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本編-ARIA-
第35話『妹よ』
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有紗さんから連絡があってから約20分後。
――ピンポーン。
インターホンが鳴ったので玄関まで行き、ドアスコープで確認する。そこには有紗さんと彼女に似た女の子が立っていた。彼女が妹の明美さんなのかな。
鍵を解錠して玄関の扉を開ける。
「有紗さん、おかえりなさい」
「ただいま、智也君。こっちにいるのが妹の明美だよ」
有紗さんの隣に立っている明美さんがにこっと笑う。ツーサイドアップの髪型がよく似合っているな。
「初めまして、月村明美です。高校2年です。会社ではお姉ちゃんがいつもお世話になってます」
「いえいえ、こちらこそ。初めまして、氷室智也です」
「……この人が、お姉ちゃんがいつも話している氷室さんか。かっこいいかどうかはともかく、とても優しそうな人だね」
かっこいいかどうかはともかく、という一言が気になるけど、有紗さん……いつも家では僕の話をしているのか。
「昨日、お姉ちゃんが家に帰ってきたとき、氷室さんの家にお泊まりしてきたと言ってきて。しかも、すぐにまた氷室さんの家に行くと言ったときは、ついにお姉ちゃんにも春がやってきたと思いました」
「そ、そうなんだね」
でも、実際は有紗さんと付き合っているわけではないし、美来という女の子もいる。このことを明美ちゃんにも言っておいた方がいいと思うけれど、どこから説明しようか。
「大丈夫だよ、智也君。駅からここに来る間に、だいたいのことは説明したから」
「そうなんですか。ありがとうございます」
「朝比奈美来さんが氷室さんと10年前から好きであり、プロポーズを2回もされていること。そんな朝比奈さんが、学校でいじめを受けていることもお姉ちゃんから聞きました。私も、朝比奈美来という1年生の女の子が凄く可愛いと何度か聞いたことがあります」
美来は既に月が丘高校では有名人ってわけか。部活でもいじめられているから、その影響で名前が知られているのかもしれない。
「そうなんだ。……ここで話すのも何だから、家に入って」
「はい。お邪魔します」
有紗さんと明美ちゃんを家に招き入れ、玄関の鍵を施錠する。諸澄君のことがあってから、鍵を施錠することが癖になってしまったな。
まさか、僕の家にいる女性の最多人数がこんなすぐに更新されるとは。5人なんて、もう一生ないんじゃないだろうか。
「みなさん、初めまして。月村明美です」
「1年1組の朝比奈美来です。声楽部に入っています」
「あなたが朝比奈さんだね。私は2年3組なんだ。それにしても噂通り、朝比奈さんって物凄く可愛いね。メイド服もよく似合ってるよ。美来ちゃんがお姉ちゃんの恋のライバルかぁ……これは強敵だね」
何か、結菜ちゃんと同じようなことを言っているな。お互いに自分の姉のことを応援しているようだ。
「美来の母の朝比奈果歩です」
「妹の朝比奈結菜です」
「……朝比奈さん親子って、みなさん可愛らしいですね。今の並びだと結菜ちゃんが美来ちゃんの小さい頃の姿で、お母さんの方が将来の姿って感じに思えます」
「僕も同じことを思ったよ」
それをさらりと言えてしまうところが、さすがは女の子って感じだ。僕もさっきから思っていたけれど、そんなこと言えなかったよ。
「あらあら、月村姉妹も可愛らしいわよ。有紗さんが高校生のときは明美さんみたいだったんだって思えるし」
「可愛らしいお姉さんの妹さんはやはり可愛らしいんですね」
互いに褒め合っているけれど、これって嵐の前の静けさかな? これはすぐに本題へ移った方がいいかもしれないな。
「さっそくだけど、明美ちゃん。美来が学校でいじめられているんだ。そのことについて、明美ちゃんのできる範囲でかまわないから、学校での調査をお願いできるかな」
「そのことについても、お姉ちゃんから聞いています。私なりにですが調べてみたいと思います」
「ありがとうございます、美来のことで……」
「お姉ちゃんのためにもよろしくお願いします!」
果歩さんと結菜ちゃん、明美さんに対して土下座のようにして頭を下げている。
「いえいえ。私だからこそできることもあるでしょうし。声楽部に所属している友人もいますし、部活の方はそこから調べられればいいなと思っています」
