高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ

文字の大きさ
205 / 279
夏休み小話編

『結衣は壁ドンされたい。』

しおりを挟む
『結衣は壁ドンされたい。』


 お盆。コアマという同人誌即売会に一般参加した直後の頃。
 今日はお昼から、結衣の家でお家デートをしている。
 お昼ご飯に結衣が作ってくれたナポリタンと野菜スープを食べたり、結衣と一緒に昨日の深夜に放送されたアニメを観たり、

「今夜は寝かさないぞ。好きなお前と一緒にいるんだからな」

「……うんっ、いい! とてもいいよ、悠真君!」

 結衣からのお願いで、コアマで購入したボーイズラブの同人誌のセリフを感情込めて朗読したりと盛りだくさんだ。
 結衣はコアマで購入した同人誌を読んでいたら、俺に朗読してほしいセリフがいくつもあったとのこと。
 ボーイズラブの同人誌を朗読したのは、2ヶ月ほど前に福王寺先生のお見舞いに行ったとき以来だ。久しぶりに朗読したけど、結衣が嬉しそうに褒めてくれるのもあり、ちょっと楽しいと思えた。

「朗読してほしいセリフは以上だよ。ありがとう、悠真君!」
「いえいえ。喜んでくれて嬉しいよ」

 そう言い、俺は結衣の淹れてくれたアイスコーヒーを一口飲む。恋人を喜ばせることができた後に飲むコーヒーは最高に美味しい。何度か朗読した後なので、アイスコーヒーで喉が潤ったり、体が冷やされたりする感覚がとても心地いい。

「他にも俺にしてほしいことがあったら、遠慮なく言ってくれ」
「ありがとう! じゃあ……さっそくお願いしてもいいかな?」
「もちろんいいぞ」

 恋人からしてほしいことがあるって嬉しいな。どんなことだろう?

「壁ドンしてほしいなって」
「……壁ドンか」

 俺がそう言うと、結衣は小さく頷く。明るい笑顔がほんのりと赤みを帯びているのが可愛らしい。

「コアマに行く電車の中で、人がたくさん乗ってきたときに壁ドンのような体勢になったじゃない」
「ああ……なったなぁ」

 会場の最寄り駅に向かう路線に乗っているとき、人がたくさん乗ってくる駅があった。その際、後ろから勢い良く押され、俺と向かい合って立っている結衣に密着する体勢になって。結衣が扉に寄り掛かる形で立っていたのもあり、俺が結衣を壁ドンするような体勢になったのだ。

「悠真君が勢い良く迫ってきて、悠真君と密着できたのが凄く良くて。それで、コアマから帰ってきてから『そういえば、悠真君に壁ドンされたことはなかったなぁ』と思ってね」
「そういえば……結衣に壁ドンした記憶は全然ないな」
「でしょう? だから、悠真君に壁ドンをお願いしようかなって思っていたの」
「そうだったのか。分かった」

 似たような経験をしたから、ちゃんとした壁ドンをされたいと思ったんだな。可愛いことを考える恋人だ。
 壁ドンは恋愛やラブコメ系の作品では結構出てくるイベントシーンだ。また、現実にも壁ドンをされるとキュンとする女性はいるらしい。俺も結衣をキュンとさせられるような壁ドンをしたい。

「ありがとう! じゃあ、さっそく壁ドンしようか!」
「ああ」

 結衣はクッションから立ち上がり、勉強机の側の壁に背を付ける形で立つ。
 俺もクッションから立ち上がって、結衣と向かい合う形になる。こういう体勢になるのは今までにたくさんあったけど、これから壁ドンをするからちょっとドキドキする。結衣も頬を中心に顔が赤みを帯びているし。

「結衣。壁ドンするぞ」
「うん、お願いします。あと……壁ドンしたときに、かっこいい言葉を一言言ってくれると嬉しいです」
「……分かった」

 直前になって注文が来たな。まあ、漫画やアニメやラノベでは、壁ドンシーンでかっこいい言葉を言うもんな。それで結衣をよりキュンとできるのなら、彼氏らしく結衣にかっこいい言葉を言おうじゃないか。

「じゃあ……お願いします」
「ああ」

 俺は結衣を見つめながらゆっくりと近づき、
 ――ドンッ!
 と、右手で結衣の顔のすぐ側の壁を強めに叩く。

「結衣。ずっと俺の側にいろよ」

 至近距離で結衣を見つめながらそう言った。結衣がかっこいいと思ってくれたら嬉しいな。
 これまで抱きしめたり、寄り添ってアニメを観たり、肌を重ねたり、一緒に寝たりするときなど、至近距離から結衣の顔はたくさん見てきた。それでも、結衣の顔って本当に綺麗で可愛らしいと改めて思う。

「はいっ」

 結衣はうっとりとした笑顔になって、甘い声でそう返事した。

「……凄くかっこよかったよ。言ってくれた内容はもちろん、普段よりも強い口調で言うところにもキュンとなりました。今もドキドキしてる」
「そう言ってくれて嬉しいよ」

 それと同時に、結衣にかっこいいと思える言葉を言えてほっとしている。

「あと、してくれたのが悠真君だからかもしれないけど……壁ドンっていいね。迫られて、ドンって音が響いたときはドキッとしたよ」
「そっか。ドンって音が出るように強めに叩いて正解だったな」
「ふふっ。素敵な壁ドンをありがとう、悠真君」
「いえいえ。俺も結衣に初めて壁ドンできて良かったよ。こちらこそありがとう」
「いえいえ」

 結衣はそう言うと、俺のことを抱き寄せ、その流れでキスしてきた。壁ドンをしたことのお礼だろうか。あと、ドキドキしているからなのか、普段よりも体や唇から伝わってくる熱が強くて。涼しい部屋の中にいるから、その強い温もりが心地良く感じられる。
 10秒ほどして、結衣の方から唇を離す。すると、結衣はニッコリと笑って、顔を俺の胸に埋めてきた。

「会場に行く電車で凄く混んでいたとき、こうして顔を埋めたじゃない」
「そうだったな」
「悠真君の匂いとか温もりが感じられるから、安心できるし、凄く幸せに感じられたの。だから、少しの間……こうしていてもいいかな?」
「もちろんだ」

 結衣が安心できたり、幸せになれたりするのなら。

「ありがとう、悠真君」

 それから少しの間、結衣は俺のことを抱きしめて、顔を俺の胸の中に埋める。そのおかげで、結衣の温もりや甘い匂い、柔らかさを感じられて。だから、幸せな気持ちになっているよ。
 俺はさっき壁を叩いた右手を結衣の頭まで下ろし、そっと撫でる。結衣の柔らかい髪越しに伝わる温もりがとても優しく感じられたのであった。



『結衣は壁ドンされたい。』 おわり
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

ルピナス

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。  そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。  物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。 ※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。  ※1日3話ずつ更新する予定です。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

処理中です...