恋人、はじめました。

桜庭かなめ

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特別編5

第6話『画面越しでも』

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 お風呂から上がった私達は寝間着に着替えて、沙綾さんと美羽さんが待っている私の部屋に戻りました。
 部屋に戻ると、沙綾さんと美羽さんは漫画を開きながら談笑していました。お互いに好きな漫画が私の本棚にあったので、その漫画のことで話がとても盛り上がったそうです。
 私は沙綾さんと美羽さんに、お風呂が空いたことを伝えました。その際、2人に寝間着姿が可愛いと言ってもらえて嬉しかったです。

「どんなお風呂なのか楽しみだな」

 初めて入るからか、美羽さんはそんなことを言いました。美羽さんに恭子さんが「広くていいお風呂よっ!」と笑顔で語っているのが可愛らしかったです。
 それから程なくして、沙綾さんと美羽さんはお風呂に入りに行きました。2人も、うちのお風呂での入浴を楽しんでもらえると嬉しいですね。
 沙綾さんと美羽さんが部屋を後にしてすぐ、私達は3人でドライヤーを使って髪を乾かしたり、スキンケアをしたりしました。
 また、恭子さんの希望で、私と七海の髪は恭子さんが、恭子さんの髪は私が乾かしました。以前、明斗さんが泊まりに来たときにも思いましたが、誰かに髪を乾かしてもらうのは気持ちがいいですね。
 髪を乾かしたり、スキンケアをしたりした後は、3人それぞれが習慣にしているストレッチをしました。体育以外でストレッチする恭子さんは初めて見ますし、寝間着姿にストレートヘアですからとても新鮮でした。
 30分ほどで、沙綾さんと美羽さんがお風呂から戻ってきました。2人とも寝間着姿になっていて可愛らしいです。2人もお互いの髪や背中を洗って、楽しい入浴の時間になったとのことです。良かったです。
 沙綾さんと美羽さんが髪を乾かしたり、スキンケアをしたりし終わると、

「じゃあ、予定通り、これからみんなで『秋目知人帳』のアニメを観るわよ!」

 意気揚々とした様子で恭子さんがそう言ってきました。前もって、このアニメを観ようとみんなで話していたので、もちろんみんな賛成しました。
 恭子さんと美羽さんが買ってきてくれたお菓子をローテーブルに広げたり、私が全員分のアイスティーを淹れたりして準備完了です。
 少女漫画原作の『秋目知人帳』はTVアニメ、劇場版、OVAでたくさんのエピソードがアニメ化されています。その中でも、みんなの好きなエピソードをBlu-rayで観ていくことに。

「ニャン太郎先生本当に可愛いわ!」
「まん丸な可愛い見た目とおじさん声のギャップが本当にいいですよね!」

「このエピソード、本当に心温まって感動するッスよね」
「いい話だよね、沙綾ちゃん。何度も観ているのに涙出てきた」
「胸が打たれるいい内容ですよね」

 などと、全員が好きなエピソードですから自然と話も盛り上がり、お菓子も食べているのでとても楽しくて。明斗さんと2人きりでアニメを観るのもいいですが、こうして七海や友達数人と一緒にワイワイと観るのも凄くいいなって思います。
 ――プルルッ。
 ローテーブルに置いてある誰かのスマートフォンが鳴ります。自分のスマホを手にとって確認すると……特にメッセージやメールは届いていないですね。私のスマートフォンではありませんでした。
 あと、スマホの右上には『23:04』と表示されています。もうこんな時間なんですね。5話観ましたし、そのくらいの時間になっていますか。

「あっ、和男君からメッセージ来てるっ。お泊まり女子会楽しんでいるかって」

 と、美羽さんは嬉しそうに言い、スマホをタップしています。……いいな、美羽さん。
 私は自分のスマホを再び見ますが……明斗さんからメッセージは届いていません。今はお泊まり女子会中ですから、気を遣ってメッセージを送らないのかもしれませんね。
 美羽さんを見ていたら、私も明斗さんにメッセージや電話をしたくなってきました。

「ちょっと休憩するッスか。5話観たッスから」

 沙綾さんがそんな提案をしてきました。2時間ほど見続けていたのもあり、休憩することにみなさん賛成しました。

「私、ちょっと明斗さんと電話しますね」
「了解ッス。楽しんでくるッス」

 沙綾さんは笑顔でそう言ってくれました。もしかしたら、休憩しようと言ったのは私に気を遣ってくれたのが一つの理由かもしれませんね。
 私は廊下に出て、明斗さんとの個別トークを開き、

『明斗さん。今、通話してもいいですか? ビデオ通話で』

 というメッセージを送りました。今日は明斗さんの顔を見ていないのでビデオ通話のお願いです。普段から、夜にはメッセージや通話をしていますし、きっと大丈夫ですよね。
 15秒ほどして、私が送ったメッセージは『既読』マークが付き、

