恋人、はじめました。

桜庭かなめ

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特別編4

第6話『恋人達との海水浴』

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 みんな日焼け止めを塗り終わったので、そろそろ海で遊ぶことに。
 俺は氷織と一緒にレジャーシートを出て、ストレッチしていく。水着姿でストレッチすると、プールデートに来たときのことを思い出すな。ただ、日なたでストレッチしているから、今日の氷織の方がより美しく見える。
 和男&清水さんカップルも隣でストレッチしていた。
 また、火村さんと葉月さんは、2人が持参した浮き輪やフロートマット、ビーチボールをポンプで膨らませている。色々持ってきたんだな。あれらの遊具を使ってみんなで遊ぶのも面白そうだ。

「……よし、このくらいでいいかな」
「そうですね。……沙綾さん、恭子さん。膨らますのを手伝いましょうか?」
「大丈夫ッスよ。あとはフロートマットだけッスから」
「ポンプを使っているから楽だわ。浮き輪とかビーチボールとか、海での王道のおもちゃを持ってきたわ。遊んでみたいものがあったら持っていっていいわよ」
「俺、ビーチボールで遊びたいぜ!」
「いいね、和男君! じゃあ、ビーチボール持っていくね」
「はーい」

 火村さんが快活に返事したので、清水さんは膨らましたビーチボールを手に取る。和男と手を繋いで波打ち際まで向かった。

「氷織。俺達も何か借りるか?」
「そうですね……今はいいです。明斗さんと一緒に海に入って、水をかけ合いたいなって」

 えへへっ、と氷織は可愛らしく笑いながら言う。

「水をかけ合うか。いいな。プールデートでやったときも楽しかったもんな」
「はいっ。では、行きましょう!」
「ああ」

 俺は氷織に手を引かれる形で、氷織と一緒に海へ向かう。
 今日の海は定期的に小さな波が打ち寄せている。たまに少し高めの波もあって。このくらいの波なら、海で色々な遊びができそうだ。あと、海水浴エリアの端の方だからか、海に入っている人はそこまで多くない。
 ビーチボールで遊んでいる和男と清水さんの横を歩いて、俺と氷織はついに海に足を踏み入れた。

「おっ、意外と冷たく感じるな。今日は結構暑いのに」
「そうですね。今日は海から……南からの風が少し吹くときがありますからね。そういう日って気温は高くなるのですが、海水温は下がるんです。この海は太平洋側ですし」
「そうなんだ」

 初めて知った。こういうことも知っているとはさすがは氷織だ。
 手を繋いだまま、氷織の腰の辺りの深さまで歩いていく。

「おおっ、ここまで来ると、海の冷たさで快適だな」
「ですね! じゃあ、もっと快適になるように……それっ!」

 氷織は笑顔で両手で海水を掬い上げて、俺の顔にかけてくる。冷たい海水が顔にかかって気持ちいい。

「どうですか?」
「気持ちいいよ。だから、お返しだっ!」

 氷織の顔にめがけて、俺も両手で海水を掬い上げる。
 きゃっ! と氷織の可愛い叫び声が聞こえるけど、氷織は楽しそうな笑顔で。海水が当たったようで、さっきまでとは違い氷織の顔がちょっと濡れている。

「顔に水がかかって気持ちいいですっ!」
「冷たくて気持ちいいよな」
「ええ! もっとやりましょう!」
「ああ!」

 俺は氷織と水をかけ合うのを楽しんでいく。
 水をかけ合うだけなのに、こんなにも楽しいなんて。これも遊んでいる相手が氷織だからなんだろうな。

「おっ、海ではひおりんと紙透君がイチャイチャしているッスね」
「そうね、沙綾。海の水が冷たくて良かったわ」
「色々な意味で暑いッスからねぇ」

 気付けば、俺達の近くには浮き輪の上に座っている火村さんと、フロートマットに横になっている葉月さんの姿が。2人とも俺達の方を見てニヤニヤしている。海のおもちゃに乗りながら俺達を冷やかしに来たのかな。

