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本編-ARIA-
第67話『無実声明』
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朝比奈さんの家の前には……マスコミ関係者らしき人間の姿はない。まだ、被害者とされている少女が、朝比奈さんだとは分かっていないのか。
玄関の前まで行き、私がインターホンを押す。
『はい。どちら様でしょうか』
朝比奈美来さんではない女性の声だ。彼女の母親だろうか。
「警視庁の羽賀尊と申します」
「同じく、警視庁の浅野千尋です」
「我々は今、氷室智也が逮捕された事件について捜査をしております。被害者である朝比奈美来さんからお話を聞きたいと思いまして……」
『氷室さんは悪いことをしていないと娘も言っていますし、って……美来、どうしたの?』
娘と言うことは応対しているのは母親か。どうやら、氷室を逮捕した警察に嫌悪感を抱いているようだ。
『……申し訳ありません。氷室さんの親友の方だったんですね。今すぐ伺います』
朝比奈美来さんが説得してくれたのだろうか。何にせよ、朝比奈さんと面識があって良かった。これで彼女から話を聞けそうだ。
すると、すぐに玄関が開き、金髪の女性が姿を現した。
「お待たせしました。先ほどは申し訳ありませんでした」
「いえ、お気になさらず。警視庁捜査一課の羽賀尊です」
「浅野千尋です。ちなみに、羽賀さんの部下ですが彼よりも2歳年上です」
どうやら、浅野さんにとって、私の部下でも2歳年上というのは自己紹介で必ず言うフレーズになっているようだ。
「美来の母の朝比奈果歩です」
「……お母様だったのですか」
あまりにも美しい方だったので、年の離れた姉だと思っていた。高校生の娘がいるとは……世の中は分からないものだな。
「あらあら、私がお姉さんだと思いました?」
「……その通りです」
「ふふっ、氷室さんの親友の方だけあって口が上手いんですね」
氷室の奴、これまで朝比奈美来さんの母親に何を言っていたのか。まさか、口説いていたのではあるまいな?
「さあ、入ってください」
「失礼します」
「お邪魔します」
私と浅野さんは朝比奈家の自宅に入り、果歩さんによってリビングへと通される。
すると、リビングのソファーには、カジュアルな服装の美来さんが座っていた。彼女の表情はやはり暗い。
「あっ、羽賀さん……その節はありがとうございました」
「礼を言われるほどではないさ。氷室の大切な人を守るためだよ」
「いえ、とても助かりました。……隣の方は?」
「私の部下だ」
「浅野千尋です。氷室さんの部下ですが、年は彼よりも2歳年上です」
こう毎回必ず言われると止めてくれと言いたくもなるが、それを言ったところで彼女は直すことはないだろう。
「そうなんですか。警察署だと年齢と立場が比例しないものなんですね。複雑ですね……」
「そ、そうですね……」
16歳の美来さんに同情されてしまっているぞ、26歳・浅野千尋。私と彼女では入り方が違うからな。浅野さんが私の現在の階級である警部になるには何年もかかるだろう。そのときには、私は警部よりも階級が上になっているだろうが。
「羽賀さんと浅野さん、ソファーにお掛けください」
私と浅野さんは美来さんに向かい合うようにして、ソファーに腰を下ろす。
「コーヒーお持ちしました」
「ありがとうございます」
「……砂糖とミルクってありますか?」
「ありますよ。どうぞ」
そういえば、浅野さんはブラックコーヒーを飲むのを見たことがないな。
美来さんは紅茶なのか。そういえば、以前に氷室が彼女はコーヒー派ではなく紅茶派だとメールをしていたな。
美来さんの隣に果歩さんが座ったところで、美来さんの口が開く。
「羽賀さんと浅野さんが来たということは、智也さんのこと……ですよね?」
「ああ、その通りだ。安心してほしい。氷室は逮捕されてしまったが、それは第三者によって嵌められたと思っている。彼は無実だだろう。そのことを確かめようと思い、ここに来たのだ」
