まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ

文字の大きさ
33 / 144

第32話『雷雨の夜に』

しおりを挟む
 夜。
 俺が作った夕食を優奈と一緒に食べ、リビングのテレビで昨晩放送されたアニメを録画したものを一緒に観た後は、自分の部屋で一人で過ごしている。
 俺はベッドの上で仰向けになり、アニメイクで買ったラブコメのラノベを読んでいる。以前からラノベを読むときはこの姿勢か、クッションに座ってベッドを背もたれにすることが多い。俺にとってはこれらの姿勢が楽なのだ。

「あははっ」

 この作品……ラブコメのコメ要素が俺好みで、何度も声に出して笑ってしまう。ラブ要素もしっかりとしているので、結構いい作品に出会えたと思う。
 途中、優奈がお風呂が空いたと教えてくれたので、入浴などで30分ほど休憩を挟んで読み進めていく。
 気付けば、半分近くまで読み終わったときだった。
 ――ゴロゴロ。
 という音が外から聞こえてきた。窓の方を向くと、カーテン越しにピカッと光るのが見えた。雷か。そういえば、今朝見た天気予報では、関東地方は一部地域で雷雨になるって言っていたっけ。
 それからすぐに、サーッという雨音も聞こえてきた。どうやら、ここが一部地域になってしまったようだ。

「おっ、また光っ――」
 ――ドカーン!

 窓全体がピカッと光った直後、轟音が立った! 雷は怖くないけど、今の大きな音にはさすがに体がピクッと震えた。

「こりゃ、かなり近くに落ちただろうなぁ」

 この家は10階にあるから落雷したことによる揺れは全然ない。ただ、実家の2階にある自室だったら地響きによる揺れを感じていただろう。もしかしたら、今の落雷で実家にいる家族は揺れを感じたかもしれない。
 近くに落雷したけど、停電はないようだ。そのことに一安心。

「ただ、雷雨がどのくらい続くんだろうな……」

 短いといいけど。
 ベッドから降り、窓から外を見てみると……結構強い雨が降っている。遠くの方では雲がピカッと光っているようにも見えて。
 夜も遅い時間になってきたし、明日は午前中からバイトがあるから、あと少しラノベを読んで寝るか。そう思って、再びベッドに戻ろうとしたときだった。
 ――コンコン。
 部屋の扉がノックされる音が聞こえた。優奈……何かあったのかな。
 はい、と返事をして、部屋の扉をゆっくりと開ける。すると、そこには枕を抱きしめた寝間着姿の優奈が立っていた。

「和真君。今夜は……和真君のベッドで一緒に寝てもいいですか?」

 俺を見つめながらそう言う優奈の顔は……青ざめていた。

「雷が怖いんです。遠くでゴロゴロ鳴るくらいならまだしも、さっきの落雷は物凄く怖かったです。ピカッと光ったと思ったら雷鳴が凄くて。怖すぎて、一人でいるのが不安で……」

 思いの丈を口にすると、優奈の目には涙が浮かんで、体が小刻みに震え始める。雷が苦手で、さっきの落雷が物凄く怖かったのがひしひしと伝わってくる。

「分かった。今夜は一緒に寝よう」

 一人でいるのが怖くて、俺と一緒にいたいと言ってくれているのだ。お嫁さんからのお願いを断るわけがない。

「……ありがとうございます」

 優奈はお礼を言うと、口角が僅かに上がった。俺と一緒にいるから少しは安心できているのかな。もしそうだったなら嬉しい。

「じゃあ、歯を磨いたり、お手洗いに行ったりして寝る準備をするよ。優奈は寝る準備はできているか?」
「はい。寝る準備を済ませて、寝ようとしたタイミングで雷雨になりましたから……」
「そうだったのか」

 もう少し雷雨が遅い時間だったら、優奈が怖い思いをせずに済んだのかもしれないな。いや、あの雷鳴だと起きてしまうか。

「じゃあ、準備してくるよ。ベッドでもどこでも好きなところにいていいから」
「……はい。ベッドにいますね。あと……早く戻ってきてくれると嬉しいです」
「分かった。善処する」

 早く戻ってきてほしいと思うことに可愛いと思いつつ、俺は部屋を後にした。
 いつかは好き合う夫婦になりたいと思っているし、一緒に寝る日は来ると思っていた。まさか、初めて一緒に寝るきっかけが、優奈が雷を怖がっているからだとは思わなかった。
 初めて一緒に寝ることのドキドキもあるけど、怖がっている優奈のことを守りたい、安心させたいという比護欲の方が強い。そんなことを考えながら、俺は急いで歯を磨いたり、お手洗いを済ませたりした。

「ただいま」
「……お、おかえりなさい」

 優奈の声が聞こえるけど、優奈の姿が見当たらない。ただ、ベッドの掛け布団が膨らんでいるのが分かった。優奈、雷が怖くて布団を被っているのか。優奈には悪いけど、そんな行動を可愛いと思ってしまった。
 部屋の照明を消し、ベッドライトを点けて、掛け布団をそっとめくる。そこにはベッドで横になっている優奈の姿が。

