高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ

文字の大きさ
101 / 279
特別編4

後編

しおりを挟む
 低変人の質問企画。
 それはネット上の匿名質問サービス『質問しよう箱』に投稿された質問の答えをTubutterでも公開するという内容だ。
 今は結衣も一緒にいるので、質問の内容によっては結衣も俺だけに答えてもらうことになっている。
 パソコンの画面に映し出されている質問を見ていくと……おっ、これは楽曲を公開している低変人が相手だからこその質問だな。そう思って指さす。

『どんなときにメロディーを思い浮かびますか?』

「音楽系の質問だね。私もこれは気になるっ!」

 目を輝かせ、声を弾ませてそう言う結衣。結衣も、俺が低変人として発表している曲を好きだと言ってくれている。だから、こういうことが気になるのだろう。

「お風呂に入っているときとか、好きなアニメを見ているときが多いかな。あとは課題とかテスト明けとか、やるべきことが終わった直後に思い浮かぶことは何度もある。開放的な気分になるからかな。あとは、ふと起きた出来事で浮かぶこともあるよ」

 俺がそう答えると、結衣は「おぉ……」と感心した様子に。

「なるほどね。じゃあ、もしかして『税金アミーゴ』は納税の通知書が来たから。『かぜっぴきあなた』は杏樹先生が風邪を引いて、お見舞いに行ったから浮かんだメロディーなのかな?」
「そうだな。それまでに思いついていたメロディーを組み合わせて、これはいい曲になりそうだと思って、その2曲が完成したんだ」
「そうだったんだね。……ところで、2曲も作ったけど体調は大丈夫?」
「うん、元気だよ」
「それなら良かった」

 結衣はほっと胸を撫で下ろし、やんわりとした笑顔になる。
 結衣が俺の体調を心配してくれる理由。それは以前、曲を作り終え、アップロードした直後に高熱を出したからだ。そのときは学校を2日欠席した。だから、2日連続で新曲をアップしたので、また体調を崩してしまっていないか心配になったのだろう。温かい気持ちになり、結衣の頭を優しく撫でた。
 どんなときにメロディーが浮かぶのかという質問。これには、

『入浴中や好きなアニメを見ているときなど、リラックスしているとき。やるべきことを終えた直後。ふと起きた出来事の後など、様々な場面でメロディーが思い浮かびます。』

 という回答を送った。
 次はどんな質問に答えようかな。よくある質問もいいけど、今のような低変人という音楽家らしい質問にも答えてみたい。

「ねえ、悠真君。この質問、ひときわ長文なんだけど」

 そう言って、結衣は画面を指さす。結衣の言う通り、ぱっと見ただけでも他の質問よりもかなり長いことが分かる。その質問を読んでみよう。

『漫画やアニメのキャラクターについてです。ギャップのある先生ってどうだと思いますか? 例えば、教室ではクールで厳しく笑顔を全然見せないけど、主人公と2人きりの場所だと素が出て可愛い笑顔を見せる先生とか』

「……これを質問しそうな人の顔が思い浮かんだよ」
「悠真君も? たぶん、同じ人を思い浮かべていると思う。自己紹介みたいな内容だよね。……身近にそういう先生がいるから、質問に書いてあるような先生キャラクターは私は好きだよ。悠真君はどう?」
「先生に限らず、俺も2つの顔があったり、ギャップがあったりするキャラクターは好きだな。まあ、身近にそういう先生がいる影響もあるけど」
「ふふっ、そっか」

 楽しそうに笑いながらそう言う結衣。
 この先生キャラクターについての質問は、

『そういう先生キャラクターは好きですよ。』

 と回答した。
 すると、それから1分も経たないうちに、
 ――プルルッ。
 俺のスマートフォンが鳴る。さっそく確認してみると、LIMEというSNSを通じて、担任の福王寺杏樹ふくおうじあんじゅ先生から1件のメッセージと1枚のスタンプが届いた。

『そういう先生キャラクターが好きなんだね! 何だか嬉しいな!』

 というメッセージと、『嬉しい!』というコメント付きの、喜ぶ白猫のスタンプが送られてきた。
 おそらく、低変人がTubutterで呟くと通知が届く設定になっているのだろう。だから、こんなにも早いタイミングで俺にメッセージとスタンプを送ることができたのだと思う。

