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特別編2
第1話『お楽しみ当日』
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6月29日から7月2日まで、1学期の期末試験が実施された。
部活動の禁止期間からほぼ毎日開催された勉強会のおかげもあり、中間試験と同じようにどの科目も手応えがあった。中間に続いて上位10名に入れる可能性はあると思う。
氷織は言わずもがな。
苦手科目のある和男達も手応えがあったそうだ。赤点の心配はなさそうとのこと。かなり苦手な科目がある和男と火村さんはほっとしていた。もし、期末試験で赤点を取ってしまい、1学期の成績が悪かったら、夏休みに特別課題をこなしたり、補習に出席したりしないといけないから。
みんな、平和な形で夏休みを迎えられそうで良かった。お疲れ様。
7月3日、土曜日。
今日は朝9時から夕方5時まで喫茶店・ゾソールでバイトして、その後はみんなで七夕祭り。夜は氷織の家でお泊まり……と盛りだくさんの一日だ。
今日の天気は曇り時々晴れ。雨が降る心配はなく、天気予報では明日の夜頃から再び梅雨空に戻るとのこと。この週末は梅雨の中休みとなりそうだ。運がいい。
七夕祭りの会場はアーケードが設置されている商店街なので、雨天でも開催される。それでも、雨が降らないに越したことはない。お祭りを大いに楽しめそうだ。
楽しみなイベントが2つあるからだろうか。今日はいつもより調子良くバイトができている。まあ、バイトを始めてから1年以上経ち、カウンター中心の仕事に慣れているのもあるだろうけど。
午前11時になり、俺は本日最初の休憩に入る。
「今日は破壊力のある笑顔で接客していたね、紙透君」
アイスコーヒーを飲みながら椅子に座った瞬間、同じシフトで働いている筑紫大和先輩にそう言われる。氷織とお試しで付き合い始めた頃から、同じシフトだとバイト中の俺の表情についてコメントされるのが恒例となっている。
「破壊力って。そこまでの笑顔になっていましたか?」
「なっていたよ。カウンターではうっとりと見つめ、席に座ると黄色い声を上げる女性のお客様が何人もいたからね」
「そうだったんですね。仕事に集中していて気付きませんでした」
「ははっ、そうか。紙透君らしいね」
爽やかな笑顔でそう言うと、筑紫先輩はさっき俺が淹れたアイスコーヒーを一口飲んだ。
「何かいいことでもあったのかい? それとも、これからあるとか」
「どっちも合っていますね。期末試験が昨日終わりまして。それで、今日は笠ヶ谷で開催される七夕祭りに氷織達と一緒に行く予定です。その後は氷織の家に泊まることになっていて。それがとても楽しみなんです」
「そうなんだ。それなら、あんなにいい笑顔で接客したのも納得だね」
納得した様子でそう話し、筑紫先輩はアイスコーヒーをもう一口。
前から思っていたけど、俺って気持ちが顔に出やすいタイプなんだなぁ。今みたいに楽しい気持ちになっているときはともかく、ネガティブなときには顔に出ないように気をつけないと。
「あと、期末試験お疲れ様。これで夏休みだ」
「ありがとうございます。大学の方は……確か今月の下旬頃に期末試験があるんですよね」
「そうだね。ただ、いくつかの講義は試験をやらずに、最終課題としてレポートを提出することになっているんだ。だから、個人的には高校時代よりは楽かな」
「そうなんですね。そういえば、姉貴も大学生になったとき『試験する講義が少なくて高校より楽だ!』って喜んでいましたね」
「ははっ、そうか。僕も期末の試験がない講義があると知ったときは嬉しかったな。その代わり、そういう科目はちゃんと出席して、日頃の課題をしっかりこなさないと単位をもらえないけどね」
「そうなんですね。最終課題や試験を頑張ってください」
「ありがとう。紙透君はバイトが終わったらお祭りとお泊まりを楽しんできてね」
「ありがとうございます」
