廻って異世界

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地上での生活

第85話 胡散臭い占い師と小鬼

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 莧と合流した翌日。
 夜明け前に出立した莧を尻目に、日が登って暖かくなった頃、ホテルを出る。
 観光と言うほどではないが、少し町歩きをしておこうとなったのだ。

「ちょいと、そこの可愛子ちゃん連れのお兄さん?」

 ホテルを出て、琵琶湖沿いに散策でもと思った拍子。
 怪しい占い師に声を掛けられた。
 今時、正気を疑いたくなるような黒い服装の辻占い。
 白ぶち眼鏡の奥には胡散臭い糸目の笑顔。

「晴彦……」

 夕蔓さんが心配そうに声を掛けてくるが、大丈夫。
 こんな怪しい人に、近付く気は……。

「待ったってぇな。
 狐憑きのお兄さん……」

 さすがに足が止まる。
 狐憑き、狐に取り憑かれたような錯乱状態の人間を指す言葉だが……。

「良かったわ。
 幾らお兄さんが、そんな強面狐の匂いさせとっても、川のもんは鼻が利かんえ?
 悪いことは言わんから、ここより湖に近付かんことや」

 間違いない。
 雛菊のことを感知している。
 つまり、

「お姉さんも妖怪ですか?」
「おやおや、妖怪を知ってはるん?
 最近の子は恐がいわぁ。
 そないな化けもんと知って仲ようなるとか、あてなら勘弁ぇ?」

 この言い分……。
 妖怪じゃない?

「あてのことは秘密や。
 で、そっちの嬢ちゃん達が心配してるえ?」
「……美尾くん」
「……晴彦」

 確かに、両サイドの浜名さん、夕蔓さんは不安そうな顔をしている。
  2人を安心させないと。
 どこが安全かを訊いて……。

「……いない?」
「ほんとだ」
「雛菊さんみたい……」

 視線を戻したが、胡散臭い女占い師の影も形もない。

『ホテルも、もう少し琵琶湖から離れたものがお勧めえ?
 ……ほなな』

「テレパシー?
 少なくとも魔法が使えるのは確定だな……。
 ひとまず、ホテルへ戻ろう。
 移動するにしろ、しないにしろ。
 ホテルのスタッフに相談しないと……」
「……そうね」
「……移動先のホテルを見付ける必要があるわね」

 すぐにホテルへ引き返し、フロントへ向かうことにした。
 怪しい占い師に従うのも怖いけど、信じた方が良いと直感がするのだ。

「莧さんへも連絡するわよ?」
「お願い」

 ホテルの自動ドアを抜けつつ、気を利かせてくれる夕蔓さんへ、頼んでおく。

「どうなさいました。
 お客様?」

 ホテルへ駆け込む俺達に、フロントスタッフが声を掛けてくれる。
 ……ありがたい。
 探す手間が省けた。

「すみません、急ですけどホテルを変えたいんです!」
「……何か不備でも?」
「いえそれが……」

 心配そうな顔のフロントスタッフ。
 彼女の問いで、答えに窮する。
 何て言えば良い?
 怪しい占い師に助言されたとは言えないし……。
 琵琶湖に近いので危険とも言えない。

「魔物!」

 !!
 良い回答を考えていた俺達越しに、フロントスタッフの視線はガラス張りの外へ、

「河童?」

 彼女の視線を追った夕蔓さんが呟いたのは、古典的な水妖の名前。
 ……確かに河童に見える。
 裂けた口。
 頭は平たく頂点に毛がない様は、まるで皿を載せているよう。
 餓鬼のように細い手足と丸いお腹。
 そして緑の肌は確かに河童だが……。

「小鬼……。
 ダンジョンの小鬼よ!」
「だよな……。
 間違いない!」

 固まってるホテルスタッフや夕蔓さん達を残して、直ぐに外へ。
 この中で戦えるのは俺だけだろうから……。

 玄関を出ると、同時に両手の指輪から赤青天狐へ戻す。
 左手の青狐で小鬼をスパンッ!と一撃。
 驚いた顔のままガラスから落下する小鬼へ、身体を捻り、そのまま右手の赤狐を腹に叩き込んで、吹っ飛ばす。
 思いのほか景気良く飛んだ小鬼は、近くの壁に激突して消える。

「よし!」

 俺でも一匹なら楽勝なのだ。
 特に赤青天狐は、下級魔物への攻撃力がエグい。
 身体の殆どを魔素で構成されている連中は、一撃毎に身体の密度が減っていく。
 密度が減れば、強度も下がるから、そのまま何処かへ叩きつければ消滅させられるわけだ。

「よし! やない!
 逃げなはれ!」

 完封勝利に喜んでいた俺に、何処からか響く声。
 先ほどの胡散臭い女占い師!

「ああもう!
 こっちや!」
「ちょ!」

 何処からともなく現れた女占い師に手を掴まれて。
 走り出すのは南西方向。
 琵琶湖から遠ざかる。

「2人が!」
「連中の狙いは、あんたや!
 女連中なんぞ、誰も襲わん!」

 ホテルに残したままの2人を心配していたが、占い女に一喝される。
 確かに、ホテルの向こう側、琵琶湖の方からわらわらと上陸してくる小鬼は、ホテルには目も向けずに、こっちへ向かってくる。

「その誘蛾灯を仕舞い!
 何でそんな呪力の塊をブン回しとんねん!」
「誘蛾灯?
 赤青天狐が?」

 俺が持っているものなんて、専用ハリセン赤青天狐しかない。

「そいつは、あんたの呪力を増幅して、排斥力にしてんやろ!
 あんたのけったいな呪力を撒き散らしとんねん!」
「マジか!」

 呪力と言うのが良く分からないが、おそらく魔素のことだと、想定して直ぐに指輪へ戻す。

「……まだ呪力放ってんで!
 何をやってん!」
「そんな覚えは……」

 本当に心当たりがない。

「ちょい待ちや!
 あんた、呪力で身体強化してるやろ!
 もうしゃあない、やっちゃな!」
「へ?」

 焦りまくりの女占い師によって、放り投げられる。
 ……うん、絶対に妖怪だわ。
 じゃなきゃ、こんな怪力はない。
 大の男を空に放り投げるなんて、……空中?!

「ちょ、ま、っと?」

 地面に激突を覚悟した俺だったが、地面から飛んできた巨大狐に咥えられて、そのまま空中散歩に移行することになった。

「妖狐だったわけか……」
『あては、米原から南辺りを縄張りにする璞蔵主《ハクゾウズ》って、妖狐や。
 米原近辺で、風に流されてきたあんたの匂いを嗅いでな?
 念のため、付いてきてん。
 ……しっかり掴まっときぃ、ふりきるさかい』
「……わかった」

 ここはこの妖狐に従うべきだろう。
 あの2人を守ることに繋がるはずだし……。

『ハヒュー!』
「璞蔵主?」
『大丈夫や、あんたが抱きついてきたさかい、匂いで興奮してもうただけや』

 この妖狐に、護衛を委ねるのは、甚だ不安ではあるのだが……。
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