さすがは月が丘高校の生徒だけあって繋がりがあるか。声楽部の友人がいるなら、部活の方は調べることができそうかな。
「ちなみにだけど、美来ちゃん。2年生だけでいいから、声楽部の中で朝比奈さんにいじめている人が誰なのかを教えてくれないかな。言いづらいかもしれないけれど」
調査をするなら、事前に情報があった方がいいよな。特に美来をいじめた生徒のことについては。いじめた生徒の名前を口にするのは、美来にとって辛いことだろうけど。
「美来、辛かったら言わなくてもいいんだよ。明美ちゃんに頑張って調べてもらえば、いずれは分かることなんだし」
「うん。氷室さんの言うとおり。もし、言えないなら言えないでいいから」
まずいことを聞いちゃったかなと、明美ちゃんも焦った表情を見せる。
「……大崎先輩です」
「えっ?」
「大崎美菜子先輩です。声楽部の2年生の生徒で、主に私のことをいじめてきたのは……」
美来の口から初めて、自分のことをいじめる生徒の名前を聞いた。大崎美菜子という名前を聞いても、もちろん僕に心当たりなんてなくて。
「み、美菜子だって……?」
そんな僕とは対照的に、明美ちゃんはどうやら心当たりがあるようで。
「知っているの? 明美」
「……うん。2年連続同じクラスで友達なんだよ。2年生になってから、イライラしているときが増えたと思ったら、それが原因だったのか……」
チッ、と明美ちゃんはあからさまに怒った様子を見せている。どうやら、自分の友達が美来をいじめていたことに怒っているようだ。
「明日、あいつに徹底的に問いただすから。あと、朝比奈さんはこのことに決着が付くまでは学校に来ない方がいいよ」
「もちろん、明日から行かないつもりです。寮に入っているんですけど、もう今日はここから実家に帰って、決着が付くまでは実家で過ごします」
「それがいいね。まったく、何を口実にいじめなんてするのかなぁ。いじめて楽しいとか快感だとか言ったら、頬に渾身の一発を浴びさせてやるからね」
力がこもっているのか、明美ちゃんの右手が震えている。怒りがある程度のラインを超えると手が出てしまうところは、有紗さんと似ているな。友達だからこそ、そのくらいのことをしないと気が済まないんだろう。
「果歩さん、このことってまだ学校には伝えていないんですよね?」
「ええ、まだ伝えていないわ。明日の朝に美来のクラスの担任に伝えるつもりだけれど……」
「そうですか。……私の考えすぎかもしれませんけど、美来ちゃんのクラスの担任や、声楽部の顧問はいじめを黙認している可能性もあるんじゃないでしょうか。このことが表沙汰にならないように、おざなりな対応をされるかもしれません。私の方から、私のクラスの担任ではありますけど、このことについて話していいですか? クラスメイトの美菜子も関わっていますし……」
明美ちゃんの言うように、美来のクラスの担任や声楽部の顧問は、美来へのいじめがあることを知っており、それを問題にしてしまうと面倒になるので、黙認している可能性はありそうだ。明美さんのクラスメイトが美来をいじめていることを切り口に、明美さんのクラス担任にこのことを伝えるというのは効果的だろう。
「私はそれでかまわないけれど、美来はどう?」
「……お願いします」
果歩さんの問いに、美来は即答した。
「じゃあ、このことを明日、私のクラスの担任に伝えるね」
「はい、分かりました。よろしくお願いします」
これだけたくさんの人が美来のために動こうとしているんだ。美来も自分が独りではないと思っていてくれていると嬉しい。
これで、今後の方向性が定まったな。僕はまず果歩さんや明美ちゃんから情報を得て、誰と話せばこの問題を解決できるかを考えることかな。
今後は色々と連絡を取り合うと思うので、6人の中でまだ知らない人の連絡先を交換し合った。
美来は果歩さんや結菜ちゃんと一緒に実家に帰り、有紗さんは明美ちゃんと一緒に家に帰っていった。
夜になって果歩さんから連絡がきた。
美来がいじめられていることを旦那さんに話したところ、旦那さんは激昂し、明日は代休なので午前中に学校に連絡をするとのこと。向こうの対応によっては学校に乗り込むらしい。あと、僕にとても感謝していて、美来を任せられるのは僕しかいないと断言したそうだ。結婚するならいつでも許可を出すと。僕のことを信頼してくれるのは嬉しいけれども。
