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特別編6
第4話『雨止む誕生日』
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7月6日、土曜日。
昨日まで降り続けていた雨も止み、雲の隙間から青空が見える。天気予報によると、この週末の間は雨が降る心配はないという。何日も降り続いていたのもあり、空からも福王寺先生の誕生日を祝福しているように思える。
俺は午前9時から、駅前にあるムーンバックス武蔵金井店というチェーンの喫茶店で、中野先輩と一緒にバイトしている。
土曜日であり、梅雨の中休みとも言える気候だからか、朝から来店するお客様が多い。
「お待たせしました。アイスのブレンドコーヒーSサイズとチーズケーキでございます」
「ありがとう」
「ごゆっくり」
そう言ってお辞儀すると、若い女性のお客様はカウンター席の方へ向かっていった。
今は別の店員が接客しているお客様以外は、カウンターの近くにいるお客様はいない。
「ようやく一段落だね、悠真」
「ですね。久しぶりに雨が止んだからなのか、いつもの休日より多い気がします」
「そうだね。それにしても、悠真もスムーズに仕事をできるようになったね。頼もしくなってきたよ」
「ありがとうございます」
バイトを始めてから2ヶ月以上。指導係の中野先輩を中心にたくさんのことを教えてくださったので、今ではホールの仕事を一通りこなせるようになってきた。もちろん、先輩が隣にいると安心感がある。
「一段落したのね、お疲れ様。千佳ちゃん、低田君、休憩に入って。今日はまだ一度も休憩に入っていないから、長めに休んで」
「はい、お言葉に甘えて」
「分かりました、大垣店長。休憩に入ります」
俺は中野先輩と一緒にスタッフルームに戻る。
中野先輩がホットの砂糖入りコーヒーを注文してきたので、自分の分も一緒に淹れる。仕事中もコーヒーの香りに包まれることはたくさんあるけど、スタッフルームでコーヒーの香りを感じると気持ちが落ち着く。
「どうぞ、先輩」
「ありがとう」
ホットコーヒーの入った紙コップホルダーを中野先輩に渡し、俺は先輩の真向かいの席に座る。ふーっ、と息をかけ、砂糖入りのホットコーヒーを一口飲む。
「あぁ、美味しい」
「美味しいね、悠真」
「良かったです。そうだ、来週から午前授業ですし、何度かお昼ご飯を一緒に食べに行きましょうよ。結衣達も行きたがっていますし」
「おっ、いいね。分かった」
「……ところで、話は変わりますが、先輩って福王寺先生にどんなものをプレゼントするんですか?」
「ここのドリップコーヒー。杏樹先生、何度も来てくれているじゃない。コーヒーを頼むことが多いから、コーヒーをプレゼントするのがいいかなって」
「なるほど。素敵なプレゼントですね」
俺も何度も福王寺先生に接客したことがあるけど、思い返せば先生はコーヒーを注文してくれることが多い。コーヒーをプレゼントするという手もあったか。
胡桃や伊集院さん、中野先輩はコーヒーを普通に飲むので、コーヒーも誕生日プレゼントの候補に入れておこう。
結衣も付き合う前に比べたら多少はコーヒーを飲めるようになったけど、今でも紅茶を飲むことの方が多い。結衣には紅茶を候補に入れた方がいいかな。
「悠真は何をプレゼントするんだっけ。……悠真として」
「猫のぬいぐるみです。クレーンゲームで取った大きいもので」
「へえ、ぬいぐるみか。先生、猫好きだもんね。この前、悠真の家に遊びに来たモモちゃんを撫でたとき、とても幸せそうだったし。あと、クレーンゲームで取ったっていうのが悠真らしい。上手そう」
「そのぬいぐるみは、ワンコイン6プレイで取りました」
「おぉ、凄い。あたし、あんまりクレーンゲームが得意じゃないからさ。今後、何かほしいものがあったら、悠真を呼び出そっと」
「……そのときは少ない額で取れるように頑張りますね」
今は色々なものをクレーンゲームでゲットできる。定期的に呼び出されるかもしれない。先輩だけでなく、結衣達の助っ人になることもありそうだ。