「ふふっ、明斗さんと水を掛け合うのを楽しんでますよ」
「楽しいよな、氷織。……ただ、互いに水をかけ合うのもいいけど、俺と一緒に誰かに水を掛けるのも面白そうじゃないか?」

 そう言って、氷織と視線を合わせる。
 俺と目が合った瞬間、氷織はニッコリと笑ってしっかり頷く。分かってくれたみたいだな。

「そうですね。プールデートは2人きりでしたからそういったことはしませんでしたし、すぐ側には暑いと言っている友達がいますもんね」
「そうだな。じゃあ、その友達にかけてあげようか」
「そうですね!」
『そーれっ!』

 俺は氷織と息を合わせて、火村さんと葉月さんに向かって海水をかける。2人が暑いと言っていたから思いっきり。
 俺達がかけた海水は2人にクリーンヒット! その光景を見て、俺と氷織はハイタッチする。
 俺達に海水をかけられると思わなかったからか。それとも、かけられた海水の量が多かったからか。火村さんと葉月さんは『きゃあっ!』と大きな黄色い声を上げた。

「ビックリしたッス!」
「あたしも! 危うく浮き輪から落ちるところだったわ!」

 2人は顔にかかった海水を両手で拭い、こちらを見てくる。

「ふふっ。暑いと言っていたので、明斗さんと一緒にいっぱい水をかけました」
「2人とも気持ち良かったか?」
「ビックリしたけど気持ち良かったわ!」
「気持ち良かったッス! いやぁ、見事なカップルコンビネーションだったッス!」

 火村さんも葉月さんも楽しそうな笑顔でそう言ってくれる。葉月さんに至っては俺達に向かってサムズアップをするほどだ。2人とも気持ち良さそうで何よりだ。

「あたしも氷織と紙透に水を掛けたいわ」
「そうッスね! チーム戦ッス」
「いいですよ」
「4人でかけ合うか」

 それからは俺&氷織、火村さん&葉月さんのチーム戦の形で水をかけ合っていく。火村さんは浮き輪、葉月さんはフロートマットに乗っている状態だから、水を掛けられる量は俺達の方が多いけど……それでも、火村さんと葉月さんは楽しそうにしている。
 これも、氷織とのデートじゃなくて、みんなで遊びに来ているからこそできることだな。氷織と協力してかけるのも結構楽しい。
 ただ、少しの間4人でかけ合ったとき、なかなか高めの波がやってきた。浮き輪やフローマットに乗る火村さんと葉月さんはその波で、波打ち際近くまで流れていってしまった。

「楽しかったッスー!」
「楽しかったわー!」

 火村さんと葉月さんは大きな声でそう言い、俺達に手を振ってきた。そんな2人に俺達も手を振った。

「あの様子だと戻ってこなさそうだな」
「ですね。まあ、明斗さんと協力プレイができたので満足です」
「そうだな」
「もうちょっと2人でかけ合いますか」
「ああ、やろう」

 再び、氷織と水をかけ合うことに。
 4人で一緒に水をかけ合った後だから、氷織とかけ合うのもいいなと再確認できる。近くには友達がいるけど、氷織と海水浴デートをしているような気分に浸れる。
 氷織との水のかけ合いを楽しんでいると、

 ――ザバーンッ!
「きゃっ」

 これまでで一番の高い波が、氷織を背後から飲み込む。
 波の勢いがあって立てなくなったのだろうか。俺の目の前から氷織の姿が見えなくなってしまう。波のせいで海も泡立ち、海の中の様子がなかなか見えない。氷織、大丈夫かな。

「氷織! どこだ?」

 大きめの声で氷織に呼びかける。すると、

「……ぷはっ!」

 俺のすぐ目の前で、氷織が海面から顔を出す。俺と目が合うと氷織はニコッと笑って。とりあえず無事だと分かって一安心。

「今の波は結構高かったですね! 勢いがあったので倒れちゃいました」
「そうか。無事で良かったよ」
「ご心配をお掛けしました」

 そう言って、氷織は俺の目の前で立ち上がった。
 しかし、さっきまでとは違って、氷織の水着のトップスが脱げていて、氷織の胸が露わになってしまっている! 俗に言うポロリである!