「僕は僕にできることをするしかないか」
それでも、まずは美来の御両親が学校に連絡することと、明美ちゃんの調査。そこから得られた情報や学校側の動きを見て、僕にできることを模索していくことにしよう。
――ピンポーン。
インターホンが鳴ったので玄関まで行き、ドアスコープで確認する。そこには有紗さんと彼女に似た女の子が立っていた。彼女が妹の明美さんなのかな。
鍵を解錠して玄関の扉を開ける。
「有紗さん、おかえりなさい」
「ただいま、智也君。こっちにいるのが妹の明美だよ」
有紗さんの隣に立っている明美さんがにこっと笑う。ツーサイドアップの髪型がよく似合っているな。
「初めまして、月村明美です。高校2年です。会社ではお姉ちゃんがいつもお世話になってます」
「いえいえ、こちらこそ。初めまして、氷室智也です」
「……この人が、お姉ちゃんがいつも話している氷室さんか。かっこいいかどうかはともかく、とても優しそうな人だね」
かっこいいかどうかはともかく、という一言が気になるけど、有紗さん……いつも家では僕の話をしているのか。
「昨日、お姉ちゃんが家に帰ってきたとき、氷室さんの家にお泊まりしてきたと言ってきて。しかも、すぐにまた氷室さんの家に行くと言ったときは、ついにお姉ちゃんにも春がやってきたと思いました」
「そ、そうなんだね」
でも、実際は有紗さんと付き合っているわけではないし、美来という女の子もいる。このことを明美ちゃんにも言っておいた方がいいと思うけれど、どこから説明しようか。
「大丈夫だよ、智也君。駅からここに来る間に、だいたいのことは説明したから」
「そうなんですか。ありがとうございます」
「朝比奈美来さんが氷室さんと10年前から好きであり、プロポーズを2回もされていること。そんな朝比奈さんが、学校でいじめを受けていることもお姉ちゃんから聞きました。私も、朝比奈美来という1年生の女の子が凄く可愛いと何度か聞いたことがあります」
美来は既に月が丘高校では有名人ってわけか。部活でもいじめられているから、その影響で名前が知られているのかもしれない。
「そうなんだ。……ここで話すのも何だから、家に入って」
「はい。お邪魔します」
有紗さんと明美ちゃんを家に招き入れ、玄関の鍵を施錠する。諸澄君のことがあってから、鍵を施錠することが癖になってしまったな。
まさか、僕の家にいる女性の最多人数がこんなすぐに更新されるとは。5人なんて、もう一生ないんじゃないだろうか。
「みなさん、初めまして。月村明美です」
「1年1組の朝比奈美来です。声楽部に入っています」
「あなたが朝比奈さんだね。私は2年3組なんだ。それにしても噂通り、朝比奈さんって物凄く可愛いね。メイド服もよく似合ってるよ。美来ちゃんがお姉ちゃんの恋のライバルかぁ……これは強敵だね」
何か、結菜ちゃんと同じようなことを言っているな。お互いに自分の姉のことを応援しているようだ。
「美来の母の朝比奈果歩です」
「妹の朝比奈結菜です」
「……朝比奈さん親子って、みなさん可愛らしいですね。今の並びだと結菜ちゃんが美来ちゃんの小さい頃の姿で、お母さんの方が将来の姿って感じに思えます」
「僕も同じことを思ったよ」
それをさらりと言えてしまうところが、さすがは女の子って感じだ。僕もさっきから思っていたけれど、そんなこと言えなかったよ。
「あらあら、月村姉妹も可愛らしいわよ。有紗さんが高校生のときは明美さんみたいだったんだって思えるし」
「可愛らしいお姉さんの妹さんはやはり可愛らしいんですね」
互いに褒め合っているけれど、これって嵐の前の静けさかな? これはすぐに本題へ移った方がいいかもしれないな。
「さっそくだけど、明美ちゃん。美来が学校でいじめられているんだ。そのことについて、明美ちゃんのできる範囲でかまわないから、学校での調査をお願いできるかな」
「そのことについても、お姉ちゃんから聞いています。私なりにですが調べてみたいと思います」
「ありがとうございます、美来のことで……」
「お姉ちゃんのためにもよろしくお願いします!」
果歩さんと結菜ちゃん、明美さんに対して土下座のようにして頭を下げている。
「いえいえ。私だからこそできることもあるでしょうし。声楽部に所属している友人もいますし、部活の方はそこから調べられればいいなと思っています」
さすがは月が丘高校の生徒だけあって繋がりがあるか。声楽部の友人がいるなら、部活の方は調べることができそうかな。
