恋人、はじめました。

桜庭かなめ

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続編

第35話『これが新調した水着です。』

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 6月13日、日曜日。
 氷織とのプールデートがとても楽しみで、あっという間にデート当日がやってきた。昼過ぎから夕方頃まで遊ぶ予定だ。
 今日は朝から雨が降ったり止んだりの天気。これが一日中続くらしい。ただ、氷織と行くプールは屋内なので、プールデートを問題なく楽しめるだろう。ちなみに、屋内プール施設の名前はスイムブルー八神だ。
 午後1時半。
 俺はNR萩窪駅の東京中央線快速の下り方面の電車が到着するホームに立っている。映画デートのときと同じように、電車で氷織と待ち合わせすることになっている。ただ、今回乗る電車は下り方面なので、氷織が乗る予定の電車の時刻と、何号車のどの扉の近くにいるのかメッセージをくれることになっている。
 ――プルルッ。
 スラックスのポケットに入れてあるスマホが鳴る。さっそく確認すると、氷織からLIMEでメッセージを受信したと通知が。

『笠ヶ谷駅13:32発。10号車の先頭の扉です』

 一番端のところに乗る予定なんだ。端だと席に座れる可能性が高いもんな。
 氷織に『分かった。ありがとう』と返信を送り、10号車の先頭の扉が開く場所へ向かう。ここで待っていれば、次に到着する電車に乗っている氷織に会える。

『まもなく、3番線に快速・中尾行きがまいります。まもなく――』

 3分ほどして、八神駅へ向かう電車がもうすぐ来るとアナウンスが。だから、もうすぐ氷織に会えるんだな。
 やがて、萩窪駅に電車が到着する。俺の目の前にある扉の窓から、青いキャミワンピースに白い半袖のTシャツを重ね着した氷織が見えた。プールデートだからか、大きめの桃色のトートバッグを持っている。
 氷織は俺と目が合うと、嬉しそうに笑って小さく手を振ってくる。そんな氷織が可愛いと思いつつ、氷織に手を振り返す。
 扉が開き、降車した人の後に乗車する。

「こんにちは、明斗さん」
「こんにちは、氷織。今日の服もよく似合っていて可愛いよ」

 こんなにも素敵な私服姿を見せられると、この前新調した水着を着た氷織にも期待してしまう。

「ありがとうございます。明斗さんもVネックシャツがよく似合っていますよ。かっこいいです」
「ありがとう」

 新しく買った水着を着ても、同じような感想を言ってもらえたら嬉しいな。
 近くにある座席が3席連続で空いているので、そのうちの2席に俺達は隣同士に座る。
 蒸し暑い中萩窪駅まで歩いて、ホームで電車を待っていたから、涼しい車内でゆったりと座れるのが心地いい。

「座れたな」
「良かったです。八神駅まで40分くらいかかりますから座れた方がいいかと思いまして。それで、端の車両に乗ったんです」
「そうだったんだ。氷織の狙い通りになって良かった」
「そうですね。ほっとしました」
「まあ、氷織と一緒なら、40分立つことになっても平気だけど」
「……明斗さんったら」

 ニッコリと笑いながらそう言うと、氷織は俺の肩に頭を乗せてきた。この体勢なら、何時間でも電車に乗っていられそうだ。

「プールデートが楽しみなので、今日まであっという間でした」
「俺もだよ。学校もそうだし、バイトもいつも以上に頑張れたなぁ」
「ふふっ、そうですか。新調した水着はちゃんと持ってきていますので、楽しみにしていてくださいね」
「うん、楽しみにしてる」

 東友で新しい水着を買ったときからずっと、氷織の水着がどんな感じか楽しみでいるよ。それもあったから、こんなにも早くデート当日が来たんじゃないかと思っている。

「私も明斗さんの水着を楽しみにしていますよ」
「似合っているって思ってもらえるといいな」
「明斗さんが選んで、明斗さんが着るんです。ですから、きっと似合っていると思うでしょうね」

 優しい笑顔でそう言ってくれる氷織。嬉しいし、ちょっとキュンとなったよ。気づけば、俺は氷織の頭を優しく撫でていた。

「プールは去年の夏休みに、沙綾さん達とスイムブルー八神に行ったとき以来です。明斗さんはどうですか?」
「俺は……高校生になってからは初めてだな。去年の夏は和男とか男友達数人で、神奈川の湘南の海水浴場へ遊びに行ったから」

