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本編-ARIA-
第38話『茜道』
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明美ちゃんからのメッセージがあってからは、特に新しい情報は入っていない。もしかしたら、今もまだ職員会議が続いているのかもしれない。
午後6時。
午後も緊急の案件が1つも入らなかったので、定時で仕事が終わった。これから、有紗さんと一緒に、羽賀や岡村が待ついつもの居酒屋へと向かう。
「智也君が連れて行ってくれるなんて嬉しいな」
有紗さんは僕の手を握りながら、嬉しそうに言う。そういえば、僕から有紗さんを連れて行くなんてこと、今まで一度もなかったもんな。
「今から行く居酒屋ってどういう感じのお店なの?」
「先週、有紗さんが連れて行ってくれたお店と雰囲気は似ていますね。静かなところですから、落ち着いて呑めますよ。いつも決まって個室ですけど」
「そうなんだ」
「学生時代から、羽賀や岡村と呑むときは決まってそこなんです」
「そうなの。いいね、行きつけのお店があるって。あと、岡村さんってどういう方なの?」
何だ、岡村に興味があるのか? あいつがどういう奴かっていうと、
「この前、羽賀が言っていたように、筋金入り……とまでは行きませんがバカな男です。脳みそが筋肉でできているというか。でも、情の厚い人間ですよ、彼は」
考えるよりも先に体が動くというか。感情が先走りするときもあるけれど、気さくな性格の持ち主。だから、3人の中では最も友人が多いと思う。
「あと、あいつは最近、付き合っていた恋人にフラれたそうなので、女には目がない状態です。なので、一応……気をつけてください。変なことを言うかもしれません」
有紗さん、とても可愛らしい人だから、一目見た瞬間に結婚してくださいとか言い出しかねない。
「大丈夫。あたしは智也君しか見てないから」
「……大丈夫そうですね」
その言葉を職場にいる人達に言ってしまったら、どれだけの人間が僕のことを恨む結果になるんだろう。
駅に到着すると、ちょうどいいタイミングで電車が到着したので、僕と有紗さんは急いで電車に乗った。
「間に合ったね、智也君」
「そうですね。いいタイミングで乗れましたね」
これなら、この前のように羽賀と岡村が先に呑み始めることはないかな。
「仕事も終わったし、智也君と手を繋いでいるし、智也君の温もりや匂いも感じられるし、すっごく幸せだよ」
有紗さんは僕に寄りかかりながら顔を見上げ、ニッコリと笑ってくる。本当に可愛い先輩だ。
「今日はずっと智也君と一緒にいた感じがするよ」
「ははっ、これまでも職場ではずっと一緒じゃないですか」
「まあ、そうだけど。でも、今までよりもずっとね。今日は夜まで智也君と一緒だから」
「……呑みますもんね、今日は」
「呑むもんね。あと、今日は智也君の家にも泊まるつもりだよ?」
「……は?」
ちょっと待ってくれ。僕の家に泊まるって? 僕の聞き間違いじゃないか?
