恋人、はじめました。

桜庭かなめ

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特別編3

エピローグ『幸せな七夕になった。』

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 壁ドンが終わったので、壁についた右手を離して、氷織から離れようとするけど……予想外にも、氷織は抱擁を強くしてきた。

「氷織?」
「……壁ドンされて、キスしたら……し、したい気持ちが強くなってきて」

 氷織は顔の赤みを強くして俺をチラチラと見てくる。キスした直後だし、氷織がどんなことをしたいのかはおおよその見当がつく。

「どんなこと?」
「……えっちです」

 俺にしか聞こえないような小さい声でそう言い、氷織ははにかむ。えっちしたいと言ったからか、氷織から伝わってくる温もりが一段と強くなる。そのことで、さっきキスしたとき以上にドキドキして。

「俺も……壁ドンを初めてやって、キスもしたから……したい気持ちが膨らんできたよ。実は夕方まで氷織の家族が帰ってこないって知ってから、そういうことができたらいいなって思ってた」

 今まで、お互いの家に泊まったときに肌を重ねていた。まあ、そのときは夜とはいえ、家には家族がいる状況だったけど。それでも、家に2人しかいない時間が何時間もあると、氷織と肌を重ねたいと考えてしまう。それに、今は氷織にぎゅっと抱きしめられて、服越しに氷織の温もりや胸の柔らかさもはっきりと感じられるから。
 俺もしたいことが分かったからか、氷織は嬉しそうな笑顔を見せる。

「そうですか! お母さんが夕方まで帰ってきませんから……えっちしたい気持ちもあって、お家デートに誘ったんです」
「そうだったんだ。そう思った上で誘ってくれて嬉しいよ。じゃあ……しようか」
「はいっ。ただ、せっかくですから……制服を着たままでしませんか? その方が放課後にしているって実感できますし。今までしたことありませんし。それに、裸でするときとは違った感覚を味わえるかもしれませんし。……せ、制服えっちしたいです」

 氷織は口元を緩ませながら俺にそんなことを提案してくる。
 確かに、今までは服を全て脱いでから肌を重ねていた。制服を着たままでするのは未体験。新鮮でいいかもしれない。
 というか、制服えっちしたいと言ってくるなんて。氷織って結構な変態さんなのかもしれない。普段の清楚な雰囲気とのギャップがたまらなくて。凄くドキッとする。

「分かった。じゃあ、制服を着たままでしようか。汚さないように気をつけないと」
「そうですね。ありがとうございますっ」

 嬉しそうにお礼を言うと、氷織は俺にキスしてきた。



 それから、俺と氷織は主にベッドの中で、制服を着たままで肌を重ねていく。
 全く服を着ていない状態の氷織も美しくて良かったけど、制服を着て一部だけ素肌を晒している氷織も魅力的で。先日、七夕祭りの夜にお泊まりした際に俺が付けた左胸のキスマークもまだ残っていて。そのことにドキッとして。
 また、今まではお風呂を出た後にしていたけど、今回は学校帰り。だから、今まで以上に氷織本来の甘い匂いを堪能できて。そのことにも興奮する。
 家に俺達しかいないのもあって、これまでよりも氷織の声が大きめで。そんな氷織がとても可愛らしい。
 ただ、これまでのように全身で直接触れ合いたい気持ちもあって。だから、何度かした後にお互いに制服や下着を全て脱がせて。明るい中で見る氷織の体は本当に綺麗で。
 氷織のことを離したくない。誰にも渡したくないと改めて思った。



「今日もいっぱいしましたね」
「そうだな、氷織」

 たくさん肌を重ねた後、俺はベッドの上で氷織と一糸纏わぬ状態で寄り添っている。仰向けになっている俺の胸に、氷織は頭を乗せている。体をたくさん動かして熱くなっているけど、定期的にかかる氷織の温かな吐息はとても気持ちいい。
 今の時間は午後4時半過ぎ。気持ち良すぎて、幸せすぎて、時間が忘れそうになってしまったけど、陽子さんが帰ってくると思われる時間よりも前に終わらせられて良かった。

「制服を着たままするのもとても気持ち良かったですね」
「そうだな。制服はもちろん、服を着た状態でするのも初めてだったから、今までとはちょっと違った感じがして良かったよ」
「そうですね。制服を着ている明斗さんとするの……興奮しました」
「ははっ、そっか」
「あとは……学校帰りですし、外は蒸し暑いですから……今までよりも明斗さんの汗の匂いが濃く感じられたのも興奮ポイントでした」

 えへへっ、と氷織は楽しそうに笑う。氷織は俺の汗の匂いが大好きだからな。風邪を引いた俺のインナーシャツや汗を拭いたタオルをこっそり嗅ぐほどだし。恋人として、汗の匂いが好きだと言われると嬉しいし安心もする。
 そんなことを考えていると、氷織は「あっ」と声を漏らして、ちょっと不安そうな様子に。

「私の匂い……どうでした? 今までとは違ってお風呂上がりではありませんから、汗臭くありませんでした? 以前、私の汗の匂いが好きだとは言ってくれていましたし、今日も胸や腋を堪能していましたが……」

 なるほど。俺に自分の匂いが嫌に思われていないかと考えて、不安そうな表情を見せていたんだな。

「今までよりも、氷織の匂いが濃く感じられて良かったよ。嫌だとは全く思わなかった。むしろ、匂いを含めて新鮮に感じたくらいだから」
「そうですか。良かった……」

 ほっと胸を撫で下ろし、安堵の笑みを浮かべる氷織。そんな氷織の頭を優しく撫でると、氷織本来のものとシャンプーの匂いが混じった甘い匂いがほのかに感じられた。今は夕方で、いっぱい体を動かした後なのに、氷織の銀色の髪はサラサラだ。

「放課後にえっちするのもいいですね」
「そうだな。これはこれで魅力的だった」
「ですね。これからも……たまにでいいですから、放課後にしましょう? あと、もうすぐ夏休みが始まりますから、日中に遊ぶときにも……」
「ああ、しよう」

 今日のように、日中に家で2人きりになれることはあまり多くないだろうけど……これからもたまにしてきたい。今の話をしたら、今年の夏休みがより楽しみになってきた。
 約束ですよ、と氷織は言って俺にキスしてきた。肌を重ねている間に数え切れないほどにキスしてきたけど、氷織とのキスは心が温まって、胸を高鳴らせてくれるから本当にいいなって思う。

「明斗さんと一緒に好きなパン屋さんのパンを食べられて。壁ドンを初めてしてもらって。制服を着た状態で初めてえっちできて。今年の七夕は私のやりたかったことがいくつもできて幸せです。明斗さん、ありがとうございます」

 氷織は幸せそうな笑顔で俺にお礼を言ってくれる。

「いえいえ。俺も氷織と一緒に素敵な時間を過ごせて幸せな七夕になったよ」
「そう言ってくれて嬉しいですっ」

 氷織は言葉通りの嬉しそうな笑みを浮かべると、俺のことをぎゅっと抱きしめてくる。そのことで、全身で氷織の温もりと柔らかさが感じられて。幸福感がさらに増す。
 今後、何年かは……七夕の日になったら、先日行った七夕祭りのことと一緒に、今日のことも思い出しそうだ。そう思えるほどにいい時間だった。
 それから少しの間、俺は氷織と寄り添った状態でゆっくりと過ごすのであった。



特別編3 おわり


次の話から特別編4です。
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