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第3章

第24話『あおいと愛実が作る夕ご飯』

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 5月4日、水曜日。
 今日は穏やかな晴天であり、まさにゴールデンウィークらしい行楽日和だ。ただ、俺は午前10時から午後6時までバイトのシフトが入っている。
 また、日中はずっとバイトがあり、今日はあおいと愛実が泊まりに来る。なので、趣味の早朝ジョギングはお休みにした。先日の失敗もあるし。ただ、明日の朝に2人と一緒に、俺がいつも走っているコースをジョギングする予定だ。
 8時間という長い時間のバイトだけど、あおいと愛実と久しぶりのお泊まりがあるから頑張れそうだ。
 最初の休憩の際にあおいと愛実からLIMEのグループトークに、

『リョウ君、バイト頑張ってね! あおいちゃんと一緒に夕食を作るよ!』
『夕食はチキンカレーとサラダです! 今日のバイトを頑張ってくださいね!』

 というメッセージをもらった。カレーは好物の料理の一つだ。それを2人が作ってくれるなんて。愛実は料理がとても上手だし、あおいも……玉子焼きとハンバーグは美味しく作れる実力がある。きっと、今夜の夕食を美味しく作ってくれることだろう。
 2人に『ありがとう。楽しみにしているよ』と返信を送り、俺は仕事に戻るのであった。


 午後6時過ぎ。
 仕事中に何か問題が起きることもなく、シフト通りにバイトを終えられた。今日は家であおいと愛実が待ってくれているから、時間通りにバイトが終わったことに嬉しさを感じる。
 今日は8時間のシフトだったけど、あっという間に感じたな。疲れもあまりないし。あおいと愛実とお泊まりをしたり、2人がカレーを作ってくれたりしているからかな。
 従業員用の出入口から外に出て、俺は帰路に就く。いつものバイト帰りよりも足取りが軽く感じる。

「それにしても、陽が長くなったなぁ」

 あおいが引っ越してきた春休みの頃は、今くらいの時間にバイトから帰ると空が暗くなっていた。今はまだまだ明るい。寒さもあまり感じないし。季節は確かに進んでいるのだと実感する。
 途中のドラッグストアで、クッキーやスティック形のポテトチップス、期間限定の抹茶味のマシュマロといったお菓子を購入する。夜に3人でアニメを観る予定なので、そのときのお供に。
 自宅とあおいの家、愛実の家が見えてきた。今は自宅で、あおいと愛実が俺の帰りを待ってくれているんだ。そのことに嬉しさと、ちょっと不思議な気持ちが入り混じる。

「ただいま」

 俺は自宅の中に入る。
 カレーができているようで、入った瞬間に食欲をそそるカレーの匂いが香ってくる。8時間もバイトした後だし、午後1時過ぎの昼休憩で食べたまかない以降は、アイスコーヒーくらいしか口にしていない。ただでさえ空いているお腹がより空いてきた。
 土間には、あおいと愛実の靴がある。2人がうちに来ている証拠だ。
 あおいと愛実は今、俺の部屋でゆっくりしているのかな。俺が帰ってくるまでの間、俺の部屋で過ごしていいと伝えてあるし。

「涼我、おかえり。バイトお疲れ様」
「おかえりなさい。バイトお疲れ様~」

 リビングから両親が顔を出して、俺にそう言ってくれた。そんな両親に、俺は「ありがとう。ただいま」と言った。

『おかえりなさーい』

 2階からあおいと愛実のユニゾンが聞こえてきた。やっぱり、俺の部屋でゆっくりしていたようだ。
 それから程なくして、あおいと愛実が階段から降りてきて、俺の目の前までやってくる。あおいはスキニーパンツにVネックの春ニット、愛実は膝丈のスカートに肩開きのTシャツという服装だ。2人ともよく似合っている。

「おかえりなさい、涼我君。バイトお疲れ様です」
「リョウ君、おかえり。バイトお疲れ様」
「ありがとう。ただいま、あおい、愛実。そして、いらっしゃい」

 俺がそう言うと、あおいと愛実はニッコリと可愛らしい笑顔を向けてくれる。それだけでバイトの疲れが取れていく。
 あと、あおいと愛実から「おかえりなさい」って言われるの……何だかいいな。バイトから帰ってきて2人に出迎えられる日が来るとは思わなかったよ。

「涼我君。ご飯にしますか? それとも、お風呂にしますか?」
「チキンカレーはできているし、あとは生野菜のサラダを用意するだけだよ。お風呂の方はお湯はりが終わったから、すぐに入れるよ」
「そうなのか」

 食事もお風呂も用意できているとは。有り難い限りである。
 あと、あおいの問いかけの際、お風呂の後に「それとも、わ・た・し?」とか「わ・た・し・た・ち?」が来るんじゃないかと思ってしまったよ。創作ではそういうシーンがあるし、あおいって漫画やアニメやラノベの定番シーンを真似したがることがあるから。

「どうしますか? 涼我君」
「……まずはご飯がいいな。バイトの後だし、昼のまかない以降はコーヒーしか口にしていないから、お腹がペコペコでさ」
「分かりました!」
「じゃあ、サラダを作ろうか、あおいちゃん」
「はいっ!」
「リョウ君は手を洗ってきてね」
「分かった」

 俺はようやく家に上がり、買ってきたお菓子を置くために2階にある自分の部屋へ行く。
 部屋の中に入ると……さっきまであおいと愛実がいたのか、2人の甘い残り香がして。テーブルには紅茶の入った2人のマグカップが置かれている。
 また、部屋の端には見たことのない大きめのバッグが2つ。きっと、あおいと愛実のお泊まりの荷物だろう。こういうのがあると、2人が泊まりに来たんだと実感する。ちなみに、今夜は昔のように2人は俺の部屋で寝る予定だ。
 勉強机にさっきドラッグストアで買ったお菓子の入った袋を置き、部屋を出た。
 2階の洗面所で手を洗ってから、1階のキッチンに向かう。