『ああ。ビデオ通話してきていいよ』

 と、明斗さんから返信がきました。返信という形ですが、明斗さんからメッセージをもらえることが凄く嬉しくて。気付けば、頬が緩んでいました。
 通話ボタンをタップして、明斗さんに発信します。明斗さんが出るまでの間にビデオ通話モードにします。
 それからすぐに、スマホの画面に寝間着姿の明斗さんが映し出されました。

『氷織、こんばんは』

 いつもの落ち着いた笑顔でそう言うと、私に向かって手を振ってくれます。その姿はとても素敵で。画面越しでも、明斗さんを見られることに幸せを感じます。

『こんばんは、明斗さん』

 私も明斗さんに手を振りながら、夜の挨拶をしました。

『お泊まり女子会は楽しんでいるか?』
「はいっ! 夕ご飯は沙綾さんと私で作ったハヤシライスを食べて。恭子さんと七海と一緒にお風呂に入って。今は『秋目知人帳』のみんなが好きなエピソードを5話ほど見ました。みんなでお喋りして、お菓子を食べながら」
『おぉ、それは楽しそうだ。氷織が楽しめているようで良かった』

 明斗さんは優しい笑顔でそう言ってくれます。その笑顔にキュンとなって。今すぐにでも明斗さんを抱きしめてキスしたいほどです。

「5話観たので今は休憩していて。それで……明斗さんに電話したんです。明斗さんの顔が見たかったのでビデオ通話で」
『そうだったのか。今は女子会だから、男の俺からのメッセージや電話は控えていたんだ。だから、氷織から電話してきてくれて嬉しいよ』
「そうですか」

 やっぱり、女子会なのを理由に敢えてメッセージや電話はしてこなかったのですね。優しいです。優しいですが、

「今は女子会中ですが、少しくらいはメッセージを送ってくれてもかまわないのですよ? その……美羽さんが倉木さんからメッセージが来たと嬉しそうにしているのを見て羨ましいなって思いましたし」

 嫉妬の気持ちを言葉にすると、ちょっと照れくさいものがあります。体が少し熱くなってきました。
 明斗さんは今の私の言ったことにどう思うでしょうか。我が儘だとか重いとか思われてしまうでしょうか。それまで画面に直視していた視線がちらついてしまいます。

『……そうだったのか。氷織がそう言ってくれて嬉しいよ。氷織にメッセージや電話を一切しないのは寂しいって思っていたし』
「明斗さん……」
『次からは、少しはメッセージを送るよ。電話しても良さそうなときはこうして電話もしよう。氷織の声を聴いたり、顔を見たりすると元気になれるし』

 明斗さんはとても優しい声色で私にそう言ってくれました。そんな明斗さんの顔には彼らしい優しい笑みが浮かんでいて。そのことに胸がとても温かくなるのが分かりました。

「ありがとうございます。……ところで、明斗さんは何をしていましたか?」
『俺はラノベ読んでた。積読してあるラブコメの』
「そうだったんですか。読み終わったら、私にも読ませてくれますか?」
『もちろんさ。あと、氷織が火村さん達と女子会しているって話したら、なぜか姉貴が俺のベッドで一緒に寝るって言ってきてさ。向こうが女子会ならこっちは姉弟会とか言ってる』
「ふふっ、明実さんらしいです」

 明実さんは明斗さんのことが大好きですからね。血の繋がったお姉さんですから、一緒のベッドで寝ることくらいなら全然かまいません。むしろ微笑ましいくらいです。

『氷織。寝間着姿ってことは……お風呂に入ったのか。やっぱり火村さんと?』
「ええ。恭子さんと七海と3人で。髪や背中を洗って楽しかったです」
『それは良かった。……ちなみに、火村さんから変なことをされなかった?』
「特にされませんでしたよ。興奮することは何度もありましたが」
『……そうか』

 ほっと胸を撫で下ろす明斗さん。恭子さんは……変態な一面もありますからね。一緒にお風呂に入ったら、恭子さんが興奮して何かしてしまうかもしれないと心配していたのかもしれません。

『何事もなくて良かった』
「ええ。……そろそろアニメを観るのを再開するでしょうから、ここら辺で切りますね」
『ああ。この後も楽しんでね』
「ありがとうございます。次のデートのときに、今夜のことをいっぱい話しますね」
『うん、楽しみにしているよ。あと、みんなによろしく』
「はい。早めですが、おやすみなさい」
『おやすみ。またね』
「またです」

 お互いに笑顔で手を振り合って、私の方から通話を切りました。
 数分ほどのビデオ通話でしたが、スマホの画面越しに明斗さんの顔を見られたので幸せな気分になれました。今日という日がより良く思えて。それだけ明斗さんのことが大好きで、とても大きい存在になっているのだと再認識しました。
 その後、お手洗いに行ってから自分の部屋に戻り、みんなと一緒に再び『秋目知人帳』のアニメを観るのでした。
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