クレーンゲームをきっかけに、休憩中はずっとゲームコーナーに関する話で盛り上がった。
午後2時。
仕事中に特に問題は起きなかったので、中野先輩と俺はシフト通りの時刻にバイトを上がる。
従業員用の出入口から外に出ると、朝と比べて雲が取れている。空気が蒸していないので、日陰に入れば暑さは全然感じない。
バイトが終わったらLIMEのグループトークで報告することになっているので、俺から自分と中野先輩はバイトが終わったとメッセージを入れる。俺が送った直後に胡桃からも書店のバイトが終わったメッセージが送られた。
俺は中野先輩と一緒に、待ち合わせ場所である武蔵金井駅の南口に向かう。
ムーンバックスを出発してから2, 3分。南口に行くと、そこには結衣と胡桃、伊集院さんの姿があった。恋人や友人だからかもしれないけど、周りにも人がいても目立つな。結衣は赤くて大きな紙袋を持っているけど、あの中にチョコレートタルトが入っているのだろうか。
俺達が声をかける前に結衣が気づき、3人はこちらに向かって手を振ってくれる。
「お待たせ、みんな。胡桃はバイトお疲れ様」
「お待たせー。華頂ちゃんはおつかれー」
「ありがとうございます。2人もお疲れ様です」
「2人ともお疲れ様なのです」
「悠真君、千佳先輩、バイトお疲れ様です! では、全員揃ったので杏樹先生のご自宅に行きましょうか」
5人を代表して、結衣がこれから自宅に行く旨のメッセージをグループトークに送信。俺達は福王寺先生の自宅のあるマンションに向かって歩き始める。いつも通り、俺は結衣と手を繋ぐ。
結衣と俺の前に胡桃、伊集院さん、中野先輩が歩いている。胡桃は七分袖のブラウス、伊集院さんはノースリーブのワンピース、中野先輩は半袖のパーカーと爽やかで夏を感じさせる服を着ている。
そして、俺の隣にいる結衣は……デニムパンツに灰色のノースリーブ縦ニットというシンプルながらも、結衣のスタイルの良さがよく分かる服装だ。凄く似合っている。艶やかな雰囲気だし、日焼け止めの甘い匂いも香ってくるのでドキドキしてくる。
「どうしたの? 私のことをじっと見て」
「今日の服もよく似合っていると思ってさ」
「ありがとう」
「あと、さっき言い忘れていたけど、タルト作りお疲れ様」
「ありがとう。楽しく作れたよ。きっと、みんなにも美味しいって言ってもらえるような出来になっていると思う」
「それは楽しみだ」
結衣は料理もスイーツ作りも得意なのは知っている。それに加えて今の一言だ。きっと、美味しくできあがっているに違いない。
「そういえば、杏樹先生の妹さんってどんな感じの人なんだろう?」
中野先輩はそんなことを問いかけると、歩きながら俺達の方に振り返ってくる。
「写真を見た結衣の話では、杏樹先生に似た綺麗な人だと言っていたのです」
「あと、クールな雰囲気だったとゆう君が言っていました」
伊集院さんと胡桃がそう言う。
以前、福王寺先生の家に行ったとき、先生のアルバムに貼ってある妹さんの写真を見たことがある。ただ、そのときは俺と結衣しかいなかったんだっけ。
「伊集院さんと胡桃の言う通りです。な、結衣」
「そうだね。学校でクールに振る舞っている福王寺先生に似ていますね。妹さんですから、先生よりも少し幼さを感じる顔立ちでした。あと、とても真面目な方らしいです」
「なるほどね。今の話を聞いて、先生の妹さんと会うのがより楽しみになったよ、高嶺ちゃん」
「私も楽しみです!」
俺も妹さんに会うのは楽しみだな。写真は見たけど、今まで一度も会ったことがないし。
結衣達と話しながら歩いたからか、あっという間に福王寺先生のご自宅のあるマンション『メゾン・ド・カナイ』のエントランスに到着した。
入口の自動扉近くにあるインターホンで、俺は福王寺先生の自宅の808号室を呼び出す。
『みんな、待ってたよ。低田君と胡桃ちゃん、千佳ちゃんはバイトお疲れ様』
「ありがとうございます、福王寺先生」
『今、開けるね。部屋で待ってるよ』
福王寺先生がそう言うと、すぐに入口の自動扉が開いた。
俺達はマンションの中に入り、エレベーターを使って福王寺先生の8階へ向かう。ここに来るのは3度目だけど、本当にこのマンションは綺麗で、高級なホテルに来たんじゃないかと思える。
