恋人、はじめました。

桜庭かなめ

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続編

第32話『体育祭⑨-チーム対抗混合リレー-』

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 今年の体育祭も、残すはチーム対抗混合リレーのみとなった。なので、グラウンド内にいるのは混合リレーに出場する生徒達と係の生徒達くらいである。
 残り種目があと1種目であることや、男子と女子のチーム対抗リレーが順位争いや逆転と盛りだくさんの内容だったことから、会場のムードは最高潮に。
 小学生の頃から、運動会や体育祭のラストは盛り上がっていた。ただ、まさか最終種目のリレーのアンカーとして体感する日が来るなんて。去年までとは違った感覚だ。

「おーい」

 3年生の体育祭実行委員兼青チームリーダーの男子生徒が、混合リレーのメンバー6人に声を掛けてきた。

「本部へ行って、女子の対抗リレーが終わった時点での総合得点を聞いてきたぞ。俺達青チームは2位。1位は緑チームで、3位は赤チームだ」
「対抗リレー前と変わらないのか」
「そうだな、上重。ただ、1位から3位まで僅差だ。白、黄色、桃色チームとは点差はかなり開いている。だから、優勝の可能性があるのは青、赤、緑チームの3チーム。そして、この3チームの中で混合リレーの最上位になったチームが優勝とのことだ」

 男女共に上位だったし、優勝の可能性は残っているか。混合リレーの結果次第で、優勝を掴み取れるかどうかが決まる。だから、このリレーが運命のレースになるのか。

『まもなく、チーム対抗混合リレーを始めます。出場する選手のみなさんはそれぞれの場所へ移動してください』

 運命の混合リレーのスタートまで、刻一刻と迫っている。

「よしっ! 円陣を組んで気合い入れようぜ!」

 チームリーダーがそう言うので、混合リレーのメンバーとチームリーダーの7人で円陣を組むことに。

「ここまで青チームはよく頑張ってきた。おかげで優勝の可能性は残っている。上重、松島、紙透、青山、下田、梅原。混合リレーを頑張ってくれ。応援しているからな。……上重。最上級学年の男子らしく、気合いの一言を言ってくれ」
「分かった。……みんな。俺達次第でチームの結果が決まる。最後、紙透君が1位でゴールして優勝できるように、みんなで頑張ろう。彼が1位でゴールするのは青山さんだけじゃなく、俺もそうだし、青チームの多くの生徒が見たい景色だと思うから。……青チーム! 行くぞ!」
『おー!』

 7人で気合いの声を出し、混合リレーのメンバーはそれぞれの場所に向かう。その際、俺は氷織とグータッチした。
 青チームの走る順番は、決起集会の日に決めたときから変更はなく、梅原さん→下田君→松島先輩→上重先輩→氷織→俺だ。
 1人がトラック半周を走るので、俺は上重先輩と下田君と一緒に偶数番目に走る生徒達が集まる場所へ。その場所はブルーシートのある方で、うちのクラスを含めた青チームのクラスのブルーシートもよく見える場所だ。なので、

「アキ! 青チームのみんな頑張れよ!」
「みんな頑張りなさい!」
「青チームファイト!」
「ここからみんなで応援しているわ~!」

 和男、火村さん、清水さん、高橋先生からの応援はもちろんのこと、クラスメイトや青チームのクラスからの応援がよく聞こえる。青チームの3人は、そちらに向かって大きく手を振る。
 各チームのアンカーゼッケンを身に付けている生徒を見ると……混合リレーらしく男子のチームもいれば、女子のチームもいる。ちなみに、優勝の可能性のある赤チームは男子生徒で、緑チームは女子生徒。赤チームはもちろんのこと、緑チームも油断できないな。

『さあ、今年の体育祭も最後の種目となりました! チーム対抗混合リレーです! 男女3人ずつ計6人の代表メンバーが、1人トラック半周ずつ走ります! このリレーの結果でチームの総合順位も決まります! 各チームの第1走者のみなさんはスタート地点に立ってください!』

