高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ

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特別編6

プロローグ『期末試験』

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特別編6



 ――キーンコーンカーンコーン。

「そこまで。筆記用具を机の上に置いてください。各列の一番後ろの席の人は、答案用紙を回収してください」

 7月5日、金曜日。
 今週の月曜日から始まった高校生初の期末試験もこれで終了した。
 教室を見渡すと、期末試験が終わったからか、クラスメイトの多くがいい笑顔になっている。開放感に浸っているのかな。

「終わったー!」

 と叫ぶ男子生徒もいて。列の一番後ろの男子生徒に数学Aの答案用紙を渡し、俺・低田悠真ひくたゆうまも期末試験が終わったことの開放感に浸り始める。
 今終わった数学Aを含め、期末試験はどの教科も手応えがあった。ちゃんと見直しもしたので、赤点を取ってしまって、夏休みに特別な課題を出されたり、補習を受けたりする必要がある展開にはならないと思う。

「低田。期末お疲れさん」

 俺の前の席に座っている橋本はしもとが、こちらに振り向いてそう声をかけてくれる。試験が終わったからか、彼の端正な顔に爽やかな笑みが浮かんでいる。

「お疲れ様、橋本。今週はずっと試験だったから長かったな」
「ああ。ところで、今の数学Aはどうだった?」
「バッチリだ。見直しをしたし、回答欄をずらして書いちゃったこともないと思う」
「それなら安心だな。まあ、低田には中間試験で学年1位の高嶺さんっていう恋人がいるからな。試験期間中も、ずっと一緒に勉強していたんだろう?」
「ああ。たまに教えてもらったよ」

 高嶺さんというのは、俺と付き合っているクラスメイトの高嶺結衣たかねゆいのこと。結衣は5月の中間試験では学年1位の成績を取るほどの才色兼備な女の子。とても人気があり、高嶺という名字から、入学した直後から多くの生徒に『高嶺の花の高嶺さん』と呼ばれている。

「橋本だって、隣のクラスにいる恋人の相原あいはらさんと一緒に勉強したんじゃないか?」
「勉強したけど、彼女は理系科目は苦手でさ。数学Aは教えてばかりだった。それで理解が深まったからか、俺もバッチリできたぜ」
「そりゃ良かった」

 みんな赤点を取ることなく、夏休みに突入できれば何よりだ。
 出席番号が前後であり、お互いに恋人がいるからか、橋本とは期末試験が始まってから特に多く話すようになった。橋本も恋人とは上手くいっているらしい。
 橋本以外にも、結衣と付き合うようになってからは、今のようにクラスメイトと会話することが増えてきている。それまでは、クラスでは結衣や結衣の親友の伊集院姫奈いじゅういんひなさん以外の生徒とはほとんど話さなかった。入学したときには1学期が終わる頃に、恋人がいたり、クラスメイトと普通に話していたりしているとは想像もしなかったなぁ。むしろ、中学時代までは一人でいることが普通で、馬鹿にした言葉を言われることも多かったから。
 結衣の方に視線を向けると、結衣は伊集院さんなど席の近い女子達と談笑している。しかし、俺からの視線を感じたのか、結衣はすぐに俺の方に視線を向けて、持ち前の可愛らしい笑顔で手を振ってきた。伊集院さんも俺の方に振り返って手を振ってきて。なので、俺も2人に小さく手を振った。

「みんな、期末試験お疲れ様。終礼を始めるから、静かにしなさいね。あと、進路希望調査のプリントを教卓に出すように」

 そう言って、1年2組の担任教師・福王寺杏樹ふくおうじあんじゅ先生が教室の中に入ってくる。先生の言う通りに、1年2組の生徒はすぐに静かになり、進路希望調査のプリントを教卓に置いていく。
 それから、福王寺先生による終礼が行なわれる。先生から、来週の月曜日から終業式の前日までは午前授業となることが伝えられた。
 また、午後に三者面談が実施される日もあり、期末試験の結果や今提出した進路希望調査のプリントについて話し合うとのこと。ただ、先生は俺のもう一つの顔である音楽家・低変人ていへんじんの大ファンでもあるので、それについて主に話し合いそうな気もする。

「連絡事項は以上です。みなさん、高校初めての期末試験お疲れ様でした。先生はこれから、さっき実施された数学Aの採点を頑張ります。それでは、終礼を終わります。来週の月曜日にまた会いましょう」

 そして、委員長による号令により、今週の学校生活が終わった。
 今日から部活動が再開されるため、終礼が終わってすぐに教室を飛び出す生徒が何人もいる。橋本もバスケ部の活動があるので、俺に「またな」と言うと、スクールバッグとエナメルバッグを持って教室を後にした。

