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本編-ARIA-
第68話『黒幕候補』
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氷室が解決のために尽力したという美来さんの受けたいじめ。
私も氷室からの話や報道などによって、大まかな内容は知っているが、真犯人を突き止めるためには詳しく知る必要がある。
「美来さん。氷室が逮捕されたことには、君が受けたいじめが大きく関わっていると考えている。辛いとは思うが、それについて私達に教えてくれるだろうか」
「それはかまいませんけど……羽賀さんはどのくらいのことまで知っていますか?」
「とりあえず、氷室から聞いた話や報道では、美来さんはクラスと部活でいじめを受けており、クラスの方でのいじめを学校側が隠蔽としようとしていた。それを一部の生徒がアンケートの写真や隠蔽に関わった教師の発言を録音したことを証拠に、組織的に行なわれた隠蔽の事実を氷室が突き止めた。そこまでは分かっている」
「そうですね。大まかに言えばそんな感じです。智也さんがいなければ、今頃、クラスでいじめは隠蔽されたままで世間に公表されず、隠蔽に関わった先生達は今も学校で普通に働いていたと思います」
そういえば、報道で隠蔽を指示した校長と教頭、美来さんの担任が懲戒解雇処分になったと報道されていたな。しかし、生徒の方についてはまだ断定されておらず、アンケートや個別面談をしている最中だとか。
「氷室の話では、声楽部の方は顧問が誠実に対応していると聞いている。なので、真犯人はクラスのいじめに関わった人物であると考えているのだが、どうだろうか?」
「なるほどです。となると、真犯人の可能性があるのは5人ですね」
「ご、5人もいるのか……?」
氷室は諸澄司と、いじめの中心となった女子生徒である佐相柚葉の2人だと言っていたのだが。ここからさらに3人、黒幕候補に挙がる人物が増えるのか。
「その5人とは誰なのか教えていただけるだろうか」
「はい。生徒2人に教職員3人です。生徒は諸澄司君に佐相柚葉さんです。諸澄君は羽賀さんもご存じの通り、私にストーカーをしていました。しかし、智也さんが私を守り、いじめも解決の方向に導いたことに恨みを持っているかもしれません。佐相さんはクラスで私をいじめる中心となった女子生徒です。智也さんと直接の面識がありますし、反省の姿勢も見せず、私に謝罪の言葉もないです」
「なるほど。その2人については氷室からも聞いている。美来さんも同じことを考えているか」
「……佐相。どこかで聞いたことがありますね……」
浅野さんのその言葉が気になるが、腕を組んで考えている最中のようなので後で訊いてみることにするか。
私も諸澄司が一番怪しいとばかり考えていて、佐相柚葉については全然考えていなかったな。
「2人については、智也さんから話を聞いていたんですね。では、教職員3人の方も聞いていますか?」
「いいえ。氷室は諸澄司と佐相柚葉の2人が怪しいと考えているようで、教職員のことは全然言っていなかった。……教職員は3人か。もしかして今回の一件で懲戒解雇された君のクラスの担任、月が丘高校の校長と教頭だろうか?」
「その通りです。さっきも言いましたが、智也さんさえいなければ、今も普通に学校で働いていたかもしれません。特に私の担任である後藤先生は、複数回の電話で智也さんにいじめのことで追及されていましたから……」
「なるほど……」
確かに、氷室も美来さんの担任がいじめを隠蔽しようとしていたと何度も言っていたな。
「こちらとしては、氷室さんにはとても感謝しています。氷室さんがいなかったらどうなっていたのかと思う場面が何度もありましたし……」
「……氷室は他人第一のところもありますからね。困っている人がいると、いてもたってもいられなくなるといいますか」
そんな性格の彼に私も何度か救われたことがある。もう少し、自分中心に考えてもいいような気はするが……いい意味でも悪い意味でも、氷室は昔から変わっていない。
「そんな氷室さんのことを、羽賀さんは好きなんですよね!」
「話を脱線させようとしないでくれませんか、浅野さん。氷室という男は、信頼できる親友の一人ですよ。それ以上でもそれ以下でもありません」
「……そうなんですか」
浅野さん、つまらなさそうな表情をしている。何に期待していたのか。
「話は戻りますが、担任の後藤先生、教頭の阿久津先生、校長の松坂先生にも智也さんを嵌める動機はあります」
「氷室さえいなければ、いじめの隠蔽に成功し、今も月が丘高校で仕事ができていたから、か。確かに氷室を嵌める動機としては十分か」
2人だけだと思っていたのだが、倍以上の5人に増えてしまったか。黒幕はこの中の1人だけなのか、複数人が協力して氷室を逮捕させるように動いたのか。詳しく調べていかなければならないな。
「あああっ!」
突然、浅野さんが大きな声を上げた。
「ど、どうしたんですか! いきなり大声を上げて……」
「佐相さんですよ! 同じ捜査一課にいる!」
「捜査一課の……あっ!」
灯台下暗しとはこういうことを言うのか!