「氷織! む、胸!」
「胸? ……きゃあっ!」

 水着が脱げてしまっていることが分かった氷織は、一瞬にして頬が真っ赤になり、俺に勢いよく抱きしめてくる。倒れてしまわないように何とか踏ん張り、両腕を氷織の背中に回した。
 また、氷織に抱きしめられたことで、俺の体に氷織の胸が押し当てられる形に。氷織の胸の柔らかさがダイレクトに伝わってくる。
 パッと周りを見てみると……海水浴エリアの端に近いのも幸いし、近くに人の姿はあまりない。氷織も俺の目の前で立ち上がったし、彼女の胸を見た人は俺以外にはいないと思われる。

「さっきの波の勢いと、海に入ってしまったことで、水着のトップスが脱げてしまったんでしょうね」
「きっとそうだろうな。ただ、周りを軽く見たら、人はあまりいなかったし、氷織は俺の目の前で立ち上がった。だから、氷織の胸を見た人は俺以外にはいなかったと思うよ」
「それなら良かったです。明斗さんは恋人ですから。……それにしても、ポ……ポロリを経験してしまうなんて。人生初です……」
「……俺もポロリした人を見るのは人生初だよ」

 それが恋人の氷織になるとは思わなかった。
 漫画やアニメ、ラノベでは海やプールに遊びに行く水着回のある作品はそれなりにある。水着が脱げて女子キャラの胸が露わになるポロリな展開になる作品もいくつか触れたことはある。現実でそんな光景は見たことなかったけど……あるもんなんだな。

「こういうことでも、明斗さんの初めてが私なのは嬉しいです」

 氷織は赤くなった顔に嬉しそうな笑みを浮かべる。ポロリしてしまってショックはあるだろうけど、氷織の顔に笑みが戻って安心した。

「あと、こうして明斗さんの肌に直接胸を当てて、明斗さんと抱きしめ合っていると……う、海の中でえっちなことをしちゃっている感じです……」
「……まあ、しているときに抱きしめ合うことは普通にあるもんな」
「……ですね」

 氷織はそう返事をすると、顔の赤みがより強くなっていく。でも、そんな顔から笑みは消えない。えっちなことをしちゃっている感じだからか、氷織の体がどんどんと熱くなっていって。まったく……えっちな一面もある可愛い彼女だよ。
 俺も氷織に胸を押し当てられた状態で抱きしめ合っているから、体が結構熱くなっているけど。海水の冷たさが本当に心地いい。

「まずは氷織の水着を探さないと。流されたのは上だけだよね」
「はい。下の方は脱げてません」
「了解。さっきの波は強かったし、今もたまに波があるから、砂浜の方に流れてるかな……」
「ひおりー!」

 背後から、氷織の名前を呼ぶ火村さんの声が聞こえてきた。
 氷織を抱きしめたまま後ろを振り向くと、黒い布地を右手に持った火村さんが、葉月さんと一緒にこちらに向かって歩いてきていた。
 火村さんが持っているあの黒い布地……もしや。

「ねえ! この水着のトップス、氷織のじゃない?」
「き、きっとそうですっ! さっき流されちゃって!」

 氷織は普段よりも高い声色でそう言う。自分の水着らしきものを友人が持ってきてくれているからか、氷織は結構嬉しそうだ。
 氷織の水着が抜けているので、火村さんと葉月さんが近くまでやってくるのを待った。

「大きな波があった少し後に、この黒い布地があたし達の近くに流れてきて。にお……色とデザインが氷織の水着にそっくりだから」
「いや、匂いを嗅いでいたッスよ、ヒム子。色とデザインがひおりんの水着とそっくりだからもしかしてって」