 そのときはビーチボールで遊んだり、スイカ割りをしたり。俺があまり泳げないから、和男達と水鉄砲を使って遊んだりもしたか。楽しかったな。
 あとは、ナンパを成功させるためだといって、何人かの友達に付き合わされたっけ。友達のナンパは成功せず、俺が女性達から逆ナンされてしまったけど。即座に断ったので、友人達から恨まれるようなことはなかった。

「プールは……中3の水泳の授業が最後かな」
「そうなんですね。これが明斗さんにとって高校最初のプールだと分かって嬉しいです」

 ふふっ、と氷織は言葉通りの嬉しそうな笑みを見せてくれる。

「ちなみに、私は……親戚以外の男の子と一緒にプールへ遊びに行くのはこれが初めてですよ。男の子と2人きりなのは完全にこれが初めてです」
「そうなんだ。氷織にとってもこれが初めてなことがあって嬉しいよ。一緒にプールデート楽しもうね」
「はいっ」

 それからは、これまでプールや海に遊びに行ったときの思い出話や、お互いに好きな漫画やアニメの水着回などについて語り合った。それが楽しくて、八神駅までの40分間はあっという間だった。
 八神駅は俺達が乗った東京中央線快速の他にも、複数の路線が乗り入れる。なので、萩窪駅や笠ヶ谷駅よりも立派なところだ。ここで降車する人も多くいた。
 スイムブルー八神は北口を出て、徒歩8分のところにある。去年来たことのある氷織が「スイムブルーまで私が案内しますね!」と言ってくれたので、彼女のご厚意に甘えることにした。
 駅を出ると小雨が降っていたため、スイムブルーまでは氷織と相合い傘をしていくことに。今日はデートだから、学校の行き帰り以上に相合い傘がいいなぁって思える。

「ここです」

 氷織の案内もあって、俺達は迷うことなくスイムブルー八神に到着。とても大きな建物だ。公式サイトに『多摩地域で一番大きな屋内プール施設』と書いてあったけど、それも納得かな。

「とても立派な建物だね。きっと、屋内プールのエリアも広いんだろうな」
「立派ですよ。大きなプールがいくつもありますから。さあ、明斗さん。中に入りましょうか」
「そうだね」

 俺達はスイムブルー八神の中に入る。
 ロビーには俺達のようなカップルもいれば、学生らしき数人のグループ、親子連れなどのお客さんがいる。日曜日のお昼過ぎだったり、雨で蒸し暑かったりするからだろうか。ロビーの段階でこれだけお客さんがいるなら、屋内プールは賑わっていそうだ。
 受付で利用料金を支払い、俺達は更衣室の前まで向かう。

「では、更衣室を出たこの場所で待ち合わせしましょうか」
「うん、そうしよう。じゃあ、また後で」
「はいっ」

 俺は男子更衣室の中に入る。
 大きな施設だけあって、更衣室も結構広いな。とても綺麗で、小学校や中学校のプールの更衣室とは全然違う。小学生の頃に、夏休みの家族旅行で泊まった大きなホテルのプール用の更衣室がこんな感じだったな。
 更衣室の中には、若い男性や小さな子連れ、丸々としたご老人などちらほらといる。俺達より少し前に来たのか水着に着替える人もいれば、遊び終わって髪を拭いている人や、私服に着替えている人もいる。
 人のいない奥の方へ行き、俺はこの前の東友で新調した青い水着に着替える。
 荷物をロッカーに入れ、青色のキーバンドを左腕に装着する。落としたり、なくしたりしないように気をつけないと。
 男子更衣室を出て行くとき、出入口近くにある洗面台の鏡で新しい水着を着た自分の姿を見る。……氷織に似合っているとか、かっこいいって言ってもらえると嬉しいな。
 更衣室を出ると……そこにはまだ氷織の姿はなかった。氷織がどんな水着姿になって出てくるのか楽しみにしながら、彼女を待つことにしよう。
 男女の更衣室の入り口を見ていると、定期的に人の出入りがあるな。たまに、女性用の更衣室を出てきた水着姿の女性が、頬を赤らめて俺を見てくることも。去年での海のように逆ナンの可能性も考えたが、そういった展開にはならない。
 周りを見ると、結構大きな自販機がある。途中に休憩したり、帰ったりするときに飲むのもいいかもしれないな。