「何を言っているんですか。明日も仕事なんですよ? それに、家にメイド服はありますけど、有紗さんの着る服とかは……」
「ベッド下の収納スペースに空きがあるじゃない。一昨日……智也君がお風呂に入っている間に、美来ちゃんと一緒に服や下着を入れておいたの!」
有紗さん、ドヤ顔で言ってくるんだけど。僕がお風呂に入っている時間……20分くらいの間で収納したのか。
「……全然気付きませんでした」
僕はあまり服とかに興味がないので、量もそこまで多くない。なので、有紗さんや美来の服を入れることもできるだろう。
「翌日が仕事でも泊まれるようにしようと思って」
「人の家をホテルみたいに言わないでくれませんか。というか、美来がそれを知ったらどう思うか……」
ただでさえ、今は美来が大変なときなのに。あと、僕の家に服が置いてあるんだから、今日みたいな日じゃなくても泊まるようになるのでは。
「美来ちゃんには話してあるよ。これでいつでも智也君の家に泊まれるって。そうしたら、美来ちゃんも『いつでも気軽に泊まりに行けますね』って言っていたよ。鍵も持っているからって」
「そうなんですか」
それでいいのか、美来。もしかしたら今日、家に帰ったら、僕のベッドで美来が眠っていましたというドッキリが待っているかもしれないな。
「『平日に何度か寝泊まりしたくらいで、智也さんの心が月村さんに向くようなことはないと思います。10年越しの愛の力はとても強いんですよ』って言われたよ」
「そんなことを言っていたんですか。あと、美来の真似、可愛いですね」
思いの外、口調とかが似ていたので驚いた。
「えっ、それってあたしが可愛いの? それとも美来ちゃん?」
「有紗さんが可愛いと思って言ったんですけど」
「……それならそうだって言ってよ、もう……」
美来の真似が可愛いってことを、別の言葉でどう言えばいいのだろうか。
――プルルッ。
僕のスマートフォンが鳴る。発信者を確認すると『羽賀尊』となっている。
「はい」
『羽賀だ。思ったよりも早く、居酒屋の前で岡村と落ち合うことができた。氷室と月村さんはあとどのくらいで着くだろうか』
「あと30分くらいかかるから、先に始めちゃっていいよ」
『分かった。では、お先に岡村と呑み始めることにするよ。今日も私の名前で個室の予約をしているので、到着したら店員に私の名前を伝えてくれ』
「分かった。じゃあ、また後で」
『ああ、待っているぞ』
羽賀の方から通話を切った。岡村は今日も仕事が休みだから、羽賀が結構早く仕事を終えることができたんだな。
「羽賀さんから?」
「ええ、羽賀と岡村が居酒屋の前で落ち合えたので先に呑むと」
「そうなのね。そこまではどのくらいで着く?」
「駅から歩く時間も考えると、あと30分くらいですね」
「分かった」
今夜、僕の家に泊まるつもりの月村さんを岡村に会わせたら、あいつはどんな反応をするのかが心配だけれど、羽賀もいるし何とかなるだろう。
僕に寄りかかってくる有紗さんの手を握りながら、車窓から茜色の空を眺めるのであった。
午後6時。
午後も緊急の案件が1つも入らなかったので、定時で仕事が終わった。これから、有紗さんと一緒に、羽賀や岡村が待ついつもの居酒屋へと向かう。
「智也君が連れて行ってくれるなんて嬉しいな」
有紗さんは僕の手を握りながら、嬉しそうに言う。そういえば、僕から有紗さんを連れて行くなんてこと、今まで一度もなかったもんな。
「今から行く居酒屋ってどういう感じのお店なの?」
「先週、有紗さんが連れて行ってくれたお店と雰囲気は似ていますね。静かなところですから、落ち着いて呑めますよ。いつも決まって個室ですけど」
「そうなんだ」
「学生時代から、羽賀や岡村と呑むときは決まってそこなんです」
「そうなの。いいね、行きつけのお店があるって。あと、岡村さんってどういう方なの?」
何だ、岡村に興味があるのか? あいつがどういう奴かっていうと、
「この前、羽賀が言っていたように、筋金入り……とまでは行きませんがバカな男です。脳みそが筋肉でできているというか。でも、情の厚い人間ですよ、彼は」
考えるよりも先に体が動くというか。感情が先走りするときもあるけれど、気さくな性格の持ち主。だから、3人の中では最も友人が多いと思う。
「あと、あいつは最近、付き合っていた恋人にフラれたそうなので、女には目がない状態です。なので、一応……気をつけてください。変なことを言うかもしれません」
有紗さん、とても可愛らしい人だから、一目見た瞬間に結婚してくださいとか言い出しかねない。
「大丈夫。あたしは智也君しか見てないから」
「……大丈夫そうですね」
その言葉を職場にいる人達に言ってしまったら、どれだけの人間が僕のことを恨む結果になるんだろう。
駅に到着すると、ちょうどいいタイミングで電車が到着したので、僕と有紗さんは急いで電車に乗った。
「間に合ったね、智也君」
「そうですね。いいタイミングで乗れましたね」
これなら、この前のように羽賀と岡村が先に呑み始めることはないかな。
「仕事も終わったし、智也君と手を繋いでいるし、智也君の温もりや匂いも感じられるし、すっごく幸せだよ」
有紗さんは僕に寄りかかりながら顔を見上げ、ニッコリと笑ってくる。本当に可愛い先輩だ。
「今日はずっと智也君と一緒にいた感じがするよ」
「ははっ、これまでも職場ではずっと一緒じゃないですか」
「まあ、そうだけど。でも、今までよりもずっとね。今日は夜まで智也君と一緒だから」
「……呑みますもんね、今日は」
「呑むもんね。あと、今日は智也君の家にも泊まるつもりだよ?」
「……は?」
ちょっと待ってくれ。僕の家に泊まるって? 僕の聞き間違いじゃないか?
