まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ

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第24話『マッサージ』

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 朝食を食べ終わり、後片付けは俺がやった。
 片付けが終わった後は、引っ越し作業の残りをすることに。
 作業の大半は昨日のうちに終わっている。なので、荷物が入った段ボールを畳んだり、引っ越しの作業で出たゴミを纏めたりするのが主な内容だ。自分の部屋にあるものはそれぞれがやり、リビングは俺が担当する。
 また、優奈は作業の前にベランダで洗濯物を干してくれている。朝食の後片付け中に、洗濯について優奈と相談したら、

「し、しばらくは私が洗濯を担当しますっ」

 と言ってくれたのだ。そのときの優奈はちょっと頬が赤くなっていて。洗濯物の中には下着もあるからなぁ。夫とはいえ、男の俺に見られたり、触られたりするのは恥ずかしいのかもしれない。そう考え、優奈からの打診を二つ返事で受け入れた。

「……よし、これで自分の部屋は終わりっと」

 自分の部屋の片付けが終わって、リビングに行く。洗濯物を干すのが終わっており、レースのカーテン越しにベランダに干されている衣類がぼんやりと見えた。
 洗濯物を干してくれた優奈に感謝の気持ちを抱きつつ、俺はリビングにある段ボールを畳んだり、ゴミを纏めたりした。

「よし、リビングもOKだな」

 自分の担当する箇所は全て終わった。体を動かしたからか、それとも今日は朝から晴れているからか、ちょっと暑いな。

「優奈の方はどうかな」

 俺は優奈の部屋の前まで行き、扉をノックする。
 はーい、と部屋の中から優奈の返事が聞こえた。
 それから程なくして、中から部屋の扉が開かれる。作業をしているからか、優奈は朝食までは捲っていなかった縦ニットの袖を肘近くまで捲っていた。

「俺の担当したところは全部終わったけど、優奈はどうだ?」
「ついさっき、私の部屋も全て終わりました」
「そうか。お疲れ様。あと、洗濯物を干してくれてありがとう」
「いえいえ。和真君もお疲れ様です」
「ありがとう。高野区では週に一度、資源ゴミを回収するんだ。段ボールはその日にマンションのゴミ捨て場に出そう。それまでは納戸に置いておくか」
「そうしましょう。和真君が以前から高野区に住んでいますから、ゴミについては困らずに済みますね」
「自治体によって、ゴミを出す曜日とか出し方の決まりが違うみたいだもんな。ゴミ出し関係については俺に任せてくれ」
「はいっ」

 優奈はニコッと笑って返事してくれる。ゴミの出し方でもお嫁さんに頼られるのは嬉しいものだ。
 それから、2人で家の中にある段ボールをビニール紐で纏めて、納戸の中に入れた。2人分の荷物を運んできたから結構な量だ。他の住民の方々の迷惑にならないように、何回かに分けて出す方がいいかもしれない。

「よし、これで引っ越し作業も一段落かな」
「ですね。あとは、必要なものや足りないものを適宜買っていきましょう」
「そうだな。とりあえず、ここまでお疲れ様」
「お疲れ様でした」

 互いに労いの言葉を掛けた後、俺は体を伸ばした。段ボールを畳んだり、纏めたりしたので体を伸ばすと気持ちがいいな。
 俺を見てか、優奈も体を伸ばす。う~ん、と声を出しながら両腕を上げている。その体勢もあり、縦ニット越しに胸がかなりの存在感を放っている。

「痛っ」

 小さく声を漏らすと、優奈は言葉通りの痛がった表情を見せる。こんな表情を見るのは初めてだから凄く心配になる。

「ど、どうした、優奈。どこか痛いか?」
「……両肩が痛くて。私、肩が凝りやすい体質でして。昨日と今日で引っ越し作業をしたので、その疲れが肩に溜まったのかもしれません。いつもの肩凝りよりも痛いです」

 苦笑いをしながらそう言う優奈。
 優奈は肩が凝りやすい体質なのか。優奈が感じている痛みを俺が取り除いてあげたい。

「そうなんだ。……俺で良ければ、肩のマッサージしようか?」
「いいんですか?」

 そう言うと、優奈の表情がちょっと明るくなったように見える。

「ああ。真央姉さんと母さんも肩凝りしやすい体質でさ。これまでたくさん肩のマッサージをしてきたんだ。マッサージすると2人はスッキリするし、優奈にも同じようにできればいいなって」
「そうなんですか。では、お願いしてもいいですか?」
「もちろんさ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 優奈は笑顔でそう言ってくれる。俺がマッサージして、肩の凝りをほぐして優奈を笑顔にしたいな。
 マッサージしやすいように、俺達はリビングに行き、優奈に食卓の椅子に座ってもらう。俺は優奈のすぐ後ろに立つ。
 優奈のすぐ後ろに立つのは初めてだ。こうして間近から見ると、後ろ姿も凄く綺麗だ。優奈の髪からシャンプーの甘い香りがほのかに香ってくるからドキッとして。そう思いながら、俺は両手を優奈の肩にそっと乗せた。

