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第22話:ティーテン
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街道の先で、空気が変わった。
それまで感じていた、
世界を覆うような敵意が、ふっと薄れる。
「……来ましたね」
バシリアが言う。
前方に見えるのは、低い丘と、その向こうを流れる川。
オデ川だ。
川沿いに家々が集まり、
その奥に、二本の尖塔が並んで立っている。
「カンペールです」
ペトロナが頷く。
「ブルターニュの西。
ル・マンとは、もう別の世界になります」
「これでほぼフランス横断か…」
「ヴォージュから始まった旅でしたね」
俺の呟きにバシリアが応える。
「既に何かやり遂げた気がするな」
「そう思ったら帰ってくれると助かるんだけど」
ティートンが俺の後ろで毒づく。
「……そうだな、旅もやっと半ばなんだよな。気を引き締めるよ、ありがとうティートン」
「なんでお礼がでてくるの、この人おかしい」
そんな会話をしていると、街門へ差し掛かる。
街門はあるが、守りは控えめだ。
槍を持った兵が数人いるだけで、
鎧も簡素、緊張した様子もない。
検問は、あって無いようなものだった。
「どこから来た?」
「ル・マンからです」
その一言で、兵の眉がわずかに動く。
だが、それ以上は踏み込まない。
「長旅だな。
川沿いに行けば宿がある」
それだけ言って、通してくれた。
街に入ると、匂いが違う。
潮と川と、湿った石の匂い。
木骨の家々は彩色され、
窓辺には布や花が飾られている。
市場の声も、どこか柔らかい。
「魚は今朝のだよ」 「塩は高いけど、質はいい」
値段交渉の声はあるが、
怒号はない。
通りの先に、サン・コランタン大聖堂が見える。
尖塔はシャルトルほど高くないが、
川を背に、静かに街を見下ろしている。
「大きいけど……威圧感がないな」
俺が言うと、バシリアが少し微笑んだ。
「この街は、“従わせるため”に建てられていません。
祈るための場所です」
フランスを横断し、いろんな聖堂を見てきたからわかる言葉だった。
宿は川沿いにあった。
石造りで、古いが手入れが行き届いている。
主人は初老の男で、
俺たちの服装を見て一瞬だけ目を留めたが、
すぐに興味を失ったようだった。
「巡礼か?」
「旅の途中です」
「部屋は空いてる。
馬は裏へ」
それだけだ。
暖炉には火が入っている。
六月だが、川風は冷える。
「……これなら、眠れそうだな」
俺の言葉に、バシリアとペトロナが同時に頷いた。
ジャンネットは窓辺に立ち、川の流れを見ている。
「ここは……戦いの気配を感じません、私の知るフランスではない気がします…一つの答えの街なんでしょうね」
「そうだな…」
俺はその横顔を見て、思う。
この街は、逃げ場ではないが、立ち止まることが許される。
恐怖がなく、緩やかに流れる時間の世界だと…
明日、俺たちはドゥアルネネ湾へ向かう。
「ちょっと、ほどきなさいよ!ティートンと扱いが全然違うじゃない!」
騒々しいのが暴れだした。耳を押さえた俺は…
「フギャ」
当て身で黙らせた。
「ア、アニェス…そればっかりやると、説得するタイミングが無いし、どんどん難しくなるんだけど…」
うーむ、ティートンが正しい気がする…
「でも街中や宿屋で大声出されるのも…」
「そうだけど…」
「お前、夢の中とかで話してこれないか?」
「…………」
ポンとティートンが手を叩いた。
「じゃあ、あなたも来なさい」
「え?…」
と、いう間も与えず、俺は夢の中に入れられてしまった。
何もない白い世界に、色がついていく、森と川と湖と、青空の広がる自然豊かな景色に。
…俺、精神攻撃弱すぎないか?ティートンが凄いのか?
