異世界を救えなかった異端の勇者−百年戦争異聞録−

奏楽雅

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第25話:塩

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「アニェス様」

「ん」

「食料がありません」

水浴びの後、甲羅干しをしていると、バシリアが言い出した。

「全て海の底です…」

「「「「「………」」」」」

「お金は?」

「考えてみると、持っていた金貨はフランスの通貨です。イギリスでは使えません…」

「「「「「!!!」」」」」

「ティーの字、お金、お金持ってないか?」

「アバロン在住の私にそれを聞く?」

「蜂蜜漬けリンゴならあるわよ」
ティーテンがどこかからか取り出す。

「徴収しましょうか」
バシリアの思考がそっちに直結しやすい気がする。
「いやいやイングランドでそれやると、俺たちがルティエのような盗賊みたいじゃないか?」

「あああ、剣が無いです」バシリアが抜こうとしたらしい剣が無いことに気づき背中を見ている。

「そういえば…私も…海に落としたみたいです」

「ジャンネットもか」

食料無し、お金なし、武器無し…

「やばくね?」

「アニェス様。探しましょう、元兵士の野盗や傭兵崩れを」ペトロナまで言い出した。

(なんだろう、イケナイ方向に進んでる気がする)

「わかった、食料は俺が山や川でなんとかするから。落ち着いて」

イングランドについて早々サバイバルになるとは思わなかった。

人はお腹が減ると凶暴になるらしい。どんなに可愛くとも、綺麗であっても…

俺は野山を駆け回って、ウサギや鳥を狩った…このままじゃ味がないか…

俺は砂浜に戻り。
「この辺が良いかな…」
足元の砂に手をかざすと、地面が低く唸りを上げた。  
砂に質量増加の魔法を使う。砂は鉛のような重さを帯び、隙間を失っていった。
足が沈まなくなる。  
「ここを底にする」  
水をほとんど吸わない、不自然なほど滑らかな窪地になった。俺は満足げに頷く。
窪地に海までの溝を造って、海水を流し入れ、溝を閉じて炎熱魔法で海水を蒸発させる。
その行程を3回繰り返した。
表面の白い部分だけを掬い取り。俺は皆のもとに戻る。

「美味しいじゃない」
「すっごく美味しいー」
「美味いです」
「アニェス様ありがとうございます」
塩で焼いた肉を提供すると好評だった。

「アニェス様、これ塩ですか?」
ペトロナが口元を押さえて聞いてくる。
「ああ、簡易的に塩田を造った、何もないと味気ないだろ?」
「もっと作れますか?」
「…可能だけど?」
「これ、売れます」
皆が俺を見る。
「なるほど」

俺たちは海岸に戻り塩を作ることにした。
塩自体は既に方法を確立していたので問題は無いが…

「アニェス様。袋をご用意いただけますか?」
「え?」
ペトロナさんが無茶を言い始めた。
誰か知識が無いかと、周りを見渡すが、皆して目を背けやがる、薄情者。
「ペトロナさん、この何もない中で袋ってどうすれば良いんですか?」
俺はマジックボックスや四次元ポケットは持ち合わせていない。

「革袋はどうですか?」
「革袋?」
「はい動物の皮で造ります、鹿とか羊とか」
「それは用意できますが…」
「では、お願いします」
ペトロナさんに丁寧にお辞儀された。見事なメイドお辞儀だった。


仕方ないので、バシリアを伴って5キロほど内陸に入り、生き物を探す。
俺の感知能力を最大にすると、生き物の気配を感じられた。
ペトロナさんやティーの字二人のせいで、役立たずな能力にみえるが、ちゃんと役に立つのだ。

「アニェス様。アカシカです」
大きな鹿を二頭、見つけることが出来た。

「まだ気づいていないな…」
俺は両手を合わせ、合わせた手を広げつつ、水滴を摩擦させ正電荷と負電荷を生み出す。
《プチ・ライトニング》正電荷を導き、放つ。

一筋の光が二頭の鹿を感電させ行動不能にする。
バシリアは、鹿の下に駆け出し、俺のスローナイフ―10本中3本だけ残っていた―を使って一瞬で止めを差す。あまりにも早い止めの指し方で。俺の背筋に冷たいものが走る。
その二頭を質量軽減で海岸まで運ぶ。

