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本編-ARIA-
第34話『恋愛面接』
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いじめ調査に役立つかもしれないと有紗さんが挙げた人物は、月が丘高校に通っている2年生の妹さんだった。妹さんをここに連れてくるため、今、有紗さんがスマートフォンで妹さんに電話を掛けているところだ。
「もしもし、明美。今ね、会社の後輩君の家にいるんだけど……」
僕のことを後輩君って言ったぞ。そういう風に称されたのは初めてだ。あと、妹さんの名前は明美さんって言うのかな。
「駅まで来てくれれば、後輩君の家に連れて行くから。……うん、じゃあ、お姉ちゃんも駅の方に行くから、改札前で待っててね」
そう言って、有紗さんの電話は終わる。
「妹、今から来てくれるわ」
「娘のことでここまで協力していただいて、ありがとうございます」
「いえいえ、いいんですよ。ほら、立っている者は妹でも使えって言うじゃないですか」
本当は『立っている者は親でも使え』なんだけれど。あと、今の状況で使う言葉ではないような気がする。
「妹とは駅で待ち合わせをしているので、迎えに行ってきます。帰りにコンビニで何か甘いものでも買ってきますね」
そう言うと、有紗さんは脱衣所で桃色のワンピースに着替えてから家を出発した。さすがにメイド服で外に出る勇気はないんだな。
玄関の鍵を施錠して部屋に戻ると……なんだなんだ、朝比奈親子3人が横一列になって座っているぞ。僕から見て右から果歩さん、美来、結菜ちゃんという順番で。メイド服姿の人が真ん中というのが何とも言えない。
「どうしたんですか、3人で並んで座って」
「実家のリビングでテレビを観るときに、こうしてソファーで3人並んで座るのがお決まりなのでつい……」
「そうなんだ」
果歩さんが真ん中じゃないんだな。
僕はテーブルを挟んで3人と向かい合うように座る。何だかこういう形で座ると就職活動での面接試験を思い出すな。面接官はおっさんが多かったけど。
それにしても、さすがに親子だけあって3人はよく似てるなぁ。美来を現在だとすると、結菜ちゃんは過去で、果歩さんは未来の姿って感じだ。
「どうしたんですか、智也さん。そんなに私達のことをじっと見て」
「いや、みんなよく似ていて可愛いなと」
美来の父親は幸せ者だ……と僕が思ってしまっていいのかな。でも、幸せ者だと思う、本当に。
「もう、氷室さんったら。そういう感じで接するから、有紗さんもあなたのことが好きになったんじゃないですか?」
「それ分かる。智也お兄ちゃん、とっても優しそうで……お姉ちゃんが10年間ずっと好きなのが分かるよ。私も好きになっちゃいそう」
「お母さん! 結菜! もう……」
うっとりとした表情で僕のことを見る果歩さんと結菜ちゃん。そんな2人に挟まれて不機嫌そうに頬を膨らます美来。
「ふふっ、冗談よ。お母さんは愛する夫がいるもの。でも、結菜には気をつけた方がいいと思うよ」
「私は智也お兄ちゃんにはお兄ちゃんになってほしい!」
お兄ちゃんになってほしいっていうのは、もちろんいい意味で言ってくれているんだよね、結菜ちゃん。僕のことを振ったわけじゃなくて。
「それなら、まるで智也さんに気があるようなことを言わないでよ……不安になっちゃうじゃない」
「ふふっ、それだけ氷室さんのことが好きなのね。氷室さん、本当にありがとうございます。週末にお世話になっていることもそうですし、美来の学校のことでここまで献身的になってくださって」
「いえいえ。さっきも言った通り、美来が遊びに来てくれて、本当に楽しい時間を過ごすことができていますよ。あと、平日にここでおかずを作っておいてくれて」
「えっ、ということは美来……ここの家の鍵を持っているってこと?」
「うん、そうだけど……」
この反応、もしかしてまずい感じかな。僕は美来のことを信頼して、美来にここの家の合い鍵を渡しているんだけれど。それを言っておいた方が――。
「これは9割方、有紗さんに勝ったわね」