「私が、凄いのよ」
横にティートンが現れる。妖精のような白いワンピース姿だ。長袖を紐で袖口を縛り、手を隠すように広がっている。金糸のようなベルトをしていてスタイルを露にする。
「綺麗だ…」
ティートンが俺を見たあと顔が赤くなる。
「ば、ばばばば、ばか。ティーテンの所に行くわよ」
ティーテンは湖畔にいた。ティートンと同じような服を着ている。だが、気を失っているようだ。
「だ、誰がこんなことを…」
「現実で、あなたが気を失わせたからでしょ…起こしなさいよ」
どうやら、現実の状態を引きずるようだ。
俺はテレビドラマでよく見た背中に回りこんでぐってやる当て身をやってみる。
…あれ?余計に弛緩してしまった気がする。ぐにゃぐにゃになってる…
「それ…気絶して弛緩している人にやるのは危険なんじゃないの?」
「そう言えば、演出上のカッコよさで活法の“蘇生”をモチーフにしてるだけって聞いたな」
「なんか……口の端からカニみたいに泡が溢れてきてない?」
「ややややヤバイ《キュア》」
「なんか背中がめちゃくちゃ痛いんですけど……」
ティーテンが目覚めるなり悲鳴をあげて、背中の痛みを訴えた。
うーむ、急いだので《キュア》の効き目にむらが出たみたいだ…
「気にするな、二度とドラマの真似はしないから、大丈夫だ」
「なんですかーそれ!なんか私にしたのね」
半泣きで怒られる。
「ティーテン…話を聞いて…」
俺とティーテンの間にティートンが割り込む。
「裏切り者の話なんか聞けません!」
「蜂蜜漬けのリンゴをあげるわ」
「ぐ」
「蜂蜜漬けの洋梨も付けるわ」
「ぐぐぐぐぐぐぐ」
「じゃああげない」
「わかったわ、聞くだけよ」
(…やすい、あまりにもやすいぞお前ら)
ティートンは、アルジャントレでの話から始めた。黒死病の村の話だ。
俺の行動、アヴァロンの行動、そして先代ティートンとの話…
自分が何故俺と一緒にいることを決めたかをゆっくりと、優しく時間を掛けて話してくれた。
ティーテンは、ブツブツ反論しながらも、ティートンの話に耳を傾けてくれているように見える。
途中で寝でもしたら、また当て身を喰らわすつもりだったが、そうはならないですむようだ。本当によかった。
「でも、でも、私は…」
最後にそれだけ言ってティーテンは黙ってしまった。
これでダメなら諦めてと、ティートンは俺に耳打ちして、眠りの魔法を解いた。
俺たちが現実に戻ると、バシリア、ペトロナ、ジャンネットが心配そうに見ている。
いつの間にか、俺を挟む感じで、ティートンとティーテンもベッドに寝かされていた
「ごめん、突然だったんで…」
皆の顔を見渡して俺は謝った。
「心配しました」
バシリアが抱きついてきた。バシリアの下で目覚めたティートンがもがいている。
どこかは言わないが、このパーティーで二番目に豊穣だからなバシリアは…
***
ティーテンは静かだ。
夕食も、部屋に戻っても。時折、俺とジャンネットを見ている。
もうティーテンを縛ってなんかいない、出て行くならいつでも出て行ける状況にしている。
「どうした?何か言いたいこととかあるなら聞くぞ?」
ティーテンは、小さく首を振るだけだった。
翌朝、目覚めるとティーテンは姿を消していた。また俺の感知には掛からなかった。いい加減、見直さないと不味い。
「夜が明ける前に、静かに部屋を出ていかれましたよ」
とジャンネットに教えてもらえた。ジャンネットは知覚できるから不思議だ。
「仕方ないわ、ティーテンはそういう道を選んだのよ、ある意味当然だと思うもの」
「そうだな、お前が変なんだよな」
ムゥっとティートンが頬を膨らませた。
「アニェス様。それでは向かいましょうドゥアルネネ湾に」
ペトロナが先を促す。
宿をでると、歌が聞こえてきた。
綺麗な声と調律の…詩のような古の祝詞のようでもある。気のせいか歌に近づくほど草木が息吹いているようだ。
馬小屋の前まで来ると、ティーテンの声がする?