「ペトロナさんこれで良いですか?」
「大きくて、傷もない良い鹿ですね」
役に立ったのだと胸を撫で下ろすと…
「では、なめして、袋にしてください」
「え?」
ペトロナさんの目は普通だ、笑っても怒ってもいない、ちょっとそこの醤油とってくらいの言い方だ。
袋の作り方知らないんですけど…
誰か知識が無いかと、周りを見渡すが、またしても皆して目を背けやがる、薄情者。

「ペトロナさん、どうやって袋にすれば良いんですか?」
え?知らないの?みたいな目を向けられた。ちょっと傷ついた…
「革袋を作る工程は
1. 皮を剥ぐ
2. 脱毛
3. なめし
4. 縫製
5. 仕上げ
になります。アニェス様。魔法で何とかしていただけると助かります」
ペトロナさんに丁寧にお辞儀された。見事なメイドお辞儀だった。

さて、困った…
尚、塩づくりは、ティーの字二人に任せている。彼女たちは得意な魔法や特技が表に出るだけで、一般的な魔法も当然、そこらのネームド魔法使いより使いこなすのだ。

俺は後ろに控えた、バシリアに先ほどペトロナさんに言われた内容をかみ砕いて貰った。
「皮を剥ぐは、皮と肉は当然くっついていますので剝いで分離することを言います。
脱毛は、石灰や灰汁で毛を溶かす工程です。
なめしは、皮の内部の水分を抜き、コラーゲン繊維を締める工程になります。
縫製は、針と糸で袋の形に縫いあわせます。
仕上げは、口紐を通し、袋の形を整える工程の事です。
それぞれ、とても時間の必要な工程になります」

「それをしろと?」
「はぁ、母は一回言うと撤回してくれません。」

おれは考え込む。有名な考える人のポーズだ。
「……」
何か言うかなと思ったが、バシリアは何の反応も示さない…
考える人の作者フランソワ=オーギュスト=ルネ・ロダンはフランスの人だが…19世紀の人だった…

「よし」
俺は決めた、行動に移す。

まずは…
魔法で皮と肉の間に空気膜を作って、一瞬で剥離して皮剥ぎを終わらせる。
その皮の毛は炎魔法で燃やす、嫌な匂いがするのが玉にキズだが、早さに勝るものは無い。
なめしは、超振動を魔法で起こし分子間移動熱を使用して水分を蒸発させる、熱が均一に広がり、皮も硬くならない。一種の魔法版のマイクロ波乾燥だ。
縫製と仕上げは、死んだものでも回復魔法で傷を塞ぐことが出来る特性を利用して、皮の端と端を結合した。バシリアもビックリしていた。

「ペトロナさん、袋出来ました」
アカシカからは5キロ袋がギリギリ3袋造れた鹿二頭で計6枚だ、回復魔法を使用し縫製しないお陰だ。
「アニエス様。お疲れ様です」
やっと終わったと、バシリアと喜んだが…
「ではこれを、あと5回くらいお願いします」
ペトロナさんに丁寧にお辞儀された。見事なメイドお辞儀だった。

しかし、これは達成されなかった。
3回目を終えたところで、ジャンネットとティーの字の二人から待ったがかかった。
「あまり生き物を殺さないでください」
「必要以上に狩るのはやめろ」
「可哀想です…」

俺とバシリアも3人に同意し、ペトロナさんに諦めて貰った。




「鹿はスタッフが美味しくいただきました」

「アニエス様。なんですかそれ」

「こう言っておかないと駄目らしいんだ、キリスト教の食前の祈りみたいなものだ」
たぶん違うと思うけど…

「そうなんですか?」

「「「「「「鹿はスタッフが美味しくいただきました」」」」」」
みんなで言ってみた。
実際、感謝は大事だと思う。

まあ、燻製にしたり加工してちゃんと頂きました。


――――――――――――――――――――
【後書き】
お読みいただき有難う御座います。
少しでも面白いと思っていただけたら、どうかいいねをお願いいたします。
作者が折れないため是非ご協力ください。
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