「……やはり、智也さんの逮捕には私が関わっているんですね」
「……そうだ」
いずれは言わなければならなかったことだ。気付いているなら少しは話しやすそうだが、氷室の逮捕にショックを受けている中で、追い打ちになってしまわないかが心配なところだ。
「……いや、既に報道されているな……」
被害者の少女の名前が出なかっただけで、氷室が未成年にわいせつ行為をして逮捕されたことが。
「既に報道で知っているかもしれないが、氷室は……朝比奈美来さん、君にわいせつ行為をしたという罪で逮捕されたのだ」
「そ、そんな……私、智也さんに嫌なことをされたことは一度もされていないのに。その、性的といいますか、そういうことは基本、私の方からしてほしいと言っていて……」
美来さん、顔を真っ赤にしているな。男の私が聞いてしまっていいのだろうか。
あくまでも私のイメージだが、氷室は人に欲求するタイプではなく、相手の欲求を受け入れるタイプだ。今、美来さんが言ったように、彼女に対してキスなどの行為を求めることはなく、彼女からしてほしいことをしたのだと思っている。
「つまり、報道にあるような行為を氷室はしていないという認識でいいか?」
「はい! 全ては合意の上です! 月村さんの前でもキスをしたこともありますので、少なくとも、そのときのことについては彼女に聞いていただければ分かります。そんなときは月村さんにも同じようなことをしていました」
「……な、なるほど」
そういえば、月村さんも氷室のことが好きだと言っていたな。氷室から、どちらと付き合うという話は聞いていない。美来さんだけではなく、月村さんとも口づけなどの行為をしたのか。
氷室、随分と変わったではないか。いつの間にか女性からモテるように……いや、変わっていないのか。10年前から美来さんに好かれていたのだから。
「羽賀さん、どうかしましたか? 考え込んで……」
「何でもありません。なぜ、浅野さんが面白そうな表情をして訊くのですか」
「……嫉妬したのかと思いまして」
「そんなわけないでしょう。ただ、感慨深くなっているだけです」
昔よりも、氷室が遠い存在になってきているように思えるのは事実だが。
今の美来さんの話と、先ほどの月村さんとの電話で……氷室は美来さんに対して嫌がることは何一つしていないと分かった。
美来さんの証言を録音しておくために、スマートフォンで録音アプリを起動し、テーブルの上に置く。
「もう一度、確認させてほしい。氷室は君に何も嫌なことはしていない。報道で言われているようなわいせつ行為を無理矢理にされたのは事実ではない。という2点の認識は合っているだろうか?」
美来さんの眼をしっかりと見て、今一度、今回の事件においての大切なポイントを彼女に伝える。
すると、美来さんは真剣な表情となって、
「はい。智也さんは私に嫌なことは一切していませんし、報道で言われていることは全て嘘です。智也さんから無理矢理にわいせつな行為をされたことはありません。それが私、朝比奈美来の知る事実です」
はっきり、氷室が無実であることを言ってくれた。これから捜査していく上で、何よりも重要で心強い証拠になる。
「ありがとう、美来さん。私と浅野が確かに聞きました」
録音を停止して、今の音声データを保存する。
「美来さんの表情からして、今の言葉は本当そうですね。電話での月村さんも、氷室さんは無実だと言い切っていましたし」
「私の言ったとおりでしょう?」
それに、氷室が女性に嫌なことをするような人間ではないと信じているからな。だから、氷室の逮捕とその理由を聞いた瞬間から、第三者に嵌められたと疑っているのだ。
「でも、どうして氷室さんは逮捕されてしまったのですか? 第三者に嵌められたとしても、警察や裁判所を動かすには証拠や証言が必要なのでは?」
果歩さん、さすがに落ち着いている。逮捕に踏み切ったきっかけは何だったのかを気になるのは当然だろう。
