異世界を救えなかった異端の勇者−百年戦争異聞録−

奏楽雅

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第29話:家族

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この時代一般労働者の日当が2~4ペンス。
12ペンスで1シリングになるので、塩代金の16シリングとは、192ペンス。2ペンスで考えると3ヶ月分の給金に相当する。
ちなみに当時の通貨は、混成進法だ。
つまり
1ポンド=20シリング
1シリング=12ペンス
1ポンド=240ペンス
下位通貨だけ12進法になっている。
12というのは、半分で6、三分の一で4、四分の一で3。10より割れる数が多いのが理由で、計算機も紙も使わない暗算だとこのほうが楽らしい。
10進法に慣れている俺にはわかるかい!になる。
ここら辺はもうペトロナさん、バシリア任せだ、よろしく頼む。

「ジャンネットとバシリアの武器は揃えたい」
俺は皆に頭を下げる。

妖精の家が在ることで、食住には困らなくなっていた。家の裏には農園があり四季の作物が採れる。肉はこっちで狩りをすれば賄える。家に泊まれば宿代はかからない。
嗜好品や調味料は欲しいところだが高くてどのみち買えないだろう。

ならば欲しいのは失った武器と、防寒具位だ。
ティーテンが絶望的な顔をしている。
嗜好品が欲しかったんだろうな…

「たぶんそんなに良いのは買えなと思いますよ」
ペトロナさんはそう言いつつ鍛冶屋に向かった。
この移動中にティーの字組とジャンネットを交代させている。

鉄を叩く音のする小屋に、剣の絵が書かれた看板が掛かっていた。
俺は扉を開け中に入る。カウンターのある店を想像していたが、中は鍛冶場だった。
まるでドワーフのような親爺が、ハンマーを振りかざしていた。
「すみません!」
何度か声量を変え、最終的にどなるような声になってやっと、親爺はこちらに気づいた。
「ちょっと待ってくれ。熱したばかりだ止められねえ!」
「わかりました!お待ちします!」
まあ、そういうものだろうと。待つ間に中を物色することにした。

俺のパーティは、魔女パーティーだ、ジャンネットは聖人だがまあ人間だ。ジャンネットは個人ベースは戦闘向きではない、集団を指揮することでバフを付加し最強の軍団を作るという不思議ちゃんだ。

なのでジャンネットには最低片手剣は装備して貰おうと思っている。

あと、武闘派バシリアさん。武器全般OK、もちろん徒手空拳もOK。魔力を刃や拳に乗せるので。どんな鈍らでもOK。
どれが良いかと聞いたら、この前渡した俺のスローイングナイフ一本でいいと言いだした。
どうせこの先、武器は敵から奪うから、わらしべ長者でいくとのこと。…あるのかこっちにもわらしべ長者。
そう聞くと、どうやら、イングランドではジャックと豆の木(Jack and the Bean-Stalk)がそれにあたるらしい。ジャックは最初、価値のない牛を魔法の豆と交換。この時点では完全にわらしべ以下だが、豆→木→巨人の財宝→成り上がり、という連鎖が起こる。
なるほど、言われてみれば成り上がり物語だ。
また、フランスでは愚者が幸運を拾い続ける話(Les contes du sot chanceux)というのがあって、取るに足らない物→なぜか価値が上がり続ける→最後は土地や身分を得るという話があるらしい。
面白いことに、わらしべ長者も挙げた2つの話も12~13世紀に作られた話だ。文化の伝播ではなく。人間が農耕社会に入った結果、価値交換と偶然性に物語を見出した結果だろう。

「おう、待たせたな…ってなんだぁ?
嬢ちゃんばっかりじゃあないか」
「…だめか?」
「いや包丁だってたんと
鍛えてあるまかしとけ」
「いや…剣が欲しいんだ、片手剣くらいで、できるだけ安いのを」
「は?誰が使うんだ?ああ、小間使いか?お前ら」
「…いや、この娘が使う」
俺が示したジャンネットを親爺が見る。
「嘘だろ…魔女扱いされるぞやめとけ」