「悠真君! 試験お疲れ様!」

 結衣のそんな声が聞こえたので、声がした方へ振り向くと、結衣がとても嬉しそうな様子で俺のことを抱きしめてきた。そのことで結衣の温もりや柔らかさ、甘い匂いが感じられて。だからか、期末試験の疲れが体からすーっと抜けていく感覚に。

「お疲れ様、結衣」

 結衣の頭を優しく撫でる。結衣の柔らかい髪から、シャンプーの甘い匂いがふんわりと香ってくる。もし、結衣と2人きりだったら、この流れで顔を髪に埋めていただろう。

「さっそく高嶺とイチャついているのかよ! 羨ましいぜ!」
「またな、低田!」
「ああ、またな」

 そう言って、野球部の男子達に手を振る。
 最近は結衣とこうして身を寄せていても、悪く言われることがほとんどなくなったなぁ。結衣と付き合っていることの影響もあってか、今のようにクラスメイトと気持ち良く挨拶し合ったり、雑談したりすることも増えた。

「ふふっ、結衣は低田君で体力回復なのですか?」
「そうだね。5日間の期末試験で疲れた体を悠真君で癒してる」
「俺も結衣のおかげで癒されているぞ」
「……良かった」

 えへへっ、と結衣は笑うと、俺の胸に頭をスリスリとさせてきた。結衣が勉強を教えてくれたおかげで期末試験も良くできたし、もう少しこのままでいるか。

「杏樹先生! 明日がお誕生日なんですよね! 結衣ちゃんから聞きました!」
「ええ、そうよ」
「お誕生日おめでとうございます。今朝、駅前のコンビニで、2人でチョコマシュマロを買いました。食べてください」

 そう言って、クラスメイトの女子2人が、マシュマロが入っていると思われるコンビニの袋を福王寺先生に渡す。

「ありがとう。マシュマロは好きだから嬉しいわ。採点をしながら美味しくいただくわ」

 福王寺先生は微笑みを浮かべながら、そうお礼を言った。クールモードだから落ち着いているけど、心の中では凄く喜んでいそう。
 女子生徒達は嬉しそうな様子になり、「さようならー!」と元気に挨拶して、教室を後にした。
 俺も先日、結衣達から福王寺先生の誕生日が明日・7月6日であることを教えられた。明日で26歳になるらしい。
 試験開けの土曜日なので、明日は先生の家で誕生日パーティーをすることになっている。俺達3人はもちろんのこと、隣のクラスの華頂胡桃かちょうくるみ、俺のバイトの先輩の中野千佳なかのちか先輩も参加する予定だ。また、大学生の妹さんとも会うことになっている。
 ちなみに、福王寺先生が顧問を務めるスイーツ部では、来週の活動でホットケーキを作り、誕生日をお祝いするらしい。

「福王寺先生。少し早いですが、お誕生日おめでとうございます」

 気づけば、茶髪の男子生徒が福王寺先生に話しかけていた。見覚えのない顔なので、別のクラスの生徒だな。

「どうもありがとう」
「誕生日プレゼントにこの僕をプレゼントします! 僕と付き合ってください!」

 ああ……福王寺先生に告白しに来たのか。
 端正な顔立ちとクールな性格から、「クールビューティー」と呼ばれるほどに生徒から人気がある。俺と付き合う前の結衣ほどではないけど、先生に告白する光景を何度も見てきた。
 気づけば、教室に残っている生徒のほとんどが福王寺先生の方に視線を向けている。廊下から覗いている生徒もいる。
 福王寺先生は真剣な表情になり、「はぁっ……」と長く息を吐く。

「申し訳ないけど、そのプレゼントはお断りするわ。あと、誕生日プレゼントという形でなくても、君と付き合う気は全くありません」

 福王寺先生……今回もはっきりと断ったな。これがお決まりと言ってもいい流れだからか、周りにいる生徒達の視線はすぐに散らばっていく。

「そ、そうですか。くそっ……僕が立てた福王寺落としの定理は間違いだったみたいです! 失礼しましたああっ!」

 告白した男子生徒は号泣し、逃げるようにして教室から立ち去っていった。玉砕してしまったけど、堂々と告白したのが好印象だったのか、男子生徒について悪く言う声はなかった。

「さあ、そろそろ掃除を始めましょう。掃除当番以外の生徒は教室から出るように」
『はーい』

 俺も結衣も伊集院さんも掃除当番ではないので、3人で教室を後にする。その際に俺達に「またね」と言ってくれた福王寺先生の笑顔はとても可愛かった。
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