「こういう感じでいいですか?」
「うん。OKだよ」

 キッチンではあおいと愛実が生野菜のサラダを作っていた。料理中だからか、あおいは青いエプロンを、愛実は赤いエプロンを身につけている。2人とも、エプロン姿もよく似合っているなぁ。可愛い。
 午後にカレー作りをしているときも、きっと今のように2人で仲良くキッチンに向かっていたのだろう。

「あっ、リョウ君。手は洗ってきたかな?」
「ああ、洗ってきたよ。あと、2人ともエプロン姿似合ってるな」
「ありがとう、リョウ君」
「ありがとうございます。もし良ければ写真を撮ってもいいですよ」
「いいよ、リョウ君」
「じゃあ、遠慮なく」

 俺はスラックスのポケットからスマホを取り出し、エプロン姿のあおいと愛実の写真を何枚か撮った。2人はピースサインをしたり、寄り添ったり。とても可愛らしく写真に写っていた。3人のグループトークに送っておこう。
 5人いるので、普段と違ってリビングで夕食を食べることに。食卓の準備は既にできており、あおいによって俺の座る場所に案内され、両親と向かい合う形に座った。
 あおいが生野菜のサラダを、愛実がチキンカレーを持ってきてくれる。チキンカレーもサラダも美味しそうだ。あと、2人に何から何までやってもらって有り難い。2人が食事の準備をしてくれたんだし、せめても後片付けは俺がやろう。
 全員分のサラダとカレーを運び終えたあおいと愛実は、俺の両隣にあるクッションに座った。ちなみに、左隣が愛実で右隣があおいだ。

「カレーもサラダも美味しそうだ」
「愛実ちゃんのレシピで作りました。私は愛実ちゃんの指示でカレー作りを手伝いました」
「たくさんカレーを作るから、あおいちゃんが一緒で助かったよ」
「そう言ってもらえて嬉しいです。では、食べましょうか。いただきます!」
『いただきまーす』

 あおいの号令で、夕食の時間が始まった。
 俺と両親はスプーンを手に取るが、あおいと愛実は何も持たずに麻丘家の様子を見ている。そんな2人はちょっと緊張しい様子。夕食を作ったからかな。俺達が美味しいと言ってくれるかどうか気になるのだろう。
 まずはチキンカレーを食べよう。
 スプーンでご飯とカレールーと鶏肉を掬う。湯気が結構立っているので、2、3度息を吹きかけた後、口の中に入れた。
 口の中にまずはルーの辛さが広がっていく。その後に鶏肉や玉ねぎ、人参などの具の旨み成分も感じてきて。辛さも程良く、少し固めのご飯との相性もバッチリだ。

「とても美味しいカレーだよ、愛実、あおい」
「涼我の言う通りね」
「これは美味しいチキンカレーだ」

 俺と両親がチキンカレーの感想を口にする。お気に召したようで、両親は笑顔だ。
 麻丘家のみんなが美味しいと言ったからか、あおいと愛実はとても嬉しそうな表情を見せる。あおいはその後にほっと胸を撫で下ろしている。

「3人のお口に合って嬉しいです」
「私も嬉しいです。私が具材を切ったことで、味が変になっていないかどうか不安もあったのでほっとしました」
「普通に切れていたよ、あおいちゃん。じゃあ、私達も食べようか」
「はいっ!」

 あおいも愛実も自分のチキンカレーを一口食べる。

「う~んっ! 美味しくできていますね! うちのカレーより美味しいかも。さすがは愛実ちゃんです!」
「ふふっ、ありがとう。作ってから少し時間が経っているから、味見をしたときよりももっと美味しくなっているね」

 愛実がそう言うと、あおいは笑顔で頷いてもう一口食べる。あおいも愛実も美味しそうに食べていて可愛いな。
 その後もチキンカレーを食べていく。
 愛実のレシピで作ったカレーだけあって凄く美味しいな。スプーンが進む。あと、カレーを何口か食べるごとに口にする生野菜のサラダも美味しい。また、

「涼我君。カレーを一口食べさせてあげますっ」
「その後でいいから私も。一口交換しよう?」
「ああ、いいよ」

 あおいと愛実と一口交換することも。ただ、最近は慣れてきたとはいえ、両親の前なのでちょっと恥ずかしかった。だけど、

「ふふっ。昔、2人それぞれがお泊まりしに来たときのことを思い出すわ」
「そうだなぁ、母さん。特にあおいちゃんはたくさん一口交換をしていたね」
「積極的な性格だし、幼稚園に通っていた頃だったものね。あとは嫌いな野菜を涼我にあげていたりして。懐かしいわ」

 両親にとっては懐かしい光景だったようで、柔らかな笑顔で昔のお泊まりの話をしていた。からかわれたりしなくて良かったよ。
 また、両親の今の会話をきっかけに、5人で昔のお泊まり絡みの思い出話に花を咲かせた。小さい頃の話なので、ちょっと恥ずかしく感じるときもあったけど。あおいも愛実も同じなのか、2人ははにかむことがあって。それがとても可愛かった。
 愛実とあおいが一緒に泊まりに来るのは今日が初めて。でも、あおいは幼稚園の頃に、愛実は小学生の頃に泊まりに来たことが何度もあって。だから、新鮮だけど懐かしくも感じられた夕食の時間になったのであった。
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