害の絡む戦争へランクアップしかねない爆弾。
 この写真にはそれだけの危険性がある。

「懸念はもっとも。
 だけどね?
 迷宮の魔物を仲間に、出来る可能性の示唆は大きいんじゃない?
 将来的に、日本国は迷宮探索を民間へ解放するわよ?
 そうなれば、同じような事例は絶対に生まれる。
 その時、その人間と魔物を迫害すれば、大きな損害でしょ?
 これが受け入れられれば、その悲劇を防げると思わない?」

 北野の目に、急激に力が入る。
 内心、掛かったとほくそ笑む雛菊だが、そんなことはおくびに出さない。

「私は九尾の狐。
 現代じゃ、九尾の狐は世を騒がす邪悪な妖怪として描かれているから、信じられないのは分かるわ。
 けれどね?
 私は、平安の頃はウカ様と呼ばれて、親しまれていたくらい人助けが好きだったの。
 ……協力してくれないかしら?」
「平安? ウカ様? 狐……。
 狐、ウカ?
 宇迦之御魂!
 五穀豊穣の女神様じゃないですか!
 申し訳ありません!
 変な先入観で……」

 穏やかな声で語る雛菊。
 巨狐と優しい声のギャップに、パニック気味な状況で、神様を匂わせる渾名を聴いて、北野の目には、目の前の妖狐が神々しいものに見えだした。
 ……なお、雛菊は自身の尾に魔素を込めて、発光させ始めている。

 加えて、ウカ様などと呼ばれた事実はないが、当時を知るものはいないのだから言った者勝ちと考えている。
 ……欠片も善良性のない悪狐である。

「ただ、どうやったら大衆に受けるかは重要なのだけどね?
 良かれと思ってしたことで、あなたが石を投げられるようでは、私は自分が許せなくなってしまう」
「さすが女神様!
 慈悲深いお方です!」
「……当然のことよ。
 あなたは、政治家や財界に伝はあるかしら?
 彼らも巻き込んで、大々的にキャンペーンをしてしまうのが良いと思うのだけど……」

 純粋な羨望に、若干背中が痒くなる雛菊だが、表に出すこともなく、悪戯を吹き込んでいく。
 ……悪意が芽吹くまでは数日の猶予と言ったところだろうか。
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