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第五話 ボンクラ息子とその恋人によって、ローディア家の信頼は地に落ちました。
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アルベルトに促され、演壇に姿を現したミレイアは、
ほんの一瞬、私の方を見た。
唇の端を、わずかに吊り上げて。
――勝ち誇った笑み。
それは隠そうともしない、
「私の勝ち」と告げる表情だった。
アルベルトは、そんな彼女を当然のように隣に立たせ、
胸を張って言い放つ。
「この娘が、
俺の本当の婚約者だ」
広場に、どよめきが走る。
ざわめきは止まらない。
むしろ、重く、鈍く、広がっていく。
アルベルトはその空気を不思議そうに眺め、
やがて、肩をすくめた。
「おいおい、どうした? 暗いじゃないか。
次期領主である俺様の婚約発表なんだぞ?」
軽く笑い、両手を広げる。
そして、決定的な一言。
「ほら、祝福の声くらい出してくれよ。
俺の人生の晴れ舞台なんだからさ」
――領民の答えは、沈黙だった。
誰も、応えない。
拍手も、歓声も、祝福の言葉も何も無い。
その場にあったのは、
呆れと困惑と、冷え切った視線だけだった。
領民の中から、ひそひそと声が漏れる。
『……あれは確か、
織物商ギルダンの娘じゃないか』
『アルヴェーンを切ってまで……』
『ダメだ、ローディアはもう――』
ミレイアの笑みが、わずかに引きつる。
アルベルトもまた、
思った反応が返ってこないことに、苛立ちを滲ませた。
「な、なんだよ……!
祝いの席だぞ、喜ぶところだろ?」
私は、何も言わなかった。
怒りも、悔しさも、
この場で表に出すわけにはいかない。
(私が感情をぶつけてしまったら、ローディアは本当に終わってしまう。
今、ここで幕を引くべきは――)
「……もういい」
まるで、私の意図を組んだように、
低く、しかしはっきりとした声が響いた。
ガルヴィン卿だ。
彼はアルベルトを遮るように、一歩前に出た。
その表情には、ただ静かで、
深い怒りが滲んでいる。
「なんだよ、親父殿!
俺たちの晴れ舞台の邪魔をしないで――」
「黙れ、アルベルト」
短い一言。
それだけで、
アルベルトの口が閉じた。
ガルヴィン卿は、ゆっくりと領民の方へ向き直り、
深く、深く頭を下げた。
「……誠に申し訳ない」
広場が、さらに静まる。
「我が家の不手際により、
このような醜態をお見せすることになった」
彼は言い訳も、
責任転嫁もしなかった。
そんなガルヴィン卿が、私の方に向き直り、
先ほどと同様に、深く、深く頭を下げる。
私も彼の態度に、最大限の礼をもって、頭を下げた。
「本日の婚約発表は、
――ここで解散とする」
その宣言に、
誰も異を唱えなかった。
領民たちは、言葉少なに広場を後にしていく。
そこに残ったのは、
崩れた祝祭の名残と、
取り返しのつかない事実だけ。
アルベルトは、納得がいかないという顔で立ち尽くし、
ミレイアは、強張った表情で唇を噛みしめている。
(私も……どうするべきか決めないといけないわね)
地獄のような沈黙の中、
エレナ夫人に促され、私たちは館へと戻った――
ほんの一瞬、私の方を見た。
唇の端を、わずかに吊り上げて。
――勝ち誇った笑み。
それは隠そうともしない、
「私の勝ち」と告げる表情だった。
アルベルトは、そんな彼女を当然のように隣に立たせ、
胸を張って言い放つ。
「この娘が、
俺の本当の婚約者だ」
広場に、どよめきが走る。
ざわめきは止まらない。
むしろ、重く、鈍く、広がっていく。
アルベルトはその空気を不思議そうに眺め、
やがて、肩をすくめた。
「おいおい、どうした? 暗いじゃないか。
次期領主である俺様の婚約発表なんだぞ?」
軽く笑い、両手を広げる。
そして、決定的な一言。
「ほら、祝福の声くらい出してくれよ。
俺の人生の晴れ舞台なんだからさ」
――領民の答えは、沈黙だった。
誰も、応えない。
拍手も、歓声も、祝福の言葉も何も無い。
その場にあったのは、
呆れと困惑と、冷え切った視線だけだった。
領民の中から、ひそひそと声が漏れる。
『……あれは確か、
織物商ギルダンの娘じゃないか』
『アルヴェーンを切ってまで……』
『ダメだ、ローディアはもう――』
ミレイアの笑みが、わずかに引きつる。
アルベルトもまた、
思った反応が返ってこないことに、苛立ちを滲ませた。
「な、なんだよ……!
祝いの席だぞ、喜ぶところだろ?」
私は、何も言わなかった。
怒りも、悔しさも、
この場で表に出すわけにはいかない。
(私が感情をぶつけてしまったら、ローディアは本当に終わってしまう。
今、ここで幕を引くべきは――)
「……もういい」
まるで、私の意図を組んだように、
低く、しかしはっきりとした声が響いた。
ガルヴィン卿だ。
彼はアルベルトを遮るように、一歩前に出た。
その表情には、ただ静かで、
深い怒りが滲んでいる。
「なんだよ、親父殿!
俺たちの晴れ舞台の邪魔をしないで――」
「黙れ、アルベルト」
短い一言。
それだけで、
アルベルトの口が閉じた。
ガルヴィン卿は、ゆっくりと領民の方へ向き直り、
深く、深く頭を下げた。
「……誠に申し訳ない」
広場が、さらに静まる。
「我が家の不手際により、
このような醜態をお見せすることになった」
彼は言い訳も、
責任転嫁もしなかった。
そんなガルヴィン卿が、私の方に向き直り、
先ほどと同様に、深く、深く頭を下げる。
私も彼の態度に、最大限の礼をもって、頭を下げた。
「本日の婚約発表は、
――ここで解散とする」
その宣言に、
誰も異を唱えなかった。
領民たちは、言葉少なに広場を後にしていく。
そこに残ったのは、
崩れた祝祭の名残と、
取り返しのつかない事実だけ。
アルベルトは、納得がいかないという顔で立ち尽くし、
ミレイアは、強張った表情で唇を噛みしめている。
(私も……どうするべきか決めないといけないわね)
地獄のような沈黙の中、
エレナ夫人に促され、私たちは館へと戻った――
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