 そのアナウンスと同時に、第2走者の下田君も偶数番目の走者のスタートラインに立つ。
 スタート地点を見ると、6人全員がスタートの構えをしており、その中には青いバトンを持った梅原さんの姿が見える。赤、緑、黄色チームの第1走者が男子生徒だが、頑張ってほしいな。
 ――パンッ!
 会場が大盛り上がりの中、チーム対抗混合リレーがスタートした。
 男子生徒3人が勢いよくスタートを決め、梅原さんは白チームと4位争いを繰り広げている。
 先頭争いを繰り広げる赤、緑、黄色チームの生徒がコーナーを回り終わって、第2走者へとバトンパスをしていく。

「あっ!」

 3つのチームの中で、赤チームがバトンを落としてしまう。

「下田君!」
「おう!」

 そんな赤チームの横で、梅原さんが下田君へバトンをスムーズに渡し、3位に浮上する。

「行ってくる」

 全チームが第2走者へのバトンパスが終わったところで、第4走者の上重先輩がトラック上のスタートラインへ。その際、俺は先輩とグータッチ。
 野球部だけあって下田君の足はかなり速い。先頭争いをしている緑チームと黄色チームとの差を縮めていく。
 緑チームと黄色チームにかなり近づいたところで、下田君から松島先輩にバトンパス。放課後に何度か行った練習の成果もあり、ここでも順調に繋がる。
 緑チームの第3走者の男子がとても速いため、これまで先頭争いをしていた黄色チームとの差をどんどん広げていく。
 松島先輩は安定した走りを見せており、黄色チームの第3走者の女子生徒との差をじわじわ縮めていく。そして、

「上重君! おねがい!」
「ああ!」

 黄色チームに追いついたところで、青チームは松島先輩から上重先輩へバトンパス。ここでのバトンパスもスムーズだ。そんな中、黄色チームがバトンパスにもたついたので、青チームは単独2位に浮上する。

「上重先輩! 頑張ってください!」

 上重先輩は結構な勢いで走り、1位を走る緑チームの女子生徒との差を詰めている。
 全てのチームがバトンを第4走者に渡したので、俺を含むアンカー達はトラック上のスタートラインへ向かう。そこから戦況を見守ることに。
 上重先輩はどんどん追い上げ、緑チームの直後に氷織へバトンパスを流れるようにして行う。ここでも、練習の成果が出たな。さあ、氷織、頑張れ!

『さあ、最後の1周に入りました! 現在、1位は緑チーム! 直後に青チームが2位!』

 ラスト1周に入ったからか、会場はさらに盛り上がる。
 緑チームの第5走者は男子生徒だけど、その生徒のスピードに負けていない。上重先輩が詰めた差がちゃんと守られている。3位以下のチームに差を縮められていてもいない。
 どうやら、俺は隣に立っている緑色のゼッケンを身に付けた女子生徒との一騎打ちになりそうだ。

「氷織、頑張って! 紙透にバトンを繋げてー!」
「青山、いけー!」
「頑張って! 氷織ちゃん!」
「いい調子よ~! 氷織ちゃ~ん!」

 多くの人が応援しているけど、火村さん、和男、清水さん、高橋先生の声ははっきり聞こえてきた。

「氷織―! 頑張れええっ!」

 今日一番の大きな声で氷織に声援を送る。この声が氷織の力になるといいな。
 氷織がコーナーを回り終わり、直線コースに入る。氷織を信じて俺は前を向く。走り出すタイミングは氷織が「ゴー!」と教えてくれる。俺は一度深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

「ゴー!」

 氷織の声が聞こえた! 俺は全力で走り出す!

「はい! 明斗さん!」

 俺が右手を差し出すと、右手に何かが触れる感覚が。それをしっかり掴んで、俺はコースを走る。視界に青いバトンがチラリと見える。氷織からバトンを受け取れたんだな。

『さあ、アンカーに渡りました! 青チームと緑チームがほぼ同じタイミングです! 1位はこの2チームのどちらかなのでしょうか! それとも、他のチームが抜き去るか!』

 そんな実況がはっきり聞こえてくる。リレーが終わったら『青チーム1位! 青チーム優勝!』って言わせてやる!
 全力で走っていると、視界の右側から緑のバトンがチラッと見えてくる。ラストのリレーのアンカーになるだけあって、この女子生徒は足が速い!