雰囲気を感じ取ったジャンネットが無言で近くに在った剣を手にすると、少し広い場所に陣取り剣を振り始めた。上に下に右に左に綺麗に弧を描き流れるように振り、勢いよく突く。歩法にも淀みがない。
バシリアには劣るが良い剣筋だ。
「なんだ、ジャンネットも戦えそうじゃないか」
捕まるまでの二年間、戦場で激闘を生き抜いたのだ、加護があったとはいえ単なる村娘ではないということか…
「おや?」
ほんのり刃先に魔力のような力が見える。
「聖なる光ですね」
バシリアが囁いた。
「わかった、わかった。やるじゃないか。気に入ったよ、剣を売ってやる」
俺が、鍛冶屋のストップをジャンネットに伝えると、俺に近寄って耳打ちする。
「できるだけ丈夫で安いのを頼む」
この伝言ゲームは、ジャンネットが、この国では言葉が通じないのを俺が忘れていたせいだ。俺はパッシブスキルで、言葉が通じるから忘れていた。
「安くて丈夫か…中古でも良いんだろ?」
「無理を言ってすまない」
「昔っかし、修理を頼まれて、取りに来なかった鈍らが在った気が…」親爺は腕を組んで記憶を探り始めると。ちょっと待ってろよと言って、店の裏に行ってしまった。
「不用心だな…」
俺は片隅に積まれた鉄屑の塊を見つけた。少し分けてもらえないものだろうか、後で聞いてみよう。

「あったあった、これなら掛かった修理代だけでいいぞ」
「いいのか?」
古そうな幅広の刀身の剣だった。
「かれこれ10年持ち主を待ったが取りに来ない品だ。たぶんおっちんじまったんだろうな」
ジャンネットはそれを受け取ると、先ほどと同じく振り始めた、一通り振って俺を見て頷く。
「ジャンネット、それで良いのか?」
「はい、少し重いですが、重心が手元にあって扱いやすいです」
「そうか」
俺は親爺に向き直る。
「これを貰おう。幾らだ?」
「鉄は持ち込みだったから修理代の二ペンスだけで構わない…本音を言うとな、デザインが古臭すぎて売ろうにも売れないんだ。眠らせていても俺の利益は無いしな」
言わなくても良いことまで言う。善人だなこの親爺は…
「あと一ペンスで鞘も付けるがどうだ?」
「高くないか?」
「それに合う鞘なんて今は造られてないぞ」
…おれは周りを見渡して。
「じゃあさ、鉄を分けてくれないか?」
と俺はさっきの鉄屑の塊を指さす。
「何に使うんだ?鍛冶屋でもなければ使い道は無いぞ?」
「良いんだ、欲しいんだ」
「面白いやつだな。言葉使いが悪いのに憎めないやつだ、良いぞ分けてやる」
「ありがとう」
俺はペトロナに三ペンス払って貰って、ジャンネットの剣と鞘、そして何の変哲もない鉄屑の塊を手に入れた。
「アニェス様。どうするんですかそれ?」
「うん、今は内緒だ」
「はあ…」

「ソレル様、有難う御座いました。大事にいたします」
ジャンネットが上気した顔でお礼してきた。

ペトロナさん後の買い物は任せて良いかな?
「はい、問題ありません」
「嗜好品も何か安く買えたらみんなに配って
俺はちょっと家に戻ってるから。後で迎えに来るよ」
「畏まりました」