「何を言っているんですか。明日も仕事なんですよ? それに、家にメイド服はありますけど、有紗さんの着る服とかは……」
「ベッド下の収納スペースに空きがあるじゃない。一昨日……智也君がお風呂に入っている間に、美来ちゃんと一緒に服や下着を入れておいたの!」
有紗さん、ドヤ顔で言ってくるんだけど。僕がお風呂に入っている時間……20分くらいの間で収納したのか。
「……全然気付きませんでした」
僕はあまり服とかに興味がないので、量もそこまで多くない。なので、有紗さんや美来の服を入れることもできるだろう。
「翌日が仕事でも泊まれるようにしようと思って」
「人の家をホテルみたいに言わないでくれませんか。というか、美来がそれを知ったらどう思うか……」
ただでさえ、今は美来が大変なときなのに。あと、僕の家に服が置いてあるんだから、今日みたいな日じゃなくても泊まるようになるのでは。
「美来ちゃんには話してあるよ。これでいつでも智也君の家に泊まれるって。そうしたら、美来ちゃんも『いつでも気軽に泊まりに行けますね』って言っていたよ。鍵も持っているからって」
「そうなんですか」
それでいいのか、美来。もしかしたら今日、家に帰ったら、僕のベッドで美来が眠っていましたというドッキリが待っているかもしれないな。
「『平日に何度か寝泊まりしたくらいで、智也さんの心が月村さんに向くようなことはないと思います。10年越しの愛の力はとても強いんですよ』って言われたよ」
「そんなことを言っていたんですか。あと、美来の真似、可愛いですね」
思いの外、口調とかが似ていたので驚いた。
「えっ、それってあたしが可愛いの? それとも美来ちゃん?」
「有紗さんが可愛いと思って言ったんですけど」
「……それならそうだって言ってよ、もう……」
美来の真似が可愛いってことを、別の言葉でどう言えばいいのだろうか。
――プルルッ。
僕のスマートフォンが鳴る。発信者を確認すると『羽賀尊』となっている。
「はい」
『羽賀だ。思ったよりも早く、居酒屋の前で岡村と落ち合うことができた。氷室と月村さんはあとどのくらいで着くだろうか』
「あと30分くらいかかるから、先に始めちゃっていいよ」
『分かった。では、お先に岡村と呑み始めることにするよ。今日も私の名前で個室の予約をしているので、到着したら店員に私の名前を伝えてくれ』
「分かった。じゃあ、また後で」
『ああ、待っているぞ』
羽賀の方から通話を切った。岡村は今日も仕事が休みだから、羽賀が結構早く仕事を終えることができたんだな。
「羽賀さんから?」
「ええ、羽賀と岡村が居酒屋の前で落ち合えたので先に呑むと」
「そうなのね。そこまではどのくらいで着く?」
「駅から歩く時間も考えると、あと30分くらいですね」
「分かった」
今夜、僕の家に泊まるつもりの月村さんを岡村に会わせたら、あいつはどんな反応をするのかが心配だけれど、羽賀もいるし何とかなるだろう。
僕に寄りかかってくる有紗さんの手を握りながら、車窓から茜色の空を眺めるのであった。
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