「お、お待たせしました。明斗さん。待ちましたか?」
「ううん、そんなことない……よ」

 正面を見ると、すぐ目の前に黒の三角ビキニ姿の氷織が立っていた。そんな彼女は右手にはスマホを持っている。
 俺と目が合うと、氷織ははにかみ、

「どうですか?」

 と一言言い、ゆっくりと一回転する。そのことで氷織の長い銀髪が少しふわっと上がり、甘い匂いが香る。髪が上がったことでチラッと見えたが、トップスの方は首と背中の二カ所を紐で固定しているようだ。また、ボトムスの方は両サイドから紐で固定している。
 トップスもボトムスも布地はそこまで広くなく、大胆な印象を与えさせる。黒い水着なので、氷織の白い肌の美しさが際立って。
 水着姿になったことで、初めて見る素肌の部分も多くてドキッとしてしまう。両脚は細長く、お腹は出ていなくてはっきりとしたくびれがあって。全身に程良く筋肉がついている。
 そして……胸。今まで、縦ニットの服を着たり、火村さんが氷織のお見舞いで「大きくて、美しくて、Eカップ」と話していたり、タピオカチャレンジを成功したりしたことから、結構大きな胸だとは分かっていた。ただ、こうしてビキニを身につけた胸を見ると……氷織の胸は本当に大きくて美しい形だ。これがEカップなのですか。あと、谷間も凄い。
 改めて全身を見ると、氷織は本当にスタイル抜群だ。

「真剣な様子でじっくりと見てくれるのは嬉しいですが、ちょっと恥ずかしいです……」
「ご、ごめん。あまりにも似合っているから釘付けになっていたんだ。綺麗で、可愛くて、黒い水着だからセクシーな大人っぽさもあって。とても素敵だよ、氷織」

 ストレートに感想を言うと、赤らんだ氷織の顔に笑顔の花が咲く。

「そう言ってくれて嬉しいです。この水着、恭子さんが似合いそうだと渡してくれたのがきっかけで。布地はやや少なめですが、シンプルなデザインですし、色は黒ですからいいなと思いまして。試着したら結構いいと思えましたし、恭子さんはもちろんのこと、沙綾さんも似合っていると言ってくださったので、この水着にしたんです」
「そうだったんだ」

 2人ともグッジョブ。特にこの水着がいいんじゃないかと氷織に勧めた火村さん。明日、2人には購買部か自販機で好きな飲み物を一つずつ奢ろう。

「明斗さんのその青い水着素敵ですね! クールで落ち着いた雰囲気で。よく似合っていてかっこいいです。水着姿を見るのが初めてだからなのもありますが、キュンとなりました」

 氷織は依然として顔が赤いまま、俺の水着姿を凝視している。

「ありがとう。クールな感じがいいなって思ったし、氷織は青系の色が好きだから。それで、この水着を買ったんだ」
「そうだったんですね。その素敵な水着姿をスマホで撮ってもいいですか? 初めてのプールデートの思い出に。私とのツーショット写真や私の水着姿の写真も。LIMEで送りますから」
「もちろんいいよ」

 お互いの水着姿や俺とのツーショット写真を撮りたいから、氷織はスマホを持ってきたんだな。
 それから、氷織のスマートフォンを使ってお互いの水着姿やツーショットの自撮り写真を撮影した。氷織は撮った写真をLIMEの俺との個別トークに送信してくれる。
 また、ツーショット写真を撮る際に体が近づいたとき、氷織から甘美な匂いがしてドキッとした。そのことで体がかなり熱くなってきているし……プールデートで良かったかも。

「これでOKですね」
「いい写真を送ってくれてありがとう、氷織」
「いえいえ。スマホをロッカーに戻してきますね」
「ああ」

 氷織は小走りで女子更衣室へと戻っていく。そんな氷織の後ろ姿もとても可愛くて、美しく思えるのであった。
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