廻って異世界

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地上での生活

第87話 小さな世界

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「ここがあてらの村や。
 まあ言うても、今は棲んどるねぐらは別。
 集会所って感じで使うとるね」

 光が収まると、山の中腹で森だったはずの場所は、木造の家屋が並ぶ村の中央に変わっていた。
 璞蔵主さんの言う通りなら、ここが目的地と言うことだろう。

「基本的には、玉藻前様が拵えた迷宮擬きや。
 本物と違うて時間の流れは外と一緒やし、歩いて10分で一回り出来る程度の大きさやけどな。
 この中は呪力が循環しておんねん。
 呪力が枯れ始めた時期に、あてらの逃げ場として拵えた言うてたな」

 妖狐の隠れ家は、雛菊の造った結界だった。

「ただな?
 ここは何もないんよ。
 呪力が枯れ果てんように、ありとあらゆる生産性が、消失されるように出来とる。
 草木を持ち込んでも育たんし、火も起こせん。
 人は住めんように出来とる。
 呪力が満ちた今は、殆ど誰もおらんわ」

 エネルギーの消失を徹底的に抑えたってことか。

「この中で、呪力が循環しとるからな?
 あんたの呪力の匂いも外には漏れん。
 しばらく、大人しゅうしとき」
「うん?
 それはどういう……」
「鈍いやっちゃな……。
 結界の中はあんたの呪力に満たされるちゅうことやで?
 あてかて発情しかねんのやから、一緒にいるわけにいかんやろ?」

 マジで良い人? だな。
 妖狐って、自己中で欲望に忠実な奴ばかりじゃないんだ……。

「一応、その辺の家屋に暇潰しのオモチャくらいはあるはずやから、適当に暇を潰しとき。
 あては、あんたの同行人へ挨拶して帰るさかい」
「あ、うん。
 ありがとう」

 違った。
 純粋に俺に興味がないだけだったっぽい。
 漫画じゃあるまいし、俺相手にラブコメは始まらないよな。

「ほなな」

 あっさりと帰って行く璞蔵主さん。
 あれだけ怪しい登場して、窮地に助けに来てくれたのに、何事もなく帰って行く……。
 嵐のような人だったな……。

「……ひとまず適当に見て回るか」

 璞蔵主さんが言うように、暇潰しの道具はあるのだろう。
 スマホは案の定圏外だし……。

 一軒目、カルタ発見。
 1人じゃ出来ない。
 と言うか読めないんだけど、いつの時代の奴だよ。
 二軒目、けん玉、ヨーヨー。
 ……ただし、持ち上げた拍子に糸が切れた。
 三件目、特になし。
 強いて言うなら、草書体の古文書みたいのが数冊。
 思わず投げ出して、床に座り込む。

「ダメじゃん!
 時間潰せねぇよ! 璞蔵主さん!」
「時間を潰したいの?
 じゃあさ?」

 !!
 耳元で囁く声に飛び退く。

「お姉さんが遊んであ、げ、る」

 声の主は、女の子。
 見た感じは朧達と同世代だけど。
 プレッシャーのようなものを感じて、思わず一歩後退る。

「まずは、鬼ごっこね?」

 その一歩を目敏く見付けた少女が迫る。
 助走なしで3メートルくらい?
 ……身体強化の魔法は確定だな。
 こっちは左へ大きく前進して、すれ違い様に外へ!
 ドア破壊はしょうがない。

「危な……」
「うん、上手上手。
 じゃあ、……スピード上げよっか?」

 ヤバい。
 グルっと前転して向き直るけどね。
 相手の少女が、本当にヤバい。
 無邪気で、無性に強い子供って、物語に出てくる強敵なパターンだ。
 向かってくる少女をかわすため上へ。
 直立高跳びで家の屋根に乗る。
 身体強化すごいな。
 俺、忍者みたいだわ。
 もっとも、

 ドガッ! と言う音と共に俺の足元の家が大きく揺れるけど……。
 俺が忍者なら向こうは戦車だね。
 ……絶対に勝てない。
 遮蔽物は俺の障害だけど、相手は気にも掛けないわけだし……。