氷織の浴衣姿やみんなとお祭りに行くこと、氷織の家で彼女と一夜を明かすことなど楽しみなことがいっぱいある。それらを糧にして、それ以降のバイトを頑張った。
午後5時過ぎ。
シフト通りにバイトを終えた俺は、お祭りとお泊まりの荷物を取りに行くために一旦自宅に帰った。
氷織にバイトを終えたことと、今から家に行くことをメッセージで伝える。氷織からすぐに返信があり、浴衣姿で待っているとのこと。どんな浴衣姿になっているか楽しみだ。
俺は自転車で氷織の家に向かい始める。普段よりも速くペダルを漕いで。
「気持ちいいな……」
夕方になったのもあり、自転車で風を切ると涼しくて気持ちいい。これから夜になっていくし、七夕祭りに行く頃にはもっと快適な気候になるだろう。
10分もしないうちに、氷織の家に到着した。8時間のバイト後で、ペダルも結構速く漕ぐけど疲れはあまり感じない。
氷織の家の敷地内に自転車を駐めさせてもらい、黒いボストンバッグを持って玄関の前まで向かう。
――ピンポーン。
『はい。……明斗さんですね。すぐに向かいますっ』
インターホンを押してすぐに氷織が応対してくれた。氷織の声は弾んでいて。家に行くとメッセージで伝えていたから待ち構えていたのだろう。
もうすぐ浴衣姿の氷織と会えるんだ。ワクワクした気持ちが膨らむばかり。
「こんにちは、明斗さん。バイトお疲れ様です」
玄関の扉がゆっくり開くと、そこには水色の朝顔の花が印象的な青い浴衣姿の氷織が立っていた。帯も淡い水色なのでとても爽やかな印象を抱く。お祭り会場に行ったら、多くの人の視線を集めることは間違いないだろう。
俺と目が合うと、氷織は優しい笑顔を見せてくれる。
「ありがとう、氷織。その青い浴衣……よく似合っているね。爽やかな雰囲気で。綺麗でとても素敵だよ」
「ありがとうございます!」
えへっ、と氷織は可愛らしく笑う。
「去年もこの浴衣を着て七夕祭りに行きました。そのときに沙綾さん達が凄く似合っていると言ってくださったので、今年もこの浴衣にしたんです」
「そうなんだね。浴衣と帯の色が青系だから氷織らしいというか。今の氷織を見ていると、期末試験と今日のバイトを頑張って本当に良かったって思えるよ」
「ふふっ、そうですか」
氷織は右手を口元に当てながら笑う。浴衣姿なのもあって、いつも以上に上品さを感じられる。まさに大和撫子って感じだ。
「お祭りとお泊まりを一緒に楽しみましょうね」
「そうだね。……浴衣姿の氷織が可愛いから、凄くキスしたい。いいかな」
「もちろんですよ。私も明斗さんに早く会いたくて、キスしたいと思っていましたから」
「ありがとう」
俺がお礼を言って氷織の肩にそっと手を乗せると、彼女はゆっくり目を閉じる。正式な恋人になってからこういう姿は何度も見てきたけど、浴衣姿なので新鮮だ。本当に素敵だと思いながら、俺は氷織にキスした。
氷織の家にお邪魔して、リビングにいる氷織の御両親に挨拶する。
御両親は俺が泊まることを歓迎してくれ、母親の陽子さんはちょっと興奮していた。また、父親の亮さんから、お祭り中は氷織のことをよろしく頼むと言われた。これから夜になるし、お祭りには多くの人が訪れる。何があるか分からないし、俺が氷織を守らないとな。
氷織曰く、妹の七海ちゃんは既に浴衣に着替え、一足先に出かけたとのこと。クラスや部活の友達と一緒に七夕祭りに行く約束をしているのだそうだ。
俺は氷織と一緒に彼女の部屋へ向かう。
「あぁ、涼しくて気持ちいい」
「良かったです。ここまででなくても、夜になったら涼しくなるといいですよね」
「そうだな」
「……ところで、明斗さん。お祭りには今着ている服で行かれるのですか? それとも、浴衣とかに着替えて?」
「甚平に着替えるよ。中学の頃から、お祭りには甚平を着ることが多いんだ」
「そうなんですね! 甚平もお祭りらしいですよね。明斗さんの甚平姿楽しみです」
「氷織が喜んでくれると嬉しいな。じゃあ……ここで着替えようかな」
「はいっ」
俺はボストンバッグから甚平の入った袋を取り出し、甚平に着替え始める。
