高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ

文字の大きさ
158 / 279
夏休み編3

第1話『福王寺先生からの電話』

しおりを挟む
 ――プルルッ。プルルッ。
「先生から電話きた」

 そう言い、結衣は福王寺先生からの電話に出る。

「もしもし、高嶺です。……今は悠真君の家でお家デートしてます」

 楽しんでいますよ、と結衣は言葉通りの楽しげな表情を浮かべながら話す。
 胸元まで掛け布団がかかっているけど、裸の状態で俺のベッドに座りながら電話をしている結衣……凄く艶やかだ。
 あと、話しているのは自分じゃないけど、電話とはいえ、結衣と裸でいる状態で第三者と話をしているとドキドキしてくる。

「10日の土曜日ですか? その日は悠真君と一緒にコアマっていう同人イベントに行く予定です。お姉様が売り子をするので、その様子を見に……」

 10日ってことは……明後日か。その日に福王寺先生は結衣に何か用件があるのかな。
 また、結衣が言っていたコアマというのは、「コミックアニメマーケット」という世界最大級の同人誌即売会の略称だ。毎年、お盆の時期と年末に、東京23区の海沿いの藍明あいあけという地域で開催される。今年の夏のコアマは明日から12日までの4日間。俺はこれまでに何度も参加したことがある。
 コアマには非常に多くのサークルが参加して、商業作品の同人誌やオリジナル本、自作のグッズなどを頒布したり、無料配布したりする。
 また、企業ブースというところもある。ここでは多くの企業が参加し、様々なグッズを販売したり、イベントを行なったりしている。コアマ限定のグッズが販売されたり、コアマだけの特典が付いたりすることも。こうしたことから、参加者の数は右肩上がりとなっているのだ。
 コアマの2日目である明後日に、芹花せりか姉さんが、大学の友達が運営する同人サークルの売り子として参加する。姉さん曰く、サークルでは『みやび様は告られたい。』という漫画の同人誌を頒布するのだそうだ。それもあり、姉さんはみやび様に登場するキャラにコスプレするらしい。姉さんに来てほしいと言われたので、当日は結衣と一緒にコアマに一般参加する予定になっているのだ。

「ねえ、悠真君。先生が私達にコアマ絡みで話したいことがあるんだって。5時に仕事が終わるから、その後にここに来てもいいかって言ってる」
「そうなんだ。俺はかまわないよ」
「分かった。……悠真君がいいと言っているので、5時過ぎに悠真君の家に来てください。……はい、失礼します」

 そう言って、結衣は通話を切るボタンをタップした。

「コアマ絡みで話したいことってどんなことだろうね?」
「う~ん、福王寺先生はアニメや漫画が大好きだし、同人誌やオリジナル本をたくさん持っている人だからな。それ絡みかもしれない。色んなサークルが新作を出すだろうし」
「なるほどね。先生の家の本棚にそういった本がいっぱいあったもんね」
「ああ。……今は午後4時45分か。5時に仕事が終わるから、家に来るまであと20分ちょっとか。それまでに、先生が来ても大丈夫なように掃除するか」

 俺と結衣が肌を重ねるほどの関係なのは福王寺先生も知っている。ただ、直前までしていたと知られるのは何だか恥ずかしい。あの人の場合、知ったら興奮して詳細な内容を訊いてくる可能性もありそうだし。
 俺の提案に、結衣は「うんっ!」と笑顔で頷いてくれる。結衣と協力すればすぐに終わるだろう。
 俺達は服を着て、部屋の掃除を始めるのであった。



 ベッドは……よし。
 ゴミ箱は……よし。
 カーペットやクッションは……よし。
 部屋の匂いは……うん、変な感じはしないな。

「これできっと大丈夫だと思う」
「そうだね」
「一緒に掃除してくれてありがとう、結衣」
「いえいえ」

 結衣が協力してくれたおかげで、午後5時過ぎに掃除を終わらせられた。これで、俺達がうっかり喋らない限り、2時間以上の間、この部屋で肌を重ねていたことを福王寺先生に知られてしまうことはないだろう。
 俺達はみやび様のBlu-rayを観ていたときに座っていたクッションに座る。随分と久しぶりに座った感じがする。
 ローテーブルに置かれている自分のマグカップを手に取る。カップにはブラックのアイスコーヒーがちょっと残っていた。それを一気に飲むと……冷たさはあまり感じなかった。でも、結衣と長い時間肌を重ねていたし、掃除もしたからとても美味しい。
 また、結衣も俺の隣でアイスコーヒーを飲んでいる。ちなみに、結衣のコーヒーは砂糖入りだ。

「……あぁ、コーヒー美味しい。2時間以上悠真君と体を動かしたし、掃除もしたからかな。ごちそうさまでした」
「ははっ、俺も同じことを思ったよ。俺も飲み終わったし、何かまた冷たい飲み物を用意するよ。アイスティーとかどう?」
「いいね! アイスティーをお願いします!」
「了解」