「どう?気持ちいいでしょ」
俺は馬小屋を指さすと、ティートンと顔を見合わせる。
ティートンが駆け出し馬小屋に入った。
俺たちも後を追うと、ティーテンが馬をブラッシングしていた。
「どうして?」
「一回街を出ようとしたけど、ティートンに蜂蜜漬け林檎と、洋梨貰うの忘れてたから戻ってきたの」
「それだけで」
「それと私どっちにも味方しないことに決めたから」
ティートンがティーテンに後ろから抱きついて涙を流している。
「それって…どちらからも敵になるのでは?」
あ、またバシリアさんの呟きが。
ティーテンが固まっている…
泣きそうな顔で、俺を見る…
「ああ、助けてやるから安心しろ」
「それってアヴァロンに敵対するのとおな…」
俺は振り向くとバシリアの口を塞いだ。
バシ姉さん、空気読んでください…
それまで感じていた、
世界を覆うような敵意が、ふっと薄れる。
「……来ましたね」
バシリアが言う。
前方に見えるのは、低い丘と、その向こうを流れる川。
オデ川だ。
川沿いに家々が集まり、
その奥に、二本の尖塔が並んで立っている。
「カンペールです」
ペトロナが頷く。
「ブルターニュの西。
ル・マンとは、もう別の世界になります」
「これでほぼフランス横断か…」
「ヴォージュから始まった旅でしたね」
俺の呟きにバシリアが応える。
「既に何かやり遂げた気がするな」
「そう思ったら帰ってくれると助かるんだけど」
ティートンが俺の後ろで毒づく。
「……そうだな、旅もやっと半ばなんだよな。気を引き締めるよ、ありがとうティートン」
「なんでお礼がでてくるの、この人おかしい」
そんな会話をしていると、街門へ差し掛かる。
街門はあるが、守りは控えめだ。
槍を持った兵が数人いるだけで、
鎧も簡素、緊張した様子もない。
検問は、あって無いようなものだった。
「どこから来た?」
「ル・マンからです」
その一言で、兵の眉がわずかに動く。
だが、それ以上は踏み込まない。
「長旅だな。
川沿いに行けば宿がある」
それだけ言って、通してくれた。
街に入ると、匂いが違う。
潮と川と、湿った石の匂い。
木骨の家々は彩色され、
窓辺には布や花が飾られている。
市場の声も、どこか柔らかい。
「魚は今朝のだよ」 「塩は高いけど、質はいい」
値段交渉の声はあるが、
怒号はない。
通りの先に、サン・コランタン大聖堂が見える。
尖塔はシャルトルほど高くないが、
川を背に、静かに街を見下ろしている。
「大きいけど……威圧感がないな」
俺が言うと、バシリアが少し微笑んだ。
「この街は、“従わせるため”に建てられていません。
祈るための場所です」
フランスを横断し、いろんな聖堂を見てきたからわかる言葉だった。
宿は川沿いにあった。
石造りで、古いが手入れが行き届いている。
主人は初老の男で、
俺たちの服装を見て一瞬だけ目を留めたが、
すぐに興味を失ったようだった。
「巡礼か?」
「旅の途中です」
「部屋は空いてる。
馬は裏へ」
それだけだ。
暖炉には火が入っている。
六月だが、川風は冷える。
「……これなら、眠れそうだな」
俺の言葉に、バシリアとペトロナが同時に頷いた。
ジャンネットは窓辺に立ち、川の流れを見ている。
「ここは……戦いの気配を感じません、私の知るフランスではない気がします…一つの答えの街なんでしょうね」
「そうだな…」
俺はその横顔を見て、思う。
この街は、逃げ場ではないが、立ち止まることが許される。
恐怖がなく、緩やかに流れる時間の世界だと…
明日、俺たちはドゥアルネネ湾へ向かう。
「ちょっと、ほどきなさいよ!ティートンと扱いが全然違うじゃない!」
騒々しいのが暴れだした。耳を押さえた俺は…
「フギャ」
当て身で黙らせた。
「ア、アニェス…そればっかりやると、説得するタイミングが無いし、どんどん難しくなるんだけど…」
うーむ、ティートンが正しい気がする…
「でも街中や宿屋で大声出されるのも…」
「そうだけど…」
「お前、夢の中とかで話してこれないか?」
「…………」
ポンとティートンが手を叩いた。
「じゃあ、あなたも来なさい」
「え?…」
と、いう間も与えず、俺は夢の中に入れられてしまった。
何もない白い世界に、色がついていく、森と川と湖と、青空の広がる自然豊かな景色に。
…俺、精神攻撃弱すぎないか?ティートンが凄いのか?