氷織とは一緒にお風呂に入ったり、肌を重ねたりした経験はあるけど……氷織のいる場で着替えるのはちょっとドキドキする。氷織にじっと見られているのもあるからかな。
これまで着ていたVネックシャツとスラックスを脱ぎ、俺は黒い甚平を着る。上着に袖を通したとき、「あらぁ」という氷織の可愛らしい声が聞こえた。
「よし、これでOKだな。氷織、どうかな?」
「とても似合っていますよ! かっこよくて素敵ですっ」
輝かせた目で俺を見てくる氷織。氷織に似合っていると思ってもらえて良かった。七夕祭りをより楽しめそうだ。
「ありがとう、氷織」
「いえいえ。……あの、写真を撮ってもいいですか? もちろん、私も撮っていいですから。この後、髪型も今のストレートからお団子ヘアーにする予定ですし」
「そうなんだ。もちろん撮っていいよ。一緒に写る写真も撮ろう」
「はいっ!」
氷織はとても嬉しそうに返事した。
それから、俺達は自分のスマホでお互いの浴衣&甚平姿の写真を撮り、俺のスマホでツーショット写真を自撮りした。ツーショット写真を見ると、俺達はこれから一緒に七夕祭りに行くのだとワクワクしてくる。
写真を撮り終えた後、氷織は勉強机にある鏡を見ながら、長い銀色の髪を後ろでお団子の形に纏めていく。
普段はストレートで、夏になってからたまにポニーテールにするくらいだけど、髪を纏める氷織の手つきは慣れている印象だ。そういった手つきであることと、うなじが見えることが妙に大人っぽくて、艶やかさを感じさせる。 特に苦戦することなく氷織は髪をお団子に纏め上げ、青いかんざしを挿した。
「はい、お団子ヘアー完成ですっ」
「おおっ、よく似合ってる。可愛いよ」
凄く似合っているし、髪を纏めるのがスムーズだったので、思わず拍手してしまう。
「ありがとうございます!」
「今の髪型の氷織も撮っていい?」
「もちろんです」
俺はスマートフォンでお団子ヘアーにした氷織の写真を撮った。
スマホのアルバムには浴衣姿の氷織の写真を何枚もあって。画面に映る写真一覧を見ていると嬉しい気持ちになるのであった。
部活動の禁止期間からほぼ毎日開催された勉強会のおかげもあり、中間試験と同じようにどの科目も手応えがあった。中間に続いて上位10名に入れる可能性はあると思う。
氷織は言わずもがな。
苦手科目のある和男達も手応えがあったそうだ。赤点の心配はなさそうとのこと。かなり苦手な科目がある和男と火村さんはほっとしていた。もし、期末試験で赤点を取ってしまい、1学期の成績が悪かったら、夏休みに特別課題をこなしたり、補習に出席したりしないといけないから。
みんな、平和な形で夏休みを迎えられそうで良かった。お疲れ様。
7月3日、土曜日。
今日は朝9時から夕方5時まで喫茶店・ゾソールでバイトして、その後はみんなで七夕祭り。夜は氷織の家でお泊まり……と盛りだくさんの一日だ。
今日の天気は曇り時々晴れ。雨が降る心配はなく、天気予報では明日の夜頃から再び梅雨空に戻るとのこと。この週末は梅雨の中休みとなりそうだ。運がいい。
七夕祭りの会場はアーケードが設置されている商店街なので、雨天でも開催される。それでも、雨が降らないに越したことはない。お祭りを大いに楽しめそうだ。
楽しみなイベントが2つあるからだろうか。今日はいつもより調子良くバイトができている。まあ、バイトを始めてから1年以上経ち、カウンター中心の仕事に慣れているのもあるだろうけど。
午前11時になり、俺は本日最初の休憩に入る。
「今日は破壊力のある笑顔で接客していたね、紙透君」
アイスコーヒーを飲みながら椅子に座った瞬間、同じシフトで働いている筑紫大和先輩にそう言われる。氷織とお試しで付き合い始めた頃から、同じシフトだとバイト中の俺の表情についてコメントされるのが恒例となっている。
「破壊力って。そこまでの笑顔になっていましたか?」
「なっていたよ。カウンターではうっとりと見つめ、席に座ると黄色い声を上げる女性のお客様が何人もいたからね」