 俺は自分と結衣のマグカップを持って、1階のキッチンへ向かう。
 シンクでマグカップを洗い、ティーバッグを使って2人分のアイスティーを作っていく。体を動かした後だから、普段よりも甘めに。
 アイスティーを作り終えて、自分の部屋に戻ると、結衣はスマホを弄って待っていた。

「あっ、おかえり、悠真君」

 そう言い、結衣は笑顔で俺に小さく手を振ってくる。自分の部屋でも大好きな恋人に「ただいま」って言ってもらえるのは嬉しいな。

「ただいま、結衣。アイスティー作ってきたよ」
「ありがとう」

 俺は結衣にマグカップを手渡し、さっき座っていたクッションに腰を下ろす。
 アイスティーを一口飲むと……甘味は強いけど、今はこれがちょうどいいと思える。紅茶の甘味と香りで心身共に安らぐ。
 俺がアイスティーを飲んでいると、すぐ側から「いただきます」と結衣の可愛らしい声が聞こえる。

「……うんっ、美味しい! いつもよりも甘く感じるのは気のせい?」
「ううん、本当だよ。甘めに作ったんだ。運動後だから」
「そうだったんだね」
「味の違いに気づくなんて、さすがは結衣だ」
「今までたくさんいただいてますから」

 と言いながらも、嬉しそうな笑みを浮かべているところが可愛らしい。味の違いに気づいてもらえたのが嬉しくて、俺は結衣の頭を優しく撫でた。
 ――ピンポーン。
 おっ、インターホンが鳴った。今は5時15分だし……福王寺先生かもしれない。
 扉の近くにあるモニターのスイッチを押すと、画面には福王寺先生と、俺と結衣の友人の華頂胡桃かちょうくるみが映っていた。

「はい」
『こんにちは、低変人様』
『こんにちは、ゆう君。実はあたしも杏樹先生からコアマの件で連絡が来て。バイトが5時までだったから一緒に来たの』
「そうだったんだ」

 福王寺先生……胡桃にもコアマのことで連絡していたのか。
 そういえば、何日か前にパソコンのメッセンジャーで胡桃と話したとき、胡桃もコアマに参加すると言っていたっけ。確か、胡桃は企業ブースで、会場限定のグッズを買うのが目的だったかな。

「すぐに行きますね。……結衣。先生だったよ。胡桃も一緒に来てる。胡桃にもコアマの話をしたらしい」
「そうなんだね」
「ちょっと行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」

 いってらっしゃい、って言ってもらえるのも嬉しいな。
 俺は一人で部屋を後にして、玄関へ向かう。
 玄関の扉を開けると、そこには胡桃と福王寺先生が立っていた。胡桃はロングスカートに半袖のVネックシャツ、福王寺先生はスラックスパンツにノースリーブの襟付きのブラウスという出で立ち。2人ともよく似合っているな。

「2人ともこんにちは。お仕事お疲れ様です」
「ありがとう、ゆう君」
「ありがとう。ごめんなさいね、お家デート中に連絡して家に来ちゃって」

 申し訳なさそうにしてそう言う福王寺先生。

「いえいえ、気にしないでください。俺達が来ていいと言ったんですから。さあ、上がってください」
「……ありがとう。お邪魔します」
「お邪魔します」
「結衣は俺の部屋にいます。何か冷たいものを用意しますね」
「ありがとう。でも、私はお気持ちだけで。学校の自販機で買ったボトルのカフェラテが残っているから」
「あたしも。水筒に麦茶がまだまだ残っているし」
「そうですか。では、3人で俺の部屋に行きましょう」

 俺は胡桃と福王寺先生と一緒に自分の部屋に戻る。
 扉を開けると、結衣は笑顔でこちらに手を振り、

「胡桃ちゃん、杏樹先生、お仕事お疲れ様です!」

 と元気良く言った。
 胡桃と福王寺先生は嬉しそうな笑顔を見せ、「ありがとう」とお礼の言葉を言う。また、暑い中歩いてきたからか、2人は「涼しい」と呟き、柔らかい笑顔に。
 胡桃は結衣の座っている斜め前にあるクッション、福王寺先生は俺と結衣の正面にあるクッションに腰を下ろした。あと、掃除したからか、俺達がさっきまで肌を重ねていたことには感付いていないようだ。
 俺は結衣の隣のクッションに座って、

「さっそく本題に入りましょうか。福王寺先生」

 福王寺先生にそう話を切り出す。さて、先生は俺達3人にコアマ絡みでどんなことを話すのかな。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

ルピナス

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。  そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。  物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。 ※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。  ※1日3話ずつ更新する予定です。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

処理中です...