「ちなみにだけど、美来ちゃん。2年生だけでいいから、声楽部の中で朝比奈さんにいじめている人が誰なのかを教えてくれないかな。言いづらいかもしれないけれど」
調査をするなら、事前に情報があった方がいいよな。特に美来をいじめた生徒のことについては。いじめた生徒の名前を口にするのは、美来にとって辛いことだろうけど。
「美来、辛かったら言わなくてもいいんだよ。明美ちゃんに頑張って調べてもらえば、いずれは分かることなんだし」
「うん。氷室さんの言うとおり。もし、言えないなら言えないでいいから」
まずいことを聞いちゃったかなと、明美ちゃんも焦った表情を見せる。
「……大崎先輩です」
「えっ?」
「大崎美菜子先輩です。声楽部の2年生の生徒で、主に私のことをいじめてきたのは……」
美来の口から初めて、自分のことをいじめる生徒の名前を聞いた。大崎美菜子という名前を聞いても、もちろん僕に心当たりなんてなくて。
「み、美菜子だって……?」
そんな僕とは対照的に、明美ちゃんはどうやら心当たりがあるようで。
「知っているの? 明美」
「……うん。2年連続同じクラスで友達なんだよ。2年生になってから、イライラしているときが増えたと思ったら、それが原因だったのか……」
チッ、と明美ちゃんはあからさまに怒った様子を見せている。どうやら、自分の友達が美来をいじめていたことに怒っているようだ。
「明日、あいつに徹底的に問いただすから。あと、朝比奈さんはこのことに決着が付くまでは学校に来ない方がいいよ」
「もちろん、明日から行かないつもりです。寮に入っているんですけど、もう今日はここから実家に帰って、決着が付くまでは実家で過ごします」
「それがいいね。まったく、何を口実にいじめなんてするのかなぁ。いじめて楽しいとか快感だとか言ったら、頬に渾身の一発を浴びさせてやるからね」
力がこもっているのか、明美ちゃんの右手が震えている。怒りがある程度のラインを超えると手が出てしまうところは、有紗さんと似ているな。友達だからこそ、そのくらいのことをしないと気が済まないんだろう。
「果歩さん、このことってまだ学校には伝えていないんですよね?」
「ええ、まだ伝えていないわ。明日の朝に美来のクラスの担任に伝えるつもりだけれど……」
「そうですか。……私の考えすぎかもしれませんけど、美来ちゃんのクラスの担任や、声楽部の顧問はいじめを黙認している可能性もあるんじゃないでしょうか。このことが表沙汰にならないように、おざなりな対応をされるかもしれません。私の方から、私のクラスの担任ではありますけど、このことについて話していいですか? クラスメイトの美菜子も関わっていますし……」
明美ちゃんの言うように、美来のクラスの担任や声楽部の顧問は、美来へのいじめがあることを知っており、それを問題にしてしまうと面倒になるので、黙認している可能性はありそうだ。明美さんのクラスメイトが美来をいじめていることを切り口に、明美さんのクラス担任にこのことを伝えるというのは効果的だろう。
「私はそれでかまわないけれど、美来はどう?」
「……お願いします」
果歩さんの問いに、美来は即答した。
「じゃあ、このことを明日、私のクラスの担任に伝えるね」
「はい、分かりました。よろしくお願いします」
これだけたくさんの人が美来のために動こうとしているんだ。美来も自分が独りではないと思っていてくれていると嬉しい。
これで、今後の方向性が定まったな。僕はまず果歩さんや明美ちゃんから情報を得て、誰と話せばこの問題を解決できるかを考えることかな。
今後は色々と連絡を取り合うと思うので、6人の中でまだ知らない人の連絡先を交換し合った。
美来は果歩さんや結菜ちゃんと一緒に実家に帰り、有紗さんは明美ちゃんと一緒に家に帰っていった。
夜になって果歩さんから連絡がきた。
美来がいじめられていることを旦那さんに話したところ、旦那さんは激昂し、明日は代休なので午前中に学校に連絡をするとのこと。向こうの対応によっては学校に乗り込むらしい。あと、僕にとても感謝していて、美来を任せられるのは僕しかいないと断言したそうだ。結婚するならいつでも許可を出すと。僕のことを信頼してくれるのは嬉しいけれども。
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