異世界を救えなかった異端の勇者−百年戦争異聞録−

奏楽雅

文字の大きさ
28 / 29

第28話:妖精の家

しおりを挟む
「そのティルウィス・テグは満足されたのですね。ありがとうございました」
俺が体験した一ヶ月を、ざっくり説明するとペトロナさんが深々とお辞儀した。

「ペトロナさんが畏まる必要ないだろ」
「同族にしていただいた好意は、私も嬉しいのです」
「そうか…じゃあ、どういたしまして」
俺と魔女たちはお互いお辞儀し合うと。ジャンネットもキョロキョロしつつ頭を下げた。
(べつにしなくても良いのに)

「で、おれは彼処で覚えたことを、この娘に継承させないといけないと思っている」

俺に良く似た銀髪の娘は、ずっと俺の右手に抱きついている。
なんか不思議な気分だ。

「名前が無いままでは、可哀想だと思います。何か名前を考えてあげませんか?」
ジャンネットが提案する。
「そうだな」

「アニェステンが良いのー」
「いやアニェストンでどうだ?」
「なんだよそれ」
「アニェリアで…」バシリアが小さい声で言う。
「アニェニナなど如何でしょう」
何故かみんな俺と自分の名前のかけ合わせを言う、意味が通じなくないか?
ジャンヌがヨハネ由来であるとすると、アニェスは聖アグネス由来の場合が多い。
源流は 古代ギリシア語「Ἁγνή(ハグネー)」。
意味は 「清らかな」「汚れなき」。
これがラテン語化して Agnes(アグネス) となり、キリスト教世界に広がった。
聖アグネスは、若くして殉教した乙女聖人で、「純潔」と「信仰」の象徴だと、以前バシリアに教えてもらっている。

「アニェヌで」ジャンネットまで…
いやもう呼びづらいから。

「すまない、名前はもう決めてある」
「なんですか。アニェス様」
「アルガンテだ」
魔女たちが一斉に驚く。
「な、何故その名前を…?」
「俺が会った妖精の名前だ」そう言って俺は妖精の残したメモを皆に見せる。
ペトロナが恭しくそれを受け取る。
目を通したところでティートンが奪い取るようにしてメモを見る。

すると、畏まったティートンとティーテンがアルガンテに対し膝をついて頭を垂れた。

「どうしたんだよ」

「最古の女王、アルガンテ様です」

「?」

「ブリテン島がイングランド、スコットランド、ウェールズに分かれているように、アヴァロンも幾つにも分かれて女王を頂いています。
そして複数の国を統治する女王が、最古の女王アルガンテ様です。
アーサーが死を迎えるとき、アヴァロンに救いを求めた相手がアルガンテ様です」

なんと…あの妖精は著名人だった。

「しかし、ティルウィス・テグの一人になられていたとは…知りませんでした」

「ティーの字たちは…」

「彼女たちも、女王に連なる存在です。アルガンテ様は仕える相手になります…しかし、継承の済んでない生まれ変わりの状態ですので…」

アルガンテが、ティーテンの髪を引っ張り、ティートンの顔を平手でぺしぺししている。

「いたいいたいいたのー」

「わっぷあばば」

「ペトロナさん、どうなるのこれ?」

「知能は直ぐに戻ると思います。その時点でアニェス様が継承をしていただければ…なんとかなるかなー…っと」

なんか語尾が凄く怪しんですけど、ペトロナさん。

「アニェス取り敢えず、知能が戻るまでは面倒を見るようにするわ」
ティートンが涙ながらにそういう。

「う、うん。宜しく頼むティーの字」

「アニェス様。魔女の魔法を習得されたのですよね」
バシリアが、ティートンの喧騒を横目に話しかけてきた。
「ああ、ほんの少しだが教えて貰った」

「何が使えるの-?」
髪の毛を乱したティーテンも加わる。
「そうだな、4属性と花を咲かせること」
火と水を右手と左手に出してみる。
「すっごーい。アニっち、私たちの魔法だー」

「それと、時間を操作する魔法だ」
「……」ティーテンは言葉を失う。

「ただ、これはアルガンテに継承するように頼まれている魔法だ」

「そっかー…」

みんなでアルガンテを見る。

ティートンが目を回して倒れていた…

「他にはありますか?アニェス様」

「あと魔法と言えるのか解らないけど…ティルウィス・テグの家にいけるようになってるみたいだ…」

「え?」

「出入り自由だ」

「「ええ」」

「水も食料も暖もとれる…」

「「「「ええ」」」」

「す、すごいです。ソレル様」

みんなの目が輝いた。

「アニェス。凄いチートじゃない」
ティートンも倒れながらいう。チートいうな。
だが、活用できれば、安全な旅ができるかもしれない。

***

妖精の家と名付けたあの空間は、非常に役に立った。
俺がいれば誰でも出入りができる特性があり。みんなを妖精の家に待機させたまま、俺が走り回って移動することが可能になった。
今は道案内のペトロナさんをお姫様抱っこして、野山を駆けている。