よくやった、と言わんばかりの笑顔を果歩さんは美来に向けている。良かった、美来が怒られるようなことにならなくて。やはり、家の合い鍵を渡すというのは相当なことなんだろう。
「お母さん、これって同棲っていうやつなのかな?」
「そうだよ、結菜。お母さんもお父さんと付き合い始めて、家の合い鍵を渡されたときはとても嬉しかったわ。と言っても、大半はお父さんと一緒に家の行き来をしていたから、自分で鍵を開けて入ったことなんてそんなになかったけれど」
「へえ、そうなんだ! お姉ちゃんすごい!」
「そ、そうかな? でも、合い鍵を渡されたときはとても嬉しかったなぁ。これでいつでも智也さんの家に入れるから」
そういえば、鍵を渡したときに美来は凄く嬉しそうだったなぁ。鍵を渡すってことは相当な間柄の証拠……なんだよな。
けれど、いじめの話を聞くと家の合い鍵を渡して正解だったと思う。きっと、少しの時間でも、ここで気持ちを落ち着かせることができたと思うから。
「氷室さん。ということは……有紗さんよりも美来のことが好きだと考えていいんですよね?」
「鍵を渡したときは、有紗さんが僕のことが好きだとは知りませんでしたからね。2人とも素敵な女性だと思っていますよ。2人には僕からの返事を待ってもらっている感じです」
正直にそう言うしかない。今のところ、美来はどうしても守りたい女の子で、女性として強く意識するのは有紗さんという感じだ。もちろん、美来のことも1人の女性として意識している部分はあるけれども。
「お母さん、智也お兄ちゃんがお姉ちゃんの彼氏になってもらうために、私達でできることはないかな?」
「そうね……こればかりは美来の頑張り次第だからね。有紗さんはとても素敵な方だから、油断しちゃいけないよ、美来。でも、美来の学校のことでここまで親身になって考えてくれる氷室さんが、美来のことを恋人にしないわけがないですよね……?」
果歩さんは笑顔でそう言うけれど、何だか圧力が凄いぞ。本人の頑張り次第って言ったのはどこの誰でしたっけ?
「そんな風に言って、智也さんに彼氏になってもらっても嬉しくないよ。私は智也さんが真剣に考えたのなら、有紗さんの彼氏になっても……悲しいけれど、それは受け入れるつもりだから」
真剣な表情をして美来がそう言うと、果歩さんはふっと笑う。
「……そっか。美来も成長したのね。たまに、氷室さんが女の子と楽しく話していた日には泣いて帰ってきたことがあったのに」
「あったね。そのときに私、ずっとお姉ちゃんに抱きしめられていたのを覚えてる」
「そ、それは昔の話だよ!」
一瞬にして赤面する美来。昔の恥ずかしい話を暴露されてしまったからか、今にも泣き出しそう。当時もこんな感じだったのだろうか。
思い出せば、基本は羽賀や岡村と一緒にいたけれど、何回か女子とも一緒に遊びに行ったり、買い物に付き合わされたりしたことがあったな。2人きりで出かけたことは一度もなかったけれど。それでも、美来はとてもショックだったんだな。
「ごめんね、美来」
今から謝っても遅いと思うけれど。ポンポン、と僕は美来の頭を軽く叩いた。
「ううっ、今は恥ずかしくて泣いてしまいそうです……」
昔の話をされると恥ずかしくなることって多いなぁ。
「それだけ、当時から僕のことが凄く好きだってことか」
「そうですね。氷室さんの通っている学校が分かって、遊園地の日以降、初めて氷室さんの姿を見たときの美来はとても幸せそうでした」
「そうだったんだね、お母さん」
「結菜が物心ついたときにはもう、美来は氷室さんのことをある程度知り尽くしていたんじゃないかしら」
果歩さんはさらりとそう言うけれど、その内容はかなり恐ろしいものだぞ。初めて僕の写真を隠し撮りしたときにはきつく叱ったって話していたけれど、美来の僕への好意に折れたんだろう。よく、この10年間何もなかったな……。
――プルルッ。
僕のスマートフォンが鳴る。有紗さんからかな。
確認してみると、有紗さんからメッセージが届いていた。
『駅で妹と会えたから、今から戻るね』
良かった、妹さんと無事に駅で会えたんだ。有紗さんの妹さんってどんな感じなんだろう。有紗さんに似て活発的なのか。それとも大人しい感じなのか。
「有紗さん、妹さんと駅で会えたようです。多分、15分くらいしたら帰ってくると思いますよ」