捜査一課には人数がそれなりにいるし、関わったことのある警察官以外はあまり名前を覚えていなかったが……佐相という刑事がいたではないか!
「佐相繁さんですか。確か彼は警視だったはず……」
彼くらいの地位なら、警察内部で色々と働きかけることはできるはずだ。しかし、佐相という苗字はあまり聞いたことはないが、佐相柚葉さんと佐相繁警視が親子などの繋がりがあると確信はまだ持てない。
「美来さん。佐相柚葉さんの父親について聞いたことはあるか?」
「いえ、特には……」
「そうか」
「でも、何か関係がありそうなんですか?」
「私や浅野さんが所属する警視庁捜査一課には、佐相繁という警察官がいるのだよ。年齢も50歳前後だと思われる。高校生の娘がいてもおかしくはないだろう。彼の階級は警視。つまり、私よりも偉い立場にいる」
「ということはその刑事さんなら、無実の智也さんを逮捕するように動かすことができたと?」
「……そう考えている」
しかし、それは佐相柚葉さんと佐相繁刑事が何らかの繋がりがあり、なおかつ、佐相柚葉さんが黒幕だった場合だ。一番ありそうなのは2人が親子という可能性だが。
「浅野さんは何か知っていませんか? 娘がいるとか……」
「いえ、特には……すみません、あまり役に立てなくて」
「そんなことはありません。浅野さんが佐相警視の名を挙げてくれたことで、一気に真相へと近づくことができる可能性が広がりました」
美来さんが黒幕候補として挙げてくれた5人はいずれも民間人。無実の氷室を逮捕するように動かすには、警察関係者の協力が必要だ。つまり、真犯人と警察関係者の繋がりを明らかにしなければならないということだ。
仮に佐相柚葉さんが真犯人で、その父親が佐相繁警視であるなら、娘を追い詰めた氷室のことを逮捕させるために、警察内部に口を利いたことも十分にあり得る。
「浅野さん、佐相警視についてはまだ可能性の段階です。警視庁に戻ったら、まずは佐相さんに高校生の娘がいるかどうかを訊いてみましょう」
「分かりました」
これで、佐相警視と佐相柚葉さんの繋がりがあると分かれば、彼女が真犯人の筆頭候補になるか。仮にそうなったら、より慎重に捜査していなければならないが。
――プルルッ。
誰かのスマートフォンが鳴っているようだ。私のスマートフォンではないようだが。
「私ですね。……月村さんからだ」
美来さんはそう言って、電話に出る。月村さんから電話ということは、何か氷室のことであったのだろうか。
「お、落ち着いてください! そうなったのは月村さんがせいではないので……」
「どうかしたのか?」
「智也さんが会社を解雇されたって……」
すると、美来さんはスマートフォンをテーブルの上に置いて、スピーカーホンにする。
『現場のメンバーには説得したから、これから抗議するつもりだけど……』
そう言う中、時々、月村さんの嗚咽が聞こえてくる。おそらく、現場から何も発言できぬまま氷室の懲戒解雇が決定してしまったということか。
「テレビを点けますね」
果歩さんがテレビを点けると、映っているのは氷室が逮捕されたことに関するニュース。そして、速報として字幕に出ていたのは、
『氷室智也容疑者が働く株式会社テクノロジーシステムズが、
本日付で懲戒解雇処分としたことが明らかになった。夕方に記者会見の予定』
という内容だった。会社側は氷室が逮捕されたことを受けて、社会的責任として彼に懲戒解雇処分を下したのだろう。これも真犯人の目的の1つなのだろうな。
私も氷室からの話や報道などによって、大まかな内容は知っているが、真犯人を突き止めるためには詳しく知る必要がある。
「美来さん。氷室が逮捕されたことには、君が受けたいじめが大きく関わっていると考えている。辛いとは思うが、それについて私達に教えてくれるだろうか」
