高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ

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夏休み編5

第12話『より楽しめそうな服装で』

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 8月31日、土曜日。
 今日で今年の夏が終わる。
 去年までは夏休み最終日だからと「明日から学校かぁ……」と気が重くなって、少しでもその気を紛らわすために漫画やラノベを読んだり、アニメを観たり、低変人ていへんじんとして公開する曲の作曲をしたりしていた。

 ただ、今年は違う。

 午前10時から午後5時までバイトして、その後に恋人の結衣と一緒に花火大会デートで、その夜は結衣の家でお泊まり。しかも、曜日の関係で9月1日まで夏休みとして過ごすことができる。こんな夏の最終日を迎えられるなんて嬉しいな。去年までの自分には想像もできなかった。
 今日の東京の天気は晴れ時々曇り。降水確率も10%なので、結衣と一緒に行く花火大会は予定通りに開催されるだろう。



「今日のバイトも終わったね」
「ええ。シフト通りに終わって良かったです」

 午後5時過ぎ。
 今日のバイトがシフト通りに終わり、中野先輩と一緒に従業員用の出口からお店の外に出る。これから結衣と一緒に花火大会デートをして、結衣の家でお泊まりするという予定があるから、7時間のバイトもあっという間だった。

「これから、高嶺ちゃんと予定があるんだもんね」
「はい。荷物を置くために、一旦、結衣の家に行きます。それで、結衣の家から、結衣と一緒に花火大会の会場に行きます」
「そっか。もしかしたら、会場で会うかもね」
「そうかもしれませんね」

 中野先輩はクラスの友人達と一緒に花火大会に行くとのこと。
 また、胡桃は伊集院さんと福王寺先生と、芹花姉さんは月読さんと、柚月ちゃんは女子テニス部の友達と一緒にそれぞれ花火大会に行く約束をしている。会場ではみんなと会うかもしれないな。
 中野先輩とは武蔵金井駅の南口を出たところで別れ、俺は一人で結衣の家に向かう。7時間もバイトした後だけど、足取りは自然と普段よりも速くなる。
 数分ほど歩いて、結衣の家の前まで到着した。俺はインターホンを鳴らす。

『は~い』

 インターホンを鳴らしてから2、3秒ほどでスピーカーから結衣の声が聞こえてきた。姿は見えないけど、結衣の声が聞こえるだけでバイトの疲れが和らぐ。

『あっ、悠真君』
「こんにちは。バイトが終わったから来たよ」
『お疲れ様! 今行くね!』
「はーい」

 プチッ、と応答の切られる音が聞こえた。
 これから花火大会に行くし、結衣はもう浴衣に着替えているのだろうか。それとも、まだ普段着なのかな。どちらでも、結衣と会えるのが楽しみだ。

「お待たせ、悠真君」

 玄関の扉が開くと、ハーフパンツにキャミソールという露出度の高い服装の結衣が姿を現した。今日は花火大会に行くまで家にいると言っていたから、こういう服を着ているのかもしれない。

「こんにちは、結衣。もう浴衣を着ているかと思った」
「悠真君が来てから着替えればいいかなって。この服の方が動きやすいし」
「そっか。その服も似合ってるな。露出度がかなり高めだけど」
「ありがとう。今日は家でゆっくりしていたからね。さあ、入って」
「ああ。お邪魔します」

 俺は結衣の家にお邪魔する。
 今回はお泊まりもするので、リビングにいる結衣の御両親に挨拶する。これから、俺も結衣も柚月ちゃんも花火大会に出かけて2人きりになるので、付き合っていた頃に流行っていたアニメのDVDを観るらしい。ちなみに、柚月ちゃんは浴衣に着替えて、一足先に出かけたとのこと。
 また、御両親に挨拶している間に、結衣がコップ半分ほどのスポーツドリンクを持ってきてくれた。俺はスポーツドリンクを一気飲みする。

「あぁ……バイト後だし、暑い中歩いてきたから凄く美味しいよ。ありがとう」
「いえいえ。じゃあ、私の部屋に行こうか」
「ああ」

 俺は結衣と一緒に、2階にある結衣の部屋へ向かう。
 クーラーがかかっているので部屋の中はとても涼しい。今まで結衣がいるからか、結衣の甘い匂いがほのかに香ってきて。そのことで癒やされる。
 結衣のベッドには、先月の七夕祭りで着ていた青い朝顔が刺繍された水色の浴衣が置かれている。

「その浴衣を着るのか? 七夕祭りでも着ていたな」
「うん。水色で爽やかだし、朝顔の刺繍も好きだからね」
「そうなんだ。その浴衣姿がとても似合っていたから、また見られるのが嬉しいよ」
「そう言ってくれて嬉しい!」

 結衣は言葉通りの嬉しそうな笑顔でそう言うと、俺にキスしてきた。涼しい部屋の中でのキスだから、唇から伝わる結衣の温もりはとても心地いい。これから花火大会デートだし、お泊まりもするから……寝るまでの間に何回キスすることになるだろうか。

「私は七夕祭りと同じ浴衣だけど、悠真君も同じようにサマージャケット?」
「ううん。花火大会に行くことが決まったから、一昨日のバイトの帰りに黒い甚平を買ったんだ」
「へえ、そうなんだ!」