「……実は我々は前任の刑事から、今朝、この事件を知りました。逮捕のきっかけとなった証拠を受け取ったのは、こちらの診断書と2枚の写真です」
以前に外科で受診したという美来さんの診断書と、氷室と美来さんが一緒に写っている写真をテーブルの上に置いた。
「こ、これ……」
やはり、美来さんは診断書を見て驚いて――。
「智也さんとのツーショット写真じゃないですか! 今まで、智也さんと一緒に写っている写真はあまり持っていないので、私にくれませんか?」
さすがは10年間、氷室に好意を抱き続けただけある。診断書ではなく写真の方に注目したか。しかも、とても嬉しそうに。
「この件が完全に解決したら考えよう。それよりも、氷室が自由の身になったら、一緒に写真を撮るといい」
「それもそうですね」
てっきり、それでも欲しいと粘られるかと思ったのだが。そこら辺は柔軟な考えの持ち主のようだ。
「写真もそうですけど、どうして診断書が証拠になっているんですか? 体にある複数の怪我は美来が受けたいじめによるものなんです。今後、いじめの件で必要になるかもしれないと思って、これと同じ診断書を発行してもらっていますが……」
「……おそらく、カルテには美来さんの体に複数の怪我があるとしか書かれていなかったのでしょう。なので、真犯人はケガの理由をいじめではなく、氷室が美来さんに性的行為をするために暴力を振ったことにしたのだと思います」
別の刑事に、美来さんが受診した病院に行ってもらって、診断書を発行した人物を調べてもらう必要があるようだ。美来さんが受診したとき以外に1回、真犯人かその仲間が診断書を発行してもらっているはず。
「まさか、いじめの方ではなくて、智也さんを嵌めるために診断書を利用されてしまうなんて。病院、行かなければ良かったのかな……」
美来さん、自分のせいだと思ってしまっているみたいだ。
「……結果的に氷室を逮捕することに診断書が利用されてしまったが、そこから真犯人を導き出せる可能性は十分にある」
「診断書なんてそう発行するものではありませんからね」
浅野さんの言うとおりだ。病院に勤務する医師や看護師から聞けば、美来さんが受診したとき以外に誰が診断書を発行したのか分かるはずだ。
あとは、氷室も言っていた美来さんが受けたいじめのことを聞いてみるとするか。今回の事件には彼女のいじめが大きく関わっているはずだからな。
玄関の前まで行き、私がインターホンを押す。
『はい。どちら様でしょうか』
朝比奈美来さんではない女性の声だ。彼女の母親だろうか。
「警視庁の羽賀尊と申します」
「同じく、警視庁の浅野千尋です」
「我々は今、氷室智也が逮捕された事件について捜査をしております。被害者である朝比奈美来さんからお話を聞きたいと思いまして……」
『氷室さんは悪いことをしていないと娘も言っていますし、って……美来、どうしたの?』
娘と言うことは応対しているのは母親か。どうやら、氷室を逮捕した警察に嫌悪感を抱いているようだ。
『……申し訳ありません。氷室さんの親友の方だったんですね。今すぐ伺います』
朝比奈美来さんが説得してくれたのだろうか。何にせよ、朝比奈さんと面識があって良かった。これで彼女から話を聞けそうだ。
すると、すぐに玄関が開き、金髪の女性が姿を現した。
「お待たせしました。先ほどは申し訳ありませんでした」
「いえ、お気になさらず。警視庁捜査一課の羽賀尊です」
「浅野千尋です。ちなみに、羽賀さんの部下ですが彼よりも2歳年上です」
どうやら、浅野さんにとって、私の部下でも2歳年上というのは自己紹介で必ず言うフレーズになっているようだ。
「美来の母の朝比奈果歩です」
「……お母様だったのですか」
あまりにも美しい方だったので、年の離れた姉だと思っていた。高校生の娘がいるとは……世の中は分からないものだな。
「あらあら、私がお姉さんだと思いました?」
「……その通りです」
「ふふっ、氷室さんの親友の方だけあって口が上手いんですね」
氷室の奴、これまで朝比奈美来さんの母親に何を言っていたのか。まさか、口説いていたのではあるまいな?
