廻って異世界

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地上での生活

第135話 三鷹恭子の思惑

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 ……お子様ですね。
 私の胸元で、悲しむ歳上の男性に私は呆れてしまいました。
 しかし、それを表に出さないように注意しつつ、男性の警戒心を解くように頭を撫で続けます。

 この美尾晴彦さんと、アンバーメープルの関係性は知っているんです。
 無論、詳しい実情は分かりませんでした。
 ジュエルズアンバーこと大渕琥珀さんと従姉弟関係にある、と言う情報くらいです。
 しかし、そこから晴彦さんの言うもう1人の仲間が、メープルと名乗る魔物であることは確実でしょ。

 価値観の相違とか言ってましたけど、それなりに長い付き合いの仲間を、従姉に取られただけの話。
 そんな情けない男ではあるけれど、貴重な男性。
 しかも、雛菊さんを初めとし、何体もの魔物を従えている特殊能力持ち。
 従姉も魔物使いの素質を持っている以上、血筋による能力と見て間違いない。
 これからの情勢を考えるなら、三鷹家の跡継ぎに、是非とも引き継がせたい素質でしょ?

 情けない男とは言え、性格もマシな部類。
 旧家名家の男性は、大災害で衰弱した者が多く、私の元婚約者も亡くなってこそいないとは言え、子供を残せるほど健常とは言い難い。
 残っているのは、私と年齢差の著しい男性。
 或いは、以前まで小馬鹿にしてきた男性達くらい。

 父親よりも年配の男性へ、妾のように嫁ぐのは嫌。
 だからと言って、同年代とは言っても私達を恨んでいる男達へ嫁ぐのはもっと嫌だ。

 実際、婚約解消直後に母と交渉に行った宇治野宮の三男……。
 兄達の死去で今は長男になった男は、

「今までの態度を土下座で謝って、足を舐めたら、年1回くらいは相手してやっても良いぞ」

 などと、嘲笑ってきた。
 当然、激怒した私達親娘だったけど、

「俺に頼むくらいだから、もうまともな男の伝なんてないんだろ?
 三鷹家も終わりだな?」

 と、言われてはもう何も言い返せなかった。
 土下座で足を舐めて、最低ライン。
 年1回の性行為で、子供を見込めるとも思えない。
 しかも、私が奴隷のように従順にでもならない限り、あいつは私の妊娠し辛いタイミングでしか相手をしないだろう。
 他の連中も似たり寄ったり、どの家に嫁いでも、家ごと食い尽くされるだけ。

 どんな相手にも、分け隔てなく、対応してきた三鷹家よりも家格の高い家のお嬢様達は、因果応報と呆れていたけれど、私達のような中堅クラスの家柄は、格下に構っている暇なんてなかったのよ。
 下手に近付けるような真似はしないのも、自己防衛だったんだから!

 此処に集まっているのはそういう家柄の跡取りになった娘が大半なの。
 それと、大災害前はホステスをしていた女性。
 男を手玉に取る技術のプロ達。
 この男が、東京へ来ると知って直ぐに集めた講師達。

 本当はお菓子や飲み物にアルコールや興奮剤を混ぜたかったところだけど、品薄で手に入らなかったのが辛いわ。
 と言うか、それなりにプロポーションに自信がある私の胸元へ顔を埋めているのに、何でこの男欲情しないのよ?

 もしかして、私が気付いていないだけ?
 やや遠巻きにいる先生達をチラッと見るが、誰もが首を振る。
 やっぱり、欲情はしていないようね……。
 親愛の感情を稼ぐのも、本来なら悪くない手ですけど、住む場所が遠いことを考えると、愛情まで一気に持っていきたいところなのよ。

「そういえば、三重の方で拠点を造っていると仰ってましたよね?
 どのようなものを造ってみえるのですか?」
「ごめん。
 情けない姿を……」

 話題を変えるように、呟いたのは私同様に美尾晴彦を取り込みたい家のお嬢様の1人。
 今回は共闘しているだけで、友人と言うには遠い関係の女性です。
 それで気を持ち直したらしい美尾晴彦が、軽く謝って離れます。
 一歩リードしていた状況を手放すのは惜しいですけど、これ以上の進展も難しいので、深追いはやめましょう。

「伊勢二見ヶ浦の方に、ダンジョン内での拠点を模したものを造ってるよ。
 今は果樹園と農園を整えて、魚の漁場を準備している最中。
 少なくとも、数種類の果物と野菜、穀物は確保できるレベルにしたつもり」

 ……私の調べでは、ダンジョンを出て一月弱のはず。
 そんな短期間で、食物の自給が出来る拠点を?
 やはり、魔物使いと言う存在のポテンシャルは素晴らしい。
 この程度の男性が、それほどのものを造れるなら、私が上手く扱えば、もっと利益を生み出すはずですもの。

「すごいですね。
 たった1月で、自給自足出来るようになるなんて、まるで魔法のような話です」
「実際魔法のお世話になってるよ。
 まあ、結や朔、他にも仲良くなった人達の力があってこそだけど……」

 私の称賛に謙遜する晴彦。
 ……当然でしょうね。
 従姉に魔物を奪われるような間抜けですし、どうせ殆どは、あの雛菊さんの手腕でしょ?

「皆の協力を得られたのは、晴彦さんだからじゃないですか?
 晴彦さんに惹かれて協力してくれたから、短期間で生活出来る拠点が出来たんだと思います!」
「惹かれて……。
 そんなすごいやつじゃないから……」

 よしよし、上手く落ち込みましたね。
 褒めていると見せ掛けてトラウマを抉り、すかさず、

「だって、会ったばかりの私でもこんなに惹かれているんですもの!」

 晴彦の両手を握る。
 私の特別だと主張して、好感度を稼がせてもらう。
 仕上げに見つめ合えば、少なからず愛情も湧くでしょ?

 ……へ?

 晴彦の瞳を見た途端、巨大な大樹の木陰で休んでいるような穏やかな気持ちになった?
 何これ?

「ありがとう……」

 照れ臭そうな晴彦の声。
 手玉に取るつもりが、逆に私の方が惹かれそうになってる?

「遅くなってごめんなさい」

 私の混乱を他所に、声が響く。
 雛菊さんの声。
 ずいぶんと、タイミングが良い気がするわね……。

「……意外と良い男でしょ?」

 私とすれ違い、晴彦さんの隣に戻る。
 そのすれ違いざまの一言で、雛菊さんにからかわれていたと理解した。
 悔しいけれど、下手に関わると深みにハマる。
 結局、この休憩が終わるまで、いえ終わってからもしばらく悶々とする羽目になるのだった。
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