「……結衣。さっそく福王寺先生からメッセージが届いたよ」

 俺は福王寺先生とのトーク画面を結衣に見せる。すると、結衣は「ふふっ」と笑い、

「読んだ瞬間から思っていたけど、この質問をした人、99%福王寺先生だよね」
「結衣もそう思ったか」

 質問を読んだとき、結衣は「自己紹介みたいな内容」だと言っていたもんな。

「普段の自分を悠真君がどう思っているのか確かめたかったのかもね。もしそうだとしたら、より可愛く思える」
「2人きりのときとかに、普通に訊いてきそうだよな」

 だからこそ、わざわざこういう形で訊いてくることが可愛らしく思えるのかも。
 今頃、学校のどこかで上機嫌になっている福王寺先生の顔が目に浮かぶ。先生の仕事の活力になれば幸いだ。
 さてと、次はどの質問に答えようかな。次の質問で5個目か。

「今は試験勉強の休憩中だし、次で最後にしようかな」
「そうだった。今は勉強中だったね」

 ここで話すのが楽しくて、休憩中なのを忘れていたのかな。はにかむところにキュンとくる。

「……おっ、これなんてラストにふさわしい質問だ」

 俺はその質問を指さす。

『どんなときが幸せですか?』

「なるほどね。ラストっぽい雰囲気があるね」
「だろう? ちなみに、結衣はどんなときが幸せ?」
「悠真君と一緒にいるときが幸せかな。特にキスしたり、その先のことをしたり。低変人さんとして公開している曲を聴くときだったり」
「……結衣がそう言ってくれる今が幸せだよ。俺も結衣と一緒にいるときは幸せだ」

 多幸感をもたらしてくれたので、この気持ちをそのまま返事として書きたいくらいだ。でも、そんなことをしたら、俺の素性がバレてしまう。
 結衣は柔らかくて可愛らしい笑みを浮かべ、俺の頭を優しく撫でてくれる。

「悠真君がそう言ってくれてより幸せになったよ。私に関わることはさすがに書けないだろうから、それ以外で幸せに思うときってある?」
「……音楽を作っているときかな。一時期、スランプになっていたこともあるから。それを公開して、多くの人に聴いてもらえて、いいと言ってもらえるときも幸せだなぁ。有り難いことだし」

 かっこつけに思う人もいるだろう。ただ、これは素直に幸せだと思えるとときなんだ。メロディーが浮かんで、制作する。それだけでも幸せだけど、有り難いことにたくさんの人から自分の曲をいいと言ってもらえる。それは低田悠真としても低変人としても幸せなことだ。

「あなたらしい答えだね」

 明るい笑みを浮かべながら、結衣は優しい声色でそう言ってくれた。そのことで、今言ったことを回答しようと決めた。

『音楽を制作しているとき。それを動画サイトに公開して、みなさんに聴いてもらえているとき。みなさんから良かったという感想をもらったときなど、幸せに感じるときはたくさんあります。』

 という回答を送った。この回答を書いている中で、これからもマイペースに新しい曲を作って、公開していきたいなと改めて思った。

「今回はこのくらいにしておこう。いい休憩になった」
「私も楽しかったよ。じゃあ、また勉強しよっか」
「そうだな」

 パソコンチェアから立ち上がり、俺は結衣と一緒に教科書やノートが置かれたテーブルに戻る。それは低変人から低田悠真に戻った感覚になって。ただの男子高校生の俺の近くに愛おしい人がいることを嬉しく思う。

「私、物理基礎の勉強をしようかな。課題も出ているし」
「課題出てたな。俺も物理基礎やろうかな」
「うんっ! 一緒にやろう! 分からないところがあったら訊いていいからね。逆に私が訊くかもしれないけど」
「そこは助け合いながらやっていこう」
「そうだね! じゃあ、勉強を頑張るためにキスして!」

 そう言うと、結衣は口をすぼめて「チュッチュッチュッ……」と音を鳴らしてくる。俺と2人きりだからか、いつも以上にキスしたがるなぁ。そんな結衣が可愛いと思いながら、俺は結衣にキスをした。
 結衣と一緒に、俺は低田悠真としての時間を再び過ごし始めるのであった。



特別編4 おわり


次の話から特別編5です。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

ルピナス

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。  そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。  物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。 ※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。  ※1日3話ずつ更新する予定です。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

処理中です...