「君、足速いね! だけど負けない! 最後の体育祭だもん!」
「俺だって負けません!」

 このリレーにチームの優勝がかかっているんだ! それに、ゴールテープを切りたいっていう氷織達の願いを叶えさせたいんだ! 

「紙透! 頑張って!」
「アキなら全力を出せば1位になれるぞ! いけー!」
「紙透君! その調子だよ!」

 とても大きな声で応援してくれているのだろうか。コーナーを回り、うちのクラスのブルーシートからかなり遠い場所にいるのに。親友や友人達からの声援がクリアに聞こえてくる。
 コーナーを回りきって、最後の直線に入る。依然として、緑のバトンがチラッと視界に入ってきて。女子生徒の激しい息づかいも聞こえて。

「明斗さん! 頑張って!」

 氷織のそんな声が聞こえ、体の中に響き渡っていく。
 その瞬間、体が妙に軽くなっていって。
 両脚がより前に出るようになって。
 正面にあるゴールテープが見る見るうちに近くなっていって。ゴールテープを自分の体で切った。その瞬間に、

『おおおっ!』

 という歓声が、耳が痛くなるほどに響き渡る。
 ゴールを少し過ぎたところで、俺は走るのを止めた。全力で走ったから、止めた瞬間にどっと疲れが襲ってきて、呼吸も凄く激しいものとなる。

『ゴール! 青チームが1位でゴールしました! 緑チームは僅かな差で2位でのゴールとなりました!』

 そんな実況を聞いて、ようやく俺は1位になったんだと実感できた。そのことで疲れもいくらか抜けて、体が楽になっていく。

「1位に……なれたんだな」

 ということは、青チームの優勝か……!
 空を見上げると、リレー種目が始まったときよりも青空の部分が増えていて。そんな空がやけに美しく見えた。

「明斗さんっ!」

 いつもよりも高い氷織の声で自分の名前が呼ばれる。
 声がする方へ顔を向けると、とても喜んだ様子の氷織がこちらに走ってきており、氷織は俺に抱きついてきた。

「明斗さん! 1位でゴールしてくれましたね! ゴールテープを切った瞬間の明斗さん、最高にかっこよかったです! そんな姿を見せてくれてありがとうございます!」

 至近距離から満面の笑みを浮かべ、俺にそんな賞賛の言葉を言うと、氷織は唇にキスしてきた。そのことで、会場がより一層盛り上がる。今の言葉とキスが、俺にとってはリレーを1位でフィニッシュした最高のご褒美だよ。そのご褒美のおかげで、体の疲れがどんどん抜けていく。
 氷織達が夢見ていた「俺がゴールテープを切る」ところを見せられて良かった。アンカーをやって良かったな。
 氷織から唇を離すと、氷織はニッコリと可愛い笑顔を見せてくれる。

「紙透君! よく1位でゴールしたな!」

 上重先輩の声が聞こえたので、そちらを見てみると、青チームの混合リレーのメンバーが嬉しそうな様子でこちらに駆け寄ってきた。

「ラストを君達カップルにして正解だったねっ!」
「そうっすね! 松島先輩! 青山先輩も紙透先輩もかっこよかったっす!」
「本当にそうだよね、下田君! 先輩方、最高でした!」
「ありがとうございます。ただ、みんなそれぞれが全力で走って、練習通りのスムーズなバトンパスができたからこそ、俺は1位でゴールできました。ありがとうございました」

 俺は感謝の気持ちをリレーメンバーに伝えた。
 その後、俺達6人は互いに喜びのハイタッチをして、青チームのクラスが集まるブルーシートの方へと向かう。青チームのクラスの多くの生徒と担任の先生達が、俺達に向かって笑顔で拍手と「おめでとう」などといった言葉を贈ってくれる。

「氷織! 紙透! 凄いわっ!」
「2人ともいい走りだったぞ! アキは1位でゴールして最高にかっこよかったぜ!」
「和男君と同じくらいにかっこいいよ!」
「2人の走りに感動したわ~! 今日のことは私の教師人生に刻まれたわ~!」

 火村さんと和男、清水さんに担任の高橋先生はそんな祝福の言葉を氷織と俺に言ってくれる。そのことに俺は氷織と笑い合った。
 チーム対抗混合リレーで1位になったので、青チームの優勝が決定した!
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