「優奈。マッサージを始めるよ」
「よろしくお願いします」
「痛かったら遠慮なく言ってくれ」
「はいっ」

 よし。優奈に初めてのマッサージをするか。
 いつになく表情を歪めたほどだ。優奈は結構な痛みを感じていると思う。なので、まずは真央姉さんや母さんにやっていたときよりも弱い力で揉もう。
 優奈にマッサージし始める。揉み始めた瞬間、優奈の体がピクッと小さく震えた。
 肩が凝っていると言っただけあって、結構凝っているな。感触からして真央姉さんや母さん以上だ。

「優奈、力加減はどうかな?」
「もうちょっと強くても大丈夫です」
「……こんな感じか?」
「……あぁ、気持ちいいです。このくらいの力でお願いします」

 あぁ……と優奈は甘い声を漏らす。
 力を強めて揉んでいるので、優奈の肩の凝りが少しずつほぐれてきている。この強さを気持ちいいと思えるなら、俺のマッサージで肩凝りを解消できそうだ。

「痛みと気持ち良さを感じます。マッサージが効いている感じがしますね。和真君、マッサージするのがとても上手ですね」
「ありがとう。姉さんと母さんに何年もマッサージしているからかな」
「きっとそうですよ。真央さんと梨子さんはこれをたくさん経験したのですね。羨ましいです」
「……最高の褒め言葉だ」

 羨ましいと思ってくれるほどに気持ち良く感じてくれているから。
 これまで、定期的に真央姉さんと母さんに肩のマッサージをしていた。母さんは父さんにやってもらうだろうけど、真央姉さんはどうするだろう。実家からは徒歩圏内だし、俺にマッサージされるためにうちに来ることもありそうだな。

「肩凝りしやすい体質って言うほどだから、もう何年も肩凝りが続いているのか?」
「ええ。小学校の高学年……成長期が始まったあたりからでしょうか」
「そうなんだ」

 成長期ってことは……ちょうど胸が大きくなり始めた頃かな。先日のお家デートでアルバムを見てもらったとき、小学校の高学年あたりから今の体つきに段々近づいてきたのが分かったから。
 優奈の肩凝りの原因はこの大きな胸と言えるだろう。もちろん、それは言わずに心に留めておく。

「実家にいた頃は家族にマッサージしてもらっていたのか?」
「はい。お母さんと陽葵に。あと、高校生になってからは萌音ちゃんと千尋ちゃんに揉んでもらうこともありますね」
「井上さんと佐伯さんにもか」

 2人は優奈にとって特に仲のいい友人だからな。マッサージを頼むこともあるんだろう。
 ただ、井上さんは揉むのは肩だけだろうか。井上さんのことだから、胸の方も揉んでいそうな気がする。……あまり深くは考えないでおこう。

「ええ。みんな気持ち良く揉んでくれます。お母さんと萌音ちゃんは優しく、陽葵と千尋ちゃんは力を強めに」
「後者の2人は現役の運動系部活の部員だもんな」
「ですね。どちらのやり方も良くて、気持ちいいと思えます」
「そうなんだ」

 技術で気持ち良くさせるか、力で気持ち良くさせるかの違いだろうか。ただ、優奈の肩凝りを解消させたい気持ちは4人とも同じだろう。
 マッサージをしているからか、優奈の肩から伝わってくる温もりがこれまでよりも強くなっている。

「じゃあ、これまでは4人に肩凝りをほぐしてもらっていたんだな。俺は5人目になれそうか?」
「もちろんです。今もとても気持ちいいですし。一緒に住んでいますから、これからは和真君にお願いすることが一番多くなると思います」
「おおっ、それは嬉しいな。マッサージしてほしいときは遠慮なく言ってくれよ」
「はいっ」

 返事をすると、優奈は顔だけをこちらに向けて優しい笑顔を見せる。頬がほんのりと赤くなっているし、今も肩を揉んでいるから、優奈の笑みがとても艶やかに思えて。
 優奈の笑顔を見るとドキッとして、頬が熱くなるのが分かった。もしかしたら、俺の頬は優奈のように赤みを帯びているのかもしれない。
 優奈と話しながら揉んでいったので、気付けば優奈の肩の凝りがだいぶ解消されていた。

「揉まれる痛みもなくなってきました」
「そっか。だいぶほぐれてきたもんな」

 優奈にマッサージするのは初めてだけど、優奈にも効果があると分かって嬉しい。
 それから程なくして、優奈の肩から感じる凝りはなくなった。

「優奈。肩の凝りはなくなったと思うけど、どうかな?」

 そう言い、俺は両手を優奈の肩から離す。
 手を離した直後、優奈は両肩をゆっくりと回す。さあ、どうだろう?