8階に到着し、俺達は808号室の前へ。
さっきと同じように、俺は808号室のインターホンを押した。
――ピンポーン。
入口とは違った音色が鳴る。おそらく、エントランスのインターホンと個別のインターホンで区別を付けるためなのだろう。
『すぐに行く』
インターホンのスピーカーから福王寺先生の声が聞こえてきた。
それから程なくして、玄関の扉が開く。すると、そこには膝丈のベージュのフレアスカートに、淡いピンク色のタンクトップシャツ姿の福王寺先生の姿が。そんな先生は優しい笑顔を俺達に見せてくれている。
「みんな、いらっしゃい。妹は部屋の中にいるよ。さあ、中に入って」
『お邪魔しまーす』
俺達は福王寺先生の家の中に入る。
すると、味噌の匂いがほんのりと香ってくる。お昼ご飯に味噌系の料理を食べたのだろうか。
「あの、杏樹先生。お昼ご飯はどんなものを食べました? 味噌のいい匂いがするので、味噌系の料理ですか?」
結衣も味噌の匂いが気になったのか、福王寺先生にそんな質問をする。先生は明るい笑みを浮かべ、「うんっ」と首肯する。
「お昼ご飯に妹が味噌ラーメンを作ってくれたの。私、ラーメン大好きだし、誕生日プレゼントの一つだって言ってくれて」
「そうなんですか。いい妹さんですね」
「ふふっ、自慢の妹よ、結衣ちゃん」
得意げに話す福王寺先生。
その自慢の妹さんが、目の前にある扉の向こうにいるんだよな。写真を見て姿を知っているとはいえ、ちょっと緊張してきた。
「遥。教え子達が来たよ」
落ち着いた雰囲気でそう言うと、福王寺先生は部屋の扉を開ける。
部屋の中には、銀髪をワンサイドアップに纏めた女性……福王寺遥さんがこちらを向いて立っていた。ロングスカートにノースリーブのブラウスという涼しげな格好だ。俺達が部屋の中に入ると、遥さんは微笑みを浮かべる。綺麗な銀髪といい、端正な顔立ちといい……さすがは先生の妹って感じだ。
「初めまして、福王寺遥といいます。学校ではいつも姉がお世話になっております。よろしくお願いします」
落ち着いた声色に乗せて丁寧に挨拶すると、妹さんは軽く頭を下げるのであった。
昨日まで降り続けていた雨も止み、雲の隙間から青空が見える。天気予報によると、この週末の間は雨が降る心配はないという。何日も降り続いていたのもあり、空からも福王寺先生の誕生日を祝福しているように思える。
俺は午前9時から、駅前にあるムーンバックス武蔵金井店というチェーンの喫茶店で、中野先輩と一緒にバイトしている。
土曜日であり、梅雨の中休みとも言える気候だからか、朝から来店するお客様が多い。
「お待たせしました。アイスのブレンドコーヒーSサイズとチーズケーキでございます」
「ありがとう」
「ごゆっくり」
そう言ってお辞儀すると、若い女性のお客様はカウンター席の方へ向かっていった。
今は別の店員が接客しているお客様以外は、カウンターの近くにいるお客様はいない。
「ようやく一段落だね、悠真」
「ですね。久しぶりに雨が止んだからなのか、いつもの休日より多い気がします」
「そうだね。それにしても、悠真もスムーズに仕事をできるようになったね。頼もしくなってきたよ」
「ありがとうございます」
バイトを始めてから2ヶ月以上。指導係の中野先輩を中心にたくさんのことを教えてくださったので、今ではホールの仕事を一通りこなせるようになってきた。もちろん、先輩が隣にいると安心感がある。
「一段落したのね、お疲れ様。千佳ちゃん、低田君、休憩に入って。今日はまだ一度も休憩に入っていないから、長めに休んで」
「はい、お言葉に甘えて」
「分かりました、大垣店長。休憩に入ります」
俺は中野先輩と一緒にスタッフルームに戻る。
中野先輩がホットの砂糖入りコーヒーを注文してきたので、自分の分も一緒に淹れる。仕事中もコーヒーの香りに包まれることはたくさんあるけど、スタッフルームでコーヒーの香りを感じると気持ちが落ち着く。
「どうぞ、先輩」
「ありがとう」
ホットコーヒーの入った紙コップホルダーを中野先輩に渡し、俺は先輩の真向かいの席に座る。ふーっ、と息をかけ、砂糖入りのホットコーヒーを一口飲む。