「さあ、入ってください」
「失礼します」
「お邪魔します」
私と浅野さんは朝比奈家の自宅に入り、果歩さんによってリビングへと通される。
すると、リビングのソファーには、カジュアルな服装の美来さんが座っていた。彼女の表情はやはり暗い。
「あっ、羽賀さん……その節はありがとうございました」
「礼を言われるほどではないさ。氷室の大切な人を守るためだよ」
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「私の部下だ」
「浅野千尋です。氷室さんの部下ですが、年は彼よりも2歳年上です」
こう毎回必ず言われると止めてくれと言いたくもなるが、それを言ったところで彼女は直すことはないだろう。
「そうなんですか。警察署だと年齢と立場が比例しないものなんですね。複雑ですね……」
「そ、そうですね……」
16歳の美来さんに同情されてしまっているぞ、26歳・浅野千尋。私と彼女では入り方が違うからな。浅野さんが私の現在の階級である警部になるには何年もかかるだろう。そのときには、私は警部よりも階級が上になっているだろうが。
「羽賀さんと浅野さん、ソファーにお掛けください」
私と浅野さんは美来さんに向かい合うようにして、ソファーに腰を下ろす。
「コーヒーお持ちしました」
「ありがとうございます」
「……砂糖とミルクってありますか?」
「ありますよ。どうぞ」
そういえば、浅野さんはブラックコーヒーを飲むのを見たことがないな。
美来さんは紅茶なのか。そういえば、以前に氷室が彼女はコーヒー派ではなく紅茶派だとメールをしていたな。
美来さんの隣に果歩さんが座ったところで、美来さんの口が開く。
「羽賀さんと浅野さんが来たということは、智也さんのこと……ですよね?」
「ああ、その通りだ。安心してほしい。氷室は逮捕されてしまったが、それは第三者によって嵌められたと思っている。彼は無実だだろう。そのことを確かめようと思い、ここに来たのだ」
「……やはり、智也さんの逮捕には私が関わっているんですね」
「……そうだ」
いずれは言わなければならなかったことだ。気付いているなら少しは話しやすそうだが、氷室の逮捕にショックを受けている中で、追い打ちになってしまわないかが心配なところだ。
「……いや、既に報道されているな……」
被害者の少女の名前が出なかっただけで、氷室が未成年にわいせつ行為をして逮捕されたことが。
「既に報道で知っているかもしれないが、氷室は……朝比奈美来さん、君にわいせつ行為をしたという罪で逮捕されたのだ」
「そ、そんな……私、智也さんに嫌なことをされたことは一度もされていないのに。その、性的といいますか、そういうことは基本、私の方からしてほしいと言っていて……」
美来さん、顔を真っ赤にしているな。男の私が聞いてしまっていいのだろうか。
あくまでも私のイメージだが、氷室は人に欲求するタイプではなく、相手の欲求を受け入れるタイプだ。今、美来さんが言ったように、彼女に対してキスなどの行為を求めることはなく、彼女からしてほしいことをしたのだと思っている。
「つまり、報道にあるような行為を氷室はしていないという認識でいいか?」
「はい! 全ては合意の上です! 月村さんの前でもキスをしたこともありますので、少なくとも、そのときのことについては彼女に聞いていただければ分かります。そんなときは月村さんにも同じようなことをしていました」
「……な、なるほど」
そういえば、月村さんも氷室のことが好きだと言っていたな。氷室から、どちらと付き合うという話は聞いていない。美来さんだけではなく、月村さんとも口づけなどの行為をしたのか。
氷室、随分と変わったではないか。いつの間にか女性からモテるように……いや、変わっていないのか。10年前から美来さんに好かれていたのだから。
「羽賀さん、どうかしましたか? 考え込んで……」
「何でもありません。なぜ、浅野さんが面白そうな表情をして訊くのですか」
「……嫉妬したのかと思いまして」
「そんなわけないでしょう。ただ、感慨深くなっているだけです」