「そうだったんですね。仕事に集中していて気付きませんでした」
「ははっ、そうか。紙透君らしいね」
爽やかな笑顔でそう言うと、筑紫先輩はさっき俺が淹れたアイスコーヒーを一口飲んだ。
「何かいいことでもあったのかい? それとも、これからあるとか」
「どっちも合っていますね。期末試験が昨日終わりまして。それで、今日は笠ヶ谷で開催される七夕祭りに氷織達と一緒に行く予定です。その後は氷織の家に泊まることになっていて。それがとても楽しみなんです」
「そうなんだ。それなら、あんなにいい笑顔で接客したのも納得だね」
納得した様子でそう話し、筑紫先輩はアイスコーヒーをもう一口。
前から思っていたけど、俺って気持ちが顔に出やすいタイプなんだなぁ。今みたいに楽しい気持ちになっているときはともかく、ネガティブなときには顔に出ないように気をつけないと。
「あと、期末試験お疲れ様。これで夏休みだ」
「ありがとうございます。大学の方は……確か今月の下旬頃に期末試験があるんですよね」
「そうだね。ただ、いくつかの講義は試験をやらずに、最終課題としてレポートを提出することになっているんだ。だから、個人的には高校時代よりは楽かな」
「そうなんですね。そういえば、姉貴も大学生になったとき『試験する講義が少なくて高校より楽だ!』って喜んでいましたね」
「ははっ、そうか。僕も期末の試験がない講義があると知ったときは嬉しかったな。その代わり、そういう科目はちゃんと出席して、日頃の課題をしっかりこなさないと単位をもらえないけどね」
「そうなんですね。最終課題や試験を頑張ってください」
「ありがとう。紙透君はバイトが終わったらお祭りとお泊まりを楽しんできてね」
「ありがとうございます」
氷織の浴衣姿やみんなとお祭りに行くこと、氷織の家で彼女と一夜を明かすことなど楽しみなことがいっぱいある。それらを糧にして、それ以降のバイトを頑張った。
午後5時過ぎ。
シフト通りにバイトを終えた俺は、お祭りとお泊まりの荷物を取りに行くために一旦自宅に帰った。
氷織にバイトを終えたことと、今から家に行くことをメッセージで伝える。氷織からすぐに返信があり、浴衣姿で待っているとのこと。どんな浴衣姿になっているか楽しみだ。
俺は自転車で氷織の家に向かい始める。普段よりも速くペダルを漕いで。
「気持ちいいな……」
夕方になったのもあり、自転車で風を切ると涼しくて気持ちいい。これから夜になっていくし、七夕祭りに行く頃にはもっと快適な気候になるだろう。
10分もしないうちに、氷織の家に到着した。8時間のバイト後で、ペダルも結構速く漕ぐけど疲れはあまり感じない。
氷織の家の敷地内に自転車を駐めさせてもらい、黒いボストンバッグを持って玄関の前まで向かう。
――ピンポーン。
『はい。……明斗さんですね。すぐに向かいますっ』
インターホンを押してすぐに氷織が応対してくれた。氷織の声は弾んでいて。家に行くとメッセージで伝えていたから待ち構えていたのだろう。
もうすぐ浴衣姿の氷織と会えるんだ。ワクワクした気持ちが膨らむばかり。
「こんにちは、明斗さん。バイトお疲れ様です」
玄関の扉がゆっくり開くと、そこには水色の朝顔の花が印象的な青い浴衣姿の氷織が立っていた。帯も淡い水色なのでとても爽やかな印象を抱く。お祭り会場に行ったら、多くの人の視線を集めることは間違いないだろう。
俺と目が合うと、氷織は優しい笑顔を見せてくれる。
「ありがとう、氷織。その青い浴衣……よく似合っているね。爽やかな雰囲気で。綺麗でとても素敵だよ」
「ありがとうございます!」
えへっ、と氷織は可愛らしく笑う。
「去年もこの浴衣を着て七夕祭りに行きました。そのときに沙綾さん達が凄く似合っていると言ってくださったので、今年もこの浴衣にしたんです」
「そうなんだね。浴衣と帯の色が青系だから氷織らしいというか。今の氷織を見ていると、期末試験と今日のバイトを頑張って本当に良かったって思えるよ」
「ふふっ、そうですか」