ペトロナさんはバシリアをちょっとだけお姉さんにした感じの人なので、綺麗だし良い匂いがする。
俺の腕の中で何故か頬を染め、目的地まで案内してくれている。
これで2児の母とか…信じられない。

***

わずか半時で、最初の経由地マハインレス(Machynlleth)
が覗めるようになった。
川が緩やかに蛇行し、その先に低い丘と建物の影が見える。
石を積んだだけの家々が、川沿いに寄り添うように並び、屋根は板か藁。
城壁と呼ぶには心許ないが、柵と土塁が集落を囲っている。
「あれがマハインレスです」
ペトロナが呟いた。
大きな町ではないが、人がいる。生きているのを久しぶりに見た気がする。
旅の途中で何度も見てきた“誰もいない土地”とは、決定的に違う。
川には簡素な橋がかかり、渡し場には荷を積んだ荷車と、羊を追う子供の姿があった。
湿った地面を踏みしめる音、鉄を打つ甲高い音、どこかで犬が吠える声。

マハインレスは、境界の町だ。
山と湿地、ウェールズとイングランド、伝説と現実、その狭間にある。

俺とペトロナは近くの藪に姿を隠すと、妖精の家に入る。

中ではティーの字二人と、バシリアが疲れ果てたように座り込み、アルガンテはジャンネットの膝で枕で寝ていた…
言われなくても想像のつく景色だった。

塩を売るため、ジャンネット以外は出てもらうことにした。

塩を抱えた俺たちは無言のまま、町へ足を踏み入れた。

通り過ぎる人々は一瞬こちらを見るが、すぐに視線を外す。

遠くで教会の鐘が鳴った。
簡素で、少し音程の狂った鐘だ。

市場と呼ぶほどではないが、広場らしき場所には数人が集まり、干した魚や皮袋、粗末な布が並べられている。

「買い取りをお願いしたいのですが…」
ペトロナが年嵩の商人に話しかける。
塩はこの時代、どこでも貴重だ。
特に内陸では。
「どこの塩だ?」
「海沿いで造りました、上澄みだけを詰めた品になります、にがり部分は入ってません」
嘘は言っていない、普通に良品だ。
男は袋を一つ開け、指を突っ込む。
舐める。
一瞬、目が見開かれた。
「……悪くないな」
悪くない、はこの手の人間にとっては最高評価に近いだろう。
「如何程になりますか?」
「量は?」
「十八袋あります」
「全部か?」
「そうです」
男は顎に手を当て、周囲を一瞥した。
競りになる前に押さえたい顔だ。
「ところで、この革袋はなんだ?」
「アカシカの皮で造った袋です」バシリアが答える。
「そういう事を言ってるんじゃない」
「なんで縫い目がないんだって聞いてるんだ」
「…たまたま袋みたいなアカシカがいまして…」
「んなわけあるか!」
「お気に召さないようなら帰らせて頂きます」ペトロナが話を引き取り商談を打ち切ろうとする。
「まてまて。そうだな、この革袋込なら一袋で、六ペンスでどうだ」
ペトロナに差し出されたのは、小さな革袋。
中で金属が触れ合う音がした。
俺には通貨価値が解らない。ペトロナ任せだ。
だが、足元を見ている訳もなさそうだが…
俺が考えていると、ペトロナが革袋を商人に押し返す。
「申し訳ございません。他を当たらせて頂く事にします」
男はバシリアを見る。
次に、俺を見る。
「……ほう」
商人は値切るとき、相手の知恵を測る。
この場での主導権は、まだこちらにある。
「二袋は残しておきたい」
俺が言う。
「旅の分か?」
「そうだ」
少しの沈黙。
男は笑った。
「いいだろう。十六袋で、今いった倍の金額を出そう」
十六シリングが木箱の上に置かれる。
「お買い上げありがとうございました」ペトロナさんはお辞儀した。
取引が成立すると、周囲の空気が一気に緩んだ気がする。
ペトロナさんが、ほっとしたように微笑む。
「これで、食料を確保できますね」
「ああ、交渉ありがとう」
俺は残った二袋を背負い直した。



――――――――――――――――――――
【後書き】
お読みいただき有難う御座います。
少しでも面白いと思っていただけたら、どうかいいねをお願いいたします。
作者が折れないため是非ご協力ください。
――――――――――――――――――――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

魔王と呼ばれた勇者、或いは勇者と呼ばれた魔王 〜最強の魔剣で自由に生きる! 金も女も、国さえも思いのまま!! …でも何かが違うみたいです

ちありや
ファンタジー
クラスメートからのイジメが元で死んでしまった主人公は、その報われぬ魂を見かねた女神によって掬い上げられ異世界で転生する。 女神から授けられた不思議な剣を持つことで、彼はあらゆる敵に打ち勝ちあらゆる難問を解き明かし、あらゆる女性を虜にする力を手に入れる。 無敵の力を手に入れた男が次に望む物は果たして…? 不定期連載(7〜10日間隔で出していく予定)

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

処理中です...