「あぁ、美味しい」
「美味しいね、悠真」
「良かったです。そうだ、来週から午前授業ですし、何度かお昼ご飯を一緒に食べに行きましょうよ。結衣達も行きたがっていますし」
「おっ、いいね。分かった」
「……ところで、話は変わりますが、先輩って福王寺先生にどんなものをプレゼントするんですか?」
「ここのドリップコーヒー。杏樹先生、何度も来てくれているじゃない。コーヒーを頼むことが多いから、コーヒーをプレゼントするのがいいかなって」
「なるほど。素敵なプレゼントですね」
俺も何度も福王寺先生に接客したことがあるけど、思い返せば先生はコーヒーを注文してくれることが多い。コーヒーをプレゼントするという手もあったか。
胡桃や伊集院さん、中野先輩はコーヒーを普通に飲むので、コーヒーも誕生日プレゼントの候補に入れておこう。
結衣も付き合う前に比べたら多少はコーヒーを飲めるようになったけど、今でも紅茶を飲むことの方が多い。結衣には紅茶を候補に入れた方がいいかな。
「悠真は何をプレゼントするんだっけ。……悠真として」
「猫のぬいぐるみです。クレーンゲームで取った大きいもので」
「へえ、ぬいぐるみか。先生、猫好きだもんね。この前、悠真の家に遊びに来たモモちゃんを撫でたとき、とても幸せそうだったし。あと、クレーンゲームで取ったっていうのが悠真らしい。上手そう」
「そのぬいぐるみは、ワンコイン6プレイで取りました」
「おぉ、凄い。あたし、あんまりクレーンゲームが得意じゃないからさ。今後、何かほしいものがあったら、悠真を呼び出そっと」
「……そのときは少ない額で取れるように頑張りますね」
今は色々なものをクレーンゲームでゲットできる。定期的に呼び出されるかもしれない。先輩だけでなく、結衣達の助っ人になることもありそうだ。
クレーンゲームをきっかけに、休憩中はずっとゲームコーナーに関する話で盛り上がった。
午後2時。
仕事中に特に問題は起きなかったので、中野先輩と俺はシフト通りの時刻にバイトを上がる。
従業員用の出入口から外に出ると、朝と比べて雲が取れている。空気が蒸していないので、日陰に入れば暑さは全然感じない。
バイトが終わったらLIMEのグループトークで報告することになっているので、俺から自分と中野先輩はバイトが終わったとメッセージを入れる。俺が送った直後に胡桃からも書店のバイトが終わったメッセージが送られた。
俺は中野先輩と一緒に、待ち合わせ場所である武蔵金井駅の南口に向かう。
ムーンバックスを出発してから2, 3分。南口に行くと、そこには結衣と胡桃、伊集院さんの姿があった。恋人や友人だからかもしれないけど、周りにも人がいても目立つな。結衣は赤くて大きな紙袋を持っているけど、あの中にチョコレートタルトが入っているのだろうか。
俺達が声をかける前に結衣が気づき、3人はこちらに向かって手を振ってくれる。
「お待たせ、みんな。胡桃はバイトお疲れ様」
「お待たせー。華頂ちゃんはおつかれー」
「ありがとうございます。2人もお疲れ様です」
「2人ともお疲れ様なのです」
「悠真君、千佳先輩、バイトお疲れ様です! では、全員揃ったので杏樹先生のご自宅に行きましょうか」
5人を代表して、結衣がこれから自宅に行く旨のメッセージをグループトークに送信。俺達は福王寺先生の自宅のあるマンションに向かって歩き始める。いつも通り、俺は結衣と手を繋ぐ。
結衣と俺の前に胡桃、伊集院さん、中野先輩が歩いている。胡桃は七分袖のブラウス、伊集院さんはノースリーブのワンピース、中野先輩は半袖のパーカーと爽やかで夏を感じさせる服を着ている。
そして、俺の隣にいる結衣は……デニムパンツに灰色のノースリーブ縦ニットというシンプルながらも、結衣のスタイルの良さがよく分かる服装だ。凄く似合っている。艶やかな雰囲気だし、日焼け止めの甘い匂いも香ってくるのでドキドキしてくる。
「どうしたの? 私のことをじっと見て」
「今日の服もよく似合っていると思ってさ」
「ありがとう」
「あと、さっき言い忘れていたけど、タルト作りお疲れ様」
「ありがとう。楽しく作れたよ。きっと、みんなにも美味しいって言ってもらえるような出来になっていると思う」