氷織は右手を口元に当てながら笑う。浴衣姿なのもあって、いつも以上に上品さを感じられる。まさに大和撫子って感じだ。
「お祭りとお泊まりを一緒に楽しみましょうね」
「そうだね。……浴衣姿の氷織が可愛いから、凄くキスしたい。いいかな」
「もちろんですよ。私も明斗さんに早く会いたくて、キスしたいと思っていましたから」
「ありがとう」
俺がお礼を言って氷織の肩にそっと手を乗せると、彼女はゆっくり目を閉じる。正式な恋人になってからこういう姿は何度も見てきたけど、浴衣姿なので新鮮だ。本当に素敵だと思いながら、俺は氷織にキスした。
氷織の家にお邪魔して、リビングにいる氷織の御両親に挨拶する。
御両親は俺が泊まることを歓迎してくれ、母親の陽子さんはちょっと興奮していた。また、父親の亮さんから、お祭り中は氷織のことをよろしく頼むと言われた。これから夜になるし、お祭りには多くの人が訪れる。何があるか分からないし、俺が氷織を守らないとな。
氷織曰く、妹の七海ちゃんは既に浴衣に着替え、一足先に出かけたとのこと。クラスや部活の友達と一緒に七夕祭りに行く約束をしているのだそうだ。
俺は氷織と一緒に彼女の部屋へ向かう。
「あぁ、涼しくて気持ちいい」
「良かったです。ここまででなくても、夜になったら涼しくなるといいですよね」
「そうだな」
「……ところで、明斗さん。お祭りには今着ている服で行かれるのですか? それとも、浴衣とかに着替えて?」
「甚平に着替えるよ。中学の頃から、お祭りには甚平を着ることが多いんだ」
「そうなんですね! 甚平もお祭りらしいですよね。明斗さんの甚平姿楽しみです」
「氷織が喜んでくれると嬉しいな。じゃあ……ここで着替えようかな」
「はいっ」
俺はボストンバッグから甚平の入った袋を取り出し、甚平に着替え始める。
氷織とは一緒にお風呂に入ったり、肌を重ねたりした経験はあるけど……氷織のいる場で着替えるのはちょっとドキドキする。氷織にじっと見られているのもあるからかな。
これまで着ていたVネックシャツとスラックスを脱ぎ、俺は黒い甚平を着る。上着に袖を通したとき、「あらぁ」という氷織の可愛らしい声が聞こえた。
「よし、これでOKだな。氷織、どうかな?」
「とても似合っていますよ! かっこよくて素敵ですっ」
輝かせた目で俺を見てくる氷織。氷織に似合っていると思ってもらえて良かった。七夕祭りをより楽しめそうだ。
「ありがとう、氷織」
「いえいえ。……あの、写真を撮ってもいいですか? もちろん、私も撮っていいですから。この後、髪型も今のストレートからお団子ヘアーにする予定ですし」
「そうなんだ。もちろん撮っていいよ。一緒に写る写真も撮ろう」
「はいっ!」
氷織はとても嬉しそうに返事した。
それから、俺達は自分のスマホでお互いの浴衣&甚平姿の写真を撮り、俺のスマホでツーショット写真を自撮りした。ツーショット写真を見ると、俺達はこれから一緒に七夕祭りに行くのだとワクワクしてくる。
写真を撮り終えた後、氷織は勉強机にある鏡を見ながら、長い銀色の髪を後ろでお団子の形に纏めていく。
普段はストレートで、夏になってからたまにポニーテールにするくらいだけど、髪を纏める氷織の手つきは慣れている印象だ。そういった手つきであることと、うなじが見えることが妙に大人っぽくて、艶やかさを感じさせる。 特に苦戦することなく氷織は髪をお団子に纏め上げ、青いかんざしを挿した。
「はい、お団子ヘアー完成ですっ」
「おおっ、よく似合ってる。可愛いよ」
凄く似合っているし、髪を纏めるのがスムーズだったので、思わず拍手してしまう。
「ありがとうございます!」
「今の髪型の氷織も撮っていい?」
「もちろんです」
俺はスマートフォンでお団子ヘアーにした氷織の写真を撮った。
スマホのアルバムには浴衣姿の氷織の写真を何枚もあって。画面に映る写真一覧を見ていると嬉しい気持ちになるのであった。
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