コンビニでスイーツを買ってきてくれると言っていたし。何事も無ければ、遅くても20分くらいすれば帰ってくると思う。
「有紗さんの妹さん、どんな感じの方なのか楽しみです」
「そうだね」
妹さんが美来のことで協力してくれると信じつつ、2人が家に帰ってくるのを待つのであった。
「もしもし、明美。今ね、会社の後輩君の家にいるんだけど……」
僕のことを後輩君って言ったぞ。そういう風に称されたのは初めてだ。あと、妹さんの名前は明美さんって言うのかな。
「駅まで来てくれれば、後輩君の家に連れて行くから。……うん、じゃあ、お姉ちゃんも駅の方に行くから、改札前で待っててね」
そう言って、有紗さんの電話は終わる。
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「いえいえ、いいんですよ。ほら、立っている者は妹でも使えって言うじゃないですか」
本当は『立っている者は親でも使え』なんだけれど。あと、今の状況で使う言葉ではないような気がする。
「妹とは駅で待ち合わせをしているので、迎えに行ってきます。帰りにコンビニで何か甘いものでも買ってきますね」
そう言うと、有紗さんは脱衣所で桃色のワンピースに着替えてから家を出発した。さすがにメイド服で外に出る勇気はないんだな。
玄関の鍵を施錠して部屋に戻ると……なんだなんだ、朝比奈親子3人が横一列になって座っているぞ。僕から見て右から果歩さん、美来、結菜ちゃんという順番で。メイド服姿の人が真ん中というのが何とも言えない。
「どうしたんですか、3人で並んで座って」
「実家のリビングでテレビを観るときに、こうしてソファーで3人並んで座るのがお決まりなのでつい……」
「そうなんだ」
果歩さんが真ん中じゃないんだな。
僕はテーブルを挟んで3人と向かい合うように座る。何だかこういう形で座ると就職活動での面接試験を思い出すな。面接官はおっさんが多かったけど。
それにしても、さすがに親子だけあって3人はよく似てるなぁ。美来を現在だとすると、結菜ちゃんは過去で、果歩さんは未来の姿って感じだ。
「どうしたんですか、智也さん。そんなに私達のことをじっと見て」
「いや、みんなよく似ていて可愛いなと」
美来の父親は幸せ者だ……と僕が思ってしまっていいのかな。でも、幸せ者だと思う、本当に。
「もう、氷室さんったら。そういう感じで接するから、有紗さんもあなたのことが好きになったんじゃないですか?」
「それ分かる。智也お兄ちゃん、とっても優しそうで……お姉ちゃんが10年間ずっと好きなのが分かるよ。私も好きになっちゃいそう」
「お母さん! 結菜! もう……」
うっとりとした表情で僕のことを見る果歩さんと結菜ちゃん。そんな2人に挟まれて不機嫌そうに頬を膨らます美来。
「ふふっ、冗談よ。お母さんは愛する夫がいるもの。でも、結菜には気をつけた方がいいと思うよ」
「私は智也お兄ちゃんにはお兄ちゃんになってほしい!」
お兄ちゃんになってほしいっていうのは、もちろんいい意味で言ってくれているんだよね、結菜ちゃん。僕のことを振ったわけじゃなくて。
「それなら、まるで智也さんに気があるようなことを言わないでよ……不安になっちゃうじゃない」
「ふふっ、それだけ氷室さんのことが好きなのね。氷室さん、本当にありがとうございます。週末にお世話になっていることもそうですし、美来の学校のことでここまで献身的になってくださって」
「いえいえ。さっきも言った通り、美来が遊びに来てくれて、本当に楽しい時間を過ごすことができていますよ。あと、平日にここでおかずを作っておいてくれて」
「えっ、ということは美来……ここの家の鍵を持っているってこと?」
「うん、そうだけど……」
この反応、もしかしてまずい感じかな。僕は美来のことを信頼して、美来にここの家の合い鍵を渡しているんだけれど。それを言っておいた方が――。
「これは9割方、有紗さんに勝ったわね」
よくやった、と言わんばかりの笑顔を果歩さんは美来に向けている。良かった、美来が怒られるようなことにならなくて。やはり、家の合い鍵を渡すというのは相当なことなんだろう。
「お母さん、これって同棲っていうやつなのかな?」