「肩が軽くなってます。痛みもないです」

 優奈はそう言うと、席から立ち上がって俺の方を向いてくる。優奈はニッコリとした笑顔になっていて。

「肩がスッキリしました。ありがとうございました!」
「いえいえ」

 優奈の肩から凝りや痛みを取り除くことができて。
 優奈は俺の目の前まで近づくと、俺の頭に向かって右手を伸ばし……俺の頭を優しく撫でてくれる。

「肩凝りが解消しましたから、腕を上げても全然痛くありません。ありがとうございます、和真君」

 優奈は持ち前の柔らかい笑顔でそう言ってくれる。優奈の優しい手つきが気持ち良くて、頬が緩んでいく。

「これまで頭を撫でられてばかりなので、いつかは和真君の頭を撫でたいと思っていたんです。頭を撫でるのもいいですね」
「そうか。優奈に頭を撫でられるのもいいな」
「良かったです」

 えへへっ、と優奈は嬉しそうに笑った。本当に可愛いお嫁さんだ。
 引っ越し作業が一段落したので、リビングで一緒にアニメを観ることに。観るのはこれまで第8話まで観ていた『この着せ替え人形に恋をする。』だ。
 優奈が自分の部屋からBlu-rayを持ってきて、リビングのテレビのスイッチを入れる。すると、

『藍原ー!』

 という叫び声がテレビのスピーカーから聞こえた。
 ちょうど、毎年4月に公開されている『名探偵クリス』という推理漫画原作の劇場版アニメのCMが放送されていた。クリスの原作漫画もお互いの部屋の本棚にある。

「今年のクリス……萌音ちゃんと千尋ちゃんと観に行きました。和真君は観に行きましたか?」
「真央姉さんと一緒に行ったよ」

 ゴールデンウィークの時期までに、真央姉さんや友達と一緒に映画館でクリスの劇場版を観るのが毎年恒例になっている。小さい頃は家族で観に行ったな。

「毎年面白いけど、今年の劇場版は凄く面白かったな」
「とても面白かったですよね! もしよければ、私と一緒に観に行きませんか?」
「おっ、いいな。今まで、同じ映画を劇場で二度観たことはないけど、今年のクリスは凄く面白かったからな。この連休中に観に行くか」
「はいっ」
「俺は明日と7日にバイトが入っているから、6日に行くか。優奈は大丈夫か?」
「大丈夫ですよ! 6日は和真君と映画デートですね!」

 優奈はとても楽しそうに言う。
 結婚指輪を買いに行く際、映画の話題になって、近いうちに一緒に観に行くかもしれないと思っていたけど、ゴールデンウィーク中に実現することになるとは。楽しみだ。

「優奈。映画館は結婚指輪を買いに行くときに見えた映画館でいいか?」
「はい。いつもあそこで観ているので」
「分かった。映画を観に行くときは、スマホで席を予約するんだ」
「そうですか。確実に観られるのでいいですね。ゴールデンウィーク中ですから、隣同士に座れないかもしれませんし」
「そうだな」

 俺はスマホを取り出し、いつも観に行っている映画館のホームページにアクセスする。
 6日……明後日のクリスの上映予定を観ると、どの上映回も残席に余裕がある『◎』マークが表示されている。

「どの上映回で観ようか」
「せっかくのデートですから、お昼を食べたり、お店に行ったりもしたいです。お昼前の上映回がいいですね」
「そうだな。じゃあ、この11時から始まる回にしよう」

 11時のところをタップすると、座席表が表示される。白い席が空席で、黒い席が既に予約済みの席だ。白い席がほとんどだ。

「優奈は映画を観るときは、どこら辺の席に座ることが多い?」
「後ろの方ですね。スクリーンが観やすいので」
「いいよな。俺も後ろの方が多いな」

 画面をスクロールして、後ろの方の席の座席状況を表示させる。

「……あれ? 一番後ろの列……席のマークが大きいな。2席分か3席分くらいある」
「これはペアシートですね。確か、去年できました。夫婦やカップル、友達同士向けの席です。ペアシートのある劇場に入ったことがありますが、ペアシートはこのソファーのような感じのシートになっていました」
「そうなんだ。……普通の席だと、席の両側に肘掛けや飲み物入れがあるもんな。ペアシートにはそういったのがないから、より近くに座って観られるのか」
「そうですね。あと、シートごとに仕切りが設けられていたので、プライベートな感じで観られると思います」
「なるほどな」

 周りをあまり気にすることなく、2人で一緒に映画を楽しめるのか。確かに夫婦やカップル、友達同士で観るのにはいいな。

「せっかくだし、ペアシートで観てみるか? 優奈とはこうしてソファーに座ってアニメを観るし。あと、こういうシートに座ったことがないから、純粋に興味がある」
「いいですねっ。私もペアシートは経験がないですし、座ってみたいです」
「じゃあ、ペアシートを予約しよう」

 画面をタップして、ペアシートを予約した。
 ちなみに、ペアシートは2人分の映画の鑑賞料金を払えば良く、追加料金はかからない。これはとてもいいな。
 それからは、俺達は『この着せ替え人形に恋をする。』の第9話から観始める。優奈の淹れてくれたアイスティーを飲みながら。
 第9話以降が特に好きなのだろうか。それとも、映画デートの予定ができたからなのだろうか。優奈はこれまでよりも楽しそうに観ていた。
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