昔よりも、氷室が遠い存在になってきているように思えるのは事実だが。
今の美来さんの話と、先ほどの月村さんとの電話で……氷室は美来さんに対して嫌がることは何一つしていないと分かった。
美来さんの証言を録音しておくために、スマートフォンで録音アプリを起動し、テーブルの上に置く。
「もう一度、確認させてほしい。氷室は君に何も嫌なことはしていない。報道で言われているようなわいせつ行為を無理矢理にされたのは事実ではない。という2点の認識は合っているだろうか?」
美来さんの眼をしっかりと見て、今一度、今回の事件においての大切なポイントを彼女に伝える。
すると、美来さんは真剣な表情となって、
「はい。智也さんは私に嫌なことは一切していませんし、報道で言われていることは全て嘘です。智也さんから無理矢理にわいせつな行為をされたことはありません。それが私、朝比奈美来の知る事実です」
はっきり、氷室が無実であることを言ってくれた。これから捜査していく上で、何よりも重要で心強い証拠になる。
「ありがとう、美来さん。私と浅野が確かに聞きました」
録音を停止して、今の音声データを保存する。
「美来さんの表情からして、今の言葉は本当そうですね。電話での月村さんも、氷室さんは無実だと言い切っていましたし」
「私の言ったとおりでしょう?」
それに、氷室が女性に嫌なことをするような人間ではないと信じているからな。だから、氷室の逮捕とその理由を聞いた瞬間から、第三者に嵌められたと疑っているのだ。
「でも、どうして氷室さんは逮捕されてしまったのですか? 第三者に嵌められたとしても、警察や裁判所を動かすには証拠や証言が必要なのでは?」
果歩さん、さすがに落ち着いている。逮捕に踏み切ったきっかけは何だったのかを気になるのは当然だろう。
「……実は我々は前任の刑事から、今朝、この事件を知りました。逮捕のきっかけとなった証拠を受け取ったのは、こちらの診断書と2枚の写真です」
以前に外科で受診したという美来さんの診断書と、氷室と美来さんが一緒に写っている写真をテーブルの上に置いた。
「こ、これ……」
やはり、美来さんは診断書を見て驚いて――。
「智也さんとのツーショット写真じゃないですか! 今まで、智也さんと一緒に写っている写真はあまり持っていないので、私にくれませんか?」
さすがは10年間、氷室に好意を抱き続けただけある。診断書ではなく写真の方に注目したか。しかも、とても嬉しそうに。
「この件が完全に解決したら考えよう。それよりも、氷室が自由の身になったら、一緒に写真を撮るといい」
「それもそうですね」
てっきり、それでも欲しいと粘られるかと思ったのだが。そこら辺は柔軟な考えの持ち主のようだ。
「写真もそうですけど、どうして診断書が証拠になっているんですか? 体にある複数の怪我は美来が受けたいじめによるものなんです。今後、いじめの件で必要になるかもしれないと思って、これと同じ診断書を発行してもらっていますが……」
「……おそらく、カルテには美来さんの体に複数の怪我があるとしか書かれていなかったのでしょう。なので、真犯人はケガの理由をいじめではなく、氷室が美来さんに性的行為をするために暴力を振ったことにしたのだと思います」
別の刑事に、美来さんが受診した病院に行ってもらって、診断書を発行した人物を調べてもらう必要があるようだ。美来さんが受診したとき以外に1回、真犯人かその仲間が診断書を発行してもらっているはず。
「まさか、いじめの方ではなくて、智也さんを嵌めるために診断書を利用されてしまうなんて。病院、行かなければ良かったのかな……」
美来さん、自分のせいだと思ってしまっているみたいだ。
「……結果的に氷室を逮捕することに診断書が利用されてしまったが、そこから真犯人を導き出せる可能性は十分にある」
「診断書なんてそう発行するものではありませんからね」
浅野さんの言うとおりだ。病院に勤務する医師や看護師から聞けば、美来さんが受診したとき以外に誰が診断書を発行したのか分かるはずだ。
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