「それはかまいませんけど……羽賀さんはどのくらいのことまで知っていますか?」
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「氷室の話では、声楽部の方は顧問が誠実に対応していると聞いている。なので、真犯人はクラスのいじめに関わった人物であると考えているのだが、どうだろうか?」
「なるほどです。となると、真犯人の可能性があるのは5人ですね」
「ご、5人もいるのか……?」
氷室は諸澄司と、いじめの中心となった女子生徒である佐相柚葉の2人だと言っていたのだが。ここからさらに3人、黒幕候補に挙がる人物が増えるのか。
「その5人とは誰なのか教えていただけるだろうか」
「はい。生徒2人に教職員3人です。生徒は諸澄司君に佐相柚葉さんです。諸澄君は羽賀さんもご存じの通り、私にストーカーをしていました。しかし、智也さんが私を守り、いじめも解決の方向に導いたことに恨みを持っているかもしれません。佐相さんはクラスで私をいじめる中心となった女子生徒です。智也さんと直接の面識がありますし、反省の姿勢も見せず、私に謝罪の言葉もないです」
「なるほど。その2人については氷室からも聞いている。美来さんも同じことを考えているか」
「……佐相。どこかで聞いたことがありますね……」
浅野さんのその言葉が気になるが、腕を組んで考えている最中のようなので後で訊いてみることにするか。
私も諸澄司が一番怪しいとばかり考えていて、佐相柚葉については全然考えていなかったな。
「2人については、智也さんから話を聞いていたんですね。では、教職員3人の方も聞いていますか?」
「いいえ。氷室は諸澄司と佐相柚葉の2人が怪しいと考えているようで、教職員のことは全然言っていなかった。……教職員は3人か。もしかして今回の一件で懲戒解雇された君のクラスの担任、月が丘高校の校長と教頭だろうか?」
「その通りです。さっきも言いましたが、智也さんさえいなければ、今も普通に学校で働いていたかもしれません。特に私の担任である後藤先生は、複数回の電話で智也さんにいじめのことで追及されていましたから……」
「なるほど……」
確かに、氷室も美来さんの担任がいじめを隠蔽しようとしていたと何度も言っていたな。
「こちらとしては、氷室さんにはとても感謝しています。氷室さんがいなかったらどうなっていたのかと思う場面が何度もありましたし……」
「……氷室は他人第一のところもありますからね。困っている人がいると、いてもたってもいられなくなるといいますか」
そんな性格の彼に私も何度か救われたことがある。もう少し、自分中心に考えてもいいような気はするが……いい意味でも悪い意味でも、氷室は昔から変わっていない。
「そんな氷室さんのことを、羽賀さんは好きなんですよね!」
「話を脱線させようとしないでくれませんか、浅野さん。氷室という男は、信頼できる親友の一人ですよ。それ以上でもそれ以下でもありません」
「……そうなんですか」
浅野さん、つまらなさそうな表情をしている。何に期待していたのか。
「話は戻りますが、担任の後藤先生、教頭の阿久津先生、校長の松坂先生にも智也さんを嵌める動機はあります」
「氷室さえいなければ、いじめの隠蔽に成功し、今も月が丘高校で仕事ができていたから、か。確かに氷室を嵌める動機としては十分か」
2人だけだと思っていたのだが、倍以上の5人に増えてしまったか。黒幕はこの中の1人だけなのか、複数人が協力して氷室を逮捕させるように動いたのか。詳しく調べていかなければならないな。
「あああっ!」
突然、浅野さんが大きな声を上げた。
「ど、どうしたんですか! いきなり大声を上げて……」
「佐相さんですよ! 同じ捜査一課にいる!」
「捜査一課の……あっ!」
灯台下暗しとはこういうことを言うのか!