「それは楽しみだ」
結衣は料理もスイーツ作りも得意なのは知っている。それに加えて今の一言だ。きっと、美味しくできあがっているに違いない。
「そういえば、杏樹先生の妹さんってどんな感じの人なんだろう?」
中野先輩はそんなことを問いかけると、歩きながら俺達の方に振り返ってくる。
「写真を見た結衣の話では、杏樹先生に似た綺麗な人だと言っていたのです」
「あと、クールな雰囲気だったとゆう君が言っていました」
伊集院さんと胡桃がそう言う。
以前、福王寺先生の家に行ったとき、先生のアルバムに貼ってある妹さんの写真を見たことがある。ただ、そのときは俺と結衣しかいなかったんだっけ。
「伊集院さんと胡桃の言う通りです。な、結衣」
「そうだね。学校でクールに振る舞っている福王寺先生に似ていますね。妹さんですから、先生よりも少し幼さを感じる顔立ちでした。あと、とても真面目な方らしいです」
「なるほどね。今の話を聞いて、先生の妹さんと会うのがより楽しみになったよ、高嶺ちゃん」
「私も楽しみです!」
俺も妹さんに会うのは楽しみだな。写真は見たけど、今まで一度も会ったことがないし。
結衣達と話しながら歩いたからか、あっという間に福王寺先生のご自宅のあるマンション『メゾン・ド・カナイ』のエントランスに到着した。
入口の自動扉近くにあるインターホンで、俺は福王寺先生の自宅の808号室を呼び出す。
『みんな、待ってたよ。低田君と胡桃ちゃん、千佳ちゃんはバイトお疲れ様』
「ありがとうございます、福王寺先生」
『今、開けるね。部屋で待ってるよ』
福王寺先生がそう言うと、すぐに入口の自動扉が開いた。
俺達はマンションの中に入り、エレベーターを使って福王寺先生の8階へ向かう。ここに来るのは3度目だけど、本当にこのマンションは綺麗で、高級なホテルに来たんじゃないかと思える。
8階に到着し、俺達は808号室の前へ。
さっきと同じように、俺は808号室のインターホンを押した。
――ピンポーン。
入口とは違った音色が鳴る。おそらく、エントランスのインターホンと個別のインターホンで区別を付けるためなのだろう。
『すぐに行く』
インターホンのスピーカーから福王寺先生の声が聞こえてきた。
それから程なくして、玄関の扉が開く。すると、そこには膝丈のベージュのフレアスカートに、淡いピンク色のタンクトップシャツ姿の福王寺先生の姿が。そんな先生は優しい笑顔を俺達に見せてくれている。
「みんな、いらっしゃい。妹は部屋の中にいるよ。さあ、中に入って」
『お邪魔しまーす』
俺達は福王寺先生の家の中に入る。
すると、味噌の匂いがほんのりと香ってくる。お昼ご飯に味噌系の料理を食べたのだろうか。
「あの、杏樹先生。お昼ご飯はどんなものを食べました? 味噌のいい匂いがするので、味噌系の料理ですか?」
結衣も味噌の匂いが気になったのか、福王寺先生にそんな質問をする。先生は明るい笑みを浮かべ、「うんっ」と首肯する。
「お昼ご飯に妹が味噌ラーメンを作ってくれたの。私、ラーメン大好きだし、誕生日プレゼントの一つだって言ってくれて」
「そうなんですか。いい妹さんですね」
「ふふっ、自慢の妹よ、結衣ちゃん」
得意げに話す福王寺先生。
その自慢の妹さんが、目の前にある扉の向こうにいるんだよな。写真を見て姿を知っているとはいえ、ちょっと緊張してきた。
「遥。教え子達が来たよ」
落ち着いた雰囲気でそう言うと、福王寺先生は部屋の扉を開ける。
部屋の中には、銀髪をワンサイドアップに纏めた女性……福王寺遥さんがこちらを向いて立っていた。ロングスカートにノースリーブのブラウスという涼しげな格好だ。俺達が部屋の中に入ると、遥さんは微笑みを浮かべる。綺麗な銀髪といい、端正な顔立ちといい……さすがは先生の妹って感じだ。
「初めまして、福王寺遥といいます。学校ではいつも姉がお世話になっております。よろしくお願いします」
落ち着いた声色に乗せて丁寧に挨拶すると、妹さんは軽く頭を下げるのであった。
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