「優奈、ベッドに入るよ」
「……はい」

 俺はベッドに入って、優奈の方を向いた状態で横になる。
 掛け布団を胸のあたりまで掛けると、優奈が潜り込んでいたのもあって、優奈の甘い匂いがふんわりと香ってくる。
 今日のデートでは、優奈と映画のペアシートで寄り添ったり、帰りの電車の中では頭を肩に乗せられたりした。ただ、今は互いに寝間着姿でベッドに横になっているから、それらとは比にならないくらいに優奈との距離が近い気がする。段々とドキドキしてきた。

「和真君。一緒に寝てくれてありがとうございます」
「いえいえ。あと、おじいさんが買ってくれたベッドがダブルだから、2人で寝てもゆったりしているな」
「ですね」
「今まで夜に雷が近くに落ちると、こうして誰かと一緒に寝ていたのか?」
「ええ。小さい頃は両親と陽葵と4人で。おじいちゃんと寝たときもありましたね。ある程度大きくなってからは陽葵と2人で。陽葵も雷が苦手ですから」
「そうだったのか」

 ゴキブリのときといい、優奈はご家族と頼れる関係だったのだと分かる。

「和真君って雷は大丈夫なんですか?」
「小さい頃は怖いなって思ったけど、今は平気だな。さすがにさっきの雷はビックリしたけど」
「そうなんですね。和真君が側にいて、しかも落ち着いていますから心強いです」

 優奈は至近距離で俺を見つめながらニコッと笑いかけてくれる。そのことにドキッとして、体が熱くなっていくのが分かる。
 しかし、その瞬間に窓がピカッと光り、

 ――ドーン!
「きゃああっ!」

 雷鳴が大きく鳴り響き、優奈は悲鳴を上げて俺の胸に顔を埋めてくる。
 さっきほどじゃないけど、今の雷鳴もなかなかの大きさだ。それが怖かったようで、優奈の体が小刻みに震えている。その震えは体に伝わってくる。

「ううっ、怖いです……」
「今回も大きかったもんな。俺が側にいるからな」

 静かに声を掛けて、優奈の頭を優しく撫でる。こうすれば、優奈の気持ちが少しでも落ち着くかと思って。優奈は俺に頭を撫でられるのが好きだから。

「……和真君。ピカッて光るのが嫌ですし、この体勢で寝てもいいですか?」
「ああ、いいぞ」
「ありがとうございます」

 お礼を言うと、優奈はさらに俺の胸に顔を埋めてきて。そのことで、顔以外の部分も俺の体に触れて。寝間着越しに優奈の体の柔らかさと温もりがはっきりと伝わってくる。また、一部分は独特の柔らかさがあって。きっと、これは……胸なんだろうな。
 雷が怖いからというのがきっかけだけど、ベッドの中で優奈と密着している。この状況にドキドキする。

「和真君から心臓の音がはっきりと聞こえてきます」
「……優奈と初めて一緒に寝るから、ドキドキしてて」

 さすがに胸に顔を埋めているから、心臓の強い鼓動が分かっちゃうか。ちょっと恥ずかしい。

「そうですか。私も……ドキドキしてきています。私の場合は雷もありますが」

 そう言う優奈の体からは心臓の鼓動が感じられる。また、密着した直後よりも優奈の温もりが強くなっている。

「和真君の心音は雷鳴を紛らわすのにいいですね」
「それは良かった。……離れないから、優奈は安心して寝てくれ」
「はい。……おやすみなさい、和真君」
「おやすみ、優奈」

 少しでも早く安心して眠れるように、俺は優奈の頭を優しく撫でていく。
 ただ、雷雨はこの後も続き、時折、窓がピカッと光って雷鳴が響く。その度に優奈は体をピクッとさせ、大きい雷鳴のときには「きゃっ」と声を漏らして。そのときは大丈夫だと声を掛けて。優奈が可愛い寝息を立て始めるまで30分ほどかかった。
 同じベッドで一緒に寝る……夫婦らしい時間を過ごしているのだと実感する。
 いつか、好き合う夫婦になれたら、どっちかの部屋のベッドで寝るのが日常になるのだろうか。

「おやすみ、優奈」

 ベッドライトを消して、右手で優奈を軽く抱きながら目を瞑る。
 優奈と初めて一緒に寝るから、今もドキドキしている。優奈の温もりや柔らかさ、甘い匂いをはっきりと感じるし。でも、ドキドキしているのと同時に優奈から感じるものが心地良くも思えて。デートで琴宿を歩いたことの疲れもあって、結構すぐに眠りに落ちていった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。  入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。  しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。  抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。  ※タイトルは「むげん」と読みます。  ※完結しました!(2020.7.29)

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ
恋愛
 桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。  しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。  風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、 「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」  高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。  ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!  ※特別編11が完結しました!(2025.6.20)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...