 普段よりも少し高い声で言うと、結衣は目を輝かせる。

「ジャケットもいいかなって思ったんだけど、お祭りだから和装もいいと思って。あと、甚平って今まで着たことがなかったからさ。それに……来年以降も結衣とお祭りデートするだろうから、そういう服を一つ持っておこうと思ったんだ」
「悠真君……」

 甘い声で俺の名前を呟き、結衣はうっとりした様子で俺のことを見てくる。気持ちを素直に言っただけなんだけど、そういう反応をされるとちょっとドキドキしてくるよ。

「悠真君の甚平姿が凄く楽しみだよ!」
「結衣に似合っているって思ってもらえるといいな。じゃあ、さっそく着替えるか」
「うんっ! 荷物は部屋の端の方に適当に置いていて」
「了解」

 俺は部屋の端にボストンバッグを置き、一昨日購入した黒い甚平を取り出す。私服から甚平へと着替え始める。
 結衣は既に下着姿になっており、ベッドに置いてある水色の浴衣を羽織っていた。七夕祭りの際に「浴衣の下には下着はつけない方がいいのか」と訊いていたからもしや……と思っていたけど、ちゃんと下着をつけた状態で浴衣を着るようで一安心。
 浴衣を着ていく結衣の姿や仕草はとても綺麗だ。浴衣を着るところは初めて見るのでそそられるものがあって。思わず生唾を飲んだ。

「ふふっ、悠真君ったら。私のお着替え姿をじっと見ちゃって」
「浴衣を着る姿を見るのは初めてなもので。着替えていく姿も綺麗なのはさすがだなって」
「嬉しいお言葉。悠真君が来る前に着替えなくて良かった」

 結衣は嬉しそうに笑いながら、浴衣の帯を結んでいく。その姿もとても綺麗だった。
 浴衣を着替える結衣をじっと見てしまったけど、甚平は着るのがとても簡単。結衣とほとんど変わらないタイミングで甚平に着替え終わった。甚平だとさっきまで着ていた服よりも身軽だし、より涼しく感じるな。

「悠真君、甚平姿似合ってるね! かっこいいよっ!」

 結衣は嬉しそうな様子でそう言うと、俺のすぐ目の前までやってきて、スマホで何度も撮影する。

「黒いから大人っぽい雰囲気も感じられて素敵だよ! あと、隙間から胸元と鎖骨が見えるのがたまらないね! チラリズム!」

 うへへっ……と厭らしさも感じられる声で笑う結衣。胸元や鎖骨についても感想も言うのが結衣らしい。

「ありがとう。こんなにも気に入ってくれるなんて。甚平を買って良かったよ」
「こちらこそ買ってきてくれてありがとうだよ! 来年の夏が今から楽しみだよ!」
「ははっ、そっか。でも、まずは今日の花火大会を楽しもうぜ」
「うんっ!」
「あと、その水色の浴衣姿はやっぱり綺麗で可愛いよ。また見られて良かった」
「ありがとう! あと、七夕祭りのときは普段と同じ髪型だけど、今日は後ろでお団子の形に纏めるよ」
「そうなのか。楽しみだ」

 お団子ヘアーの結衣か。ポニーテールの結衣も可愛かったので、結構期待している。
 結衣は鏡の前に立って、髪をお団子の形に纏めていく。髪を纏める姿はあまり見ないので、思わずじっと見入ってしまう。
 普段はストレートヘアなのに、髪をお団子に纏める手つきは鮮やかで。特に手間取った様子をなく髪をお団子に纏めると、鏡台に置いてある青い朝顔付きのかんざしを挿した。

「はいっ、完成!」
「おおっ……」

 結衣のお団子ヘアーがとても似合っているし、お団子ヘアーに纏めるのがスムーズだったので自然と結衣に拍手を送っていた。

「お団子ヘアー凄く似合ってるよ、結衣」
「ありがとう、悠真君!」

 ニッコリと笑う結衣。浴衣にお団子ヘアーなので、今の結衣は普段とは違った雰囲気でとても新鮮な姿だ。あと、普段は見えないうなじから後ろの首筋が美しくてたまらない。

「あと、凄くスムーズにお団子に纏めていたな」
「小学生の頃にお母さんに教えてもらって練習したからね。年に数えるほどしかお団子ヘアーにはしないけど、両手がちゃんと覚えてるよ」
「そうなんだ。あと、両手が覚えてるって何かかっこいいな」
「バトル漫画みたいだよね」
「ああ」

 あははっ、と俺は結衣と声に出して笑い合う。花火大会からお泊まりの間も、こうしてたくさん笑い合いたいものだ。

「ねえ、悠真君。今の姿の写真を撮らない? 会場でもいいけど、人が多くて撮れないかもしれないから」
「そうだな」

 それから、結衣のスマホでツーショット写真を何枚も撮る。
 お団子ヘアーにした浴衣姿の結衣に甚平姿の俺。こうして写真で見ると、非常に夏らしい姿になっていると実感する。あと、結衣のピースサインは安定していて可愛いな。
 しばらくの間はこの写真を見る度に、今日を含めた高校1年の夏休み終盤のことを思い出しそうだ。

「着替え終わったし、そろそろ行こうか!」
「ああ、行こう!」

 俺達は必要なものを持って、結衣の部屋を出る。
 1階のリビングにいる結衣の御両親に、これから花火大会に行くことを伝える。その際、御両親が俺の甚平姿がよく似合っていると言ってくださった。そのことを嬉しく思いつつ、俺は結衣と一緒に出発するのであった。
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