「しょうがない……」

 屋根から飛び降りつつ、赤青天狐を構える。
 これは、日本最強クラスの妖怪すら、相手に出来る武器だ。
 見た目は、漫才のツッコミ役だけど……。

「あら?
 チャンバラごっこ?」
「……」

 未だに余裕そうな襲撃者を見据える。
 相手は遊びのつもりなのが、彼我の実力差を良く現してる。

「じゃあ、最初は軽めに」

 ……ギリ見えた。
 迫り来る少女の拳と、自分の腹の間に赤狐を滑り込ませる。

 ボスンッ! と言う音。
 見た目小学生の、それも右腕だけで放たれたとは思えない重さ。
 反撃は無理……。
 だって、一撃で俺の身体が数メートル飛ばされたんだぞ?
 とにかく、弾かれた形の右手を戻して、次に備えようとして……。
 そして、

「痛あぁ!」

 一瞬遅れて響く少女の声。
 パンチを放ったはずの右手を押さえて、泣き出したのだ。

「酷いよ!
 退屈だって言ったから、お姉ちゃんが遊んであげよう、としただけなのに、そんな危ないもの振り回すなんて!」

 座り込んで、泣きじゃくる少女。
 これは、俺が悪いのだろうか?

「えっと、ごめんね?
 先ほどまで魔物に追い掛けられていてさ、敵が来たとばかりに……」
「……」

 涙目で、こっちを見上げてくる少女。
 公園で同じシチュエーションだと、警察を呼ばれかねない事態だ。

「これ」
「!!」

 少女の右拳は、血まみれで一部白い箇所も見受けられた。
 控えめに言って、スプラッターである。

「ひとまず、治療するね?」

 自分の中の魔素を、両手に集めて少女の右拳を癒そうとしたが、

「証拠隠滅?」

 等と拒否られてしまう。
 ……涙目で睨まないでほしい。

「ち、違うよ!
 痛そうだから、治療を……」
「……無駄だと思うけど?」

 吃りながらの返答になったが、渋々右手を出す少女。
 ……無駄?

「良く分からないけど、とにかく治療するね?
 出来る限りのお詫びはするから……」

 そう言って、魔素を使った治癒術を使う。
 向こう視点だと、遊んであげようとしたのに、怪我をさせられたようなものだし、お詫びはしないとだよな……。
 しかし、

「……治らない」
「無駄でしょ?
 私は鬼だもん。
 他人の呪力を弾く特性があるもん」

 鬼。
 そりゃ怪力なはずだわ。
 妖狐や天狗と並んで、日本でも強い妖怪の代名詞。
 前者2種が術を使うタイプであるのに対して、鬼はフィジカルだけで最強クラスのイメージ。

「どうすれば……」
「手はあるよ?
 私達、鬼は他人の呪力を阻むの。
 だから、他人じゃなくなれば良い」

 どう受け取れば良い?
 まさか、

「結婚すれば、身内だからとかそういう話?」

 脳裏に雛菊を連想しつつ訊ねてみる。

「……大丈夫?
 もしかして、追い詰められているの?
 お姉ちゃんに相談してみる?」

 はい、馬鹿なこと訊いた!
 そんで思いっきり心配されたよ!
 日頃から、雛菊のペースに巻き込まれているせいだ!

「……うん、疲れたら相談乗るからね?
 それでね?
 良ければだけど、血を頂戴な。
 主従関係を結べば、効果が出るようになるから……」
「え……」

 主従関係を結ぶ?
 感じ的に、俺が主の方っぽいけど、良いのか?

「出来る限りのお詫びはしてくれるんでしょ?」
「……分かった」

 なんかとんとん拍子で怖いけど、加害者は弱い立場なんだ。
 人差し指を差し出すと、直ぐ様、口に咥える少女。
 何で躊躇わないんだろう?

「さ、治療しようか……」

 軽い痛みで血を吸われたのを感じた俺は少女の右手を見て、

「……」

 傷1つない綺麗な状態に絶句した。
 次いで視線を少女に向けると、

「テヘッ!」

 可愛らしく、誤魔化し笑いを浮かべるのだった。
 ……もしかして、俺。
 騙されてねぇ?
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