***

俺とジャンネットは妖精の家に戻った。

ちょっと手に入れた鉄屑で造りたい物があるのだ。

俺の得意な魔法は圧縮だ、空気だろうが鉄だろうが関係ない。
強烈な圧縮は、鍛造を超える。
不純物を取り除き、純度をどんどん上げていく、圧縮を続けると高温になるが敢えて低温に抑えることでそれを行う。
同時に土に含まれる砂鉄を魔法で投入し反応させ、精錬された鉄の塊である鉧を生み出す。
叩いて伸ばすだけの鉄とは訳が違う。
それを原料に今度は、何度も圧縮で鍛錬し炭素を除いていく。
後は整形しながら形を整え、高圧の水流で仕上げる。
「んーこれで良いのかな?」
実は自信が無い…

少しだけ余っていた皮をスローイングナイフで切っていく。
回復魔法で、切れ目を塞いで…

そうこうしているとアルガンテが近寄ってきた。まあ行程として安全なので一緒にいてやることにする。
羽化して俺を最初に見たせいか、俺を親と思っている風情があるが、俺が妖精の家にいなくても良い子にしていてくれているようだ。
アルガンテは好奇心旺盛で、人間のちいさな子供と同じ感じだ。
ティーの字たちはずいぶんと振り回されているようだが…恭しく面倒を見てくれている。
「早く大きくなれよ」と俺は撫でてやる。
お前には妖精から教えて貰った魔法を教えなければならないんだからな。
暫くするとアルガンテは俺に背中を預け寝ていた。

ジャンネットは、アルガンテにとってお姉さんみたいな立ち位置だ、アルガンテもジャンネットといるときは安心しているようだ。

俺はジャンネットにアルガンテを預け、妖精の家から出た。
そろそろ買い物が終わっているだろうから。

街の前で、ペトロナさんとバシリアが、麻袋を地面に置いて待っていた。
「悪い待たせたか?」
「いえ、今買い物が終わった所です」
「防寒具やパン、ちょっとだけ嗜好品を買ってきました」
「ありがとう、任せて悪かったな」
「本来の業務に戻ったみたいで楽しかったですよ」
とペトロナさん。良い笑顔だ。

「ああ、バシリア」
「何でしょうか?」
はい、と言ってバシリアにさっき造っていたものを渡す。
「なんですか、こちらは?」
「プレゼントだ、わらしべ長者になるまで使ってくれ」
おれが渡したのは、拳部分を鋼で補強したフィンガーレスタクティカルグローブだ。
女の子にあげるものではないが、スローイングナイフ一本では流石に心もとない。
それに、指だしグローブにゴスロリメイド服とか、なんかこう萌えないか?

バシリアはグローブを両手にはめて、シャドーボクシングのようにしている。
「すごい、良い感じです。つけてて邪魔にならないし軽いです」
「気に入ってくれると嬉しい」
「はい、気に入りました。すごく嬉しいです!」
「それは良かった」

***

妖精の家に戻ると、ティーの字たちとジャンネットが食事を用意してくれていた。
女の子の多いパーティーは良いなとちょっと浮かれた。

食事の後、ペトロナさんにお願いしていた嗜好品。蜂蜜のタルトがふるまわれた。
「どうしたのー、アニっち今日は優しい気がする―」
「ティルウィス・テグの件では心配かけたし、イングランドについてからも辛い道のりだったからな、一日くらいこんな日をつくっても良いかなって」
「ありがとうございます。アニェス様」
「気が利くじゃない、毎日でもいいからね」
「アニエス様。嬉しいです」
バシリアはグローブを外さなくなってしまった。
戦う前にはめるっていうシーンも良いんだがなー
「今日は、本当にありがとうございます」
「泣かんでいい、泣かんでいい」
ジャンネットが泣いてしまった…
皆が喜んでくれて良かった。アルガンテも美味しそうに食べている。

ああ、なんか家族といるみたいだ…いやもう家族だよなこいつら。

あの世界から続く日々だが、久しぶりに安らげるときを過ごせた気がした。



――――――――――――――――――――
【後書き】
お読みいただき有難う御座います。
少しでも面白いと思っていただけたら、どうかいいねをお願いいたします。
作者が折れないため是非ご協力ください。
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