「そうだよ、結菜。お母さんもお父さんと付き合い始めて、家の合い鍵を渡されたときはとても嬉しかったわ。と言っても、大半はお父さんと一緒に家の行き来をしていたから、自分で鍵を開けて入ったことなんてそんなになかったけれど」
「へえ、そうなんだ! お姉ちゃんすごい!」
「そ、そうかな? でも、合い鍵を渡されたときはとても嬉しかったなぁ。これでいつでも智也さんの家に入れるから」
そういえば、鍵を渡したときに美来は凄く嬉しそうだったなぁ。鍵を渡すってことは相当な間柄の証拠……なんだよな。
けれど、いじめの話を聞くと家の合い鍵を渡して正解だったと思う。きっと、少しの時間でも、ここで気持ちを落ち着かせることができたと思うから。
「氷室さん。ということは……有紗さんよりも美来のことが好きだと考えていいんですよね?」
「鍵を渡したときは、有紗さんが僕のことが好きだとは知りませんでしたからね。2人とも素敵な女性だと思っていますよ。2人には僕からの返事を待ってもらっている感じです」
正直にそう言うしかない。今のところ、美来はどうしても守りたい女の子で、女性として強く意識するのは有紗さんという感じだ。もちろん、美来のことも1人の女性として意識している部分はあるけれども。
「お母さん、智也お兄ちゃんがお姉ちゃんの彼氏になってもらうために、私達でできることはないかな?」
「そうね……こればかりは美来の頑張り次第だからね。有紗さんはとても素敵な方だから、油断しちゃいけないよ、美来。でも、美来の学校のことでここまで親身になって考えてくれる氷室さんが、美来のことを恋人にしないわけがないですよね……?」
果歩さんは笑顔でそう言うけれど、何だか圧力が凄いぞ。本人の頑張り次第って言ったのはどこの誰でしたっけ?
「そんな風に言って、智也さんに彼氏になってもらっても嬉しくないよ。私は智也さんが真剣に考えたのなら、有紗さんの彼氏になっても……悲しいけれど、それは受け入れるつもりだから」
真剣な表情をして美来がそう言うと、果歩さんはふっと笑う。
「……そっか。美来も成長したのね。たまに、氷室さんが女の子と楽しく話していた日には泣いて帰ってきたことがあったのに」
「あったね。そのときに私、ずっとお姉ちゃんに抱きしめられていたのを覚えてる」
「そ、それは昔の話だよ!」
一瞬にして赤面する美来。昔の恥ずかしい話を暴露されてしまったからか、今にも泣き出しそう。当時もこんな感じだったのだろうか。
思い出せば、基本は羽賀や岡村と一緒にいたけれど、何回か女子とも一緒に遊びに行ったり、買い物に付き合わされたりしたことがあったな。2人きりで出かけたことは一度もなかったけれど。それでも、美来はとてもショックだったんだな。
「ごめんね、美来」
今から謝っても遅いと思うけれど。ポンポン、と僕は美来の頭を軽く叩いた。
「ううっ、今は恥ずかしくて泣いてしまいそうです……」
昔の話をされると恥ずかしくなることって多いなぁ。
「それだけ、当時から僕のことが凄く好きだってことか」
「そうですね。氷室さんの通っている学校が分かって、遊園地の日以降、初めて氷室さんの姿を見たときの美来はとても幸せそうでした」
「そうだったんだね、お母さん」
「結菜が物心ついたときにはもう、美来は氷室さんのことをある程度知り尽くしていたんじゃないかしら」
果歩さんはさらりとそう言うけれど、その内容はかなり恐ろしいものだぞ。初めて僕の写真を隠し撮りしたときにはきつく叱ったって話していたけれど、美来の僕への好意に折れたんだろう。よく、この10年間何もなかったな……。
――プルルッ。
僕のスマートフォンが鳴る。有紗さんからかな。
確認してみると、有紗さんからメッセージが届いていた。
『駅で妹と会えたから、今から戻るね』
良かった、妹さんと無事に駅で会えたんだ。有紗さんの妹さんってどんな感じなんだろう。有紗さんに似て活発的なのか。それとも大人しい感じなのか。
「有紗さん、妹さんと駅で会えたようです。多分、15分くらいしたら帰ってくると思いますよ」
コンビニでスイーツを買ってきてくれると言っていたし。何事も無ければ、遅くても20分くらいすれば帰ってくると思う。
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