 不適な笑みを浮かべてそう言う葉月さん。やっぱり火村さんは匂いを嗅いでいたのか。

「そうだったんですね。さすがは恭子さんです。それ、私の水着です」

 水着を拾ってくれたのもあってか、氷織は水着の匂いを嗅いでいた火村さんに嫌悪感は全く示さない。むしろ、可愛らしい笑顔を向けている。あと、海に浮かんでいた水着の匂いを嗅いで、氷織の匂いを嗅ぎ分けたのはさすがである。
 匂いを嗅いでいたことをバラされたからか、火村さんはばつの悪そうな顔で俺のことをチラチラ見ている。

「氷織の水着を拾って、持ってきてくれたんだ。彼氏の俺から言うのは感謝の言葉だ。ありがとう、火村さん」
「……いえいえ」

 火村さんはほっと胸を撫で下ろしていた。この様子からして、お小言の一つでも言われると思っていたのかもしれない。
 火村さんは氷織に水着のトップスを渡す。

「火村さん、葉月さん。氷織の胸が見えないように、氷織の周りに立ってほしい」
「そうしてもらえると嬉しいです。海中で着るのもできなくはなさそうですが、海面から出ている方がやりやすいのは確かですから」
「分かったわ」
「分かったッス」

 俺から見て氷織の左側に火村さん、右側に葉月さんが立つ。俺達3人がすぐ側に立っているから、周りの人に氷織の胸が見えてしまうことはないかな。
 俺が抱擁を解くと、氷織も抱擁を解く。

「ね、ねえ。氷織。誰かが近くを通るかもしれないから、あたしが両手で氷織の胸を隠してあげましょうか? 浮き輪は体に通しているから、今は手ぶらだし!」

 氷織に負けないほどに顔を赤くして、火村さんはそんな提案をしてきた。火村さんらしさが極まっているな。

「手ぶらだから手ブラッスか。上手いことを言うッスね!」

 あははっ、と葉月さんは声に出して笑っている。どうやら、自分で自分のツボにハマったらしい。氷織も葉月さんにつられて笑う。
 ただ、火村さんはそういうつもりで言ったわけではないらしく、「なるほどね!」と感心しているようだった。

「ええと……お気持ちだけ受け取っておきますね。すぐに着られますから。側に立ってもらえれば十分です」
「……分かったわ」

 ちょっとしょんぼり気味の火村さん。そんな反応も彼女らしい。
 氷織は俺から少し離れて水着のトップスを着始める。プールデートのときも、さっきも……氷織はこういう感じで水着を着ていたのか。ポロリしてしまったけど、氷織がビキニを着る様子を見られるのは……いいな。
 また、俺から体を離したことで氷織の胸が見えたからか、火村さんは「ひおっぱい……」と声を漏らし、興奮した様子で胸に視線を向けている。更衣室で水着に着替えたときも、5月に風邪を引いた氷織のお見舞いに行って、氷織が汗を拭いてもらっていたときもこういう感じだったのかな。
 俺と火村さん、葉月さんがすぐ近くに立つことで、きっと氷織の胸をちゃんと隠せていたのだろう。氷織が水着を着終わるまで、周りの人に注目されてしまうことはなかった。

「着終わりました。みなさん、側に立ってくれてありがとうございました」
「いえいえ」
「何てことないッスよ」
「むしろ、海で氷織の胸を間近で見られてご褒美をもらった気分だわ!」
「ふふっ。恭子さんは水着を拾ってくれましたね。ありがとうございました」

 氷織はとても嬉しそうな笑顔で火村さんにお礼を言うと、火村さんのことをぎゅっと抱きしめる。
 予想外のことだったのか、火村さんは目を見開いて「ひゃうっ!」と可愛らしい声を上げる。ただ、すぐに火村さんは柔らかな笑みを浮かべて、氷織の胸元に頬を当てる。

「凄く幸せだわぁ……」

 独り言ちるように言うと、火村さんは「えへへっ」と声に出して笑った。そんな彼女は氷織に負けないくらいに可愛らしく思えたのであった。
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