「私が、凄いのよ」
横にティートンが現れる。妖精のような白いワンピース姿だ。長袖を紐で袖口を縛り、手を隠すように広がっている。金糸のようなベルトをしていてスタイルを露にする。
「綺麗だ…」
ティートンが俺を見たあと顔が赤くなる。
「ば、ばばばば、ばか。ティーテンの所に行くわよ」
ティーテンは湖畔にいた。ティートンと同じような服を着ている。だが、気を失っているようだ。
「だ、誰がこんなことを…」
「現実で、あなたが気を失わせたからでしょ…起こしなさいよ」
どうやら、現実の状態を引きずるようだ。
俺はテレビドラマでよく見た背中に回りこんでぐってやる当て身をやってみる。
…あれ?余計に弛緩してしまった気がする。ぐにゃぐにゃになってる…
「それ…気絶して弛緩している人にやるのは危険なんじゃないの?」
「そう言えば、演出上のカッコよさで活法の“蘇生”をモチーフにしてるだけって聞いたな」
「なんか……口の端からカニみたいに泡が溢れてきてない?」
「ややややヤバイ《キュア》」
「なんか背中がめちゃくちゃ痛いんですけど……」
ティーテンが目覚めるなり悲鳴をあげて、背中の痛みを訴えた。
うーむ、急いだので《キュア》の効き目にむらが出たみたいだ…
「気にするな、二度とドラマの真似はしないから、大丈夫だ」
「なんですかーそれ!なんか私にしたのね」
半泣きで怒られる。
「ティーテン…話を聞いて…」
俺とティーテンの間にティートンが割り込む。
「裏切り者の話なんか聞けません!」
「蜂蜜漬けのリンゴをあげるわ」
「ぐ」
「蜂蜜漬けの洋梨も付けるわ」
「ぐぐぐぐぐぐぐ」
「じゃああげない」
「わかったわ、聞くだけよ」
(…やすい、あまりにもやすいぞお前ら)
ティートンは、アルジャントレでの話から始めた。黒死病の村の話だ。
俺の行動、アヴァロンの行動、そして先代ティートンとの話…
自分が何故俺と一緒にいることを決めたかをゆっくりと、優しく時間を掛けて話してくれた。
ティーテンは、ブツブツ反論しながらも、ティートンの話に耳を傾けてくれているように見える。
途中で寝でもしたら、また当て身を喰らわすつもりだったが、そうはならないですむようだ。本当によかった。
「でも、でも、私は…」
最後にそれだけ言ってティーテンは黙ってしまった。
これでダメなら諦めてと、ティートンは俺に耳打ちして、眠りの魔法を解いた。
俺たちが現実に戻ると、バシリア、ペトロナ、ジャンネットが心配そうに見ている。
いつの間にか、俺を挟む感じで、ティートンとティーテンもベッドに寝かされていた
「ごめん、突然だったんで…」
皆の顔を見渡して俺は謝った。
「心配しました」
バシリアが抱きついてきた。バシリアの下で目覚めたティートンがもがいている。
どこかは言わないが、このパーティーで二番目に豊穣だからなバシリアは…
***
ティーテンは静かだ。
夕食も、部屋に戻っても。時折、俺とジャンネットを見ている。
もうティーテンを縛ってなんかいない、出て行くならいつでも出て行ける状況にしている。
「どうした?何か言いたいこととかあるなら聞くぞ?」
ティーテンは、小さく首を振るだけだった。
翌朝、目覚めるとティーテンは姿を消していた。また俺の感知には掛からなかった。いい加減、見直さないと不味い。
「夜が明ける前に、静かに部屋を出ていかれましたよ」
とジャンネットに教えてもらえた。ジャンネットは知覚できるから不思議だ。
「仕方ないわ、ティーテンはそういう道を選んだのよ、ある意味当然だと思うもの」
「そうだな、お前が変なんだよな」
ムゥっとティートンが頬を膨らませた。
「アニェス様。それでは向かいましょうドゥアルネネ湾に」
ペトロナが先を促す。
宿をでると、歌が聞こえてきた。
綺麗な声と調律の…詩のような古の祝詞のようでもある。気のせいか歌に近づくほど草木が息吹いているようだ。
馬小屋の前まで来ると、ティーテンの声がする?
「どう?気持ちいいでしょ」
俺は馬小屋を指さすと、ティートンと顔を見合わせる。
ティートンが駆け出し馬小屋に入った。
俺たちも後を追うと、ティーテンが馬をブラッシングしていた。
「どうして?」
「一回街を出ようとしたけど、ティートンに蜂蜜漬け林檎と、洋梨貰うの忘れてたから戻ってきたの」
「それだけで」
「それと私どっちにも味方しないことに決めたから」
ティートンがティーテンに後ろから抱きついて涙を流している。
「それって…どちらからも敵になるのでは?」
あ、またバシリアさんの呟きが。
ティーテンが固まっている…
泣きそうな顔で、俺を見る…
「ああ、助けてやるから安心しろ」
「それってアヴァロンに敵対するのとおな…」
俺は振り向くとバシリアの口を塞いだ。
バシ姉さん、空気読んでください…
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