捜査一課には人数がそれなりにいるし、関わったことのある警察官以外はあまり名前を覚えていなかったが……佐相という刑事がいたではないか!
「佐相繁さんですか。確か彼は警視だったはず……」
彼くらいの地位なら、警察内部で色々と働きかけることはできるはずだ。しかし、佐相という苗字はあまり聞いたことはないが、佐相柚葉さんと佐相繁警視が親子などの繋がりがあると確信はまだ持てない。
「美来さん。佐相柚葉さんの父親について聞いたことはあるか?」
「いえ、特には……」
「そうか」
「でも、何か関係がありそうなんですか?」
「私や浅野さんが所属する警視庁捜査一課には、佐相繁という警察官がいるのだよ。年齢も50歳前後だと思われる。高校生の娘がいてもおかしくはないだろう。彼の階級は警視。つまり、私よりも偉い立場にいる」
「ということはその刑事さんなら、無実の智也さんを逮捕するように動かすことができたと?」
「……そう考えている」
しかし、それは佐相柚葉さんと佐相繁刑事が何らかの繋がりがあり、なおかつ、佐相柚葉さんが黒幕だった場合だ。一番ありそうなのは2人が親子という可能性だが。
「浅野さんは何か知っていませんか? 娘がいるとか……」
「いえ、特には……すみません、あまり役に立てなくて」
「そんなことはありません。浅野さんが佐相警視の名を挙げてくれたことで、一気に真相へと近づくことができる可能性が広がりました」
美来さんが黒幕候補として挙げてくれた5人はいずれも民間人。無実の氷室を逮捕するように動かすには、警察関係者の協力が必要だ。つまり、真犯人と警察関係者の繋がりを明らかにしなければならないということだ。
仮に佐相柚葉さんが真犯人で、その父親が佐相繁警視であるなら、娘を追い詰めた氷室のことを逮捕させるために、警察内部に口を利いたことも十分にあり得る。
「浅野さん、佐相警視についてはまだ可能性の段階です。警視庁に戻ったら、まずは佐相さんに高校生の娘がいるかどうかを訊いてみましょう」
「分かりました」
これで、佐相警視と佐相柚葉さんの繋がりがあると分かれば、彼女が真犯人の筆頭候補になるか。仮にそうなったら、より慎重に捜査していなければならないが。
――プルルッ。
誰かのスマートフォンが鳴っているようだ。私のスマートフォンではないようだが。
「私ですね。……月村さんからだ」
美来さんはそう言って、電話に出る。月村さんから電話ということは、何か氷室のことであったのだろうか。
「お、落ち着いてください! そうなったのは月村さんがせいではないので……」
「どうかしたのか?」
「智也さんが会社を解雇されたって……」
すると、美来さんはスマートフォンをテーブルの上に置いて、スピーカーホンにする。
『現場のメンバーには説得したから、これから抗議するつもりだけど……』
そう言う中、時々、月村さんの嗚咽が聞こえてくる。おそらく、現場から何も発言できぬまま氷室の懲戒解雇が決定してしまったということか。
「テレビを点けますね」
果歩さんがテレビを点けると、映っているのは氷室が逮捕されたことに関するニュース。そして、速報として字幕に出ていたのは、
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